「リア充、爆発しろ」
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僕は最近、超能力を手に入れた。
リア充を爆発させる能力を。
僕は冴えない人間で、ギャルゲーやアニメが大好きな中学二年のオタク野郎だ。
エロゲーは年齢制限があるからって手を出さない変に真面目な男の子だった。
そんな僕の学校生活は女っ気がない。
入学当初からすごく気の合う親友の鬼田くん(もちろん彼もオタクで女子に避けられている)くらいしか話し相手がいない。
思春期だとか多感な時期だとかそういった理由で彼女が途轍もなく僕は欲しかった。
イチャイチャしたかった。
チョメチョメしたかった。
しかし、キモオタな僕に恋人なんてできるはずもなく、周りではやれ誰と付き合っただのと浮わいた話がちらほらと聞こえてきた。
僕は自分の情けなさと悔しさで胸が一杯になり、つい小声で、
『リア充爆発しろ』
と言ってしまった。
すると次の日にはAくんとBちゃんが爆死したという知らせが町中を騒がせた。
このときはまだ僕は僕の能力に気付いておらず、彼らの葬式があってから数日後。
僕は欲求不満のためか、それとも先日見たハーレム主人公が羨ましかったのか、変わらずあのセリフを口癖のように呟いていた。
親友の鬼田くんといつものように行動していて、その日は妙に仲の睦まじい男女が目についた。
以前から恋人同士のラブラブな隣のクラスのCくんとDさん。
家が隣同士でかわいい幼馴染がいるEくん。
後輩からちやほやされているF先輩。
保健室の先生と良い感じのG先生。
カップルにはカップルに同性には同性に向けて"あのセリフ"を言ってやった。
家に帰る頃には、CくんもDちゃんもEくんもF先輩もG先生も爆死したという情報がどこからともなく耳に入って来た。
謎の爆死事件が学校で起きていることでテレビが沸いていた。
何者かの犯行か、それともテロ活動か。
なんにしても、学校閉鎖は避けられなかった。
学校が休みになっている間、暇なので鬼田くんと連絡をとったりして、いつものようにアニメの話やゲームの話に興じていた。
好きなアイドルも同じで趣味が合うなぁとか思っているとそのアイドルのニュースが流れた。
「速報です! あの人気アイドルHが人気俳優Iとの熱愛が発覚し、それを当人たちは認めているとのことです!」
電話の向こうの鬼田くんも同じニュースを見ていたみたいでショックを隠しきれていなかった。
僕は静かに電話を切り、
『リア充爆発しろ』
と言った。
その直後だった。
「え!? これ本当なんですか!? ………は、はい、わかりました。ま、また速報です。先ほどお伝えしたアイドルHと俳優Iは―――――」
僕はこのとき熱愛報道が誤報だと一瞬だけ期待したけれど。
「―――爆死したとのことです」
最近、聞きなれた単語が聞こえるだけだった。
これをきっかけに僕は気づいてしまった。
僕が"あのセリフ"を言うと、言われた対象が理由はわからないが、爆発するのではないか、と。
突飛な発想だったが、そう思い込むと僕はそうだとしか思えなくなってしまった。
すでに九人も爆発している。
それはどれも僕が"あのセリフ"を言ってやった人間なのだ、中二病を患っている僕は自分に超能力が目覚めてしまったと信じて疑わなかった。
なんてことだ。
僕がどうしても恋人が欲しいと願ったばっかりに何人もの人間を殺してしまった。
僕は罪の意識に苛まれた。
その末に「このままではいけない」と、僕は考えた。
このまま僕が誰かを羨ましがったり裏切られたと思ったらまた"あのセリフ"を言いかねない。
自分を変えよう。
僕は本気の本気で自分を磨こうと思った。
そして、死ぬ気で恋人をつくれば、もう"あのセリフ"を口に出さなくなるんじゃないか?
僕は僕に誓う。
「リア充になってやる!!」
それから学校閉鎖が解かれるまでの一ヶ月間。
僕は大嫌いな運動をして体力と筋力をつけて、大嫌いな勉強をやって学力をつけた。
オシャレで近寄りがたかった美容室にも我慢して行って、身だしなみを整えた。
僕の変化に久しぶりに会うクラスメイトは驚いていた。
しかし僕の努力は報われて。
話し相手が鬼田くんだけだった僕がみんなから徐々に認められていった。
体育では良い活躍をしたり、テストで良い点を取ったりすると、今まで話したこともなかった僕とは違うリア充だと思っていたクラスメイトと仲良くなり始めていた。
僕はとても楽しかった。
これが現実を充実するということなのか。
アニメもゲームもやめられないがみんなが僕のことを認めてくれることに嬉しさを抑えきれなかった。
世界が変わった気がした。
僕はそれからも頑張り続け、ついに学校一綺麗だと評判のJさんと付き合うことに成功した。
ついにリア充になった。
「やったぞ!!」と高らかに叫んだものだ。
Jさんはとても謙虚で成績も運動神経もピカ一だというのに調子に乗ることがない。
それなのに「自分はまだまだ」と言っていても嫌みに聞こえず、誰からも愛される完璧超人の美少女だ。
そんな彼女と初の一緒に下校イベント。
これで舞い上がらなければ男子ではない。
あれから。
人気芸能人が爆死してから半年。
それ以降、人間が爆発するという謎の現象は起きていない。
当たり前だ。
僕はあれから一度も"あのセリフ"を言っていないのだから。
僕はリア充になったので、これでこの超能力はもう発現しないだろうと思っていた。
そう。
思っていた。
「やあ。なんだか久しぶり」
「お、鬼田くん。ホントだね。そういえば話すのは久しぶりな気がするよ」
「ああ。本当にねぇ」
僕はリア充になると決心してから、鬼田くんとはなんとなく連絡をとることも、話すことも自然となくなっていた。
そんな彼がどうして、この僕にとって人生ピークとも言える恋人との下校デートに割り込んで来たんだろう?
彼の家はこの道の先にはないというのに。
「ずっと見てたよ。君が変わってからクラスのみんなから認められ始めて、Jさんと付き合うことになった今までずぅーっと」
「ごめんよ、鬼田くん。僕は別に君を避けてたわけじゃないんだ。今日帰ったら連絡するから」
僕はこの至福のときを邪魔されたくなくって、暗に鬼田くんにどこかに行ってくれと言った。
でも、鬼田くんは僕の話なんて聞いていなくて、
「おれさぁ、すごい能力に目覚めてさぁ……」
なんだか様子がおかしい。
いつもの鬼田くんは少しおどおどしているのに今はそれがなかった。
怖がったJさんが僕の腕に寄り添う。
「の、能力………?」
僕は聞き返してしまう。
「そうなんだよぉ。"とあるセリフ"を相手に向かって言うとその相手が爆発すんのさぁ」
「…………は?」
鬼田くんの言っていることがわからなかった。
「半年ぶりに使うのが、まさか親友相手になるとはね………」
「おい、鬼田くん……、君は何を言って―――――」
「―――バイバイ、Kくん」
鬼田くんはそれから僕が持っていると勘違いしていた能力を発動する。
思い返してみれば今まで爆死した人達のことを見つけたときには鬼田くんも一緒にいた。
テレビのニュースも同じのを見ていた。
つまりは、そういうことなんだ。
妙にセリフを言ってから爆死するまでの時間がバラバラだったのはそういうことだったのか。
僕が変に納得していると、僕の声ではない他人の声で"あのセリフ"を聞くことになる。
『リア充、爆発しろぉ』
最後に好きな人と死んだ僕は幸せ者だったのだろうか。
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