六話 町での依頼
前話にて神の数を変更しております。
八大神と他多数と言うだけですが。
天気は快晴、絶好の冒険日和である。
今回町中と言いつつも、近隣の迷宮外へ出現した魔物討伐の依頼に集まったのは、俺とユーマとモモ、それにユーマのお気に入りのヨシュと言う斥候職の冒険者だ。
ヨシュはこの町では珍しい新人冒険者の一人である。
新人冒険者が少ない理由は単純に、迷宮の難易度が意外と高く評価されており、町の周りに現れる魔物も最低3階位と言う、腕が立たなければ稼げ無い場所だからだ。
そして新人としてヨシュが居る理由は、この町で冒険者登録をした元魔物――迷宮主曰く、迷宮や町の周りで敵対するのが魔物で、町中に居る様な敵対しない者は元魔物らしい――の冒険者だからだ。
流石にこの世界自体が色々緩いと言えど、魔物が冒険者活動出来る場所は限られている。
そして気に入られている理由は単純、ヨシュは1階位の魔物、二足歩行する犬の姿――宮○ホームズと言えば分かりやすいだろうか――をした魔物、コボルトの冒険者だからである。
ユーマだけならず、愛くるしい姿で純朴な性格故に、町の冒険者達のマスコットと密かになっている。
今回は前からユーマのパーティーメンバー内で企画されていた、中々レベル上げを出来ないヨシュのパワーレベリングも兼ねた金策と言う訳だ。
元が犬の魔物らしく、嗅覚や聴覚が鋭く、リーダーへの忠誠心も高い、元来持つ爪や牙だけでは無く、小型に限られるが武器の扱いも上手い。
元1階位の魔物とは思えない実力だ、だがそれでも2階位程度で、未だ3階位を相手に出来る程では無い。
閑話休題。
俺達が請けたのは、町の近郊に出現した魔物の討伐及び、素材の回収。
対象はアラクネ、地球の神話のどれかにも出て来た蜘蛛の魔物である。
だが、このアラクネ地球からの来訪者――特に男から――にはラミア、ハーピーを加え、がっかり三大魔物と呼ばれている。
迷宮主が造り出した存在ならいざ知らず、自然発生した魔物では、ただひたすらに巨大化した蜘蛛である、勿論魔素により巨大化だけでは無く魔術を操る個体等も居る訳だが。
ラミアは巨大化した蛇、ハーピーは分類が分からないが鷲の一種が巨大化した魔物だと言われている。
さて、このがっかり三大魔物のアラクネではあるが、素材は非常に有用であるがその実力は3階位、数が居て、巣で待ち構えて居るならば4階位とも言われる程に高い。
迷宮内と違い、地上では魔素変換が出来ない為に死骸による移動制限や、整えられていない自然の環境から、強敵ではある……が、俺は手段を選ばないならば神すら一撃に切り捨てる男、と言いたいがゲージも無いのでシンプルに切り捨てて行く、苦労はそれほどでは無い。
ユーマは神の勇者だけあってチート持ち、刀術と生命の魔術を駆使して苦戦するまでも無く、アラクネを屠って行く。
モモに至っては、単独で魔王と呼ばれる魔物の王を討伐する程の実力を持つ、と言われる噂が事実だろうと思う程の剣の冴えを見せる。
実際には剣閃が疾ったと思えば辺りのアラクネと巣がバラバラになっている、と言った様子だ。
こんな三人に囲まれているせいで、結局ヨシュは索敵だけが仕事となってしまっていた。
さて、アラクネの素材ではあるが、蜘蛛と言う所から判る様に主に糸である。
巣に使われている糸だけで無く、まだ液状の糸袋も素材となる。
もう一つの素材は、蜘蛛脚である。
分類は食材であり、滋養にも優れ、味も素晴らしい食材……なのだが、流石に地球からの来訪者には不評な食材だ。
味としては本当の蟹を使ったコクが素晴らしいカニクリームと言った所だ。
以前そのまま中身を解してコロッケ風にした料理人が居たが、一世を風靡したが蜘蛛だとバレた瞬間に客の大半――懐かしさから食していた来訪者――からブーイングを受け潰れた。
流石に人気のあった料理人を潰されたのは大事だったのか、あるいは当時流れていた王族が蜘蛛コロッケを気に入っていたのが事実なのかは知らないが、煽動した来訪者の女性は未だに牢に入っていると言う。
「ヒビキさん、ヒビキさん……そろそろ戻って来てくれないっすか?」
ユーマが呆れた声で俺を呼ぶ。
「なんだ、問題でもあったのか?」
蜘蛛脚から派生したコロッケ騒動を思い出しながらでも、集める手は休めて居なかったのだが。
「今から町戻ると微妙な時間になってしまうなので、此処でご飯食べてから戻りましょうなので」
と、ヨシュが説明をしてくれる。
微妙に不思議な言葉づかいをするが、そこが良いと言う者が多く直される気配は無い。
「飯は良いが、食材は蜘蛛脚か? 調理器具は持ってきて無いぞ?」
今日は長剣に解体用のナイフ、ブーツからも脚甲を外して、身に付けているのは左手の小手だけと言った簡素な装備。
ユーマにモモも似た様な物で、大した装備をしていない。
「えっ持ってきて無いなので? ヒビキさんは何時も持ってる気がするなので」
唯一ガチガチにフル装備のヨシュが言うが、彼の役目は斥候、大がかりな装備は持っていない。
「モモは何か持って無いっすか?」
「いいえ」
残念そうに首を横に振るモモ。
少し話し合うが、飯は町まで我慢し、取ることにしようと結論が出た。
勿論、食材として見ている俺達が蜘蛛脚を確保しておき、食堂で持ち込み調理してもらったのは言うまでも無いだろう。