お試し無料
「やっぱりつまらないや。もう消しちゃおっと」
そうつぶやいて、ぼくはキャラクターを削除した。ついでにゲームそのものも削除。
いま遊んでいる……ううん、さっきまで遊んでいたゲームはレベル5までは無料なんだ。で、レベル6からは有料。つまりレベル5までは無料の「お試し期間」ってわけ。
お父さんの話によると、昔は全部のゲームが最初から有料だったんだって。ねえ、信じられる? 中身もわからないゲームをお店で買って、それから遊んだなんて。
「もし買った後でゲームがつまらなかったらどうするの?」
って聞いたら、お父さんは、
「もちろん、そういうこともあったよ。そのときは諦めるしかなかったんだ」
って笑いながら話してくれた。お試し期間もないまま先に買わなきゃいけないなんて、ほんと、ひどい時代だったんだなって思う。
でもそのあと社会が変わって、いろんなものが「基本無料」や「お試し無料」になったんだって。理由はよくわからないけど、ゲームだけじゃなくて家具とか自動車とか、学校とか病院も……とにかくいろんなものが「基本無料」や「お試し無料」になったらしい。とりあえず最初のうちは無料で使えて、ある程度の期間やサービスを超えると有料になるっていういまの仕組みが当たり前になったんだって。
おかげで後悔することなく買い物できるようになったんだから、いいことだとぼくは思うな。
ピンポーン♪
お父さんとお母さんが帰ってきたみたい。今日はぼくの6歳の誕生日だから、きっとケーキもあるはず! お父さん、お母さん、おかえりなさいっ!
……。
お父さんとお母さんは、知らないおじさんたちと一緒だった。「この子はゲームばかりしていて、私たち夫婦の希望に合いません。削除をお願いします」って話してた。
そうか。「ぼく」のお試し期間も、6歳になった今日で終わりなんだね。