1-9
小鬼族。
醜い鷲鼻が特徴的な人型モンスターだ。種族の特徴として全体的に小柄だが人並み以上の筋力を持ち、棍棒や鉈等の武器を所持していることが多い。
知能は低く攻撃は単調だが、殆ど集団でいることが多いため、獲物を数で圧倒し仕留める。
人族の女性を攫い交配して数を増やすため、女性の間では嫌悪の対象として知られている。ランクはEランクに位置し、訓練を受けた騎士が危なげなく斃せる程の強さだ。
しかし騎士の訓練も受けてない俺たち学園生では単体なら何とかなるだろうが、複数いた場合は荷が重いだろう。
幸い今は一体のみしかいないため、3人で強襲すれば斃すことが出来ると考えられる。
そう考え音を立てないように静かに2人の元へと戻る。
「おかえりなさい。どうでした?」
俺の姿を認め、アシュリーが訪ねてきた。
「2人とも落ち着いて聞いてほしい」
「単刀直入いう。向こうには小鬼族がいた」
「!!」
「まじかよ!」
「この塔には魔物は出現しないはずでしょう?」
2人は青い顔で呟いた。
無理もない。なにせ産まれて初めて魔物と邂逅するはずだ。大人でも勝てるか分からない魔物がすぐ其処にいるんだ。怖くない筈はない。
「とりあえず最後まで聞いてくれ」
俺は2人が頷くのを確認してから話し始める。
「俺は小鬼族を倒そうと思う」
「「っ!!」」
そう告げた瞬間2人は驚きに目を見開いた。
うん。まぁ言いたいことは分かるぞ。しかしなにも勝算がないわけじゃあない。
「聞いてくれ。この先で見かけた小鬼族はたったの一体だけだった。周囲の確認をしたからこれは絶対だ。
小鬼族の強さ自体は其処まで強く無い。俺たちが3人で襲えば何とかなるくらいだろう」
ここで俺は一度話を区切り、2人の表情を確認する。
カイルは頷き続きを促してくる。アシュリーはまだ青い顔をしているが口を挟んでこない所をみると納得はしているみたいだった。
「話を続けよう。まずはアシュリー、小鬼族の隙を伺い矢を射ってほしい。出来れば顔か棍棒を持つ右腕、あるいは大腿部を狙い機動力を削いでほしい」
「ええ、やってみるわ」
アシュリーは弓を握りしめて言った。
「俺とカイルはアシュリーが弓を射った後に小鬼族に強襲を掛ける。其処まで賢くない相手だ、矢が当たった瞬間は痛みでかなりの隙が出来るだろう。その隙を突いて急所を狙う。
もし、其処で仕留められなかった場合は俺が正面に出て小鬼族の攻撃を捌く。
アシュリーは後方から援護して、小鬼族の気を逸らしてくれ。カイルは隙を見てダメージを与えてくれ」
「わかったぜ」
「よし、いくぞ!」
俺は2人が頷く姿を確認し、小鬼族を発見した場所まで2人を誘導した。
相変わらず不規則な地を踏みしめる音が聞こえてくる。小鬼族は先程発見した位置から殆ど動いておらず、辺りをウロウロしていた。
俺は手でアシュリーに指示を出すと、アシュリーは頷き矢筒から矢を取り出した。
目を閉じて大きく息を吸い込みゆっくりと目を開ける。
青い顔をして不安そうだった表情はいつの間にか鳴りを潜めた。その瞳はしっかりと小鬼族を見据えている。
矢を番え、しっかりと弓を引く。
俺は指でカウントを取り、指示を出す。
ー3ー
ー2ー
ー1ー
GOサインとともに矢が放たれ、俺とカイルは小鬼族に向かい駈け出す。
「€€ー!!」
弓は小鬼族の大腿に突き刺さり、小鬼族は痛みに呻いて脚を抑えている。
「はあっ!」
カイルがナイフを振りかぶり、小鬼族の横腹へ狙いを定めている姿が横目に映った。俺は剣を両手でしっかりと持ち直し、頸を狙い気合いとともに振り抜く。
首元に吸い込まれるように真っ直ぐと振り抜いた剣は小鬼族の頭と胴体を分断する。
「ふぅ……」
以外と呆気なかったな。
俺は崩れ落ちた小鬼族が纏っているボロボロの服で血を拭って鞘に刃を納める。
「へへっ。以外と呆気ないもんなんだなぁ」
カイルが止めていた息を吐いて戦闘の感想を述べる。
「そうね。でも小鬼族だからこんなモノなのかしら」
カイルの言葉に賛同するようにアシュリーが言う。
「敵も一体だけだったしな。それに次は上手くいくかはわからない。気を引き締めていこう」
俺は2人にそう告げると、腰に差したナイフを取りだした。
「ナイフなんか取り出してどうするの?」
アシュリーが問いかける。
そうか、2人とも魔物実践は初めてだったな。
これを機に魔石を剥ぎ取る事も癖付けておいた方がいいかもしれない。なにしろこの儀式が終わった俺たちはギルドへ冒険者として登録することになる。
これからモンスターを斃し、魔石を取りだす機会も増えてくるだろう。
「モンスターの特徴は覚えているか?」
そう2人に投げかける。
「あれだろ、ダンジョンや人里離れた山や海にいる化け物だ。其処にいる小鬼族みたいな奴のことだろ?」
「そう。カイル、半分正解だ。だがそれだけじゃない。モンスターには獣と違う特徴が一つだけある」
俺はそう補足をする。
「……魔石ね。モンスターには獣と違い魔石があるわ。それを剥ぎ取る為にナイフを取り出したということね!」
「正解だ。モンスターは核として体の中心部、つまり心臓に近い位置に魔石を持っている。これは色々な魔道具に使用する事もできるし、ギルドで買い取って貰う事もできる」
俺はアシュリーの回答に満足しながら説明する。
「これからモンスターに遭遇したら剥ぎ取る機会もあるだろう。まずは俺が剥ぎ取ってみせるから、覚えていてほしい」
俺はそう言い、首なしの亡骸となった小鬼族に近付き、その身に纏っていた布をナイフで切り裂いていく。露わになった皮膚にナイフを突き立て、胸を切り開いて魔石を取りだす。
取り出した魔石は片手で握ると覆い隠せるほどの小さくて白く濁った色をしていた。
「ふぅ。これが小鬼族の魔石だ。もっとランクの大きなモンスターになるほど大きく、艶のある黒い色をしている。まぁ、ここで説明しなくても知っているとは思うがな」
そう説明しながら取り出した魔石をポーチに入れる。
「さぁ、そろそろ先へ進もうか」
俺はそう言って2人を促した。
カイトを先頭に警戒をしつつ進んで行く。暫く進んでみて分かったが、塔内部の構造自体は全く変化が無かった。
俺達は登ってきた道を思い出しながらきた道をゆっくりと戻っていく。
それから30分程進んだだろうか、もう少しで3階への階段に辿り着くという所で、俺たちはまた小鬼族と遭遇した。
しかも今度は少し大きな部屋の中に10体程の集団で溢れかえっており、仲間同士で争っていた。1体か2体程は地面に倒れている者もいる。
同士討ちは万歳だ。どんどんしてくれよ。
俺は心の中でそう呟きながら部屋の中を観察する。
部屋は大体30㎡程の大きさで死角らしき物はない。
入り口は二箇所で、今俺たちが覗いている場所と、丁度反対側にしかない。
小鬼族達はお互いに争っているせいか、此方に気付く様子は全くない。
俺たちは作戦を立てるため来た道を少し戻った。
「うっへぇ。ウジャウジャ居やがるぜ。どうする?」
「あそこまで多いと少し気味が悪いわね」
カイルとアシュリーはお互いに見やり、辟易した様子で話している。
さぁ、どう料理してやろうか。
俺は小鬼族達を斃すために思考を張り巡らせた。