誤配名探偵、隅田川。犯人はお前だ、木下。
トゥルルルルル
鳴り響くコール音。
これに対応する若い女性は現在スマホで、好きな推理漫画を読みながらの事。
ガチャッ
「はい、こちらコールセンターの木下」
『荷物が届いてないんですけど』
甘い食べ物は思考力アップに良い。
故にチョコとクッキーを口に含みながら、今回の案件を聞く……。
コールセンターには様々なトラブルが舞い込んでくる。その中で推理漫画のような展開を持ち込んでくるのが、”荷物が届いてねぇーんだよ”、案件である。不着とか誤配とかの案件である。
こーいうネタはまた難しいから、ノリを優先。
「……分かりました。配達員に調査を致しますので、またこちらからお電話します」
ガチャッ
「スマホの充電してきます」
ドグシャァッ
そー言って立ち上がる彼女に、上からサンデーの雑誌を打ちかます男。
「真面目に仕事しろーーー!!」
「あ、山口くん。仕事終わったんだ?」
「終わってねぇよ!昼休憩だよ!夕方だけど!!」
◇ ◇
パリパリ……
スパァ~……
トゥリン……
「というわけで、荷物が届かないという連絡が来たんですよ。山口さん達」
「隅田川ちゃん。せんべい食いながら報告するなや」
「木下。タバコ吸いながら言うなや。お前も変わらん」
「山口さんもスマホゲーしてないで協力してください」
こんな不真面目過ぎる職場ではないので、安心してください。
「すでにこれを遣らかした者。そして、誤配をした事を証明する物もあります」
「もったいぶんなよ、推理っ娘」
「木下さん。あなたがこのトラブルの犯人です!」
「おう、決めつけか?」
この会社は誤配が多いとか言われるけれど。結局、配達員がやっている事なので配達員による。本当に誤配をしない人もいれば、頻繁にしている人もいる。
現場で働いている人達はそれを良く知っている。そして、言われる人も良く分かっている。分かっているなら改善しろよって言いたいが、誤配というのは紛らわしい場所だったり、正直疲れてるんだよ。って感じの集中力不足が原因か。
そーんな検証何も意味はない。だって、みんな分かってるから。
木下は言う。
「悪かった」
軽っっ!!
「で、何日の配達なん?」
「一昨日の午前のデータです。番号も記載され、完了入力も木下さんですよ。それが証拠です」
「ほーん。名探偵じゃん」
番号があるものには必ずどの配達員が配達したかが記録が残るので、楽々特定される。昔は違ったのであるが、今は当たり前なのでもう木下は諦め気味。とはいえ、ミスした以上。それなりの対応をしなきゃいけない。
「誤配すんなよ」
山口、正論。
「悪かったって言ったろ。一緒に探してくれよ。飯か、缶ビールやるから」
「両方だったら許す」
「はい!私にも、タバコ一箱!!」
人のミスにはみんなで対応……という言葉が生むのは、そいつの人望にある。どこもそれは変わりない事である。お客様のための対応ともあるが、それなりの組織としての対応も必要である。
ピィィィッ、ガガガガガ
隅田川は一昨日の、入力データの一覧を印字。
それも完了した順々に並べられているものである。ついでに完了した時間も記載されている。
木下は時間と番号を見ながら、住所を照らし合わせていく。
山口は地図とペンを持ってきて、どこらへんに誤配したかの範囲の特定に入る。
(地図はテキトー過ぎて、参考にならんね。慣れている人は地図なんか使わない)
「午前の……11時18分か。番号、これで……」
「全部誤配してないですよね?」
「そこまでアホになっていないよ!若いのは礼儀がないね!!」
「木下。お前、その日。どーいうルートで回ってんだ?」
「指定のもんと会社から回って、いつもの配達ルートに戻った。基本通りだぞ」
届けられていない番号。その前後の住所と時間を見て、誤配先の範囲が絞れる。
この前後の住所が狭く、時間と照らし合わせて短いほど、特定しやすい。
前後に完了されている荷物の時間差は、7分ほどでその範囲も狭い。稀に相当遠い時間で入力がされている場合、配達担当が入力をし忘れて完了することが多く。ほぼほぼ捜索不能な案件になります。対策として
「道順で受け入れ入力すればできるだろう?」
「どれだけ荷物が来てらっしゃると思うのですか?全部配らなくていいなら、やるけど?」
「その人が誤配してらっしゃるんですけど?」
そこで働かないと分からないと思うけれど。道順に荷物を並べるのはかなり大変です。これを崩しにかかる時間指定や、唐突なクレーム対応などがあるのが原因ですかね。なので、私はしていません!!そこのお話はまた別としてです。
「だいたい絞れたな。まー、誤配している荷物の苗字が”花井”だから……」
「この範囲にある”花沢”さんとか。”横井”さんが怪しいですかね?隣も聞いてきてください」
「よっしゃ!じゃあ、当たってみっか!」
似たような苗字。誤配先の両隣からとりあえず、訪問して聞いて見る。
めげずに夕方、夜遅くに訪問する事も珍しくない。
ピンポーン
「横井さんでしょうか。すいません、私。○○○○○○でして。一昨日くらいに、花井さんの荷物が入っていたりしなかったでしょうか?捜しておりまして……」
「…………ありましたけど」
誤配した物が無事に見つかる。
そーいったことは、あんまりない。
そもそも配達員の記録やデータで正確に割り出す事ができるのも、たまたまだったりする。あるいは
「今度から気をつけてください。間違えて開けちゃいましたから」
「あ、……申し訳ございませんでした。以後ないように致します」
だから、交通事故と誤配は気をつけようと会社では言われ続ける。
こーいうミスは、どんなところからでも怒られるからだ。
「あー、ようやく終わったよ。山口」
「差出人と受取人、誤配を受け取った人が良い人で良かったな。そのまま渡してチャラにしてくれて」
「いやほんとそれで終わって良かった」
クレーム対応の人達とは仲が良くした方がいいですよ。
後書きに記載しますが、こーいう感じの例もあるんで。
どんなところにも理不尽あるさと、受け入れてください。
新人の頃だったから、謝るしかできなかったのも良い思い出ですね。めっちゃ上司にも怒られ、荷物を無くした扱いで始末書までいきましたね。夜遅くに泣きながら、総出でマンション全件回ったのもやばかったです。解決までに数日かかりました。
例:
自分:『届けてると思いますけど……』
受取人の夫:『俺に届いてねぇ!テメェのせいだ。再発行しやがれ。馬鹿野郎』
自分:『すみません、すみません』
差出人:『いい加減な仕事してんじゃねぇ、ゆとりー。絶対誤配すんなよ』
自分:『すみません、すみません』
自分:『届けにきましたー。すんません。本当に申し訳ございませんでした』
受取人の奥様:『あ、ごめんなさいね。あれ。旦那がビール零して使えなくしたから、こんなことをさせちゃったみたいなの。ホントにごめんね。他のご自宅まで回らせて。旦那、今恥ずかしくて引き篭もってて。私から言っておくので。あ、缶コーヒーをあげるから』
自分:『……いえ、無事に解決できて良かったです。お気遣いありがとうございます』
もみ消しはいくらでもありますよ。でも、缶コーヒーが美味しかったです。これで一時期嵌りました。不着に関しては配達員側の責任だけでなく、異常に不利な立場から始まるので。基本的にボコられるだけが現状ですね。
もっとも、こちらのミスが8割以上は占めていると思いますし、こーいう例もまだ優しいオチですかね。というか、珍しい部類ですよ。届けられた時点で解決し、ちょっと心も晴れました。
なんというか、そーいうミスとか経験をすると。ミスっていけないって思えます。本当に慎重な配達ができるようになったので、良い経験になったと思います。逆に誰かの些細なミスを名に食わない顔で、許してあげたくなりました。
試練を感謝にする度量も必要です。
でも、こーいうマジなお話にすると。
フィクションは気楽で良いなと思いますね。
ビターエンドには持っていけますから。
トラブルは全部バットエンドです。って考えましょう。
あ、例もそれなりに改変してるんで。そんな感じもあるよ、ぐらいに考えてくださいね。