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合縁奇縁☆侍女のぼやき?

合縁奇縁☆侍女のぼやき?



 町より少し離れたところに、ある貴族様か身分の高いお方かのお屋敷があった。

その屋敷の広いバルコニーへ侍女らしき姿の少女が、出てきた。

少女は外に出ると、夜の空気を気持ちよさそうに胸いっぱい吸い込んでから、ぽつりと独り言をもらす。

「どうして普通の趣味を持ってくれないんだろ。

しかも、インドエステだって?」

ついでにもうひとつ。

少し声をおとして、誰か人に聞こえないように注意しながら、意味のわからないことをのたまう。

「冗談じゃないっっての。

どうしてこっちの世界であっちの世界でのことがあんの?」

 少女は一週間ほど前、このお屋敷に雇われやってきた、まだ新しい侍女だった。

自分の仕事はとりあえずちゃんとこなしていたし、先輩方にも良い人に恵まれていたから何の不服もなかった。

そう、こっちの世界の生活にもなれたし、手に職も持てたし、これといって今のところはちっとも不満などない。

だが。ここの奥様のご趣味には、閉口していた。

インドエステなのだ。

しかも、いかにもあやしいかんじの。

ちゃんと、向こうの世界でいうインドの格好までしている。 

何が変って、ここが日本ならわかる。

…わかるのだが。

…実はここは日本ではない。

地球ですら…ない。

はずである。

なぜ、そんなことがわかるのかといえば、それは一日もその辺の町をぶらつけば、一目瞭然だと思う。

道はアスファルトで舗装されてはいなくて、良くて石を敷き詰めているだけで、悪くて草ぼうぼうの野道だ。

まぁ、どっかの田舎の外国ならまだそんな場所もあるかもしれない。

のだが、国の政治が王宮中心で行われているわ、貴族もいるわ、まるでRPGの世界のようないでたちの人々、騎士様もいれば魔法使いもいる。もちろん地名だって全然違うし、日本はもちろん世界各国のどの国にもあてはまらない国の名前なのだ。

それに、夜になって星が出始めると、あまり星座には詳しくはないが、明らかに見たことのない星が無数に瞬いているのがわかる。最初は、日本より暗いせいで星がたくさん見えるのかと思ったのだが、月以外にも近くに大きな衛星が幾つか確認できてしまった。

だから、少女もここがどこか別の世界なのだと思ったのだ。 

少女…もちろん少女なんていう名前ではなく‘市比野 美都’という名がある。

美都はこの間までは一高校生だった。

話せば長くなるのだが・・・






空前絶後☆それまでの出来事



 それは一ヶ月ほど前のことだった。

確か、まだ六月のはじめの頃の良く晴れた日の事だったと思う。

美都はごく普通の高校三年生だった。

進級してから二ヶ月たったのもあって、もう授業にもすっかり慣れて、だんだん緊張感がなくなってきた頃だった。

その日、いつものように家の近くにある駅を利用してJRに乗って、学校のある駅で降りて

…それから、学校まで徒歩20分ほどの道のりを歩いて行った。

ポケーっとしていたから、少しもわからなかった。

ふと、いつもと違う風景のような気がして顔をあげると、目の前に何か巨大な建物がそびえ立っていた。

始めは道を間違えたのかと思った。

しかし、上を見上げて、そうではなくもっとややこしい事が判明した。

ビルかと思ったその建物は、昔の外国のお城にそっくりだったのだ。

高い城壁に、はりついた植物。

大きな城門。

更にそれよりも青い空高くそびえ立っている小さい頃に夢みてたようなお城。

その全身がまとう風格は、ここ二・三十年の間に建てられたというふうには見えない。

少なくとも、軽く二、三百年は前にはもう建っていたように見える。 

一体何が起こったんだ?

全然わけわかんないじゃないか…。

突然のおかしな現象にパニックってしまう。

それから、後ろを振り向いて見て絶句してしまう。

こっちは、いつもの町並みに変わってしばらく坂を下ったお城よりもだいぶ離れた所に古風な石造りの家々が、広がっている。

そんなに朝早くないためか、町の住人らしき人々がちらほらと見える。

あんまり目のよくない美都でも、その人達が自分の時代の服装でないと、気づくぐらい時代離れした格好をしている。

……きっと映画の撮影か何かさ!

道を間違えたのに違いない!

もう、こんがらかって頭がうに(・・)になりそうだった。

 とにかく、ここに長くいても仕方がない。というか、長くなんか居たくない…。

遅刻してしまう!

町へ行って、話ができそうな人を探して、道をきかないと!。

もしかしたら、誰かの新しいいたずらなのかもしれない。

そうであってほしい。

制服のスカートをひるがえし学校に教科書を置いているから、入っているのはペンケースぐらいのほとんど何も入っていない、革のそれじたいが重いぺちゃんこの鞄を持ち直して、一路町へと歩き始めた。






寸善尺魔☆トラブル発生!



 さて、町へ偵察に来て見たのはいいのだがある重要な事に気がついた。

町へ近づくたびに、だんだんはっきりといろいろなものが、見えてくると、そこの人々の顔立ちや服装なども当然どのような格好かはっきり見える。

どんな格好かというと、例えて言うならば、ゲームなどのRPGの中で出てくるような、町の人々のがこんな格好だったかもと思う。

…はっきりいって日本人っぽくない!

だから、果たしてまるで外国人のような人々に日本語が通じるのだろうか、と急に心配になってきたのだ。

 街にはいると、朝の市場の活気あふれた声がそこここで聞こえている。

みんな忙しそうに仕事をしているためか、この辺りでは見ない格好の美都を目に止める者は少ない。

店に並ぶ商品は、野菜だとか果物だとか、何の肉だかわからないものだとか、品ぞろえはいいみたいだった。

何よりも驚いたことは彼らが美都か他の通りがかりの人かに、

「おーい、そこのお嬢さん!

おひとついかがかい?

安くしとくよ、さぁいらはい!!」

と、まあ日本語で売りさばいていたことだ。

さっきまで、言葉がどーのと悩んでいたことなど吹っ飛んでしまった。

日本語だぁー?

まったく心配して損したな。


「はぁ」

っと、ため息をついた時だった。

何者かがどかーんとぶつかってきた。

おおげさな表現だが、本当にどかーんと吹っ飛んでしまったのだ。

ほとんど突き飛ばされたのと同じだ。

ぶつかった?相手は、どうやら男のようだ。

野太い声でなにやらわめいている。

 目の前を星がちかちかしていて、すぐには状況が飲み込めない。

「おいっ、聞いてんのかこいつ」

美都は、男に肩を、がくがくとゆすられて、やっと正気づく。

はっ!と、周囲を見回すと自分の前にいる屈強な筋肉もりもり男が、先ほどおもいっきり突き飛ばした奴らしい。

男は、美都の目の焦点が、やっとあったのを見て、青筋おったてて一気にまくしたてた。

「てめぇっ、いきなり人にぶつかって来たと思ったら、俺の財布を盗ってんじゃねぇ!」

はぁあ…???

と、わけわからずに?マークをとばしている美都に男は更にわめきたてる。

「とぼけんじゃねえぞ、こいつ。これはなんなんだ?こ・れ・は・?」

と、言って美都の右手を目の前にみせる。

その手には、ぼろぼろの革の袋が握られていた。

見たこともなく自分の持ち物でもない。

「何?このばっちいの」

と、怪訝な顔で、男を見上げた。

「ば…?なんだって?。

…まあそれはいいや。

何じゃねぇっ!

俺の財布だっ」

男はだんだん激怒に近い形相でどなる。

それでも、さきほどの美都の言動の意味は、理解できなかったらしく半分やけになっている。

財布?ああ、これか。

なるほど。

袋をふるとじゃらじゃらと、金属のような音がする。

「これ、あんたのなのか。はい。」

と、男に手渡す。

男は、ああ、こりゃどうも

…ともらってから、はたと袋を見、あれ?というような顔をした。

そして、さっさと制服についた砂をはらって歩きだした美都を見て慌てて、呼び止める。

「お、おい、待て。待てってば」

「はぁ。まだなにか?」

美都が迷惑顔で振り返ると、

男はそんなことにはちっともかまわずに、またどなる。

「人のもん盗っといて何様のつもりだ」


なるほど、この男は何か勘違いをしているようだ。

確かにぶつかった後に、美都の手に握られていたのはこの男の財布だったが…。






虎視耽々☆罠にハメられたっ!



「ごっ誤解しないでください!

盗ったんじゃありません。

ぶつかった時に、何かにつかまろうとしてつかんだのがソレだったんです。」

と、真っ赤になりながら必死で言う美都は、頭の中で冷静に分析しようとしながら心臓の方がものすごくバクバク言っていたので、うまく言い訳ができずにいた。

さっきからずっと『どうしよう!』がリピート中だ。

男はそんな風にあせっている美都を、横目でちらっと見ると、嘲りを含めた目でにやりと薄く笑うと、こう言った。

「そんなはずはねぇ。

俺は確かにお前が人の懐を探ってるのをみたんだよ。

だから、突き飛ばしたんだ!

この盗人め。」

こうなると誤解してると言うよりも、もしかすると最初から、これがねらいだったのかもしれないと思う。

つまりは彼の罠にまんまとはまってしまったのだ。

見知らぬ所に、知らない間にきて、どういう状態なのかぜんぜんわかんないのに、トラブルまでおきてしまいいったいどうしろというのだ。

涙が出そうになって、下を向いてこらえる。

「違う。私はなんにも…」

後の方はほとんど涙声になってしまい、それきり何も言えなくなる。

どうしよう?!

男はまるで勝ち誇ったように嘲笑している。

「どうしたんだい?

本当に、お前が盗んだんじゃないのなら証拠でも見せて貰おうか?」

その言葉に、「きっ」と男をにらみつける。

証拠なんてない。

あるはずがない。

もちろんこいつが、美都を盗人にするために、わざとぶつかったきて自分の財布を人の手に押し込んだ、なんていう証拠もない。

証拠がなくっちゃー話にもならない。

 もし、美都が本当に、むりやりスリにでもされてしまったらきっとこの男は賠償金とかなんとかを法外な金額で要求してきて、お金がないとわかると、今度はいかがわしい所に売り飛ばしたりするとか、そうでなかったら一生こき使ってやるとかって、自分の家で働かせたりするかも知れない。

 冗談じゃあない。そんな事を考えると鳥肌が立ってくる。

こんな見ず知らずの世界で、何が悲しくてスリに仕立てられなきゃいけないのか。

 17歳の身空で、毎日が泥沼のような生活が足音高らかにやってくるような錯覚にとらわれて身震いする。

 かといって、解決策が急に思い浮かぶわけはない。


困った。証拠×3!!

なんか証拠ぉーないかなぁ。

ないよなぁ、ううー。

証拠だなんて刑事さんじゃあるまいしねぇ。


 頭を抱えて思案する美都を、見下すような目で見ていた男が、タイムリミットを告げ、最後の宣告をする。

「時間切れだな、

証拠あるかー証拠はよぉ。

俺はお前が人の懐探んのを見たしなぁ

まずは土下座してあやまりな。

当然だよな。」

「ちがう!

私はソレが財布だなんてしらなかったんです!」

叫ぶ美都。

だが、聞く耳などない。


土下座だ?

なんでやってもいないことでそんなことしなくっちゃいけないんだ!

悔しい。

こんな男の汚い策にはまって人生棒にふるなんて!

くっそう、悔しい。


だんだんと周りを取り囲む野次馬が集まってきて、ますます窮地に追い込まれる心地がする……






乾坤一擲☆騎士様の賭け?



 男は優越感にひたっていた。

この娘の悔しそうな顔ったら。

さて、今度はどれくらい巻き上げようか。

その昔スリだった男の素早い動作は誰の目にも映らなかったはずだ。

造作もない。

男はほくそえんで、決めた金額を言おうと、話を切りだした。

「そうだな、慰謝料は…」


ところが。

そこで突然待ったがかかった。

「ちょっと待ってくれないか?」

周囲の目が声の方向に集まる。

 それは人目で騎士様とわかる出で立ちをした、長身の男だった。

歳は二十いくつか。

黒い髪を後ろでまとめて、リボンをしている。

わりと美形タイプといえないこともない、顔立ち。

腰には、大柄な細工のしてある長剣がさげてある。

 一体どうしたのだろうか、とみんなが彼を見つめる中、男が騎士様に文句をたれる。

「なんだ?騎士さんよぉ。

なんかようかい?

それとも、スリのこいつをかばいだてなさろうってのかい。

まさかな。」

げびた笑いをあげる男をちらりと一瞥すると騎士様は面白くもなさそうな顔で男に言う。

「別にかばおうなんてしやしないが、ただ。ただ、見てしまったからね。」

突然の横槍にちょっと機嫌を損ねた男がほんの少し、顔色を変える。


まさか、こいつには見えたのだろうか。

だが、はったりかもしれない。


男はしらをきることに決めたようだ。

「ほぉーう。何を見たのかい?」

表面上は一見平気そうに見えるが、騎士様は男の額に一粒汗が光っているのを見逃さなかった。

わざと意地の悪い、言い回しをする。

「そうだな。あんたの手がこう…」

といいながら、彼の手が自分の懐から財布を取り出した。

それから、美都の手に持たせて見せる。

こうじゃあなかったかな?

と、いうふうに男の今や蒼白の顔を見た。

「しらを切るんなら、もちょっとうまく切りなよ。顔面蒼白にしてたら、事実を認めてるってすぐにわかるぞ」

おどけた調子で言う騎士に捨て台詞を残し、男は、さっさと逃げだした。

逃げていく男に通りの人々が色々物を投げる。

「二度と顔見せんな!!」

「なんてひどい奴だ!」


男は這う這うの体で退散したのだった。

「災難だったな」

不意に横から話しかけられて一瞬ほけっと、して次の瞬間に慌てて美都は返事をする。

「あ、はい。あ、いえ。そうでもないです。いつもこんななんですかね?」

言ってから、変なことを言ってしまった、と少し後悔をする。

それから、お礼を言わないと、と遅ればせながらお礼の言葉を述べた。

「あの、ありがとうございました。」

ふかぶかと頭を下げる美都に、長身の騎士様はまねをするように頭を下げ、少し申し訳なさそうに後ろ頭をかきながら告白した。

「いや、なに。困っていたみたいだったからちょっと、カマかけてみただけさ。」

え…?

ということは、あの男がしたことを本当にみていたわけではなかったのか。


「あの男が大だぬきでなくて良かった」

しれっとウインクしてみせる騎士様を仰天してみつめる。

「それってかなり行きあたりばったりというか…、かなり危ない橋渡ったんですね。」


二人の間に白けた空気が漂った。


一歩間違えば恐ろしい事態になった気がして青ざめるのだった。






無欲恬淡☆お世話になります♪



 とりあえずはほっと一息ついて、さてこれからどうしようかと考え込んだ。

どうやら、元いた場所に戻れそうもないし、もしも夜まで戻れないとしたらどこか泊まる場所も探さなければならないだろうし、悪くすると一生帰れないかも知れない。

まあ、そんときゃあその時で、今はこれからのことを考えないといけない。

まあ気がついたら学校の自分の机で寝てました。

なーんてオチも考えられるのだが、なにしろ行きあたりばったりともいえなくはない性格なので、こんないいかげんな人間だからいいかげんな事になるのよ、なんていう自己嫌悪に陥っても二、三歩あるけばもう忘れていたりする。

って、おい何を脱線してんのよ!

どうでもいいことごちゃごちゃ考えてる暇はないんだから。

 と、よけいな事を考えたがる脳みそをなんとか本題に向かせて、

さてどうしようかな、と周りを見回すと、ふとまだあの騎士様が側にいることに気がつき、彼が面白いものを見ているような顔をしているのを訝しげに思って、どうしたのだろう?

と首をかしげる。

「君っておもしろい子だね」

といわれて、またまた首をかしげ、

は!と、思い当たり顔が真っ赤になるのを感じた。

どうやら一人芝居でもしていたのだろう。

恥ずかしいことをしてしまった。

耳まで真っ赤になる美都を、面白そうに見て若い騎士様は、ある提案をした。

「君さ、俺の屋敷に来ないかい?ここに仕事とか探しにきたんじゃないのかな。」

お金もないし、今は高校生とはいえ、ただのぷーたろーのようなもんだ。

このまま帰れなければ職も探さねばなるまい。

というふうに考えて、騎士に頷いてみせる。

「そうか!。じゃあ俺の屋敷に来るといい。見目も悪くないし、母上も気に入って下さるだろうし、給料も保障する。来てくれるね」

嫌なら断ればいいし、なんだかおもしろそうだし、やってみる価値はあるんじゃないか。

「はい。喜んで行きます。」

助けてもらったこともあるしと、つい気軽に返事をしてしまったが大丈夫だろうか?。


そんな心配を胸に騎士様…ヴィランデルという名の方は自分の屋敷へ美都を連れて行き母親に紹介してくれて、その屋敷で勤める事になったのだ。

仕事内容は主に、このお屋敷の奥様のお世話。

といっても、ほとんどが話相手になるだけで、本当の身の回りの世話をするのは前からいた、侍女さん。

じゃあ一体私は何するんだ?

と思っていると、この屋敷のだんな様…つまり、ヴィランデルに書斎に呼ばれ、何事かと思いつつ赴けば、彼は意外な事を言ったのだ。

「剣を習う気はないかい?」

と。






日進月歩☆免許皆伝?!



最初は冗談だと思った。

一介の女子高生が重そうな剣を振り回して敵をばったばったと切り倒していく。

…なんて自分にできるわけがない。

おまけに自慢じゃないが…

中学も今も部活さえしてないし、体育の成績も普通。

よくよく考えれば剣って刃物だし、17歳で人殺しになんぞなりたくはない。

スプラッタな場面をみるのもごめんこうむりたい。

だが、年若い騎士様は笑ってこう言った。

「べつに”人殺しにならないかい?”なんていってるわけじゃない」

「護身用にでも習っておけば、いざという時には役に立つと思うし君は案外筋がよさそうだし。」

見た目で筋がいいといわれるのは、どうもよくわからないが、護身用ぐらいならなんとかやれそうじゃないか。

「あの、あなたが教えて下さるんですか?」

少しやる気になって聞いてみる。

「もちろん。手取り足取りちゃんと教えて、あげるつもりだが。なにか?」

手取り足取りって

おい。

だいじょうぶかな。

ははは…なんか怪しい。

 がしかし、結局は彼に習い、更に礼儀作法もビシバシ教えてもらい、まるで剣術見習いに下宿しているような毎日だった。

私が使う剣は重いと持てなくてちっとも護身にはならないため、比較的軽くて持ち安く、刀も長すぎずに、使い安いちょうどいい剣をヴィランデルが選んでくれた。

 何十日か習うと、まだまだあまり強くはないもののなんとか護身用には使いものになりそうな腕にはなってきた。

基礎は、みっちり仕込んだから大丈夫だ、なんて言われたし、自分ではあまりわからないが、まあそこそこの腕だろうと美都はあまり過信しないように無謀な事はやめようと自分にいいきかせた。

 自信なさそうにするなよ、

と師匠には苦笑されたが

調子にのる性格なのをよーく知ってるから、変な自身は持たないの

と言い返してやった。



 では、腕試しにと突然、あるお屋敷の奥様の侍女、兼身辺警護をまかされた。

それが今、雇われている趣味がインドエステの奥様だ。

なぜか気にいられて、趣味にもつきあわされているのである。





 と、長くなったが、美都がこんな所にいるのは、こういうわけがあったのだ。






猪突猛進☆初の冒険?



 だけど、この仕事もあと四、五日で終わりなのだ。

それというのも、美都の恩人で剣の師匠でもある、ヴィランデルがしばらくの間ちょっとした出張で旅に出るのだ。

その旅についていって表向きは武者修行、そのじつは単なる観光旅行という立派な名目で、師匠には一筆書いてもらっているし、何かあっても師匠が側にいる時は、守ってくれるし気楽な旅なのだ。

しかも、どこに行っても日本語が通じるとくれば、恐いものなし!。

侍女とかのバイト代のおかげで、お金もがっぽりあるしね。

ちょっとなら遊べるぞーと、数日後の旅行は楽しみなのだ。

それにしても気にかかるのは、今勤めているお屋敷の奥様。一体あっちの’エステ’を、どうやって知ったのか。

こっちにも同じようなものがある、というのも考えられなくはないが、どうしても何かが引っかかるのだ。


 五日後。

晴れた日に町を出る、男女一組の姿があった。

旅姿の立派な長剣を持った背の高い男はヴィランデルで、もう一人の、男の方よりかは、多少背の低い女は、某高等学校の校章の入った重そうな黒い鞄を持ち、制服を着て、無造作に、肩よりも長くなった髪を革ひもで結んでいる美都だった。

 出張先の、国はずれのとある町へは、城下町のここからはかなり遠いらしい。とても歩いて行ける距離ではない。

もちろん歩いて行く気はないのだが、もし歩いて行くならすごく大変だと、師匠が言うのでちょっと考えてしまったのだ。

 それというのも目的地につくまでは、ずーっと馬車だけで移動し、食事の時と夜寝る時以外は馬車で走り詰めで、暇でひまで仕方がなかったせいもある。

 それでも、旅は何事もなく順調に終わり、美都は出張先の町長の家にしばらくやっかいになることになった。

 美都はおもしろくなかった。

行きは馬車で暇だったし、出張先につくと、ヴィランデルは、仕事があるからと言ってて、美都が一人だけ暇だし、心踊る冒険を、少なからずとも期待していた美都にとっては、今の暇なことこの上ないこの状況に、そろそろ飽きがきていた。

しかも着いたその日に、町長に堅く、

「家の外には出歩くな」

と、言われていたために、ほかにすることがなく、うんざりしていたのだ。


三日もった、ということに正直いって表彰もんだと自分に感心してしまった。

 だが、これ以上はもう限界だった。

なにもせずにただ家の中に閉じ込もってじっとしているなんて、もうまっぴらごめんだ。

 それに、なぜ家から出るなと言われたのか気になっていた。

だいたい騎士様が、出張だなんて妙すぎる。

それらの答えは、すべて外にあるのではないだろうか?。

そう思って、町長達の隙をついて町へ行くことにした。

 美都は、自分の剣を持ち、外へと出た。

 町へ出てきた美都を迎えたのは、活気ある町の人々でも、旅の途中でよった人でも、なかった。

ひとっこ一人いない、寂しい町並みだけだった。

 どういうこと?来たときには結構にぎやかだったのに。

どうしたのか??。

おかしい。

そういえば、さっきから大勢の人間の視線を感じるような気がする。

息を殺してみんなが私のことを見ている?

何のために?

まるでこれから私の身に、何かが起こることをじっと見届けようとしているのかのように。

 すべての答えは、すぐにわかった。

異常な事態に緊張してきた頃、どこからか不吉な声が聞こえてきたのだ。

 それは言葉ではなかった。

低い獣の唸り声だ。

だが動物のものとは、明らかに違う音。

 美都はある嫌な予感がした。

もしかして…?。






暴虎馮河☆無謀かも知んない戦い



RPGではモンスターが、だいたいお約束で出てくる。

ついでにこの世界はそれに近い。

……気がする。

 と、いうことは。…もしかして?

と考えていた、美都の背後に何者かの気配を感じる。

おまけに、頭の上に荒い息使いまで聞こえてくる。

 振り返った美都は、思わずうんざりして

「おやくそくぅ~」

と、つぶやきたいような衝動にかられてしまった。

が、んなギャグやってる場合じゃないし、暇もない。

なぜなら、モンスターは早くも攻撃を仕掛けてきたからだ。

危なっかしいよけかたで、攻撃をかわして、ついでに手の届かない所へ逃げる。

「ふう。あっぶなかった。

ちょっとぉ!挨拶もなしにいきなり襲わないでよね。

こっちは素人なんだから!」

挨拶するモンスターがいるなんて聞いたこともないのだが、この場合平静を装っていないと、いちいち驚いていては、すぐにやられてしまうと判断し、自分の心を騙しながら対処しようとした結果である。

 実際中学三年の時の入学試験も、緊張すると何にも書けなくなると思い、楽観的な心を持って挑んでみたのだ。

結果はちゃんと合格して、今の高校へ通うこととなった。

 頭の中で、どうしようって考えていても、どうにもならないし、今は行動あるのみ。

 まずは敵の姿を素早く観察。

まだ低く唸って、こっちのようすをうかがっているらしいこいつは、牛のような頭に、筋肉もりもりのマチョマンな体つき。

私が大嫌いな部類だななどとちらっと思う。

ちなみに人間の筋肉は普通でいいのにね、が私の考えだ。

おっと。また脱線した。

さて、こいつの武器は斧か。

ん?こういう姿のやつって、確かミノタウがなんとかって、名前じゃあなかったかな?。

あれ?頭と体が逆の方のがそうだったか??

まあいいか。どうせあっちの人がつけた名前なんだし、こっちも同じとは限らないしな。

 さてと。どうやって倒すか?

って、倒せるかわからないが。

よし。当たって砕けろだ。

名付けて、当たって砕けよう…じゃなかった

”当たって砕けろ”作戦!!ってか?……。

一人でボケてみてつっこみがいないボケほど寂しいものはないな~

と思う。

ふと、つっこんでくれる友達を思いだし、懐かしい思いがしたのも束の間。

いっこうに動きを見せない美都にしびれを切らしたのかミノタローは、二度目の攻撃に出てきた。

 ミノタウーが美都の間合いに入り、斧をふりかぶった。

だが、それよりも早く美都が、自らの剣を抜き、かまえていた。

次の瞬間、ミノタウローは斧を握っていた左腕を失ってしまった。

しかし、ミノタローはしつこく美都を襲う。


堅い右手のこぶしを美都にぶつけようとした。

が、怪我のために動きが鈍くなっていたため、難なく美都はよけた。

勢いでミノタウーの体が傾く。

すばやく後ろに回り込んで、剣を突きつけた。

だが、とどめをさそうとはしなかった。

ミノタウローの喉元で剣はとまったままだ。

「どうした。俺に、情けをかけているつもりなのか?」

名前がころころ変わるモンスターは、牛の顔を苦痛にゆがめながら言った。

「別に。情けとかは考えなかったな。でも、もう勝負はついたはずだよね。」

剣を一振りして鞘におさめながら美都はそう言った。

ミノタウローは驚いた顔で言った。

「お前馬鹿か?どこにモンスターとやりあって勝負がどうのって言う奴がいるんだ。」

美都は平然とした顔で言った。

「ここにいるけど?。まっいいじゃないの。たまにはこういう奴がいてもさ。それに私は命のやりとりはしたくないし。」

これは嘘ではない。

平和な環境で育ったために、テレビの中でしか危険な状況は体験した事がない。

だからか、いきなり襲ってきた、このモンスターでさえもどうしてもトドメをさす気には、なれないのだ。

ましてや怪我を負わせたからまともに動けないじゃないか。

「お前、人間のくせに変な奴だな。俺を殺さないと町の奴らがうるさいと思うぞ。」

落ちた左腕を拾い、体にくっつけながらそう言う、ミノタウローに、美都は苦笑しながら言う。

「あんたこそモンスターのくせにやけに親切ね。大丈夫、別に頼まれてやった事じゃないから文句は言わせないわよ」

もし、言われたとしても、そんなふうに言われる筋合いはない。

と思う。

ここの町にモンスターがいるとか、町の人が困ってるとか、聞いてはいないし、第一、居候しているとはいえど、理由もなしに一方的に外に出るな、なんて普通客にはいわないだろうに。

ついでに自らの手を、血で汚したくはなかったし。

というわけで、美都はやっぱりみのがすことにした。

別れがけに、名前が結局曖昧だったミノタローは、困ったときにはいつでも手を貸すと、言って礼をいい帰って行った。

義理堅い奴だなぁ。

と美都は感心したのだった。

「出て行ってもらおう」

町長は開口一番それだけいうと、美都の荷物を手渡した。

弁解の余地なし。

有無を言わさず町の外を指さす。

それっきりで家に入る。






夫唱婦随☆新たな旅へ



 あっけないな。

もっと怒られるかと思っていたのに。

まあ、当たり前か。

どーせ何にも知らないよそ者なんだし、出てけ!って言うだけでどーにでもできるし。でも横暴だな。


…ま、いっかヴィランデルには、町長がなんとかうまくいうだろし。

ここはいっちょ自由奔放な旅にでも出ますか。

よっこらしょっと、鞄をかかえて、剣を背負って、

まずは隣町にでも行くか。

と、ぼやきながら美都は歩きだした。

 しかし、時計を見ると、急にキョロキョロしだした。

太陽はちょうど真上にある。

そうお昼だと気がついて、料亭を探しているのだった。

腹が減っては旅はできぬ?。

隣の町に行く前に腹ごしらえをしていこうと思ったのだ。

近くに料亭を見つけた美都は、席を確保してメニューを見たが、わからずにあきらめて、隣のテーブルの人が肉か何か、おいしそうなものを食べていたので、同じものをと、注文した。

なにげなーく周囲を一度見渡してから美都は見慣れた制服姿の女の子がいることに気がついた。

よく見ると同じクラスの友達の顔に似てるなあ

と思っていると、その人はこっちを見て驚いた顔になる。それから、首をかしげて時々こちらを見て、どうしようか迷っている様子だった。

美都も確かめてみようかどうか迷っていたが意を決してその人の所へ行ってみた。

「あのー。もしかしたら、めぐちゃんじゃないですか?」

友達のニックネームで聞いてから本名で聞くべきだったかと、少し後悔したが、相手の方がにこりと笑って、

「いっちー?どうしてここにいるの?」

と、美都に言ったのでほっ、とした。 

めぐちゃん…久川 恵美ちゃんは、美都の高校一年からの友達の一人で、高一と高三が同じクラスなのだ。

肩までとどかない程度のセミロングの黒髪で顔も美人さん。


 それから二人は一緒にお昼をとって、これまでのことを教えあった。


めぐちゃんも、朝学校に友達の直ちゃんと、学校へ行く途中で、気がついたら変な場所にたっていたのだそうだ。

直ちゃんと言うのは美都が高二の時と高三の時に同じクラスの子で、本名を平水 直希ちゃんという。

髪が、天然パーマで少し長くなるとピンピンはねるので本人は気にしているのだが、美都はかわいいと思っている。

でも、ショートヘアの似合う子だ。

めぐちゃんが、ここに来た時にはそばにいたはずの直ちゃんは、いなかったらしい。

それから、めぐちゃんは運よく?魔法使いの女の人に拾われて、魔法を教えてもらったりして、今は物見遊山の旅に出てきた、という話だった。


 一通り、お互いの状況を教えあった二人は、直ちゃんもここに来ている可能性があるという結論に達して、二人で直ちゃんを探す旅に出ることになった。





…続く??

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