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想い

作者: 白州藍樹

 舞い落ちる桜のひとひらずつに想いは乗せられているのでしょう。散る花びらのいち枚ずつに、それぞれの恋が。それは高学年の教室のもう卒業してしまった誰かへ宛てたものかもしれないし、そのために別れた誰かのものかもしれません。告げられたものかも、告げられなかったものかもしれません。また、憧れや悲情で、恋情ではなかったのかもしれません。なにか特別な想いがこうして散っていく。伝わらないまま、風に吹かれてきれいに舞って、どこかに降りつくのです。

 並木道を通った誰かの、肩に、髪に、手のひらに、舞い落ちるのです。

 そうして掬われたらいい。どこかの誰かで、名前さえ知らなくても、声で呼ぶための名前なんてなんの意味がありましょう。どこかで果てたひとつの感情が、涙ひと粒のようにはらはらと、舞って。降り立つ地面が冷たくても、痛くても、決してなかったことにはならない気持ちのひとつが、そこには確かにあったのです。

 わたしの手は小さくて、背も高くなくて、誰かの翳に覆われてしまうくらい姿も、薄いものなのです。腕を伸ばしたところで届く場所なんてたかが知れていて、気づくたび、悲しくなります。それでも、この震える手のひらが、掬える手のひとつになれたら。無駄かもしれない。意味なんて、ないかもしれない。他の誰かがさきに見つけてしまって、掴みとって吹き飛ばしてしまうかもしれません。荒い風にさらわれて、見失ってしまうかもしれません。追いかけたまま、わたしは転んで、そのまま立ち上がれずに遠まるひとひらを見上げるだけで、くやしくなることも、きっと、あるでしょう。だけど、なにかの偶然でも、奇跡の一瞬でも、わたしの居ることであなたの流した涙の一筋を、この想いのひとひらを無下にせずにできるなら。あなたの想いも涙も大事なものだということを、あなたに気づかせてあげられるなら。わたしはどんなに泥にまみれても、道の床に倒れかけても、構いやしません。

 だって、手のひらのなかで、掬えた桃色のはなびらのうつくしさは、いつまでも永遠なのですから。眠ったあなたが忘れても、わたしにはいつまでも、それは手帳の特別な約束の日のように、いつまでも消えることのない想い出になるのですから。

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