七話 仲間
アラクネ狩りの翌日、報告はユーマ達に任せたので報酬を受け取りにギルドに行けば、仲間を募集していた者が来るとの事で、珍しく昼前からギルド併設の酒場に居座る事になっていた。
ギルド併設の酒場は、主にギルドに依頼を報告し報酬を得た後で酒を呑む者達がメインの客層だ。
だが、昼夜問わずに営業自体はしており、職員の食事や俺の様な待ち合わせ、迷宮へ潜る前の打ち合わせ等にも席を貸している。
昼夜問わず呑んでいる連中は居るが、ギルド本部所属の仕込みの冒険者であり、外見や雰囲気からまだ早いと思われる冒険者への警告の為に居ると言う役目だ。
なお、この業務――業務扱いになるが、大抵は半日呑んでいるだけで終わる――は時折、一般の冒険者にも振られ、大人気の仕事である。
さて、ギルド側でも理解しているだろうが、俺の欲しい仲間は斥候職、攻撃魔術職、運荷職辺りだ。
普通の冒険者ならば、これに加えて回復魔術職あるいは、神職辺りを欲しがるのだろうが、俺の場合先天技術として全魔術無効があるせいで回復魔術は元より、神の力を借りた神聖術と呼ばれる奇跡ですら、効果が無い為、ある程度の人数――迷宮攻略に適していると一般的に言われる六人編成等――居ない場合は役割が無い。
つまり、現状連れて来られても困ると言う事ではあるが、基本的に回復職は不足している為まあ大丈夫だろうとは思われる。
ちなみにではあるが、攻撃系の魔術に関しては、『直接の魔術効果』だけで無く、巻き上げられた礫等の『魔術により発生した副次効果』すら無効化する。
副次効果に関しては、何処までが無効化出来るのか、不明瞭ではあるが、魔術に対してはほぼ無敵と言って良いだろう。
ただし、魔術を自分で扱えない――正確には、自分の魔力が一切扱えない――と言う欠点も存在する訳だが。
魔石を砕けば、魔術を扱う事も出来る訳だ。
ギルド内にある時計が12時を指し、俺がエールの三杯目を待っている時、漸く待ち人が来た。
見覚えがあるどころか、一昨日会ったばかりの人物である。
「……確かに後衛で、生産職だな」
「……知らなかった」
ギルド職員が連れて来たのは馴染みの無口系錬金術師アリーシャだった。
恐らく、知らなかったは俺と同じで仲間を探していたが、それに合う条件を持つのが俺だとは知らなかった、辺りだとは思う、自信は今回は無い。
さて、アリーシャの就く『錬金術師』と言う職だが、分類としては生産職であり、副回復系後衛職に分類される。
薬と薬草等を使った治療行為で仲間を回復すると言う戦闘中よりも、戦闘後の回復を重視する職な訳だ。
薬の分類も様々で、傷を癒す物、状態異常を癒す物は基本で、道具の効果を上昇させ、それを軸に戦う道具師と言う職が扱う爆発物等も薬に分類される。
道具師には劣るが、錬金術師にも道具効果上昇の技術がある。
某ゲームの錬金術師と似た様な道具を使う事を基本とした戦闘方法な訳だ。
ちなみにギルドカードには何故か、職業は表示されないのが不思議で仕方無いが、俺は一応剣闘士と言う職である。
「んまぁ、良いさ情報のすり合わせをしとこう」
「わかった」
すんなりとアリーシャがギルドカードを渡してくる。
一応余り人に見せない方が良いのだが、渡されたのは信用されていると思おう、俺もアリーシャにギルドカードを渡す。
アリーシャ 種族:獣人/狐 ギルドランク:C
筋力:8/F 耐久:14/F+ 敏捷:37/D
魔力:52/C− 精神:44/D 信仰:39/D
器用:86/A 感知:62/C+ 幸運:43/D+
ランク:D
【錬金術】【薬効強化】【調合強化:5】
【治療:3】【罠:6】【真贋:4】【精密投擲:6】
まず目に付くのは先天技術の錬金術に薬効強化だ。
これは文字通りの効果だと思う、錬金術師の補正を加えれば道具師並みの効果があると見て良いだろう。
次に調合強化は調合と言う生産技術の上位版で、普通の調合品より高い効果を持つ様になる……だった筈、流石に俺が使わない生産技術の上位までは覚えていない。
治療は戦闘後の回復技術、精密投擲は俺も持っている投擲の上位だ。
真贋は鑑定の最上位、知識とかなりの鑑定眼を持つ者だけが辿り着く境地。
町中で店を開くぐらいだから、此処まではまあ良い。
問題は罠だ。
罠はその名の通り、罠に関する技術なのだが、罠設置に罠発見に罠解除と言う三つの技術が上位に上がった所での複合技術である。
専門の斥候職でも中々お目にかからない技術だ。
能力値は肉体的な能力こそ低い物の、ずば抜けた器用に高い感知、種族的な物もあるだろうが非常に優秀な能力値である。
回復薬は俺にも効果がある為に回復職として、能力値と罠技術により斥候職としても仲間として申し分無い。
「成る程、アリーシャはかなり優秀だったんだな」
「ヒビキも強い」
こうして、俺とアリーシャはパーティーを組む事にした。
「運荷職がやはり欲しいな」
俺はともかく、アリーシャの筋力値は一般人であり、スタミナに関わる耐久も低い。
俺が荷物を持てば良いが、いざと言う時に動きが鈍るのも困る。
「募集する、注文」
頷いたアリーシャがパッと受付に向かう。
ランチメニューを指差していたので、昼食を頼めと言う事だろう。
了解の意味も兼ねて、ヒラリと手を振り、注文を告げる為店員を呼んだ。