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原初の罪  作者: EVE
第一部 降魔の儀式
7/32

1-6

 塔の中に入ると石造りの無機質な部屋が俺たちを迎え入れる。


「よし、このまま進むぞ。カイルが先行して罠の察知、場合により解除を頼む。次はアシュリー、カイルに続き周囲の警戒とカイルの補佐を頼む。殿は俺が務める。内部にはモンスターがいない分どんなギミックが仕掛けられているか分からん。

 慎重に進むぞ」


「おう」


「了解したわ」


 俺はカイルとアシュリーに指示を飛ばし、周囲を見渡す。部屋を抜けると幅2m程の狭い通路が続いていた。


 この塔の内部は外観から想像(イメージ)できる内装だが、中は薄暗く湿度が高いな。ジメジメとした空気にツンとした(カビ)

 臭が鼻を刺激して不愉快だ。

 ーーまぁ、そんなことを言っても仕方ないが。


 俺たちは一歩毎警戒を進めながら塔の中心へと向かっていく。10m程進んだところでカイルが何かを見つけたのか声を掛けてくる。


「前方1メートル程の地面にに何かあるぜ。多分罠かなんかのスイッチだな。こりゃ警戒してなきゃヤバイところだったぜ」


 愉快そうに指を差しているその先を見てみると……確かに。少し地面が1c㎡程の面積だけ少し浮いている。周りの色と変わり映えせず、よく見ておかないと気づかなかっただろう。


 この塔の罠はスイッチで作動する物が殆どだった筈だ。よく確認すれば然程の脅威はないだろうな。


「よし、其処は避けて通るぞ。壁にも十分に気を付けて触れないように順に進め」


 こういう場所では二重トラップがセオリーだからな。危ない橋は渡らない方がいい。

 俺たちは壁寄りに歩を進めてトラップを回避する。その後2時間程かけて、5つ程のトラップを乗り切り1階を踏破した。


 2階も1階と変わり映えしなかった所為や慣れてきた為か、1時間程で3階への階段を見つけ、先に進むことができた。


「よし、この辺りで一度15分程休憩だ。各自補給を済ませて身体を休めるように」


「ふぅ。あと半分くらいね。此処までは何とか無事に乗り切れたわね」


 アシュリーが階段の縁に座り水筒を取り出して水を飲む。


「なんとかっつーか、なんか拍子抜けだなぁ。モンスターもいねぇし、罠っつっても教本通りに見え見えの糞つまんねぇもんしかないしなぁ」


 カイトが保存食のパンを水で流し込みながら面白く無さそうに言い放つ。確かに簡単すぎる気もするが、そもそもこの場所はダンジョンではない。

 冒険者ですらない俺たち学園生の、言うなれば腕試しの場所だ。物足りない位で当たり前なのかも知れない。


 だからといって、気を抜き油断した所為で怪我でもすれば目も当てられない。

 此処は気を引き締めるところだな。分かってはいると思うが一応声を掛けておくか。


「確かに簡単過ぎる気もするがそれで油断しても良い訳ではない。最後まで油断せずに行こう」


「分かってるって。そんなポカはしねぇよ」


 カイルはウィンクを飛ばしながらそう言った。


 こいつは……。まぁ、分かってるならいいな。カイルはこう見えて締めるべきところは分かっているしな。俺は呆れ半分でそう自分を納得させる。



「さぁ、十分休憩したな。そろそろ出発しよう」


 二人に声を掛けて3階の探索を開始する。


 3階は殆ど1階や2階と変わり映えしないが、所々に宝箱が設置されていた。


「おっしゃラッキー!魔素石ハッケーン!」


 魔素石とは魔石と同じく魔力の塊の事だ。魔石と異なる点は魔石はモンスターなどの生物の体内に生成されるが、魔素石は周囲に充満している魔力が時間とともに石化した物だ。


 魔石や魔素石を利用して魔法具を使用する場合は殆ど効果は変わらないが、魔石にはその媒介としたモンスターの能力に由来した魔力が篭ることが多く、魔法武器や魔法防具の核となる場合が多い。


 しかし、小鬼族(ゴブリン)犬頭族(コボルト)などの、ランクの低いモンスターから採取される物は唯の魔力の塊であることが殆どだ。

 一方、魔素石は唯の魔力の塊で、魔力的な属性はない。

 但し例外も存在し、神聖な場所や魔力の強い場所に生成される魔素石には特殊な力が宿ることがあると言われているそうだ。


 かくいうこの降魔の塔にも特殊な魔素石が生成されることで知られている。この塔では何故か宝箱の中でのみ魔素石が生成され、その石を降魔の儀式で使用することで本来取り込むことのできる魔力よりの大きな魔力をその身に宿す事が出来ると言われている。


 カイルが鍵付きの宝箱の解除を行いからホクホク顔でお宝を手に入れた刹那……。


「うおっ!」


 何処からか矢が飛んできてカイルは慌てて盾で防いだ。


「アッブネーな!こりゃ此処からは罠が増えてきそうだな」


「油断してるからよ。矢でも刺さったら少しは気が引き締まるんじゃない?」


 アシュリーが皮肉げに言う。


「確かにな。怪我をしてもアシュリーが手当てしてくれるし安心して刺さってもいいんじゃないか?」


 俺も悪ノリしてアシュリーに続く。


「ちぇっ。もう少し心配してくれてもいいんじゃねぇの?」


 拗ねたように呟くカイルに俺達は吹き出した。


「はははっ!悪かった、機嫌なおせよ!」


「ふふっ、でも半分は本気だったりしてね」


 やれやれ、アシュリーが言うと本当に冗談に聞こえないんだが、まぁ気にしない事にしておこう。うん。目が笑ってないしな……触らぬ神になんとやらだ。


 気を引き締め直した俺達は進むスピードを上げ、遂に最上階へと辿り着いた。




 階段を昇ると以下の階層と変わらない廊下が俺たちを迎える。

 変わりはしないが、確かに違うな。流石は最上階という所か……。違いを感じたのはどうやら俺だけじゃないらしい。


「此処が最上階ね。何だか空気が変わったみたい」


「確かに、何ていうか目に見えない何かが充満している感じがするぜ」


 ガラリと空気が変わった最上階への緊張からかアシュリーとカイルは声を発する。


 プレッシャーとは違う、何とも言えない感じがするな。嫌では無いが、奇妙な感覚がする。


 廊下を進むと全長4mはあろう大扉が立ち塞がっていた。


 なんだ、、この模様は。文字か?象形化されててかなり読みにくいな。


「なんだ?何か書いてあるな」


「ーーこれは、神話ね。かなり古い神々の伝承よ」


 あぁ、そう言えばロイド先生の講義で聞いたことがあるな。この地を想像した神と神に仕える天使達の話だったはずだ。


 《ーーーーこの地は御霊によって創造されたし。ーーーーー世界は3つに分けられて主はそれぞれに命の息吹を吹きかけられた。ーーーーーー1つは天。神に仕し(しもべ)達ーーー1つは地。神に愛されし(しもべ)達ーーーー1つは魔。神に託されし戦士(しもべ)達ーーーー》


 《ーーーー主は皆に慈しみを与えたが、地の子らは主の意思に背きしかな。その子らの名は“アダム”と“エバ”。ーーーー狡猾な蛇に拐かされ、子らは叡智の結晶を奪い賜うた。ーーー

 その蛇、魔に堕とされて縛られた。ーーー魔は枯れて、後には残らぬ。ーーーー》


「へぇー。初めの部分は聞いたことあるなぁ。地ってのは“地上(グラウンド)”のことだろ?でも、アダムとエバは聞いたことねぇな」


 カイルが素直な意見を述べる。


「私も後の言葉は殆どが聞いたことないわ。でも…確かアダムとエバって神様に造られた最初の人族じゃなかったかしら?」



 アシュリーがカイルの言葉に答える。

 そう言えばそういう事を聞いた覚えがあるな。まぁ神話ってのは、史実と虚構が入り混じっているものが殆どだから、気にしても仕方ないか。


「とりあえず今は置いておこう。確かこの先が降魔の儀式の間だったハズだ。部屋に入るぞ」


 カイルとアシュリーも表情を切り替え、扉へと視線を向ける。



 俺は扉に両手を掛けてゆっくりと押し開ける。







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