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煌めく君と、永遠の祈りを  作者: 春草 鏡
第1章 翠の萌芽
4/15

4 お風呂

新学期になりました!


うたプリの新OPがカルテットナイトですごく興奮しました!

「the dice are cast」素敵です!!

藍ちゃん最高!




 いつの間にか時間が過ぎ、時刻は夕方5時。

暇を持て余していた私は時計を見上げると、そろそろ夕飯の支度をしようと腰を上げた。

昼間に炊いておいたご飯と、昨夜作った味噌汁を温めてから食べる。そんなに食欲は無いので、それで十分だ。

彼はそろそろ起きてくる頃だろうか。鍋に蓋をしておいてから、リビングを抜けて部屋へ向かった。


 コンコン。

「入ってもいい?」

控えめにノックをすると、しばらくしてから「…どうぞ」と掠れた声がドア越しに聞こえた。

ドアを開けて中へ入る。カーテンを閉めたその部屋は、もうすっかり暗い外のせいで光が入らず薄暗い。

入り口にある電気を点けて、部屋へ入った。

「体はどう?」

彼は体を起こしていた。急に明るくなったせいで眩しかったのか、少し顔を顰めている。

「…大丈夫です」

ようやく聞こえた声は少し掠れていたものの、朝よりは体調が良さそうだった。

彼は私の顔を見上げ、すぐに顔を逸らした。

その仕草に少し寂しくなりながらも、笑顔を浮かべる。近づいて手をとれば、慌てたように身を引き、

ぱしんっ、と手を払われた。

「……あ」

途端に気まずそうな表情を浮かべ、此方を見上げた彼。窺うような紫の瞳は、驚きと困惑と、怯えを宿していた。


「大丈夫だよ」


 安心させるように、そっと笑む。手を下から差し出して、そっと彼の小さな指先を包む。

「水、飲む?」

そう問いかければ、キョトンと瞬く瞳。

まん丸になった瞳に頬を緩めつつ、視線を水差しにやる。私の目線を追ってそれを見た彼は、しばらくのち、「…はい」と小さく頷いた。


 水を飲み終えた彼は、「ありがとうございます」と言ってくれる。そうする姿は普通に見えるのに、私が手を近づけると怯えたように身を揺らす。

そんな彼に私は、ひとつ提案をした。

汗で張り付いた髪を掻き分け、そっと撫でながら。


「…お風呂、入る?」







「…あ、あの…?」

「…ん?」

「…ま、まさか、いっ…一緒…」

「そうだよー」

「え、あ、あっ、あの…!?」

「さー入ってー」


 私は、彼をお風呂に連れて行った。

しかし、慣れない様子で狼狽える彼を見ていられなかったので、私も一緒に入ることにした。彼に先に服を脱いで入ってもらい、私も後から入る。

風呂場に入ってきた私を見て、彼はあわあわと狼狽えて視線を逸らした。その様子に軽く吹き出しつつ、風呂場の使い方を教えていく。

シャンプー、リンス、ボディソープ。

風呂桶、シャワー、など。

最初はシャワーに戸惑っていたが、上から掛かるお湯の温かさに気がほぐれたのか、しっかりと使い方を覚えていった。


 湯船に浸かれば、安心したような溜息をこぼす彼。傷口にお湯が沁みないか少し心配だったが、それは杞憂だったようだ。

それにしても、と私は彼の体を見つめる。

私が湯船に入った途端に背を向けた彼の体には、細かい傷が多数あった。

薄っすらとピンク色のそれは殆どが間近で見なければ分からないほどのものだったが、その傷を受けた時の痛みはどれくらいかと考えてしまうほど、数が多い。


 思わずそっと指先でなぞる。途端に彼の背がぴくっ、と跳ねた。勢いよく振り返り、軽く睨まれる。その視線に、私ははっと手を離した。

「…ご、ごめんね」

不躾に触って申し訳ないと謝ると、彼は少しののち「…別に、いいです」と呟いた。

バレッタで纏めた翠の髪から垂れた雫が流れ落ち、水面に波紋を生んでいく。

頬を伝った雫を指先でそっと拭えば、紫の瞳が窺うように上向けられる。2人の視線が絡まり、静かな沈黙が暫く流れた。


 私はふと思い至り、彼に尋ねる。

「…君の名前は?」

その問いに、あ、と口を開けて彼が固まる。

そういえば、私は名乗ったが、彼の名前はまだ聞いていなかった。

話しかけようと思った瞬間に、どう呼べばいいのか分からないことに気がついたのだった。

彼の白く柔らかな頬に指を沿わせてふにふにとつつく。催促するようなその仕草に、彼は少し目を細めて答えた。

「ヴィアデフィリール・ヴィミラニエ、です」


………は?


「…ごめん、もう一回」

「……ヴィアデフィリール・ヴィミラニエ」

「…うん。ごめん、長い」

なんかすごい名前だった。覚えられない。

雰囲気的に聞けなかった私は、省略することにした。名付けた方、ごめんなさい。

「……じゃあ、”アディくん”って呼んでもいい?」

私の”長い”発言にポカン、としていた彼は、その言葉にこくこくと頷いてくれた。少し口元がほころんでいる。この呼び方を気に入ってくれたのだろうか?

「私のことは、棗、って呼んでね」

にっこり笑顔で言うと、彼は暫くの逡巡の後で、小さく、

「ナツメ、…さん」

と呼んでくれた。しかも、恥ずかしげながらも可愛らしくはにかんで!!


 頬を赤く染めて可愛らしく笑うアディくんは、まさに”天使”だった。







 名前を言い合ったせいか、少し彼と距離が縮まった気がする。嬉しい。

タオルでわしゃわしゃしながら、私は笑みを浮かべた。

「……どうしたんですか?」

手の下から、ささやくような声が聞こえた。

絶賛髪を乾かされ中の、アディくんである。

きちんと動かないままでいてくれる彼は、幼い見た目に反して頭が良いようだ。私の言うことをきちんと守ってくれている。今も、動かないでと言った私の言葉をきちんと守り大人しくしていた。

背中の半ばまである髪をしっかり拭いつつ、彼に答える。

「アディくんの髪、綺麗だなって」

その途端、ピクリと跳ねる小さな体。肩を抑えてまだ動かないでと言いつつ、櫛で頭の天辺から優しく梳いていく。

「この翠の髪、つやつやしててとっても綺麗だよ」

艶めきを増した翠は、宝石のように美しく照明に映える。

「……きれい、ですか?」

「うん、とっても」

戸惑うような声音に首を傾げるが、言ったことは紛れもなく本心なので、すぐにきっぱり頷いておく。

乾いた髪を緩く纏めてから手を離すと、彼はそっと振り向いた。

「……ありがとうございます」

「…っ!、……い、いえ」

そのはにかんだ柔らかな表情に、思いっきりハートを打ち抜かれた。なにこの子可愛い。

よもや男の子を可愛いと思ってしまうなんて、私はショタコンの気でもあったのだろうか…。


 彼はとてつもなく可愛かった。背中に純白の羽根でも見えそうなほどの美しい微笑み。天使の輪をつくりだすさらさらの翠の髪。ほんのり桃色の陶器のように滑らかな頬。細められた紫の宝石は、きらきらと輝いて見えた。




何度も見直して誤字脱字はないようにしていますが、文法がおかしかったりしたらご指摘ください!

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