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先日総PV1000越えることができました!
ありがとうございます。
これからもエル達の冒険をお楽しみください。
「ちょっといいかしら」
小鬼族の群れを斃すための作戦を立てているとアシュリーが話を切り出してきた。
「試したいことがあるの」
そう断ってアシュリーは話し始める。
「今この塔はさっきと比べて魔力が強まっている感じがするの。さっき魔力を引き出そうとした時、降魔の儀式の後に試した時よりも早く魔力を感じることが出来たわ。時間にして半分くらいかしら?」
「っ!ほんとだ。さっきよりも感じやすくなってるぜ」
カイルがアシュリーの言葉通り試してみたんだろう、そう言った。2人がそう言うんだ、きっとそうなんだろう。……残念ながら俺には感じる事は出来ないが。
俺は頷いて続きを促す。
「単刀直入に言うわ。魔法を使ってみようと思うの。」
アシュリーによると適性のある風魔法のなかで、矢に効果を付属する魔法が使える魔法があるということらしい。
俺としてはまたアシュリーの弓による射撃からの強襲を考えていたから丁度いい。
「俺も使ってみたい!さっきの火魔法よりも強そうな魔法が使えそうなんだよ!」
カイルがアシュリーに便乗する。
「いいだろう。じゃあ、作戦を伝える。アシュリー、まずは魔法で強化した矢で中程にいる小鬼族を射撃してくれ、カイルは手前にいる小鬼族を頼む。
カイルが魔法を使ってすぐに俺が特攻を掛けるからカイルもそれに続け。アシュリーは後方から支援を頼む。いいな。」
簡潔に説明指示を飛ばし行動に移す。
俺たちは大部屋の入り口まで戻り中を覗いた。
相変わらず小鬼族達は小競り合い続けており、此方に気付く様子は全くない。それどころか、仲間をぶっ飛ばして今丁度3体目が地面に斃れたところだ。
これ、時間を掛けたら勝手に全滅しそうだな。俺は口角が引き攣る感覚を懸命に押さえ込みながらアシュリーに指示をとばす。
アシュリーは弓を引き狙いを定めた。
そして魔力を引き出すために集中し、カイルもそれに続く。
「我は今ここに願う。大いなる風よ、今その力を示せ……追い風!!」
風を纏った矢が飛んでいく。そして中央にいた小鬼族の胸を貫き風穴を開けてそのまま後ろにいた3体を巻き添えにする。
「我は今ここに願う。大いなる火よ、収束し敵を撃て……火球!!」
直球30cmの火の球が勢いよく手前にいる小鬼族にぶつかっていき、弾ける。小競り合いをしていた小鬼族を巻き込み、派手に吹き飛ばす。
その姿を目で追いながら俺は飛び出した。地面に転がっている小鬼族達を避けて、残った最後のゴブリンを襲う。
仲間が一瞬のうちに斃されて呆気に取られている小鬼族の胸に深々と剣を突き立てて、一撃で葬りさる。
剣を抜き去り一振りして血を払い落とし、納刀する。
やばい。魔法が強すぎる。威力を目の当たりにし、改めて俺はそう感じた。
くそ、俺も本当は……。暗い感情が湧きあがってくるが、意識的に封じ込める。
「よくやった。やはり魔法は使い勝手がいいな」
俺は率直な感想を伝える。
「ええそうね。でもまだまだ鍛錬が足りないわ。多分後一回使えるかどうかね」
「俺も似たようなもんだぜ。此処を無事に抜けたら徹底して鍛えないとな!」
それはそうだろうな。永遠に使えるなんて、強すぎる。制限くらいはあると考えるべきだ。
ステータスでいうMPと関係しているみたいだから、冒険者登録を済ませた後に鑑定させてみたほうが良さそうだな。
休めば回復するそうだが、人によって違うらしく、それがどの程度でどれ位回復するのか見当もつかない。その辺も踏まえて一度実験してみるか。他の魔法の威力や範囲を知ることも必要だな。
因みに学園では魔法の講義はしているが、かなり浅い。その理由として、魔法は契約したときの魔力、つまり眷属によって使える魔法が変化する事が最もな理由として挙げられる。
さらに魔法は火魔法や、光魔法など、基礎魔法は大きくは変わらないが、追い風や火球といった基礎以外の初級魔法以上になると、詠唱自体個々によって異なるからだ。
学園で教えられる魔法の知識とは
・魔法は魔力を媒介にして発動する
また、魔法はキーとなる詠唱によって形造られる
・魔力は大気中に充満しており、微量ずつ体内に吸収し、蓄える事ができる
・吸収した魔力は体内にもつ魔石がそれぞれにあう属性に変換させることによって初めて使用する事ができる
・魔石は降魔の儀式によって体内に生成される
だいたいこんな感じだ。
そもそも降魔の儀式を修了させるまでは魔法自体使えないため、講義のしようが無いのだろう。
魔力を引き出すことや、詠唱なんて、殆ど感覚を理解することが大切みたいだからな。
閑話休題
俺たちは小鬼族達の魔石を手分けして剥ぎ取り、休憩を挟んだ。
「他のみんなはどうしたのかしら?」
「そういえば此処にきてから結構な時間が経ってるもんな。合わない所をみると、みんな逃げだせたのかなぁ?」
アシュリーの問いにカイルが答えた。
まぁ、それも考えられるだろう。
この塔に入ってからゆうに8時間以上は経過している。
塔を上がるに当たっては俺たちの攻略スピードが速かった為誰にも会わなかったという理由で納得できる。そもそも俺たちからスタートした筈だから、途中で追い抜かれでもしない限りは会うことは無いだろう。
しかし降魔の儀式の時間も含めて、 今まで誰にも会わないということは、今はもう誰も登って来ていないということか、もしくはまだこの塔の攻略に手間取っているということか。
モンスターに殺されているという線は死体を見つけない限りは考えられないだろう。
あとは考えられるとしたら……。
「ここが降魔の塔によく似た場所で全くの別物という線も考えられるわね」
そうだ。降魔の儀式での最後の魔力の暴発。それによって魔力的な変化をきたし、何処かの別空間に飛ばされたという事も考えられる。しかし。
「確かにその可能性も否定は出来ないが、現状では情報が少な過ぎる。安易な考えは持たずに、まずは一階を目指すべきだ」
「それもそうね。ごめんなさい、いろんな事があり過ぎて少しナイーブになってたのかも知れないわ」
アシュリーは素直に謝罪を述べた。
「気にするな。俺も似たような考えもしていた。とりあえず今は余計な事は考えずに、無事にここを乗り切ろう」
アシュリーにそう告げて、俺は水囊を取り出して渇いた喉を潤す。
「さぁ、そろそろ出発しよう」
俺はそう告げて立ち上がる。カイルとアシュリーも俺に倣い、荷物を確認して立つ準備をする。
「さぁ、3階への階段はすぐ其処だ。今は凡そ1/3程の場所だろう。あと一息ーー『グオオォォォオオ!!!!』
頑張ろう。という俺の声は上層から聞こえてくる何かの咆哮によって掻き消された。
「な、なんだぁ!?」
カイルは目を見開いて上を見上げる。
これは……拙いな。小鬼族なんて目じゃ無い何かが居る。
「マズイ。此奴は絶対に強敵の予感がする。今すぐ荷物を纏めろ。追いつかれたら……ヤバイかもしれない」
俺の言葉にアシュリーは青い顔をして、急いで荷物を手繰り寄せる。
俺たちは、周囲の警戒をしながら3階へと降りていく。
『グオオォォォォ!!』
遠くで身を裂くような咆哮が聞こえてくる。
このまま何事も無く無事に降りれると良いんだが。
俺達は不安に駆られながら塔の入り口へと戻っていく。