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「かつてこの世界は3つの世界が重なり合っては出来ていました」
そう言ってリリスは語り始めた。
この三つの世界は天界。地上。地界。三つの世界が調和を保って存在していたということ。それぞれにの世界には特徴があり、どれも素晴らしいものだったらしい。
地界はエネルギーが満ち溢れ、総ての命の源はそのエネルギーによって創り出され、朽ちてまた其処へと還っていく。
地上は創造された総ての物で溢れ、緑に富み、素晴らしい程の壮大な世界が果てしなく広がっていた。
天界は総ての命に溢れ、光に照らされ、神によって統べられていた。創造された者たちは神によって洗礼を受け、善なる魂を持っていたそうだ。
しかし総てがそうだった訳ではないらしい。
一つの魂が神に叛逆し、叛旗を翻した。その光はどの光よりも美しく、神に匹敵する力を持っていたそうだ。
ーー堕ちた光の戦争ーー
のちにそう呼ばれる激しい戦争が行われた。
神と光は互いに闘い、その激しさの余りに全ての世界が滅びへと向かっていった。
永遠に続く戦争。幾万年をも繰り広げられたその闘いは収束の時を迎えた。神は光を二つに分かち、その一つを魔界に堕として封印した。そしてもう一つを更に7つに裂き、この地界に封印した。その封印の地こそ、今の7都市であるということだ。
そしてその封印によって世界に平和が訪れたということ。そして、七つの封印を管理するために、都市毎に主が召喚されていたそうだ。
しかしその封印の代償によって、世界は分かたれてしまったということだ。
「世界がバラバラになってしまったということは、今も地界と天界は存在しているということか?」
リリスの言葉を信じるとして、もう伝説の存在とされている天界と地界が存在している事に驚いた。
「はい。確かに二つの世界は存在していると考えられます」
リリスは俺の問いかけに肯定の意を示した。
「ここまでは理解した。そしてさっき俺に言ったその影を封印して欲しいというのはどういう事だ?」
この世界の成り立ちと、影を封印して欲しいという事は理解した。だが、何故だ?その理由が今一つ納得できない。
「それは……この地上の崩壊を防ぐ為です」
「なっ!」
まさか!影が良くないモノだとは理解出来たが、まさか世界の崩壊を招くものなのか!
「この地に施された七つの封印。それが私達が封印されてしまったことで緩み、解けかけています。封印から解放された影達はいづれ収束し、その世界を覆い尽くしてしまうでしょう」
まさに、それがこの世の終わり……という事か。
「審判の日。私達はその日をそう呼んでいます」
「つまり俺は」
「はい。各地の封印の地へ赴き、影を無力化して欲しいのです」
リリスはそう俺へ告げると現れた時と同じように唐突に何処かへと消えていった。
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「審判の日……か」
ベッドに寝転がり、リリスの言葉を思い返す。世界の終わり……今の俺にとってはこの世界がどうなろうとあまり興味はない……。
だが、あの影だけは……。
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朝を迎え、俺はギルドへと向かった。
「よ!待ってたぜエル!」
「おはよう。エル」
先にギルドへと待っていたらしいカイルとアシュリーが俺に声を掛けてくる。
「あぁ、おはよう。2人とも早いな」
どうやら初クエストということで2人とも落ち着かずに早めに出てきたらしい。カイルは兎も角アシュリーまでとは、珍しい事もあるもんだ。いや、降魔の塔での事を考えるとそうおかしな事でもないか。
リリスの事は2人には話していない。影自体も見てないし、そもそも説明をしようにも言葉が難しい。
俺は一つ目の影から奪った鑑定を使う。
【カイト・ホークショー/人族】
【LEVEL】5
【HP】60/60
【MP】24/24
【攻撃】20(+5)〔鉄のナイフ〕
【防御】17(+15) 〔皮の鎧、皮の兜、木の盾〕
【俊敏】20
【運】 8
【特技】
(風魔法LV.1 光魔法LV.2)
【アシュリー・フォーサイス/人族】
【LEVEL】5
【HP】42/42
【MP】35/35
【攻撃】12(+5)〔ショートボウ〕
【防御】10(+10) 〔皮の鎧、皮の兜〕
【俊敏】14
【運】 8
【特技】
(風魔法LV.2 回復魔法LV.2)
【エルロイド・ウェルズ/人族】
【LEVEL】12
【HP】154/154
【MP】0/0
【攻撃】64(+15)〔鉄の剣〕
【防御】32(+20) 〔皮の鎧、皮の兜、青銅の盾〕
【俊敏】22
【運】 15
【特技】
(剣術LV.3)
【特殊技能】
(強奪 鑑定)
牛頭種を倒したお陰で、俺達はFランクのパーティーでは考えられない程のレベルアップを果たした。俺とカイル達とのレベルの差は戦闘での経験時間の差だろうと考えている。
因みに冒険者としてのランクを比較してみると、F〜Eランクが駆け出し冒険者、Dランクで中堅クラス、Cでベテラン、Bが凄腕となり、A〜は勇者と讃えられる程の称賛と名誉が与えられる。
平均的なDランク冒険者で大凡LV.10前後なので、俺はそれより少し腕が立つと考えていいだろう。
そして俺には特殊技能という項目が追加されて出ているが、これは特定の個体が使用できる技能で、通常ギルドで行われる鑑定では表示される事はない。
その事を考えずにうっかりギルドで鑑定してもらった時は内心焦り、自分の迂闊さに歯噛みしたが、特殊技能が表示されない事を知った時は肩の力が一気に抜けた。この技能の事は誰にも知られない方がいいだろう。
しかし、逆に痛かったのはやはり魔力が0だった事だ。今も魔力を大気中に感じる事は出来るが、自分の中に溜めておく事は出来ない。
だが俺は、牛頭種との戦闘でその魔力を奪い自分の力にする事が出来たので今後この力の程度を検証し、使いこなしていく必要がある。
影と魔物での能力への差や、さらに人族にどのように影響を及ぼすのかまでは調べ切れていないからな。
「何時までここにいるんだ?さぁ、そろそろいこうぜ!」
カイルの言葉に俺は思案を打ち切る。そうだな。まずは依頼を受けて自分たちのランクを上げる必要がある。
俺は両開きの扉を押し開けて中に入る。登録した時と変わらない騒々しさが俺たちを迎え入れた。
朝早くという事もあり、酒を煽っているのはごく少数だが、チームで打ち合わせをしていたり、朝食を取っていたりとそれなりの人数でごった返していた。
俺たちはギルドの奥へといき、依頼書が貼っている掲示板へと向かう。依頼はランク毎に貼られていて、依頼の種類によって紙の色が違っている。
ある特定の場所の探索や物の納品依頼が緑、人物の護衛などの長期に渡る依頼が青、魔物の討伐や捕獲、またそれらを含む素材の納品依頼が赤、それ以外が白と大まかに4色に分かれて貼られている。
「よし、とりあえず今日はEランクの依頼を受けてみようと思う。異論は?」
「ないわ」
「ああ、そうしようか」
2人が声を揃えて言うのを確認し、依頼を見る。
緑紙や青紙は命の危険は殆どないが基本的に時間が掛かる場合が多いので、赤紙の依頼を受けるとするか……。
今あるのは、小鬼種の討伐に犬頭種の討伐か。後は……。
「これなんかどうだ?」
カイルが指を指す依頼を見る。
「巨大蜂種ね。Eランクの中でも中々手強い相手よ」
巨大蜂種か。確かにこいつらは集団で行動する分、他のEランクの魔物と比較すると少々厄介だな。
だか、その巣に蓄えている蜜や蜜蝋は高値で取引されている。一石二鳥を狙うには丁度いい獲物かも知れないな。
「よし、今日はこいつを仕留めるか。アシュリーの言う通り、こいつはEランクでも中々手強い相手だ。油断せずにいこう」
俺はそう言うと依頼書を剥ぎ取り、依頼を受けるために受付へと向かっていった。