2-11
思ったより、早く書けました!
今回は青春成分多め(笑)
それではお楽しみください!
辺りは薄暗くなり、昼間に比べると随分と静かになった。
まだまだ夜にかけて、盛り上がりを見せるであろう飲屋や酒場などからは、話し声や笑い声が聞こえてくる。
「久しぶりにみんなで飯を食べるのも、いいものだな」
そう呟き、宿までの残りの道を足早に通り過ぎていく。
「戻った」
部屋に入り、カイルに声をかける。
「腹減ったぜぇ。随分と遅かったんだな? 」
ベッドに仰向けに倒れていたカイルは、身体をそのままに、顔だけこちらに向けて文句を垂れる。
「ああ、少しな……。アシュリーは? 」
「自分の部屋にいるぜ」
俺はそれだけ聞き、扉に手を掛ける。
「カイル……」
「あん? 」
俺の呼びかけに気怠そうな返事が返ってくる。
「その……すまなかった。色々とな」
俺は照れを隠すように返事を待たずにそそくさと部屋を出た。視線の端にカイルの笑う顔が、見えたような気がした。
コンコンと扉を叩く乾いた音がする。
沈黙が辺りを支配する。時間にすれば数秒ほどだったが、永遠とも思える時の中で、逸る気持ちを必死で抑える。
「……はい」
暫くの時間が経ち、ノックをした扉の向こうから返事が聞こえてくる。
「アシュリー、俺だ。エルだ……」
そう答えた声は掠れ、喉が異様に渇く。暫くしても部屋の中の気配は変わらぬままだ。やはり話してはくれないか。ふとそう思うが、ここに来た目的を思い返す。
いや、ここで引いては駄目だ。そう考え、もう一度ノックをしようと拳を握ったその時、小さく鍵の開く音が聞こえて、扉が開いた。
「どうしたの?」
少しだけ開いた扉から目線だけを送り、アシュリーが尋ねてくる。
「少し話をしたい。部屋に入れてくれ」
そう伝えると、アシュリーは少し目線を下に降ろす。一瞬の間を空けてから、どうぞと扉を開いて、俺を部屋へと招いた。
部屋にはまだ、荷物が端の方に寄せられており、使われていない様子だった。
それもそうか、カイルと一緒だったんだ。今帰ってきたばかりだろう。
「女の子の部屋をジロジロ見るものじゃないわ」
「そうだな。すまない」
アシュリーに軽く窘められ、それもそうだと思い、素直に謝る。
「アシュリー。本当にすまなかった」
もう一度深く謝る。一度言葉にすると、今まで言えなかった言葉が、口から次々と溢れ出てきた。
「アシュリー達がずっと俺の身を案じてくれていたのは知っている。知っていたのに俺は気づかないフリをしていた。俺は……怖かったんだ。またあの牛頭種の時みたいに、二人が傷ついてしまうのが……。ただ、怖かったんだ」
話すにつれ、息が詰まり、涙が溢れてくる。
そうだ、俺は二人が傷付いた姿をみて、二人を失ってしまうんじゃないかと思ってしまったんだ。
「すまなかった……」
手で目を覆い、涙を拭った。止めようと頑張ってみたが、どうしても溢れて止まらなかった。
ふと、暖かい何かが俺を覆った。気がつけば、俺はアシュリーに優しく抱きしめられていた。
「そんなの、私もそうだよ。自分一人で背負いこんで、傷ついていくエルを見てるのが怖かった。そして腹が立った……。パーティメンバーで、仲間の私たちにどうして頼ってくれないのって。何よりそんな自分自身に一番腹が立った」
顔をくしゃくしゃにしながら、アシュリーは思いを教えてくれた。
「ははは、凄い顔だね」
「お互い様だ」
俺たちは力なく笑いあった。
そしてアシュリーは軽く俺の胸を拳で叩いた。
「もうこんな心配、かけさせないでね」
その眼は真っ直ぐに俺を見ていた。
「あぁ、分かってる」
アシュリーの目をしっかりと見返し、頷く。
「ふふ、それじゃあ明日から頑張りましょう! 明日は行くんでしょ?」
「あぁ、その為に来たんだからな」
そうだ、しっかりと切り替えて前を向こう。俺たちには寄り道する時間なんてないからな。
この件が片付いたら、この都市の封印を確認しに行く必要がある。だが、俺にはそれよりも先にする事があるな。
「あ、アシュリー」
扉をノックした時よりも強い緊張感が俺を襲う。
「どうしたの?」
そんな俺の態度にアシュリーは、怪訝な様子を見せる。
「しゃ、謝罪の印だ。受け取ってくれ」
何でもないように贈り物を包装した箱を取り出して手渡す。
初めはキョトンとした様子でプレゼントを受け取ったアシュリーは、ゆっくりとプレゼントへと視線を送ると、急にソワソワした様子をみせた。
「あ、ありがとう。空けてもいい?」
「勿論だ」
遠慮がちに聞いてくるアシュリーに了承の意を伝えると、アシュリーはゆっくりと包装を解いた。そして、首飾りを見て、興奮した様に俺を抱きしめた。
「エル! ありがとう」
「お、おう!喜んで貰えてなによりだ」
あまい香りが鼻腔をくすぐる。その匂いに俺が勝ってにドギマギしていると、目の前に首飾りが差し出された。
「着けて」
アシュリーは俺の手に首飾りを押し付けると、その場で向こうを向いた。その姿をよく見ると、アシュリーの耳も少し赤くなっている。
お互い、照れ隠しは苦手みたいだな。
俺はそう苦笑して、首飾りをアシュリーに着けた。
「大事にするね」
そうアシュリーはそうはにかんだ。
よし、これでまたいつも通りだ。明日からはまた気合いを入れ直さないとな。そう心に決め、俺たち3人は、その夜ばかりは息を抜き、次の日に備えた。
ーーーーーーーーーーーー
果てしない草原が広がっている筈だった。
しかし目の前に広がるのは広く焼け焦げた大地が続いていた。所々に転がっている黒い塊は、どうにか無事な所がある、数匹の魔物だった物体から、羽蛇種だという事が分かった。
「す、すげぇ」
カイルが不意にそう零した。だが、これは凄い何てものじゃない。こんな圧倒的な暴力の跡を、俺は今まで見た事がない。
「これは……魔法の跡ね。それもとても強力な……」
アシュリーが焼け焦げた大地を観て、そう推測する。アシュリーの言葉を受け、俺は1人の人物を思い浮かべる。
「強力な魔法。こんな魔法が放てる人なんて、俺が思いつくのは1人しかいねぇぜ」
どうやらカイルも俺と全く同じ人物を思い浮かべたようだ。
「こんな所で会うとはな」
いつの間にか黒いフードを深めに被った人物が、其処にはいた。
「……アベル!」
「ふん、随分と気安く俺の名前を呼んでくれるじゃないか」
アベルは不快げに鼻を鳴らすと、アシュリーと俺を見て、驚いた様子をみせた。
「どうやら少しはマシになったようだな。ここであったのも数奇な運命なり……か」
アベルは思案げに一言呟くと、俺たちに向き直った。
「お前達がここに来た理由は推測出来る。恐らく大量発生した羽蛇種の討伐だろう」
黒く焦げた塊と化した羽蛇種を指差してアベルは告げる。
「ここら一帯にいたモノは俺が排除した。しかし、可笑しいと思わないか?」
「可笑しいって何がだ?」
アベルの問いにピンとこない様子のカイルが尋ねる。しかしその問いに答えたのはアシュリーだった。
「ここが第三都市周辺っていうことね」
「正解だ」
アシュリーの言葉に漸く腑に落ちた表情をしたカイルが言葉を繋ぐ。
「あぁ、なるほど! 羽蛇種が繁殖し、繁栄しているのは第三都市じゃなくて、第六都市レヴィア! 大量の羽蛇種がいるのは可笑しいってことだな!」
「一匹や二匹なら迷い込んだのだろう。しかし、これ程大量のここらにはいる筈のない羽蛇種がどういう訳か大量発生している……。恐らく誰かが手引きしていると考えるのが妥当だろう」
アベルは、カイルの言葉に頷きそう答えた。しかし、魔物を手引きするなんて尋常じゃない。恐らくは……
「影が関わってるな」
俺は思考を打ち切り言葉にする。“影”という言葉に、カイルは表情を固くし、アシュリーはピクリと肩を震わせた。
「恐らくその通りだろう。お前達はこの第三都市の試練の間に行け。もともと其れが目的だろう?」
アベルは俺に目を向ける。
「俺は少し、調べたい事がある。恐らく向こうで落ち合えるだろう」
アベルはそれだけ告げて、何処かへ消えていった。




