2-10
2日間連続投稿です。
やればできる!
お楽しみください。
「いらっしゃい! 熱々の串焼きだよー! 今ならまとめて10本で2銅貨だよ! 」
「オープニングセール! お店の装飾品が10%OFFだよ! 」
「お兄さん、お兄さん! そこのお店よりもお安くしますよ! 当店で是非お求めください!! 」
門をくぐると街の彼方此方から、熱気に溢れた声が聞こえてくる。
「うひょー! 流石商人の街だなぁ。何処もかしこも目移りしちまうぜ」
「カイル、そんなこと言って買うお金あるの? この前も無駄遣いしてて、お金が無くなったって言ってたばかりじゃない」
歩く端から目に留まるお店に目を輝かしているカイルに、アシュリーが呆れた様に言う。
「わぁ! これ、ルイスの限定品じゃない! 探しても見つからなかったのよね」
そう言うアシュリー本人もどうやらお目当のモノを見つけたみたいだ。やっぱり女の子は買い物が好きみたいだな。
「ねぇ、エ……カイル、貴方後で買い物に付き合ってくれない? 」
こっちを振り向きかけたアシュリーは、慌ててカイルの方に声を掛けた。
「ん、いいぜ! 俺も丁度見て回りてぇからな」
カイルも軽い調子で返事を返す。
……やはりまだ赦してはくれないか。
そう思い、話しかけようとは考えるが、どう接したらいいのか分からずに時間だけが過ぎてしまう。
そうこう考えているうちに、馬車がゆっくりと歩を停めた。
「さて、着いたわ。ここは〝水銀亭〟っちゅう宿や。商売の神さんが見守ってるっていう逸話のある由緒正しい宿なんやで! 」
イーヴァンが小さな身体を大きくさせて、そう誇らしげにそう紹介する。こうしてみると、どう見ても子供にしかみえないから不思議だ。
馬車を出るとかなり大きな木造の宿が俺たちを迎えた。
「うわっ! すっげぇ! こんなデカイ宿見たことないぜ! 」
カイルが興奮した様に言う。確かに今まで見たどの宿より大きい。
「遠慮しなくてもいいで。ここは僕らの商会系列の宿なんや。エルさん達は僕の依頼を受けてる間は無料で泊まっていき! 」
「イーヴァンさん、感謝する。それでは遠慮なく利用させてもらいます」
俺はそう告げたイーヴァンに、礼を述べる。
「かまへんかまへん。荷物は部屋に運んどくさかい、皆さんは街を見回してくるといいですわ。しっかりお金、落としてきてや! 」
イーヴァンは指で輪を作り、お金を現すジェスチャーをしながらカラカラと笑う姿を見て、俺は思わず吹き出してしまった。
逞しいな、商人魂が。そういうところはチャッカリしている。
「それじゃあお言葉に甘えて。カイル、さぁ行きましょう! 」
「うおっとと、分かった! 分かったから! 」
アシュリーはそう言うや否や、カイルの服を引っ張って賑わう街へと消えていった。ぼんやりと二人の姿を見送り、これからどう過ごそうか考える。
「エルさん、なんや喧嘩でもしてるんかいな? 」
「えっ? 」
イーヴァンの不意の問いかけに俺は思わず返事をしてしまった。
「馬車での三日の間でも、なんやあるなぁとは思ってたんや。まぁ、エルさん達の事に首を突っ込むのは野暮ってもんやけどね」
俺は何気なく頬を撫でた。あれから幾度と考えた。アシュリーの怒っている理由も分かっている。しかし俺は、二人をただ傷付けたくなかっただけだ。
第一都市の試練の塔で起こった牛頭種との戦闘。あんなものがこれからも続いていくと考えると……。だが、アベルの言うように、二人の力を借りなければ駄目だという事も分かっている。……俺はこれから、どうしていく事が正しいんだ……?
「うんうん。悩んでるな。若いうちはドンドン悩んだらいい。悩んで悩んで、悩み抜いて選んだ答えなんやったら、きっと後悔は無いはずや」
「悩み抜いた答え……」
イーヴァンの言葉が頭を巡る。
……そうだな。自分だけで抱えててもきっと駄目だ。アシュリーが怒った原因もきっとそこにあった。少しは自分の思いを、話してみようか。
「ん、少しは纏ったん? きっとアシュリーさんもエルさんから話しかけられるの待ってるで? 何回もエルさんのこと見てはったしな」
イーヴァンはそう言うと、大きく手を打った。
「そうと決まれば、次する事はアレしかないな! 」
「アレ、というと? 」
イーヴァンの言うアレについて考えも付かないでいると、イーヴァンはなんとも呆れた様に言った。
「何言ってるんや? 女の子と仲直りする時は贈り物に決まってるやんか」
「ぷ、贈り物か、そうだな! 」
アシュリーにプレゼントを贈る。そんな事を考えるだけで顔が少し熱くなってくる気がして、思わず声が裏返ってしまう。
「幸い、ここ第三都市は商人の街や。僕の商会から良いとこをpickupしといたる! 」
イーヴァンは胸をドンっと叩いて幾つかの商店を教えてくれた。とりあえず今日はこのお店を回ってくるか。そう思い俺はイーヴァンに礼を告げて街へと繰り出した。
第三都市は商人の街。噂には聞いていたが、本当に圧倒される。街の彼方此方では、飛び交う商人達の声が絶えず耳に飛び込んでくる。かと思えば、鼻腔を刺激して、空腹感を感じさせる様な香ばしい香りや、甘く蕩けそうな匂いまで漂ってくる。
「活気に満ちているな。どの店も覗きたくなる」
ふとそう零してしまう程、店々は魅力で溢れていた。
「っと、ここだな。イーヴァンが紹介してくれた店は」
「いらっしゃいませ」
扉を開けると、気品溢れる装飾品で飾られたショーケースが綺麗に並べられた大部屋が俺を迎え入れた。
黒いスーツを着こなした店員が、来店した客に迅速に応えるべく店の端々に待機している。
「ようこそルイス・トンへお客様。本日はどの様な品をお求めでしょうか? 」
髭を綺麗に切り揃えた男性店員が、接客に着く。
ルイス……そういえばアシュリーが言っていたブランドだったかな?
「同じ年頃の女性に、贈り物をしようかと。良いものは? 」
手短に要点を伝える。自分で見て選びたいという気持ちはあるが、アシュリーが喜びそうなものの見当が付かない。……やはり贈り物など、俺は苦手だ。
「それでしたら此方には、山の様に良いものだけが御座います。ご予算は? 」
「幾らでもいい。とりあえず見繕ってくれないか? 」
「かしこまりました」
店員は恭しく一礼し、店の奥に退がっていく。暫くすると、幾つかの品をカートに乗せて運んできた。
「此方は如何でしょうか? 火の魔鉱石を核としたブレスレットです。火の呪文とよく馴染み、その力を増してくれるという逸品です」
綺麗な装飾で出来たブレスレットは、確かにアシュリーに良く似合いそうだ。しかし、火の適正はカイルだな。彼奴にこのブレスレットは似合わない。
「それでは此方の指輪なんてどうでしょう? ミスリル鉱とシルバーを合金し、職人の手で細部に拘って作り上げました。特別な力はありませんが、贈り物としては特別なものとなり、二人の思い出の品となることでしょう」
その指輪は男の俺から見ても確かに美しかった。確かに良い贈り物にはなるだろう。
「確かに素晴らしい指輪だな。だが、他のものも見てみたい」
その後も素晴らしい品が数々と出てきたが、どれもピンと来るものがなく、また来店するとだけ伝えて、他の店へと足を運んだ。
「結局良いものは見つからなかったな」
いつの間にか日も傾き、薄暗くなろうとしていた。
「お兄さん。浮かない顔してどうしたんだい? 」
不意に声を掛けられた方を向くと、露店にいる店番らしき老婆が俺を手招きしていた。
「いや、贈り物を探していたんだが、良いものがなくてな」
店に近づきながら老婆に返すと、老婆は口元に手を当てて可笑しそうに笑った。
「クックック。喧嘩でもしたのかい? ……なに驚いてるのさ、男がそんな顔をしながら贈り物が見つからなかったと嘆いているんだ、大方見当はつくよ」
見事に言い当てた老婆に驚いていると、更に可笑しそうに老婆はそう答えた。
「いや、貴女の言う通りだ。パーティメンバーの女の子と喧嘩してしまって、仲直りしたいんだが、切っ掛けが掴めなくてな。贈り物でもと考えていたんだが良いものがなくてな」
溜息と共にそう溢すと、老婆が棚の下から一つの首飾りを取り出した。それはとてもシンプルなもので、小さな鎖に丸く、透明な石が飾られているだけのモノだった。
「それならこれはどうだい? この地方に伝わる護の石で造られた首飾りさ。外敵から一度だけ、その身を護ってくれると言われているよ」
護の石……。
その首飾りは、今まで見てきたどの装飾品よりも質素で、何の変哲も無いただの首飾りだったが、俺は何故か目が離せなかった。
「まいどありがとう御座いました。仲良くするだよ? クックック……」
老婆の声に見送られ、俺は首飾りをポケットに仕舞った。
エルロイドだって男の子です。女の子の気持ちは難しい!




