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勇者御一行様マネジメント!  作者: 澤群キョウ
7日目 非戦闘員の人生で一番長い日
45/62

諦めたらそこで旅はお終いですよ!

 来た、の一言が美羽の頭の中でこだましている。


 この無力な、周囲から十万歳の魔女と勘違いされつつも実は驚くべき秘密のなさを誇る、ただの女子高校生にすぎない美羽がたった一人で魔物と対峙しなければならないというこの物語でいちばんのヤバい状況がついに、来た。


 こんな高揚感が持続したのはたったの十秒程度。

 天幕の中へ戻りたい。あの首飾りはやっぱり、まだつけておくべきだった。ベルアローは来てくれたようだけれど、他の二人は何処へ行った?

 そして今、目の前にずらりと並んでしょぼくれかえっている魔物達の正体とは――?


 そう、「八」なのだ。ベルアローと一緒に並んでがっくりと頭を垂れている魔物達の数は、いや、そもそも頭がない虫の塊のような形の魔物もいるんだけれどとにかく、雰囲気としてかなりのションボリ感を醸し出している魔物の数が、「八」なのだ。


 ユーリの名を呼びそうになって、美羽は慌ててそれを飲み込んだ。

 ユーリがいると悟られてはならない。そこにいるのは既にバレているかもしれないけれど、もしかしたらそうではないかもしれないから。

 あの首飾りが最終兵器になるかもしれないし。


 でも、ならないかもしれないけど――。


 頭の中に渦が出来て、美羽の心の中に生まれたあれこれすべてを飲み込んでいく。ぐるぐるとまわる速度は速くなる一方で、思いついたたくさんの希望をごくごくと容赦なく噛み砕いていく。


 駄目です、弱気になっては!

 ミハネ国の大臣たちの声が遠い。姿が見えない。これまでいつだって支えてきてくれた、世界でもっとも美羽思いの忠臣たちの姿が霞んでいる。


 それはきっと、真っ赤になって巨大化したオバケ、十一鋭のネーゲのせいだ。


 さっきまでは美羽と同じくらいのサイズだったのに、いつの間にか軽く二メートルは超えるサイズになっていて、単純に大きい。それだけでもう、相当の圧力を感じる。手に持った鞭はよく見ればやたらと長いし、トゲトゲつきだし、固そうだし。

 やあねえおじいちゃん戦いはもう終わったのよ、と言ったらしまってくれないだろうか。

 多分、無理だ。怒ってるし、そもそも「おじいちゃん」なんかじゃなかったんだから。


「さて、お前さんはこの場で成敗するが、その前に裏切り者を処分せんとな」


 鞭がビシィっと叩いたのは地面。ベルアローが小さく縮こまっているすぐ前だ。

「裏切り者って」

「おかしいと思っていた、のだ。八枝葉ども! 魔王様から産み落とされて幾千年、ここまではっきり堂々と裏切って人間なんぞの味方をした者は初めてだぞ!」

 恥を知れ、とネーゲは怒りの鞭ブンブンをかましている。


 やっぱり、八枝葉だった。八体の並んだ魔物は全員で、八枝葉だった。


「もう皆が貴様の裏切りを知っておるぞ、ベルアロー! 他の数字に口出しをするのは我々の禁忌(タブー)。だが、今は違う。寝首をかかれたらたまらんからな、ここで全員まるごと処分してくれるわ!」


 八枝葉のうちの七つの視線が、一斉にベルアローへと向けられる。

 お前なにしてくれてんだよ、的なオーラがぎゅんぎゅんと溢れている。


 美羽は足を震わせていた。

 なにやってんのベルアローと、八枝葉たちと思いを同じにして震えている。


 大丈夫って言ったじゃないか。問題ないって言ったじゃないか。


「違うッス、誤解ッスよ。その子はおれっちの部下にしたんス。今はその、目印の葉っぱが取れちゃってるだけで」

「そんな言い訳が通ると思うてか!」


 ビシィーッと鞭が伸びる。振り下ろした途端それはまるで長い長い細身の剣のように形を変えて、一番端にしゃがみこんでいた巨大猫型魔物の眉間を貫く。


「ああ、シュンベロ!」

 隣に座る真っ赤な一つ目の巨人が叫ぶ。

 猫型のシュンベロはばったりと倒れ、そして、砂と化してサラサラと崩れていく。

「我々は関係ないのに、何故こんなことをするんだ!」

 巨人の隣にいるのはグレーの石の塊、ゴーレム的な魔物だが、これが異常に爽やかなイケメンボイスで、美羽は度肝を抜かれてしまう。

「関係ない? 阿呆が! 貴様らの命は数珠つなぎ。そこの裏切り者を成敗するためには、全員『終わって』もらう以外なかろうが!」

 

 レイピア化する鞭がヒュンと戻り、次はゴーレムの隣にいた紫色の羽根が綺麗な鳥人間型八枝葉の胸を貫いてしまう。彼の名はミッペーロらしく、八枝葉たちは仲間の名を叫び、嘆きまくっている。

「やめて下さい、ネーゲ様! おれっちが悪かったッスから、おれっちはどうなってもいいから、みんなは解放してほしいッス!」

「お前らはちゃんと全員揃ってないと死なんだろうが!」


 十一鋭は容赦がない。鞭は次々に巨大な針になって、八枝葉の命を順番に奪っていく。


 美羽はその光景を見つめているだけ。動けば自分が貫かれるのではという不安のせいで、動けない。

 八枝葉たちが逃げないのは何故なのか。もしかしたら、見えない鎖でもあって、それで繋がれているのではないか。


 呑気で明るい魔物達。そんなのはやっぱり、下っ端だけの話だった。楽しくて愉快なベルアローの話は緊張感のないもので、夢があって、美羽にとっては大好物だった。


 でもそれがこの世界のすべてじゃないって、本当は知っていた。


「ベルアロー……」


 魔物達は死なない。魔王が、生きている限り。

 美羽たちは、魔王を倒す。だから、遅かれ早かれ彼らはこんな風に消えてなくなってしまうはずだ。お世話になったベルアローだってそうだ。


 だけど、目の前で、抗う術もなくただただ死んでいかれるなんて。

 

 八枝葉は死なないのが売り。ベルアローはそう言っていた。決まった手順を踏まなければ駄目だと、言っていた。十一鋭はそれを知っていて、正確に全員を亡き者にしようとしている。

 そう考えている間にまた一人、今度は右足を貫かれて灰になる。後、三人。ベルアローは何番目なのだろう?


 ベルアローの瞳が、ゆらゆらと揺れている。魔物も泣くんだなあ、と美羽は胸を軋ませる。

 助けてあげたい。

 でも、なんにも出来ない。

 

 今すぐ私を縛って、連れていって下さい――。


 こんな提案をして、のってくれる相手だろうか。

 成敗すると宣言しているのだから、ここで切って捨てられる可能性は高い。

 捕えられたところで、殿下と一緒の牢に放り込まれるかどうかわからない。


 誰か来て。美羽は祈るが、答える者はいない。あの首飾りの中のガーリー軍団は何をしているのか、背後からはうんともすんとも聞こえてこない。


 歯を食いしばる美羽の前で、七人目の八枝葉が左腕を貫かれようとしている。


「ベルアロー!」


 なんの解決法も見出していないのに、黙っていられずについ叫んでしまった。

 ネーゲはニヤリと笑い、七人目の水色ゴーレムがぶるっと震える。


「その顔だ。ホーレルノの谷よりも深く後悔するがいい!」


 その言葉は美羽ではなく、ベルアローに向けられたものだった。ネーゲはゆっくりと腕を振り上げ、動けずにうずくまるゴーレムに向けて構え、大声で笑う。

 がっくりと肩を落としたベルアローだったが、かさかさと葉を震わせると急に大きくにょきにょきと、これまでで一番大きく育った。

 なんだ、とネーゲは訝しげな表情を向けている。

 美羽は思わず、両手を強く握りしめる。


「ミハネさん、余計なことを考えないでほしいッス」


 静かに呟き、ベルアローはがばっと顔をあげ、ぱかっと口を開けて笑って見せた。


「他の勇者さんはきっとここに来ます。おれっちの憧れた人間はみんな、そうしましたから! おれっち、皆さんに憧れて今回の魔物人生はこうしようって決めたんスから。だからいいんス。八枝葉のみんなには申し訳なかったッスけど、でももう、本当はいいんスよ。絶対にわかってくれます。だっておれっちたちは、あらゆる数字持ちたちの中で一番結びつきが強い、八枝葉なんスから!」


 笑っているけれど、全身から漂う哀愁を隠せていない。必死になって笑顔を作って、強がっているようにしか見えない。

 美羽のこんな内心に気が付いたのか、ベルアローはぶんぶんと頭を振ってまた声をあげる。


「そこにいるネーゲ様も同じッス。何度も何度も魔王様に付き合って、繰り返し生まれ直すことにきっと、疑問を持ってるッスよ!」


 ネーゲは焦る。勢いよく鞭を振り下ろし、ゴーレムに止めを刺す。

 悲しげな悲鳴があがり、仲間が灰になっていく。でもおかまいなしにベルアローはまだ叫んだ。


「皆さんはおれっちたちをも救うんスよ! 大勢の人間に平和を、おれっちたちの魂には平安を! なんだかちょっと変わった方ばっかり集まったみたいッスけど、皆さんなら大丈夫ッス。ミハネさん、急いで逃げて下さい。おれっちはただじゃあやられねえッスから!」


 ベルアローは動こうとしている。けれど、動けない。

 体中の葉っぱをカサカサと揺らし、大きくなったり小さくなったりして暴れているが、足がちっとも動かないようだ。そこに縛り付けられてしまったかのようで、でも柔らかく微笑んだような表情を浮かべており、美羽はそれがたまらなく哀しい。


 出来ない。逃げるなんて、出来ない。

 仲間を失ってしまって、自分のせいでみんなが消えてしまって、ベルアローが悲しくないわけがない。

 それなのに美羽を逃がそうと必死になってくれて、そんなベルアローを置いて、一人で逃げられるはずもない。


 しかも後ろに魔法の天幕が出しっぱなしだ。中にはユーリもいる。

 逃げられない。

 美羽にできるのは、愛すべき魔物の最後を見届けることだけなのか。

 せめて命は奪われないようにして、仲間と再会、なんとかして逃げ出す手立てを見つけることだけなのか。


 誰か!

 美羽は叫ぶ。

 この際、リーリエンデでもいい。ヴァルタル、ブランデリン、レレメンド、とにかく誰かここに来て、あの陽気な魔物をなんとか助け出して、この大ピンチを切り抜けて!


「言い残したことはないか、もういいな、八枝葉」

「ミハネさん、逃げて下さい!」


 長い長い鞭が振り上げられると同時、ピンと音を立てて細剣に変わる。

 その瞬間だった。


「んもー、やだ、なにこの状況は! 仲間割れ?」


 とうとう現れた救いの主、らしからぬ呑気な声。

「ユーリ?」

「違うの、違います、違うわよアタシはね、いやだアンタが代表なんて、駄目ですよ仲間割れは、さっき決めたはずでしょう? ルールを守って正しい多層人格!」


 そこに居たのはいつもの可愛らしい少年ではなかった。

 身に着けているのは少し大きな、美羽のために用意された女物の服。

 魔法のカバンで調達できたのか、目の上と頬、唇に化粧を施している。

 女子力を急上昇させたニューユーリは美羽の横にぴょこんと飛んできて、首をちょこんとかしげて可愛らしく笑う。


「で、どうしたらいいのでしょう? 決まってるでしょうあっちの物騒なもの構えてるヤツを先に、いや決まってなんかいないわよ、ちゃんと現状把握から! これは急ぎの案件よ。ミハネが泣いてるじゃない。んもう、みんなうるさいわよ! 一気に出ようとしないでちょうだい!」


 ユーリの様子のあまりの異常さに、ネーゲもベルアローも動きを止めてしまっている。

 ユーリは一人で延々とオーバーリアクションをとりつつマシンガンのようにしゃべっており、美羽も手元に携帯電話があれば救急車を呼んでいるところだ。


「もしかして、首飾りの中の全員がいっぺんに出て来てるの?」

「ご名答ぅー!」

 ヒューとか、イエーイとか、女子が次々に現れては交替しているようだ。

 多重人格、いや、同時多発人格と言うべきか。一人で自分と対話、しかも否定を多くする様は見ていて不安な気分になってしまう。

 しかし頼れる誰かは、他にはいない。

「あの赤い方の魔物を止めて! お願い!」

「えーっ、強そうなんだけど? どうする誰がやる? どの技ならいけるかなー。あたしは無理だよただの村娘だもん。シーファは黙ってなさいよ! やだー酷いー!」


 おいおいこらこら、と美羽は焦る。

 ただいまこの旅で最もシリアスなシーンなんだぞ、と。

 同時多発ガーリーのしょうもない小競り合いで時間を浪費している場合じゃないんだぞ、と。


「特技があるんでしょ! ベルアローを助けるんだから、真面目にやってよお願い!」

 このままではネーゲが我に返って八枝葉が全滅してしまう。きょとんとしている今しかない。必殺技があるのならなんとかしてもらいたい。

「最後のチャンスなんだよ今!」


 突如、ユーリの首ががっくりと垂れる。

 かと思いきや、すぐにシャキーンと立ち上がり、少年らしからぬ不敵な笑みを浮かべて見せた。


「わかった、アタシが行くわ。ミハネ、下がって。ローリ様の舞の威力をとくとご覧あれ!」


 ローリの名は初めて聞くが、「舞」という単語に期待が一気に膨れ上がっていく。

 なんらかの魔法的な効果のあるダンスなんて、いかにも異世界、ファンタジー女子の必殺技といった感じではないか! 


 ところがこの期待はすぐに破られた。

 優雅なダンシングとは程遠い、ガックンガックンとした奇妙な動きに、美羽はあんぐりと口を開けてしまう。


「なにそれ……」

「なにって、『風神の舞』だけど」


 うっそだー! としか思えない。

 足はがに股だし、腕の動きはほぼゴリラ。これでなにか奇跡が呼べるなら、美羽にだって出来るだろう。


「もっとちゃんとやってよ!」

 美羽はチラチラとネーゲの様子を窺う。何事かと様子を窺っていた十一鋭も、「何にもなかったみたい」と確信したようだ。くくくと悪そうな笑い声を漏らし、手の中の細剣をちゃらりと揺らしてみせた。


「やってるわよ、失礼ねー!」

 音楽もないし、千年ぶりくらいなんだからね。ローリは叫び、美羽を突き飛ばす。


 悲鳴をあげる暇もない。

 美羽は腕をぐるぐると回しながら思いっきりネーゲへと突撃していく。

「いやだーっ!」

 刺されてしまう!


 目を閉じ、叫ぶ。

 その時口にした誰かの名は、しかし音になって出ることはなかった。


 ネーゲの赤い体の中に、美羽の体はずぶずぶと入っていく。

 オバケみたい、と思っていた体はどうもスライム的な半透明、粘性だったらしく、ネーゲのボディの中からはうっすらと外の様子が見て取れた。赤いフィルターのかかった世界は酷く不吉だ。そして美羽を飲み込みつつ、ネーゲは動いた。


 腕を振り上げ、狙う先はベルアロー。


 ごぼごぼと美羽は叫ぶ。

 けれど体はゆっくりもったりと沈んでいくばかりで、自由がきかない。

 息も出来ない。口の中に、ネーゲのもったりが入ってきて苦しい。

 ベルアローの姿はもう見えない。

 ネーゲの構えた剣はまだ、上にある。

 その細く鋭く長い棘が刺されば、ベルアローはお終いだ。

 

 そして次は、美羽とユーリの番だろう。

 十三人分の力があると言ったのに。揉めて、役に立たなくて終わりだなんて。これなら美羽があの首飾りをしたままで居た方が良かったはずだ。あれを付けたままでいれば、ベリベリア扱いしてもらってなんとか切り抜けられたかもしれないのに。


 いや、違う――。

 魔物達はちゃんと見ていて、どこに誰がいるのか必死になって探っているんだから。

 ベリベリアとして扱われるわけがない。どこからどう見ても人間の女の子丸出しの美羽がそのままふらふら歩いていたんだから、見破られない訳がなかったのだ。


 こんなバッドエンディングになるなんて。

 美羽の脳裏に、楽しかった旅の思い出が次々と蘇っていく。


 初めて訪れた異世界のお城。初めて出会った美しく毅然とした女王様。

 カッコいい四人の勇者さんたち。まったく打ち解けられなくて、喧嘩ばかりしていた。

 炎を出してぶつけたり、鞭で叩いたり、鎧にこもって泣いたり。

 ちょっとだけ打ち解けた。なんとか勇気を振り絞って、戦った。人質を取られたけど取り返した。強敵もなんとか撃破した。人生で初めて熱い告白をされたし、いつの間にか結婚までしていた。


 敵が寝返って仲間になってくれたりもしたし。


 妄想の中で繰り返したあれこれが、割と現実になったなあ。

 美羽が呟くと、脳内国家の住人たちが一斉に「そうですね」と声を合わせる。


 思い返してみれば、なんと濃厚な七日間であったことか。

 我が異世界体験に、一片の悔いなし!


 腕を振り上げるが、重い。

 何故か?


 ――悔いがあるからだ。


 まだまだ全然ですよ、ミハネ様!

 ミハネ国の民は欲張りだ。もっといける! もっとやれる! 声を張りあげ、旗をぶんぶんと振り回している。


 フラグ、全然回収できていませんよ!


 ミハネ様、あの騎士の事情を全部聞いていません!

 麗しの殿下のプロポーズにまだ返事をしていません!

 翼の生えたエルフ男に会えないまま終わっていいのですか!

 破壊神に仕える邪悪な祭司の野望を、止めて下さい!


 そうだそうだそうだった。まだまだ、やり残したことはたくさんあった。

 美羽の魂に力が満ちていく。ここまで、妄想、空想、はったり、勢いだけで来たんじゃないか。

 だったら今のこの最悪の状況も、なんとか乗り切れるはず!


 頭を動かせ。美羽は再び記憶をたどる。

 これまでに考えてきたすべての想像を。この旅で聞いた異世界の事情を。


 そして、見える。

 ネーゲの体の中、まっすぐ上を見つめたらそこにあった。まあるい何かが。うっすらと光る糸が、そのまあるい何かをぶら下げている。


 証の振子(アカシノフリコ)――。


 ベルアローが言っていた「十一鋭の弱点」。あのぶらさがる球がそうに違いないと強く確信して、美羽は腕を必死に腰へと伸ばした。重たい。けれど、ここでやらなきゃ女が廃る。


 魔法のカバンで取り出した工具セット。その中に入っていたカッターを腰の袋から取り出して、刃を出し、空いている左手を伸ばして球を掴む。


 掴んだ瞬間、ネーゲの体が揺れた。

 一気に体が軽くなって、美羽は右手を突き出す。


「ビョアアアアアア!」


 一番カッコいいギリギリのタイミングだった。

 まさに、ベルアローの胸に剣が刺さる直前。


 十一鋭のネーゲは真っ赤な体を四散させて、消えた。

 

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