二話 オークシチュー
迷宮探索の出だしは上々であった。
初心者向けとも言われる基本迷宮型の5階層までは、楽に越えて難易度が上昇する森林型へと変化する6階層に初日の夜には辿り着いていた。
「此処等で飯にするか」
一人呟いて、辺りを探せば、魔物であるオークの姿を5分程で見つける。
また森林型迷宮の特徴である自生するジャガイモに、人参、玉ねぎと言った物も採取しておく。
成る程は5階層までは狼やゴブリン、コボルトと言った初心者向けとも言える魔物が中心だったが、6階層からは膂力に優れるオークなんかの魔物が、中心になるのだろう。
オークは良くゲームやマンガで出て来る姿と言うより、猪が二足歩行していると言った方が正しい外見をしている。
勿論猪の様な膂力に加えて、武器を扱うだけの知性は持つ、冒険者にとって初心者卒業に相応しい相手である。
倒し方に正道は無いが、魔術には強くなく、普通の武器でもまともに戦える相手である。
俺の場合は、相手に見付かる前に、距離を詰め一刀で首を断ち斬る、これが最も速く無音で出来る殺し方だ。
首を断ち斬っても多少暴れるが、血飛沫を浴びたり、手傷を追う初心者の様な真似はせず、さっさと血抜きを始める。
血抜きが終われば、本来ならば熟成させるのだが、魔物の肉は熟成させずとも旨味が妙に強いので場所を変えて解体する。
今回は胸に腿をある程度切り分けて、魔素変換する。
残念ながら残りのオークは魔石にしか変換されなかった。
迷宮では常に魔力の元と言われる、魔素が循環している。
その魔素の流れに死体を乗せる事で、何らかの素材へと変換されるのだが、今回は一番良くある属性の無い魔石への変換だった様だ。
オーク程度では大した物にはならないが、強い相手――つまりは魔素を多く含む肉体を持つ相手ならば、もっと良いアイテムに変換されると言う事だ。
内心ではこの魔素変換をドロップと呼んでいる、迷宮主によって変換される物も変わるのが特徴であり、日本人だと思われる迷宮主の場合、味噌や醤油がドロップとして出現する可能性もゼロでは無い。
今回変換された無属性魔石は、魔力を引き出す事の出来る魔素の塊であるが、属性が無ければ変換に大幅なロス――10引き出して使えるのは1か2程度――が出る為に非常に安い代物だ、今日の料理の支度に使ってしまおう。
魔石から魔力を引き出し、地属性の魔術を使う。
カマドを二ヶ所作り、片方には鍋を、もう片方には燻製器を簡単にだが作る。
森林型の迷宮の場合野菜や果物を入手出来るのが利点である。
先程採取した肉に野菜を下拵えしたら鍋に油を入れ、火にかける。
勿論燻製の準備も忘れずに。
玉ねぎが飴色になった所に胸肉を投入。
材料的にはカレーを作りたい所だが、今回はスパイスが足りないために後日に回す。
持って来たは良いが、余り日持ちがしない山羊の乳を鍋に入れ、小麦粉も投入、ダマにならないよう混ぜとろみを付ければオークシチューの完成である。
「うん、まぁそれなりに旨い」
うろ覚えの知識から作っている料理にしては、中々上出来である。
カレーに関しては、一応自己流のスパイス配合があるのだが、流石にシチューは余り覚えて居ない。
しかし、一人分だと持ち込める調味料や食料が少ない。
情報では10階層までは森林型迷宮だと言うが、その先は砂漠型だと言う。
多量の水も必要だと言う事だ。
明日の昼頃まで探索し、町に戻る事にしよう。
そう考えを纏めて、片付けた後木の上に登り目を瞑る、迷宮では何が起こるかわからない。
休める時に休むのは、冒険者にとって鉄則である。