ローカレル家
どうしても説明が長くなってしまう⋯⋯
この世界に転生してしばらくは言葉を覚える事に費やした。
嬉しい事に、お世話をしてくれる人達はよく絵本を読み聞かせてくれた。文字も勉強できて一石二鳥だ。
最初は言葉も文字も分からなかったがそれも徐々に覚えていった。
本の内容は「世界を救った英雄」とか「みんなを幸せする魔法使い」とかそんなのが多くて、どの絵本も魔法が出てくるから楽しみながら勉強できた。
それと赤ん坊に戻ったおかげか、言葉を覚えるのが早い。
そうして過ごすうちに五歳になった。
言葉もほぼ覚え、周りの人間関係やこの世界の事も明らかになった。
家はローカレルの地を治める伯爵家、貴族だった。
家族は俺と両親と二歳年上の兄さんがいた。
俺の名前はディレク・フォン・ローカレルというらしい。家族からはディルと呼ばれている。
父親はアトマルク・フォン・ローカレル。ローカレル家の現当主で領民達からの人気も高い人格者だ。魔法も優秀で、ローカレルの地では一、二を争う実力者でもある。母さんと並んで恥ずかしく無いイケメンだったりする。
母親はシェリー・フォン・ローカレル。美人でとても優しい母さんだ、父さんと並んでいるととても絵になる。よく本を読んでもらっていた。
兄さんはアイムベル・フォン・ローカレル。俺は普通に兄さんと呼んでいる。とても頭の切れる人で、よく政治や軍事、戦術の本を読んでいる。わからない事を聞けば教えてくれる、頼れる兄さんだ。父さんと母さんからはアイムと呼ばれている。
家族全員明るい茶髪だった。金髪なんかもいるけど、この地方は茶髪が多いみたい。
ローカレル家は伯爵家の中でも権力は小さい方らしい。なんでもこの地は王都から少し離れていて、産業も主に農業をしているとのこと。
この世界は地球でいうところの中世ヨーロッパくらいに見える。科学的な技術はあまり進んでいない。俺が読んでいた絵本も手書きの写生だ。
代わりに魔法がこの世界で発達している。地球で科学が人々の生活から軍事に至るまであらゆることに活用されていたように、この世界では魔法が様々なことに利用されている。
俺は今、父の書斎に来ている。家にあった童話や教養の本は読み終えて大体の文字はもう読める。そろそろ魔法に関する本も読みたい。
ドアをノックする。
「父さん、お願いがあるんだけど今いい?」
「ディルか、入っていいぞ⋯⋯それでどうしたんだ?」
「えっと、もう貰った本は全部読んじゃったから新しい本が欲しいんだ」
「おお!もう読み終わったのか。お前の歳ではまだ難しいと思ったが⋯⋯ディルは優秀だな!将来が楽しみだ」
「このくらいの内容兄さんだってできてたよ、それに俺は将来魔法師になるんだ!」
「ハッハッハッ!そうだな俺の息子は二人とも優秀だ。それにディルなら優秀な魔法師になれるだろう。⋯⋯で、新しい本だったな。なんの本が欲しいんだ?もしかして魔法に関する本か?」
「うん、そろそろ俺も魔法を練習したいと思ったんだ」
これまで文字や言葉を覚える事に専念してきた分、最近では早く魔法を使いたいと思う気持ちが高まっていた。
嗚呼、早く魔法の原理を解明したい⋯⋯いや、解明できなくとも法則やもっと効率のいい工夫があるはずだ。魔法の研究⋯⋯考えただけで滾るものがある!
「ふむ、本当は魔法を本格的に教わるのは十歳になって王都の学園に入ってからなんだが⋯⋯まあ、アイムももう七歳になるし、そろそろ二人とも魔法を教えてもいい頃だな⋯⋯よし、明日の午後は予定が入ってないしちょうどいいだろう、明日の午後から魔法を教えてやる。本はそのとき持っていくから気にしなくていいぞ、アイムにもそう伝えてくれ。」
「えっ!父さんが魔法を教えてくれるの!本当!?」
「ああ、もちろんだとも。あとリサとグランドにも手伝ってもらうからそっちにも伝えてくれ。」
ちなみにリサと呼ばれたのはあのメイド服の人だ。家で何人か雇っているメイドの中の一人で、魔法を使っているのをよく見かける。
グランドと呼ばれたのも家で雇っている執事だ。なんでも昔は騎士団に所属していてそれなりに強かったらしい。
「分かった!ありがとう父さん!みんなに伝えてくるね」
そう言ってディレクは飛び出していった。
「⋯⋯まったく、本当に魔法が好きなんだな⋯⋯フフッ、あれだけの情熱だ、本当に優秀な魔法師になれるかもしれんな」
飛び出していった息子に呆れながらも、将来が楽しみになる。
だが、この時はまだ知らなかった。まだ五歳の息子にとてつもない魔法のセンスが備わっていることは。それがわかるのも、もうすぐである。
「兄さん!今いい!?」
興奮が収まらないまま自分の部屋で本を読んでいるアイム兄さんに話しかける。
「ディルか、ああいいぞー⋯⋯って、どうしたんだ?そんなに興奮して」
「興奮せずにいられないって!なんてったって父さんが直々に魔法を教えてくれるって言うんだよ!」
「ほー、よかったな、父さんは魔法上手いからなぁ。きっと教えるのも上手なんじゃないか」
「⋯⋯なんか兄さん反応薄いね、魔法教えてもらえるんだよ?ワクワクしない?」
「そりゃあ教えてもらえるのは嬉しいけどさ、俺は王都の学園入るのに魔法使わないしなー」
「えっ、学園って魔法学園でしょ?普通魔法使うんじゃないの?」
「なんだ知らなかったのか?学園はいくつかの部門に分かれてるんだ、騎士部門と魔法学部門と政治部門の三つに分かれていて、俺が入るのは政治部門、入学試験は筆記試験だけだから魔法は使わないんだ」
⋯⋯し、知らなかった⋯⋯
「ということは俺が入るのは魔法学部門ってことか⋯⋯ねぇ兄さん魔法学部門の試験ってやっぱり魔法の実力を見るの?」
「いや、基本は筆記試験だったはずだよ、ただし実技試験もあって、最初からある程度の魔法が使える人は入学後のクラス分けで大体一緒になるようになってる」
へー、まあ確かに実力が同じくらいの人が固まった方が効率いいな⋯⋯ところで俺ちゃんと魔法使えるのかな、一応筆記試験だけでも合格できる見たいだけど⋯⋯なんか不安になってきたな⋯⋯
「ところでどうしたんだ?それを言いに来ただけか?」
「あっ!そうだった、明日の午後に魔法の練習するからねって伝えにきたんだった」
「そういう事か、分かった明日の午後だな。明日は算術の勉強早めに終わらせないとなぁ」
「⋯⋯兄さんのそれ算術の問題?」
「ああ、そうだよ。政治には経済も含まれるからな算術ができないといけない。これは学園の入試レベルだから難しいぞ?」
「ふーん⋯⋯第三問のところ間違ってるよ?」
「えっ?⋯⋯あっ本当だ、よく気づいたな、これ結構難しいんだけど⋯⋯ディルお前所々抜けてるけど俺より頭いいとこあるよな」
まあ、小学五、六年生レベルの算数は間違えねぇわ。この分だと入学試験までは魔法に専念できそうだ。
「所々抜けてるは余計だよ⋯⋯そういえばリサさんとグランドさん見なかった?あの二人にも伝えないといけないんだよね」
「ああ、リサさんならさっき⋯⋯って来たっぽいぞ?」
話しているとちょうどリサさんがノックして入ってきた。
「アイムベル様、ディレク様、御夕食の準備が整いました。⋯⋯おや?ディレク様、なにやら楽しそうですね。いい事でもありましたか?」
「うん!明日父さんが魔法を教えてくれることになったんだ!あっ、それでリサさんとグランドさんにも手伝って欲しいから明日の午後来て欲しいって」
「かしこまりました。グランドにもそう伝えておきます」
「うん、お願いね」
その後、俺と兄さんは夕食を食べてから、明日に備えて早めにベッドに入った。
次回やっと魔法の話ができます⋯⋯