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十六話 アモン傭兵団

 傭兵ギルドは所属傭兵団に対し、事務所と武器庫、それに団員の寝泊まりする部屋を貸与している。

 そしてこの町の傭兵ギルドに所属する団は、何の因果かソロモン七十二柱の名を持つ傭兵団ばかりが所属している。

 故に誰が呼んだか、ソロモンズギルドと呼ばれている。



「よぉ、久々じゃないの?」

 傭兵ギルドのアモン傭兵団が借り入れている一室、安っぽい椅子に座ったまま寝ていた男が、ノックと共に入ってきた俺に対して日除けに使っていた街の新聞をあげながら言う。

 男の名は仮名ではあるがアモン、主神から神公爵の爵位――王候貴族の与える爵位とは別に神の与えた爵位には頭に神と付く――を与えられた男であり、傭兵団の団長である。

 見た目はあくまでもうらぶれたおっさんでしか無いが、実力は神爵を与えられる以上、確かな男である。


「団長、相変わらずのご様子で」

「珍しいじゃないの、戦争(しごと)の連絡もして無いのにヒビキ(おまえ)が来るなんて」

 テーブルを新聞――先月の『街』の新聞――を置いて団長が俺を見る。

「大分金かけた得物を迷宮内のトラブルで失いましてね」

「迷宮だと長物使い難そうだって言ってたのは、お前さんだろうに」

 肩を竦め苦笑を浮かべる俺に、苦笑を返しながらし団長は言う。

「意外に得物振れる場所が広くて、それに長物じゃないもう一つ(・・・・)も整備してくれてるんでしょう?」

「当たり前だな、冒険者もだろうが、傭兵も得物は命にかかわるからなたやってるのはちびっこだけどな」

「アイツがやってるんですか、また変なの見付けて小銭稼ぎですかね?」

 ちびっこ、あるいはアイツと言うのはアモン傭兵団の一員であり、神聖騎士(パラディン)と呼ばれる盾職と回復職を合わせた職をこなす少女の事だ。

 小銭稼ぎと言うのは、アモン傭兵団では持ち回りで武具の整備をするのが伝統となっているのだが、幾ばくかの金銭等で交代する事を暗黙の了解として許可しているからだ。

 つまり、武具の整備を優先して行っていると言う事は、小銭稼ぎしていると言う事だ。

 恐らくは彼女の趣味に使うのだろう。

 団長が部屋の隅に置かれたラックから、ケトルとカップを出しながら言う。

「じゃないの? まぁちびっこ帰ってくるまで黒茶でも飲んで待ってると良いよ、今日も鍵持ってるのちびっこだからな、特例はあんまり使いたくないのよね」

「了解ししまた……しかし、団長直々とは恐れ入る」

「気にしない癖に何言ってんの、それにただの作り置きだからね」

 カップに茶色い液体が注がれる。

 黒茶……正確には黒色豆茶(こくしょくまめちゃ)と言うのだが、その正体は珈琲である。

 各地迷宮原産の採取品、黒色豆を煎った後の皮を粉末にすると、まさにインスタントコーヒーの様に飲めるのだ。

 迷宮原産で無い場合、普通の珈琲豆もあるのだが、こちらは貴族が購入する様な高級品の為に飲んだ事は無い。

 余談ではあるが、豆自体は煎るとピーナッツの様な味がして旨い、冒険者の酒のツマミとして良く出てくる。

 生で食べると一粒で腹を下す様な毒を持っているが。

「まぁ、もうすぐ帰ってくると――」

 カップを受け取り座らせて貰った所で室内にノックが響く。

「取り込み中すみません」

 入ってきたのは知り合いで同期の中隊長と恐らくは彼直属の部下二名だった。

「仕事ですか?」

「大した事じゃないんだけどな……そろそろ演習に向かっていた副長が帰還する様です」

 ほぼ引退に近い俺に聞かせて良いのだろうか。

「ん、了解今日明日って訳じゃ無いんでしょ?」

 団長は気にせず言葉を紡ぐ。

「それが……今日中には戻って来そうなんですよね」

 俺をちらと不憫そうな目で見て言う。

 成る程、彼は俺に対する親切心も込みで報告に来たらしい。

「……マジか」

「長居しない方が良さそうだねぇ」

 団長が苦笑しながら言う。

 アモン傭兵団の副長は俺のやる事為す事が副長は気に食わないらしく、何かと突っ掛かって来る人物である。

 まぁ、何かと自由にやらせて貰っている以上、副長の意見はある程度までは最もなのだが、進んで顔を会わせたい相手では無い。

「まぁ、受け取ったらすぐ帰りますよ」

 苦笑しながら言うのが精一杯であった。


「話戻すけど、ちびっこが個人的に冒険者やってるんだよね、最近うちも仕事少ないからさ」

 中隊長が退出した後に話を切り出される。

 此処のところ大きい争いの気配も無い以上、傭兵は暇を持て余していると言う事か、副長の指揮で演習する位だし。

「成る程、固定の護衛やら、用心棒の仕事なんかはアイツじゃ厳しいですからね」

 傭兵と言うのは争いが無ければ基本的には無駄飯食らいだ。

 平和ならば真っ先に雇い主から切られる訳だが、平時何をするかと言えば、冒険者の真似事をしたり、町中やパーティーでの護衛、いわゆるSPをやったり、商店や、賭場の用心棒をしたりしている。

 護衛にしろ、用心棒にしろ外見は少女、あるいは幼女なので些かしまりがない。

 団長が頷き、カップを傾ける。

 それを見て俺もカップに口を付ける。

「――甘っ!?」

 たんなる牛乳、あるいは山羊乳入りの黒色豆茶かと思ったのだが、まるで日本に有った黄色と茶色のパッケージの練乳入り珈琲の様な甘さであった。

 甘いのは嫌いでは無いし団長が甘党だと言う事は知っていたのだが、予想よりも遥かに甘く吹き出しそうになった。

「おぉ、まっさんだかなんだかって言うのをお前みたいに、()から来た奴に教えて貰ってな」

 どうやら当たりのようだが、缶入りで無い以上普通にフルネームで呼ぶべきなのだが、まあ良いか……俺はペットボトルで時折飲んでいたが、缶は以外と見なかったな。

 比較的どうでも良い話題である。



 四半刻が過ぎた頃にコボルト――二足歩行する犬の姿、今回はブルドッグの顔をした亜人種、正確に言うのならば、亜人種ですらない魔物の一種――の団員が、目的の人物が帰って来たと伝えに来た。

「んじゃ、受け取ったらすぐに帰りますよ」

 旧交を深めたいところだが、副長が来るならと苦笑混じりに、書類仕事をしている団長に声をかけて立ち上がる。

「ああ、ついでだちびっこにこいつ渡してくれ」

 書いていた書類の一枚を封筒に入れ俺に渡してくる。

 しっかりと封筒に入れるって事は何らかの指令って事か。

 大した事の無い伝言なら、メモ帳の走り書きでそのまま渡すような人だからな。

「了解しました、またキナ臭くなったら戻る事にしますよ」

 封筒を受け取り、ひらひらと手を振る団長に手を振り返し廊下へと出る。

「まぁ、また会うのも近いかも知れないけどね」

 背中越しに聞こえた言葉は何か有るのだろうと予感させられる。

 その時はまた、団長の力になるとしよう。




 通りがかったアモン傭兵団の団員――団員は炎を模した腕輪をしてるので見分けやすい――に、目的の人物が何処に居るか訪ねた所、地下の武器庫にもう行ったと言うのでさっさと向かう。

 傭兵と言う職業(モノ)は、冒険者に比べ些か一般の者達に対して印象が悪い。

 魔物以外――人間どうし、あるいは亜人種との……あるいは神の代理の――の争い、戦争に於いて出て来る戦闘集団。

 敵対勢力の殺害は勿論、略奪や強姦、拷問まで請け負う者達……それが一般的な傭兵への見解。

 故にギルド所属の良識ある――戦争となれば、上からの命令に従い行うが――傭兵達は普段最低限の武装しか持ち歩かない。

 それが傭兵ギルドに所属傭兵団の武器庫が存在する理由である。

 まぁアモン傭兵団に関しては非常に優良傭兵団な訳だが。


「邪魔するぜ」

 開いているアモン傭兵団の武器庫の扉を開きながら声をかける。

 昔の癖で中に居る人物を見渡す。

 全員で人影が八つ、無関心なのが二人、訝しげな目でこちら見てくるのが四人、こいつらは見覚えが無いので新人だろう。

 この対応じゃすぐに死ぬな等と考えながら、飛んできた投げ短剣を左手で弾く。

 投げ短剣を投げた奴も新人だろうが中々良い腕だ、聞き覚えの無い声で入ってきた人物に対して即座の対応、傭兵としては長生き出来る。

 武器は傭兵の様々な意味での命綱――傭兵団で使用する武具には傭兵団の言葉――であり、武器庫に知らない者が入って来たならば正しい対応だ。

 最後の一人は目的の人物なあか、弾いた隙に一気に懐に潜り込んで手に持った武器を振るってくる。

 振るわれたのは小剣、逆の手には短剣を持っているのが見える。

 小剣の刃が当たる寸前に流れに沿って右の踵を中心に回転、即座に突き出された短剣の刃を左手で掴む。

「腕は落ちてないみたいだなコココ」

「あれ……? ヒビキ?」

「おう、まだ退団はしてないんだから先輩ってつけろよ」

 冗談混じりに言う俺の胸元程度までしか身長の無い少女、あるいは幼女と呼べる姿、俺に対して容赦無く武器を振るった相手。

 アモン傭兵団の中堅、神聖騎士草原小人(ハーフリング)のコココである。


 草原小人とは、いわゆる指輪を火山に捨てに行く物語の主人公と非常に近しい種族である。

 主に草原の多い地域で旅と音楽、そして楽しい事を好む、力は弱いが器用でちょこまかと動き、運も良い本来ならば盗賊(シーフ)系や詩人(バード)系の職業に向いた種族である。

 本来ならば種族的には魔術の素養を持たないのだが、何の因果か八大神の一柱である風の神の加護を受け、自由気儘に生きていたら神聖騎士となり、アモン傭兵団に入団したと言う良くわからない経歴の持ち主である。


「先輩、その人は誰っスカ?」

 唯一俺に対して行動出来た人物がコココに対して疑問を投げ掛ける。

 声色からすると少女、成人はして居ないだろう。

 影になる位置に居るので姿はしっかりとは見えない、だがその手に二本目の短剣が握られているのだけ見える。

「あーそっか、知らないんだっけ」

「俺も見覚え無いからな」

 コココの言葉に俺も相槌を打つ。

「この人はヒビキ、戦時中隊長で『戦鬼』って言ったら伝わるかな」

 コココの言う戦鬼と言うのは、何時からか俺に付けられた二つ名である。

 冒険者の間では呼ばれないが、傭兵間ではそれなりに有名な二つ名である。

「せせせせ、戦鬼さんっスカ!?」

 影から出てきた少女は人間じゃなくコボルト――彼女は柴犬――だった。

 凄い動揺しているが大丈夫か、しかし知らぬ間に亜人種の団員が相当に増えたらしい。

 コボルトだけならず、ゴブリンやオーガの団員も見掛けていた、知性を持ち魔物社会を抜け出した彼らが就ける職業と言うのは少ない。

 それこそ傭兵を筆頭とした半分裏社会に存在する職業、更には主都等には就ける職業は無い。

 街に近いから出来る部分もあると言う事だな。

「どうしたんだ、アイツ」

 ガタガタ震えて手に持っていた短剣を足元に落としたのを見てコココに尋ねる。

「多分だけどね、ヒビキの――」

「ふぁ、ふぁんです! 良かったら握手して欲しいっス!」

 コココの言葉を遮って目の前に飛び出してくる、コボルト少女。

 千切れないか心配な位に凄い勢いで尻尾が振られている。

「あぁ、構わんよ」

 多少気圧されながらも俺は、コボルト少女の後輩傭兵と握手をかわしたのであった。

団長のイメージは後藤隊長(パト○イバー)。

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