十九話 主神とフラグ
武器を回収してから早一週間、新しい得物を扱っての連携にも慣れ始めたが戻った当初にはニケリアに「パーティーメンバーに伝えず居なくなるなんて!」と文句を言われたり、命神のタマヨリには「私にひとことあっても良いじゃないですか!」と謎のお叱りを受けたりした。
タマヨリはともかく、ニケリアはミシェルに伝言してあるのだから、話を聞いていなかったのだろうと予測出来る。
アリーシャは短く「お帰り」と伝えて来たので。
さて、閑話休題。
今俺が居るのは少なくとも街の中では無いのは断言出来る。
断言出来るのは普段通りに運命の歯車亭のベッドで寝た筈なのに、卒業してから凡そ12年程経つ、我が母校の教室の席に座って居るからである。
時計の時刻は9時丁度を指すが、外の景色は日が高く、昼過ぎに見えるので信頼性は一切無い。
教室に居るのは俺だけならず、アリーシャ、ニケリアにミシェルと言った俺のパーティーメンバーに加え、命神の勇者ユーマに血統勇者のモモ、街のマスコットコボルト冒険者のヨシュと此処までは何と無く判らなくもない。
何故かつい先日会ったばかりのアモン傭兵団のコココに、コボルト傭兵のマアナ、それに見覚えの無いオッサンと若い学生っぽい男までもがこの場に居る。
見覚えの無い景色にキョロキョロと辺りを見回す他の連中を放置してユーマが俺の席に来る。
「ヒビキさん、此処何処か判ります?」
「何処かは解らんが、再現されてるのは俺の通ってた高校かな……勿論俺にこんな事は出来んが」
肩を竦めて返事する。
「んー……あれですかね、小説だと高確率でエタるって言う学園編突入っすかね」
「いやいや、何言ってるんだよ、絶対エタるって決まってる訳じゃ無いだろ」
等と他の連中には伝わらない話を苦笑混じりに交わす。
「まぁ、何にしても多分――」
そこまでユーマが言った所で教室の扉が開き、見覚えのある男が入ってきた。
「よーし、お前ら席に着けー、話始めるぞー」
犯人と言うか、元凶と言うか、この状況を作り上げた張本人のこの世界の主神、日本人には見えない白眼白髪のツクヨミを名乗る存在だった。
「あー……まず、この場所だが、冒険者ヒビキの記憶にあった場所を借りた、夢の世界だ」
成る程、夢の中ならば色々調整出来ると本人が言っていたからな。
「んで、今回こんな事をしてるのは大幅にギルドカードの表示を変更するのと、迷宮の方で問題が起こるからだな」
「ちょっと待ってくれ、俺はしっかりやってたと思うんだが」
学生っぽい男が発言する、つまり発言から察するにあれが迷宮主なのか?
「お前さんは問題無いが、他の所でいざこざがあったらしくてな、余波で問題起こるのが楽に予想出来てる、起きたら多分迷宮一時閉鎖した方が得だぞ」
「……成る程わかった、すぐ対応しよう」
思い当たる事でもあったのか、頷く迷宮主。
何人か流石に気付いて、迷宮主の方を見ている。
「ギルドカードの方だが、これまでは全部ひっくるめて技術って呼び方してたスキル関連だが、特性と受動技術、それにこれから追加される能動技術の三種類になる……今まで直感的に使ってた技を世界法則的に許可した感じだな、使い勝手が変わるとは思うが、納得してくれ」
まるでゲームの様な感じだな、早期アクセスのバージョンアップじゃないんだが。
「ちなみにではあるが、この対応は街の……名前が無いからあれだが、迷宮街の連中に先行して行っておく、早めに慣れてくれ、他の教室でも同じ様に説明してるからな」
迷宮主がこの場に居るってのはどうも嫌な予感しかしないんだが。
この前のアモン団長の言葉もある事だしな。
「それじゃ、目覚めたらカードはギルド行って書き換えてくれ――」
目を覚ます――が、視界に映るのは運命の歯車亭の風景では無く、未だ教室の風景。
先程と違う点は、俺とツクヨミの二人だけだと言う点である。
「まだ夢の中って訳か」
「すまんね、今度は個別面談だ」
ツクヨミ――床まで届く長髪に白いローブ、神を名乗る男はにへらと、柔らかい笑みを浮かべる。
「んで、個別面談って何やらされるんだ?」
机を指先で叩きながら訊ねる。
「うん、今回の事でちょっとお願いしときたい事があるんだ」
「お願いの内容を聞かない事には、対処のしようも無いんだが?」
「今回の黒幕の事かな、お礼は武器の使い勝手の向上辺りで」
ツクヨミが苦笑を浮かべながら言う。
礼はともかくそれだけではわからない。
「意味は無さそうだけど、明言は避けておく、もうちょっと先になるとは思うんだけど、ある国が街に対して戦争を仕掛けて来そうなんだ」
戦争か、しかし今ツクヨミは国と言った。
この世界には国と呼ばれる共同体は大きく分けて五つしか無い。
ツクヨミを除いた八大神達が基となり作り上げた、人々を守る存在。
即ち、光神の聖皇国、闇神の魔王国、炎神と地神の帝国、水神と風神の共和国、命神の公国。
この内、命神の公国と、水神風神の共和国は除外される、現在風神と命神は街を拠点にしている。
更に、共和国は国として戦力を保有して居ない、あるのは、冒険者と傭兵が滞在する地域がある程度なのだ。
二国より確信は無いが、闇神の魔王国もツクヨミから聞く人となり――神ではあるが――からすれば単独ではあり得ない。
あり得るのは二国のどちらか。
どちらでもあり得るのが一番の問題である。
しかし迷宮を擁する――あるいは逆だが――とは言え、一つの街が国を相手にする、出来るのか。
「で、戦争の中で傭兵復帰して戦えば良いのか?」
「いや、違うんだ、確かにそれも良い手段の一つでは有るんだけど、最善の手じゃない」
「なら、何するんだ?」
「傭兵団を囮に、黒幕に単独で奇襲を仕掛け倒して欲しい」
「――それは、神殺しになれって事か?」
彼の言葉通りならば、黒幕――国を運営するのは神である――を倒せ、即ちは殺せと言っている様にしか聞こえない。
「殺さなくても良い、ただ、その場に於いては行動不能にしてくれれば構わない」
「それに、一人でやらなくちゃいけないのか? 俺はソロで神を相手に出来る程強くは……」
「『異界の神』がいる以上一人では無いだろ――?」
個人面談なんて銘を打たれた夢の会話は、その確りとは理解できない台詞を最後に俺の意識を奪ったのだった。
目を覚ます、辺りを見回すが、もう見慣れた運命の歯車亭、俺が借りている部屋のベッドの上だった。
現状ですべき事、先ずは情報の整理とギルドカードの更新である。
三種類に別れたと言うスキル、他にも変化が有りそうだし迷宮主が言っていた様に、対処の為もう封鎖されているかも知れない。
外での訓練になりそうだ、怪我には気を付けるとしよう。
そう言えばあの神は武器の使い勝手がどうこう言っていたと思い、得物を見ると何故か斧槍が折り畳まれていた。
本来ならば俺の身長を超す長さを持つ斧槍だが、何処がどうなったのか、完璧に変形していた。
何の冗談か、説明書と書かれた冊子がかかっているので暇を見てと言うより、暇を作って読むとしよう。
こんな事で得物使えなくなるなんて事は無いだろうな。
冊子を片手に仲間達とギルドカードを更新する為に宿を出る。
恐らくだが、ギルド内は混雑している事だろう。
仲間達から昔の――あの教室に通っていた頃の――事を尋ねられるが、細かい事はあまり覚えていなかったので、ある程度お茶を濁した会話になった。
ギルド内は予想通りで、大分混雑していた。
「……ミシェル、ギルドカード更新の受付頼んで良いか?」
「おや、ヒビキ様が行った方が宜しいのでは?」
「そうよ、リーダーなんだから」
「うん、ヒビキが行くべき」
仲間達の言だが、俺にはすぐさま解決しないとならない事がある。
「ツクヨミの奴が余計な事してな、先に何とかしないといけないんだわ」
ヒラヒラと冊子を振って言う。
アリーシャは口下手……と言うより人見知り、ニケリアは素直だが素直過ぎる。
うちのメンバーで一番交渉やら何やらに一番向いているのはミシェルと言う事だ。
俺だってそんなに得意じゃない。
「わかりました、代わりに申請してきましょう、この混雑ですから今日中に終わるかは怪しい所ですがね」
深くは聞かないミシェルに申請を任せ、俺達は併設の酒場の四人掛けテーブルに陣取る。
何事か聞きたそうなニケリアに季節限定デザートメニューを押し付け、気を逸らさせ冊子を開く、アリーシャも甘い物には目がないので、そちらに気を取られている。
16頁の冊子を読む限り、どうもあの変形させられた斧槍は『俺の意思』により姿を変える魔力を使わない魔具になったらしい。
基本は元々の形状である斧槍、そして斧槍に組み込まれた三つの形状、即ち斧、槍、そして少々変則的だが鎌の三種類に加えて、折り畳んだ状態では右腕用の籠手、一部組み換えで片手剣、刃は多少短いが両手剣の七種に変形するらしい。
変形は浪漫である、と書かれているが、まぁ判らなくもない。
ふと顔を上げるとテーブルの上にでかいパフェが乗って、うちの女性二人組が頬張っていた。
メニューを見ればそのパフェの価格は中銅貨二枚、中々の額である。
どうやら、うちのパーティーで俺以外はそれなりに金銭的に困っていない様である。
携帯で書いている以上長いとラグが発生すると言う事態。
短めでも早めに上げるのと、長めでゆっくり上げるの、どちらが良いのでしょうか。
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