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煌めく君と、永遠の祈りを  作者: 春草 鏡
第1章 翠の萌芽
6/15

6 冬のある日

もう少しでゴールデンウィークですね!

ペンタブを買ってもらうので楽しみです!




 昨日はあのまま1日が終わってしまったため、今日は近くの神社に参拝しに行く事にした。

箪笥の中にしまってあった子供サイズのジャンパーを引っ張り出し、子供用のブーツを靴箱から出してきた。

彼の翠色の髪は絶対に外では目立つので、ポニーテールにしてツバ付きの帽子の中に押し込む。目は紫だが、多分どこかには存在するだろう。

手が冷えないように手袋をつけさせれば、どこから見ても普通の子供だった。

私も胸下までの髪を軽く梳いてからサイドで結び、コートを着込んで準備を整える。

きちんと電気を確認してから、家を出た。


「行ってきます」

「…行って、きます」


 隣の可愛らしい子供とともに。







パン、パン

じーーーーーっ

ふかぶかーーっ


「よし、じゃあ行こうか」

「…はい」


 説明を簡単にした後参拝をして、私たちは賽銭箱の前から去る。

冬の冷えた空気が、肌をチクチクと刺していく。寒い。右隣の小さな影を見失わないよう、注意深く見守りながら歩いていく。

お守りの売り場を通り過ぎ、たこ焼きを売っている屋台の前をスルーし、人の波を縫いながら、私は彼を連れて目的の場所へ向かった。


「すみません、わたあめ、2つください」

「はいよ!」


 ザラメを専用の機械に投入して出てきた真っ白な糸状のものを集めて綿状にし、それを割り箸に巻きつけたもの。

すなわち、”わたあめ”である。

代金を払って代わりにわたあめを受け取った私を、隣の彼が驚いたように見上げてきた。

紫の隻眼が微かに見開かれている。よほど驚いたのだろうか。


 実はこれ、さっき参拝の列に並んでいた時に彼が興味津々な様子で眺めていたのだ。

私がそちらの方を向くとサッと視線を逸らしていたが、その後もちらっちらっと横目で見ていた。

冷えた空気に漂う砂糖の甘い香りと、手に持ったそれを頬張って嬉しそうにはしゃぐ子供たち。そんな彼らを見守る親。その幸せそうな様子を、羨ましそうに、そしてどこか切なそうに眺めていた。

普段はまるで大人のような落ち着きを持つ彼の、本来のあるべき姿のような光景を垣間見て、それを手に入れてあげたくなったのだ。

そんな切なげな顔を浮かべないでほしい、と思った。

私が、キミの側に居るから。


「さっき、見てたでしょ?」

笑いながら、彼に1つ渡す。私の顔を凝視していた彼は、ぱちぱちと瞬きをしてから、おずおずと受け取った。

私も1つ屋台のおじさんから受け取り、彼を促して近くのベンチに腰掛けた。

そこには1組の老夫婦が座っていたが、半分スペースが残っていた為、必然的に彼と体が触れ合うことになる。私は少しだけ緊張したが、彼は本当に私との接触を忌避していないようだった。

食べていいよ、と促すと、彼は少し躊躇ってから、端に少し噛り付いた。

その小さな口が閉じた途端、目がまん丸に開かれる。

「…っ、おいしい」

そうでしょ、と笑いかけると、はいと素直な答えが返ってきた。それから本当に嬉しそうに笑って、またわたあめに噛り付く。

私も久しぶりに口にしたわたあめを、しばらくの間堪能した。




「ありがとうございました」

「いいえ」

食べ終わった後感謝を述べてきた彼に、私は苦笑しながら返した。

それより、と手を伸ばして彼の口端に付いた汚れをティッシュで拭いとる。

すみません、と恥ずかしげに頬を染めた彼を見た後、そろそろ帰ろうかと腰を上げて、彼へ手を差し出した。

もう私に触れることを躊躇わない、小さな手。手袋越しに伝わってくる子供特有の高めの体温に、思わず笑みが零れる。

ぎゅっと当たり前の様に繋がれた手。その感触は、かつて存在した穏やかな日を微かに思い起こさせた。

残像を振り払ってからそっと握り返すと、嬉しそうな微笑がこちらに向けられる。私も微笑み返して、行こうか、とその小さな温かい手を引いた。







 冷たい風が吹きすさぶ町の中を、彼の手を引いたままゆっくり歩いていく。

「寒くない?」と小さく話しかけると、「大丈夫です」と返ってきた。微かな声の震えに苦笑いしながら、近所のスーパーへ向かった。


「ここは?」

店に入ると、暖房の温かさと人の雑多な匂いが私たちを包む。買い物カゴを手に掛けて、私はまず精肉のコーナーへ向かった。

「スーパーって言って、いろんな食べ物が売ってるところだよ」

魚とか、肉とか、果物とか。そう言うと、彼は感心したようにへえ と呟いた。

鶏肉と牛肉をカゴに入れて、次は野菜コーナー。じゃがいもと人参、玉葱、マッシュルームを入れた。

ルーもしっかり買ってから、飲み物のコーナーへ。消費期限を確認しつつ、牛乳を選んだ。いつもの通り、コクのあるタイプだが。他にもアップルジュースとレモンティーも入れて、もう一巡りして追加を入れてからレジに並んだ。


 それまで静かに黙っていた彼が、「今日は何を作ってくださるんですか?」と尋ねてきた。

ちょっと驚いて視線を向けると、

「あ、ごめんなさい…」

図々しかったですよねと、恥じるように彼は顔を逸らし俯いた。

「そんなことないよ」

微笑みながら返事をすると、紫の瞳がパッとこちらを向く。

「今夜は、シチューを作るんだ」

「しちゅー、ーー…、あ」

しばらく疑問を浮かべていたが、しばらくしてからはっと思い出したようだ。


 数日前、何が彼の好みに合うだろうかと料理の雑誌を眺めていた時に「これ、なんですか?」と彼が横から指差したのが、シチューのページだった。ほかほかと湯気を立てる、冬の定番メニュー。

それがら彼の世界の料理に似ていたらしく、興味を示したらしかった。


「そのシチューだよ」

楽しみにしててね、と笑うと、はいと彼はこっくり頷いた。

それがあまりにも可愛らしくて、思わず彼の頭を撫ぜる。ぱちぱちと瞬きをした彼は、ほんのり頬を染めて、嬉しそうにはにかんだ。




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