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煌めく君と、永遠の祈りを  作者: 春草 鏡
第1章 翠の萌芽
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8 放課後の憂鬱




 校長先生の長い話がやっと終わり、私はなんとなくつめていた息をゆっくり吐いた。

足をそっと持ち上げると、びしっ、と微かに骨が軋む音がした。

立ったまま話を聞くのは結構疲れるが、座れとの指示が無いのでずっとこのまま。

正直退屈していたが、次の話で少しだけ回復した。


 次は学年主任の先生からの話で、最近、付近の地域で不審者が出たということだった。

その人は捕まったらしいが、他にもいるかもしれないのである程度は注意しておくべき、との事。

そうなんだ、と頭の片隅でぼんやり思う。

それならば彼と出かけるときは必ず一緒に出て、彼を絶対1人にしないようにしなければならないだろう。

幼いが将来有望そうな顔立ちを持つ彼が、誰にも攫われたり襲われたりしないとは限らない。

ただでさえ共に買い物出かけた時なども、目立っていたのだ。不審者に目をつけられるなんて、たまったものではない。


 その時、私の眉間をそっと突く指があった。

いつの間にか顰めて居たらしいそこにはっと気づくと同時に、私は右を振り向いた。

そこに居るのは、立花くんだ。

彼は私の眉間を突いた指で自分の眉間をとんとんと指し示し、小さく笑った。

まるで『大丈夫?』とでも言っていそうな表情に、私はそっと苦笑を返してから視線を前に戻した。

今喋れば声が周囲に広がってしまうので、言葉は控えた。


 そのうちに主任の先生の話も終わり、始業式が終了。

教室へ戻る順番を告げる司会の声に耳を傾けていると、隣の彼が話しかけてきた。

「さっきは、どうしたの?」

その言葉に私は、アディくんの存在をぼやかしつつ答えた。


「知り合いの子がいるんですけど、その子と出かける時とか、気をつけないとな、って思ってたんです。

可愛い子なので、もし攫われちゃったりしたら大変だなって」

そう言うと、彼はそうなんだ、と微笑んだ。「どんな子なの?」と興味深そうに聞かれ、私は言葉に一瞬詰まる。


 彼の事を誰かに言うのは、どんな形であれ危険にさらすことなのではないか、と。

しかし、誰かに言いたい気持ちもあった。

勿論、彼の事情とかではなく、可愛さの方で。

彼の魅力を、誰かに聞いて欲しい。そうなんだ、と肯定して欲しい。

そうしたら、彼の存在を確定できるかもしれない。

彼は、突然私の生活の中に迷い込んだ、夢の様な存在だ。いつ居なくなってしまうとも分からない、不安定な曖昧さを持つ。

そんな彼の事を誰かに肯定してもらえたら、彼が『ここに居る』事をしっかり刻みこめると思うのだ。


 私は、口を開いた。

「不思議な色の髪をしてて、目はオッドアイなんです」

彼が少し驚いたように目を瞠る。しかしすぐに目元を緩め、うん、と話を促すように頷いた。


「目がぱっちりしてて、睫毛がとても長いんです。

髪の長さは背中まであって、さらさらしてて、いつまで触っていても飽きのこない滑らかさで。

年より少し幼い顔立ちだけど、真剣な顔だと逆に大人っぽくなって、でもはにかむととても可愛くて」


 次々に彼の魅力を挙げ連ねていく。

彼の顔を頭に浮かべると頬が自然と緩み、言葉がするする出てきた。

そんな私の話を、彼はにこにこしながら聞いてくれて。


「ーーーーという子なんです」

話し終えると、幾分かスッキリした心地になった。

「いい子なんだね」と彼は微笑む。

私は「はい」とにこやかに返した。

最後の方は彼のここ数日で分かった優しさについて語っていて、いつの間にか話の趣旨が変わっていた。

だが彼はそれを指摘するでもなく、ただ何処か嬉しそうに私の話に時折頷きながら聞いてくれていた。


 そんな彼に、私は不意に罪悪感を覚えた。

今まで、彼を心のどこかで遠回しに拒否していたから。

けれど、話を聞いてもらったことによって、彼への印象は少なからず変化した。

小さくごめんなさい、と謝ると、彼は頭に疑問符を浮かべて首を傾げた。

どうしたの?と、不思議そうに瞬く琥珀色の瞳が問うてくる。

けれど、今まであなたが苦手だったんです、なんてそう簡単に言えない。恐らく怪訝そうな反応を返されるだけだろう。


 私は彼の顔に浮かんだ疑問には答えないまま、やがて入った司会の指示に従って立ち上がり、身体ごと顔を彼から逸らした。

訝しげな視線を暫く受けていたが、段々彼の周りに集まってきた周囲の生徒たちによって遮られ、じきに見えなくなった。







 ホームルームも終わり、下校の時刻になる。

私は軽い鞄を肩に掛け、教室を心持ち早めに抜け出した。

「…あ、湯澤さん…」

途中で何か聞こえた様な気がしたが、気の所為だと聞き流し、気持ち早足で玄関へ向かう。

その時だった。


「ねえ、湯澤さん」


 突然、後ろから声を掛けられた。

パッと立ち止まって振り向くと、2、3人くらいの女の子達が立っていた。

どこかで見たような顔だとは思ったものの、何処でかは全く思い出せない。

腰に手を当て、威圧的に此方を見下ろしている。

足を踏みしめて立っていて、仁王立ちと言っても良いかもしれない。

その子たちは、何故か怒っているようだった。

「…なんですか?」

答えながら、視線を僅かに逸らす。何となく、嫌な予感がしてきた。


「さっき、王子と話してたでしょう」

冷静に聞こえる声音で、問われた。そうだ、と小さく頷けば、「…調子に乗るんじゃないわよっ」と怒気を孕んだ声で先頭の女の子が叫んだ。

「なんであんたみたいな奴と、王子が話してるのよ!!」

赤らんだ顔で憎々しげに叫ぶ彼女。

そうだそうだ、と後ろの2人も声を上げる。そう言えば彼は人気者だった、と不意に思い出した。

危ない危ない。さっきあまりにも彼が普通にしていたから、危うく勘違いしそうになった。

私は1度小さく息を吸い、吐き出すように告げた。


「立花くんは優しい人ですから、私なんかにも話しかけてくれるんです。

私を否定するのは別に構いません。でも、それは同時に彼の優しさを否定する事だと思うんですけど」

そう淡々と言うと、ハッとした様に目を見開いた彼女達。

慌てた様に「違うわ!」「お、王子を否定するなんて…!」とか言い出すが、はっきり言って私にはどっちだろうと構わない。

あの話は私と彼だけの話であって、彼女達には何ら関係のないことなのだ。

そうですか、とだけ言って、踵を返す。


 その途中で、周囲のギャラリーの中に一瞬ミルクティー色の頭が視界を過ぎった気がしたが、私はさっさと踵を返してロッカーへ向かい、靴を履き替えて昇降口を出て行った。





久々のまともな投稿ですー

そして! な、なんと、来週から定期テストが始まっちゃいます!

今からもう、どっきどきー(遠い目)

でも、その直前って、どうしてか「なんかできる気がしてきたかも…」ってなりません?

どこからか湧いてくる根拠のない自信!怖いです…


ではまた来週~

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