十話 面倒
冒険者に必要な物、それは生き延びる実力――生存力である。
それは、戦闘能力であったり、身を隠す能力であったりする。
パーティーに於いての生存力とは、連携と言っても過言では無い。
俺達――ミシェルとニケリアを加えた四人――は、町の周りの依頼をこなす事で連携を高めていたのだが。
「WAR-BEL-ST!」
お嬢様――ニケリアの放った魔術、『水刃』と言う魔術がゴブリンの群れを押し流して行く。
本来ならば、高圧の水流としてその名の通りに水で切り裂く術なのだが、単純な術には高過ぎる魔力、ニケリアの器用の能力値による魔力操作の低さ、そして高位の魔術を使えない魔力量――所謂レベルが低いせいでのMP不足――これらを併せた事で発生した事態だった。
これはもう、ニケリアの実力を上げて行くしか解決方法が無い。
彼女が使える魔術は後二種類、光源を発生させる『光源』に、『魔力矢』だが、光源は消えない閃光弾を生み出し、魔力矢は単体生物にしか効果が無いバリスタだった。
使い勝手の悪い魔術師である、勿論ながら一切使い道が無い訳では無く、基本魔術の使えない俺よりマシだが。
ミシェルは全てをそつなくこなしていた。
彼の扱う得物は短剣、離れた相手には投擲し、近接では舞う様に両手に短剣を構え振るう。
更には闇の魔術により、その身を隠し影から暗殺し、大量の荷物を運ぶ。
万能執事に相応しい働きであった。
「ミシェルさんすげえな」
「私の事は呼び捨てください、あくまで冒険者では無く執事ですから」
「わかった、でも凄いとしか言い様が無いな」
近接戦闘では能力差や職の違いから負ける気は無いが、良い勝負になるだろう事に称賛する。
「そうでしょう、ミシェルは素晴らしい執事よ」
何故かニケリアが縦ロールを揺らし胸を張る。
どうも彼女は素直過ぎて、周りの貴族の唆しに乗ってしまい、婚約者を奪った女をいじめたとの事で。
「全く、誉められる私と違いニケリア様は駄目ですな」
「わかってるわ、ワタクシがまだまだな事位は」
毒吐き執事に素直お嬢様、実に良いコンビである。
「そろそろ?」
アリーシャが首をかしげ俺に訪ねる。
「そうだな、浅い階層なら問題は無いだろ」
連携を確かめた以上、目指すは迷宮である。
第一の目標は未到達階層、地上への転移装置のあると言われる15階層である。
ただ、辿り着くにはまだまだ足りない部分が多い訳だが。
「なんか、人多くないか?」
夕刻、冒険者ギルドに戻った俺達だったが、酒場にたむろする人数が多い気がして呟く。
人数が多い割に騒いでいる様子が無い。
「そうですな、妙に人数が多い、何かあったのでしょうか」
見渡すが、仲の良い勇者パーティーや、忍者を名乗る独りで迷宮に潜る変態、竜種ばかりを狙うおっさんなんかの姿は無い。
仕方無いと肩を竦めて、受付に向かう。
どうせ、依頼の達成も報告しなくちゃいけない。
「あらヒビキさん、どうしたのかしら?」
何時来ても受付に座っている年齢不詳、名前不明――聞いても笑顔で受け流される――の受付嬢の元へ行くと、テンプレートとなる言葉をかけられる。
「依頼の達成報告だ、それと何があったんだ? 妙に人が多いが」
「確認致します、三日前から町出てたのでしたか……昨日から迷宮に今入れないんですよ、それと同時にギルドカードのバージョンアップがありまして」
「へぇ? ギルドカードのバージョンアップなんてしばらく振りだな、迷宮の方は?」
この世界のギルドの大元、八大神の中でも主神である刻印と無の神ルノンにより運営されている。
たまに冒険者からの要望や、神の思い付きでバージョンアップする事がある。
俺が初めて手にしたギルドカードは名前とギルドランクしか表示しない代物だった。
「迷宮は改装中らしいですね、迷宮戦が行われているとの噂もありますが」
「それは厄介ですな、どちらにしても」
気付けば背後に居たミシェルの言葉に頷く。
「理由」
アリーシャとニケリアがキープした席に、報酬を受け取ってきた俺にかけられる短い言葉。
「カードの更新に迷宮改装だとよ……全く面倒なこった」
面倒なのを隠さずに椅子に座り込む。
「何が面倒ですの?」
「第一にだが、冒険者の能力は隠された部分もあるが、神の力でギルドカードとリンクしてる、更新された場合に大幅に能力や技術が変わる可能性がある……更新中は実は神の力の恩恵が無いんだよ」
この状態だと実は蘇生すら出来ないので身動きが取れなくなる。
「迷宮の方は、地図がまず使えなくなる、更には植生が変わる可能性が高い……聞いた話ではあるが、ゴブリンばかり出ていた迷宮が改装後に、ドラゴンが鎮座する迷宮になった事もあるらしい」
聞いた話は極端な例ではあるが。
「……面倒」
溜め息を吐き、俺達も周りと同じ様に椅子に凭れ掛かったのだった。
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