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原初の罪  作者: EVE
第2部 神々の庭
17/32

2-3

 風が葉をこする音に紛れて、小さく高速で羽を揺らす音が聞こえてくる。俺達は依頼を受けて、都市から離れた森に来ていた。

 巨大蜂種(ジャイアントビー)が異常繁殖しているという報せを受けて、被害が出る前に駆除して欲しいという依頼だ。


 この依頼自体はEランクということで、報酬は銀貨1枚と多くは無いが、巨大蜂種(ジャイアントビー)が蓄えている蜜や蜜蝋が高値で取引されるため、今回はそれらも回収する。


 一匹の巨大蜂種(ジャイアントビー)を見つけた俺は口笛を鳴らしてカイルとアシュリーに合図を送る。巨大蜂種(ジャイアントビー)は聴覚があまり発達していない為、広音域で鳴らす口笛でまずバレることは無い。

 俺は見失わない様に、ある程度一定の距離を保ちながら定期的に口笛を鳴らす。



 暫くすると、カイルとアシュリーが合流して来た。


「首尾よく一匹を見つけた。よし、計画通りにいくぞ」


「ええ、任せて頂戴。脚を一本だけ撃ち落とせばいいのね」


 アシュリーはそう言いながら、弓に蔓を張る。


「あぁ、大きなダメージを負った巨大蜂種(ジャイアントビー)は巣へと逃げ帰る習性がある。逃げた後を追い、巣を見つける」


 俺はそう説明しながら腰のポーチから小さな黒い球を取り出した。



「巣を見つけたら、こいつを俺とカイルが巣を挟んで両側からこの殺虫剤を点火する。アシュリーは巣を取り囲むように風魔法で煙を纏わせてくれ」


「了解だぜ!」


「分かったわ」



 アシュリーが弓を番える。距離はおよそ50m程だ。しっかりと狙いをすまし、矢を放つ。

 鋭く空気を裂く音を立てて矢は放物線を描いて巨大蜂種(ジャイアントビー)の右側の脚を一本彈き飛ばした。


 流石だな。この距離なら補助魔法を使わずに当てるか。俺は心の中でアシュリーを賞賛する。


 脚を落とされた巨大蜂種(ジャイアントビー)が、苦悶を呈するかのように空中を不規則に飛び回った。そして、やがてその場を離れるように森の奥へと飛んでいた。


「よくやった。追うぞ!」


「ふふっ。もちろんよ」


 アシュリーが嬉しそうに応えた。


 森は木が絡み合い入り組んでいたが、見失わない距離を保ったまま巨大蜂種(ジャイアントビー)の後を追う。そこから10分ほど進んだ所で立ち止まる。


「待て、あいつの速度が落ちている。もうそろそろ巣がある辺りだろう。このままゆっくり向かう。

 カイルは索敵を頼む、ここから見廻りの別個体がいる可能性も高いからな。アシュリーは別個体と遭遇時、狙撃を頼む」


「おう!」


 カイルが答え、アシュリーは頷いた。


 それから程なく、別個体の巨大蜂種(ジャイアントビー)に出くわすことなく目の前に大きな巣が確認出来た。

 直径5mはあろうか。その巣はその大きな姿を見せる。その巣の表面は細かく動いていて、よく見るとその表面の至る処に巨大蜂種(ジャイアントビー)が蠢いていた。


「気色わりー」


 カイトが口をへの字に曲げて呟く。アシュリーの表情も何処か嫌そうな雰囲気を漂わせている。まぁ無理もないか、俺でさえこれは見ていて寒気がする。


「さぁ、取りかかるぞ。恐らく煙から逃れる個体も出てくる筈だ。アシュリーは、先程の作戦通り煙の維持を頼む。俺とカイルで、取り逃がした個体を各個撃破していく。いいな」


 2人が返事を返したことを確認して、俺は巣の左方へと回りこむ。カイルも同じように右方へ回り込んでいる姿を目端で捉え、俺は丁度カイルの姿が巣を挟んで消えた処で立ち止まった。


 殺虫剤を取り出し何時でも使用できるように構え、アシュリーに視線を向ける。


 アシュリーが対となるカイルの方を確認して頷く。それを確認し手の中の殺虫剤を巣へと投げつけた。

 巣の丁度真下程に投げ込まれた殺虫剤は煙を上げて辺りに立ち込めていく。普通ならばその煙は空へと舞い上がりやがて消えてしまうが、煙は空ではなくその場に収束し、巣を包み込んでいく。


 アシュリーの魔法が上手くいったようだな。


 煙が巣を包み込んでいくその脇で剣を抜く。巣はすっかりとその姿を隠しているが、煙の中からは無数の羽音がその音を大きくしていた。

 しかしアシュリーの魔法によって煙だけでなく巨大蜂種(ジャイアントビー)も同時に閉じ込めている為、無数の蜂達が外に出てくる事はない。


 俺は俺の役割を果たすか。そう意識を切り替えて周囲を見渡す。煙が巣を包み込んでしまう前にその巣を離れて難を逃れた数体が、この惨事を引き起こした敵を探すように飛び回っている。様子からして、まだ姿は掴まれていないみたいだな。


 近くの樹を枝を伝って登っていく。その近くを一匹の巨大蜂種(ジャイアントビー)が通り過ぎようとしているのを確認し、目算で通過点を予測し、脚に力を込めて樹を蹴り上げた。


 身体を捻って空を向き、下から上へと斬りあげた刃が、巨大蜂種(ジャイアントビー)の頭と胴体を綺麗に切り離す。


「ジジジジ」



 動作の音に気付いた3体の巨大蜂種(ジャイアントビー)が、こっちに向かって宙を不規則に飛び回りながら少しずつ近づいて来る。


「試してみるか…」


 剣を鞘に納め、両手を近づいて来る巨大蜂種(ジャイアントビー)に狙いを定めて、意識を集中させる。

 集中するにつれて、巨大蜂種(ジャイアントビー)の気配を強く感じる。こいつらの体内に渦巻く魔力に焦点を当てる……。


 感じる。魔力の気配を感じる!


『〝奪われろ〟』


 その瞬間、巨大蜂種(ジャイアントビー)の中に渦巻いていた魔力が体外に溢れ出し、一気に俺へと吸い込まれていく。



「ぐっ……」


 右目が燃えるような熱を持ち、身体に蛇の模様が浮き出してくる。一瞬痛みが奔ったが、不思議と不快感はない。それどころか、強さを感じる……。


 脚に力を込めて地を蹴る。


 ーーー疾くーーー


 牛頭種(ミノタウルス)から奪った力とはまた違う、別種の力が溢れているのを感じる。


 ーーーもっと疾くーー


 樹の幹を蹴り上げ、樹へと飛び移る。



 風を感じる。

 風の流れを感じる。流れに身を委ね、感じるままに飛び回った。


 巨大蜂種(ジャイアントビー)達は力を奪われた反動からか、ただゆらゆらと宙を浮いているのが視える。

 巨大蜂種(ジャイアントビー)達の間に流れる風の軌道が、線を描いている。


 剣を抜き、その軌道に添わせて縫うように剣を振るう。



 一閃。


 二閃。


 三閃。



 三つの軌道をなぞり、鞘へと剣を納める。澄んだ金属音が辺りに響くと同時に、巨大蜂種(ジャイアントビー)達は身体を二つに分かち、地面へと堕ちて行った。


 圧倒的だ。そして……心地いい。


 陶酔感に酔いしれながら辺りを見渡す。まだ数体の巨大蜂種(ジャイアントビー)が、辺りを不規則に飛び回っている。


 ーーー鑑定(ステータスオープン)ーー


【エルロイド・ウェルズ/人族】


【LEVEL】12 【状態】仮初めの闇人/陶酔

【HP】154/154

【MP】0/0

【攻撃】64(+15)〔鉄の剣〕

【防御】32(+20) 〔皮の鎧、皮の兜、青銅の盾〕

【俊敏】22《+95》

【運】 15


【特技】

(剣術LV.3)


【特殊技能】

(強奪 鑑定)《風の読み手(エアリーダー)



 やはりステータスに影響があるみたいだな。


 俊敏が高まったのは身体の軽さから、よく理解出来きる。恐らく、3体分の俊敏値を〝奪った〟のだろう。

 風の読み手(エアリーダー)は字面通りのまま、風の流れを読む力か。これも巨大蜂種(ジャイアントビー)固有技能だろう。これは以外と使い勝手がいいスキルだな。戦闘での補佐だけでなく、風の流れから敵の動きも予測できる。


 たが状態として、出ている仮初めの闇人というのはなんだ?

 今はよく分からないが、いい響きとは云えない。恐らく、あの影に関係していると考えるべきだろう。しっかりと考える必要がありそうだ。

 陶酔という文字も確認出来てよかった。この力を奪った後の全能感は、感情のままに流されてしまうと影響がありそうだ。

 だが、戦闘の焦りや恐怖心は払拭されていた。上手い様に利用するとするか。


 さて、細かいことは後でしっかりと考えることにして、先に彼奴らを片付けるとするか。俺は宙を飛び回っている巨大蜂種(ジャイアントビー)達目掛けて駆け出した。




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