十四話 顛末、始まり
大変お待たせしました。
俺が意識を取り戻したのはロードとの戦いから半日後、運命の歯車亭での事だった。
――あの後何があったのかは分からないが、『死ぬ』事無く、俺はロードを仕止めたらしい。
しかも、技術と言うこの世界の主神が作り出した法、神法あるいは魔法と呼ばれるシステムを越えて魔術――らしき物――を使った上に、非常に不可解な事を言っていたらしい。
しかし、その不可解な状況には実は何度か遭遇している。
俺は決して最強と呼べる程強くは無く、無敵と呼べる程タフでも無い。
能力値と言うシステム上、一般人の数倍、冒険者の中でもかなり上位に入る程の能力は持つのは事実。
それでも、死に瀕した事は幾らでもある。
その中でも、死に瀕した際、意識が途切れ気付けば辺りには敵対していた者の死体や、崩壊した荒野が広がる。
そして九割無意識の呟き、今回は覚えている。
「――銀の腕……」
呟くその名は、元の世界――地球上の神話に出てくる義手だった筈だ。
左腕の腕甲の魔術具――二年程前にドワーフの鍛冶師により打ち直された魔導義肢を外す。
元来は一揃い、色違いの腕甲であり、両腕に身に付ける事で破壊の魔術を操る事が出来る物であった。
だが、かつての持ち主との戦いに於いて右の腕甲――緋色の右肩まであるもはや腕鎧――は、仲間の傭兵を多数と、俺の左肘から下を代償とし失なわれていた。
確かに名のある装備だろうが、今残る力は装着者の意思により、自由に動くだけの腕甲である。
決して銀の腕等と言う名前では無い、そもそも色が銀では無く黒である。
「まぁ、考えてもわからんだろうなぁ」
苦笑してベッドから起き上がったのだった。
「――アリーシャ様は薬品の補充をする為に数日の休みを、ニケリア様は魔力の使いすぎによりまだ意識を取り戻しておりません」
「――俺も得物を無くした以上、何とか融通しないと迷宮には挑めないな、ミシェルあんたは?」
「手傷は追っておりますが、短剣の補充程度で動けますな、ヒビキ様の得物が一番の問題でございますな」
運命の歯車亭の一階で前回の探索の換金額、そしてそれ以前の依頼から貯めていたパーティー資産、俺個人の資産を突き合わせてミシェルと相談する。
宿にしばらく滞在するだけの資産はあるが、新しい得物を手にするには、心許ない資産額。
「……如何致しますか? 最後の手段としては、ニケリア様の商才を使い稼ぐと言う方法もございますが」
先天技術として商才の持ち主、それは実にチート染みた存在であり、儲かる物をありとあらゆる面から理解出来ると言う、完全なご都合主義にまみれた技術なのである。
故に商売をするならば、商業ギルドへの登録を必須とし、売り上げの九割――恐ろしい事に純益では無い――を上納、脱退する場合でも大金貨5枚を支払わなくてはならないと言う条件を必要とするらしい。
それでも、支払いきるのが商才持ちだと言う事、これも世界経済の保護の為だと言う話だ。
だが、決して短く無い時間がかかるのが実状である、つまり正に最終手段。
「……仕方無い、少し町を離れて古巣に置いてきた得物を取ってくる」
「古巣と言いますと?」
余り行きたく無いんだが、仕方無いだろう。
「アモン傭兵団だ」