ウェルカム・トゥ・アナザーワールド
積もる話は多々あれど、やっぱり山の上の方は寒くて堪らないわけで。
はやる気持ちを胸に抱えて、美羽たちはベルアローの案内で小さな洞窟の中に身を寄せていた。時刻は夕方だったらしく、洞窟の外には今は闇ばかりが広がっている。気の利く魔物の枝を集めてつけた焚き火は暖かく、美羽はマントをブランデリンへ返した。
「ウーナ王子なんスけどね」
場が落ち着いたと判断して、ベルアローは語り始める。なんと空気の読める低木だろうと、美羽は感心しきりだ。
「おれっちたち魔物のテリトリに入った人間は、基本的には処刑されちゃうんスよ」
予想はしていたものの、ズバリ言われるとやはり、ズーンと重い。
処刑なんて言葉とは無縁の世界で生きてきた美羽には、足がよろけてしまう程に重たい。
口を開きかけた美羽とブランデリンを、ばっさ、と木の枝が制する。どうしてだろう、ベルアローの人の好さそうな顔が、今日はきりりと引き締まっているように見えた。
「大丈夫ッス。処刑のためには必要な書類が多くて、どんなに急いでも二日はかかるんで」
「書類がいるの?」
「そッス。処刑の方法、場所を決めて、後は日程が大丈夫かの確認もあるッスね。係が休みの日だとできねえッスから」
意外な魔物世界の事情に、美羽はすっかり腰砕けの状態だ。まさかそんな、いわゆる「お役所仕事」な流れが必要だったなんて。異世界ファンタジーなのにそれでいいのかと、逆に腹が立ってきたような気すらした。
ふんす、と鼻から荒く息を噴き出す美羽の前で、ベルアローはばさばさと頭を掻いている。
「ただ、急がないとマズイ事情も出来たッス」
鼻息をぴたりと止めて、美羽はきりっと低木を見やる。
「なあに、事情って」
「ブランデリンさんが門の中に足を踏み入れちゃったんスよ」
一斉に視線を向けられ、騎士は明らかに慌て始めた。
そして美羽も、じっとブランデリンの顔を見つめて、はっと息をのんだ。
リッシモの城を出た時よりも、頬がこけている。目の下には隈が出来ているし、唇はカサカサ、鎧は汚れて曇っている。大事に持っていたはずの兜はどこにも見当たらなかった。
「ウーナ王子は連れてこられたッスけど、ブランデリンさんは『攻めてきた』扱いなんスよ」
最初は泣いてばかりだったのに。
今は必死になって、仲間の為に走ってくれているのだ。
美羽はぎゅっと、手を強く握りしめた。ベルアローがどう言葉を繋げようと、誰も責めてはならない。みんな、いや、リーリエンデ以外はベストを尽くしてきた。誰にも責められる謂れなどないのだ。
「行政区はおれっちたち魔物にとって重要な拠点なんス。居住区に入られたのとはダンチでヤバイ話なんで、決まってるんス」
「なにが?」
「更新されるッスよ」
更新って何、と美羽は問う。
ベルアローはくしゃくしゃと身を縮ませて、すっかり雑魚っぽい小ささになって呟いた。
「行政区まで攻め込まれたってコトは、おれっち『数字持ち』たちが弱いってコトなんス」
だから、魔王様に「作りなおされる」のだ、と小さな茂みは震えながら話している。
「作りなおされるって?」
「……おれっちたちは魔王様の中に一度戻されるッス。そしてまた、もう一度新しく生み出されるんス。正直、『十』までがほとんど役立たずだったッスから、だから、多分、次作るとしたら『十』からになっちまうッスよ」
ベルアローの説明では今一つ状況が理解できず、美羽は大きく斜めに体を傾けた。
ただ、いつもは明るいベルアローがこんなにしょぼくれているのだから、事態は深刻なのだろう。いや、基本的に深刻なのだ。殿下は処刑まであと二日。ヴァルタルとリーリエンデは行方不明。ブランデリンは疲労困憊だし、例の病気について何の解決もしていない。
「その場合、『十』と『十一』と『十二』だけになっちゃうの?」
「違うッス。『十』から『十五』の超特別編成になるッス。ついでにその上に、親衛隊の三騎士も加わっちまうッスよ」
出た。魔王の親衛隊。絶対強い、ヤバい、それで多分めちゃめちゃカッコいいはずの敵が。
一人は正々堂々とした「騎士然」としたパワータイプ。
一人は露出の多い衣装の、魔法もちょっと使えちゃう女性魔術師。
そして最後はちょっとオネエ系が入ってる、若い男の策士タイプに相違あるまい!
「そうなったらミハネさんたちにはちょっと、敵わないんじゃないスかね? 親衛隊の強さって本当にヤバイらしいッスよ」
「ごめん、ちょっとぼんやりしてた」
口からあふれ出しそうになったよだれを引っ込め、美羽は腕を組む。
「どういうシステムなの、それって」
「おれっちたちは役割がハッキリ決まってるッス。今は通常の人類攻略モードで、敵の中に特に強い個体が現れた場合には、攻守兼用モードに切り替えられるッス」
「攻守兼用モード?」
「そッス」
アホの子みたいなオウム返しをする美羽に、ベルアローはかっくんかっくんと頷いている。
「魔王様もそろそろ本気出すか、とか、そんな感じッスかね」
「本当に疑問なんだけどさ。なんで魔王ってみんな最初から本気出さないの?」
「……いや、他の魔王様とか、おれっちは知らねッスけど……」
だって旅立ったエリアはちゃんと最弱ばっかり揃えてるじゃん、と美羽は思うが、考えてみればベルアローには答えようのない質問だった。すっかりビビった様子の低木に「ごめん」と謝り、さらなる詳しい説明に耳を傾ける。
「行政区のヤツらは、どこをどう攻めるかとか、どこに何人くらい派遣するかとか、戦略を考えたり食料の配分をしたり、居住区に不具合があったら直したりとか、そういう仕事をしてるッス。数字持ちの連中は、それぞれ自分で考えて魔王様のために動くんスけど、ルールがあって、数字の小さい順に出撃しなきゃなんなくて、それでいて数の大きい方には逆らっちゃいけなくて、あと、数字の無い雑魚魔物たちは、数字持ちか行政区の指示に従わなきゃなりません」
マシンガンのようにまくしたてるベルアローを、美羽は右手で制した。
「メモ取るから待って」
魔物達のシステムについて記していくが、その手はすぐに止まった。
「なんで急がなきゃならないんだっけ?」
異世界の事情や設定を知るのは楽しいが、今はエンジョイしている場合じゃない。
みんなの危機は私の危機。我々の危機は、この世界の危機なわけで。
「更新されたら、おれっち、消えるッスよ」
小さな洞窟の中に、静寂が溢れた。
聞こえてくるのは焚き火が木を燃やす音と、いつの間にか始まった外の吹雪の寒々しい響きだけ。
「数字持ちは『固定』とか、言ってなかったっけ」
「そッス。固定されてるッス。ただ、攻守兼用モードだと『九』以下は全員いなくなりまスし、もしモード切替がなくても、更新かけられたら欠けたメンバーは補充されて、残ってる連中もリニューアルされるんで、おれっちも今のおれっちじゃあなくなるッス」
「今のベルアローじゃなくなる?」
「そうッス。姿も能力も同じ、ベルアローって名前のおれっちが生まれるんスけど、今のおれっちはもういないんスよね」
満ちあふれる無常の中に救いを見出そうと、美羽は頭を必死になって動かしていく。
新しいベルアローはきっと、今の彼の記憶を引き継いだりはしないんだろう。性格まで同じなら、再び美羽たちの味方になってくれそうなものだが――。でも、今のベルアローが「消える」のは、間違いないわけで。
「そうしたらもう、ミハネさんたちのお力になれないッス」
「ベルアロー」
美羽はベルアローの右の枝をとって、強くくしゃりと握った。
陽気な八枝葉はほんのりと微笑んだものの、酷く寂しげに影を落としている。
「それだけじゃないッス。更新までの間っていうのは、魔王様からの『お慈悲タイム』なんスよ。更新がされる場合、事前に宣告があるッス。みんな、生まれ直すのは嫌なんスよ。更新したら前のことは忘れちゃうんスけどね。でも、更新されちゃったのはわかるんス。それまでの時間ってなんだったのかなとか、なんていうか、虚しさ感じるんスよね」
これはアレだ。ループもの的な感覚に近いのではないか。
繰り返される同じ人生。もしかしたら彼らは、「あれ、これ前もやらなかったっけ?」みたいなデジャヴの中で、切なさを覚えてしまうのかもしれない。育んできた友情はリセットされ、頑張って魔王様に褒められた記憶も消える。
「そうなるのはおれっちたちにはしんどいんスよ」
「うん。なんか、わかるよ」
「ホントッスか。ミハネさんて本当にすごいッスねえ」
ベルアローはにこにこと笑って、声を潜めるとこう続けた。
「だからみんな、更新までの間に頑張るんスよ。この時間の間に『魔王様のご期待』に応えれば、更新はなくなるッス。この『猶予の間』は、数字の上下カンケーなしで、数字持ちたちは自由に動けるようになるッス。だからみんな、死にもの狂いで戦い始めちゃうッスよ」
ここで美羽は再び会話を止めて、ノートに情報をまとめていた。
行政区に足を踏み入れる人類が居た場合、数字持ちの魔物はみんな「更新」されてしまう。
一から十二までの今までと同じ編成でも、全員がまっさらな状態に戻される。
十から十五までの特別編成の場合、九以下はいなくなって、更にヤバイ三騎士が追加。
みんなそれは嫌だから、なんとか止めてもらおうと必死になって攻めてくる、らしい。
「じゃあ『お慈悲タイム』に入ったらベルアローも敵になっちゃうの?」
「それはないッスよ。今回のおれっちは最後まで、ミハネさんやアニキの味方でいるッス」
「一つ確認していい? 魔王を倒したら、魔物ってどうなるの?」
「へへ、やっぱ気になるッスよね。もちろん消えまス。全員、きれいさっぱり消えるッスよ」
美羽は悩む。どうしても目の前の低木の思惑がよく、わからない。
「ベルアローがどうして私たちの味方をしようと思ったのか、聞かせて」
「それ聞いちゃいます? はは、参ったッスね」
最初は罠じゃないのかと思っていた。今でもその可能性はゼロじゃあないだろう。ブランデリンは話を黙って聞きつつも、ぴりぴりとした空気を放っている。いざという時にはすぐに斬って捨てる用意があるに違いない。斬っても、無駄ではあるけれど。
レレメンドが何も言わないから信じてもいい、という考え方もなくはないが、どうしてもあの邪神の祭司様を心から信用するのは難しそうだ。なにしろ、生きる目的、目標が違い過ぎる。彼はおそらく、ディズ・ア・イアーンのもたらす終末のためだけにしか動かないだろうから。
ベルアローを信じる為の決定打はない。
彼を信じる根拠が、どうしても欲しい。
美羽が視線を向けると、低木はしゃっきりと背を伸ばして、今までで一番立派な木に育って答えた。
「おれっち、覚えてるんスよ。前回の魔王様の時代」
「覚えてる?」
「そッス。おぼろげなんでね、魔王様倒しに来た方の名前とかはわかんねえッスけど」
頭をぽりぽり、いや、バサバサと掻いて、ベルアローは目を閉じる。
「カッコよかったんスよね。人間の勇者さんたちは。正々堂々としていて、誰かの仕掛けた罠なんかものともせずに、それぞれの力は正直アニキたちよりもずっと弱かったと思うッス。でも、心を一つにして、仲間を見捨てず、無駄な殺傷はせず、自分達の仕える国の人達のために、まっすぐまっすぐ魔王の城まで登って来たんスよ」
うっとりとした魔物の瞳に浮かんだ星のまたたき。それを、美羽は知っていた。
途端に感じるシンパシー。ベルアローは多分、いや完全に美羽と「同類」だ。
「魔王様が倒されて、おれっちたちは全員『更新』されたんス。だから、本当はおれっちの記憶は許されたモンじゃあないんだと思うッスよ。でも、残ってるんだから仕方ないでしょう! 勇者さんたちの力になりたいんス、おれっちは。魔物はみんな決まった力しか持ってなくて、何度生まれ直しても同じで、火事場のクソ力みたいなミラクルは全然起こせないんスよ! でも皆さんは違うでしょう? 人間って本当にカッコいいなって、思ったんスよ」
葉っぱを揺らしながら熱弁をふるう魔物の姿は、輝いている。
「おれっち、皆さんの味方になって一緒に行きたくて、それで、たとえ体が滅びちゃったとしても、そっと語り継がれて記憶の中に残るっていうか、そういうライフに憧れちゃってるんス」
わかるわかる。超わかる! パーフェクトにアンダーストゥンドゥだよ! と美羽はベルアローの手を取って叫んだ。
「記録よりも、記憶に残る魔物になりたいのね!」
「えっ? いや、なんかちょっとわかんないスけど」
この喩えは正しくなかったが、ベルアローの心意気に関してはよく理解が出来た。
これはもう信じてよし。このロマンを信じずして妄想家元など、名乗れるはずもなし!
「わかった。更新される前に、魔王を倒そう」
「ミハネ殿」
そんな切ない顔したって無駄よ、ブランデリン!
という台詞を心で吐いて、美羽は小さく首を振って答えた。
「大体、ウーナ様だって早く助けに行かなきゃ処刑されちゃうんだから」
「確かにそうですが」
「問題はヴァルタルとリーリエンデだよね。どこに行っちゃったんだろう? ベルアロー、位置はわからないの?」
「うーん、ちょっと遠い、くらいしかわかんねえッスね。かなり下の方にいるみたいですけど」
下というのは、山の下の方ということなのだろう。あのポンコツ師匠、本気で逃げやがったな! と美羽はすっかりおかんむりだ。
「ヴァルタルならなんとかしてくれる……かなあ?」
「問題ない」
出ました、祭司様の「問題ない」発言が!
「レレメンドさん、それって、ちゃんと来てくれるってコト?」
「すべてはディズ・ア・イアーンの導きのままに」
そういえば、レレメンドの能力についての把握もしておくべきではないかと美羽は思う。
祭司様の力は、回復とヨガ的なポージングの他に「未来がわかる」というものだが、妄想家元の直観がこう告げてくるのだ。単純に「未来を見通す力」ではなさそうではないか、と。
「レレメンドさんって、どういう風に未来がわかるの?」
「未来が見えるのではない。私に見えるのは『あらゆる未来の顛末』だ」
あらゆる未来の顛末。
なんじゃそりゃ、と思考を黒こげにする自分をなだめて、美羽は考えていく。
「あらゆる未来」の顛末。「より正しい選択肢」を選び取っていくと、レレメンドは話していた。
頑張って下さいミハネ様!
聞こえてくるのはミハネ国の民の声で、これが始まったということは、美羽の調子が上がってきた証だ。大臣と騎士と侍女たちは揃って大広間に並び、玉座で唸る美羽を応援してくれている。見て下さい、外にも大勢の民が詰めかけています! 確かに、外からはわあわあと、群衆のあげる声が聞こえてきていた。
選択肢。次はどうすべきか問いかけてくるアレ。
ゆっくりと考える時間など、行政区を走っている最中にはなかったはずだ。けれどレレメンドは的確に動いた。彼には見えるのだ、脳裏に浮かぶ選択肢が。これからどうする? 見てるだけ、追いかける、走り出す。走り出すならどちらへ? 右へ、左へ、それともまっすぐ。
何を選んだらどうなるのかが、いちいち「見える」。
レレメンドの頭の中には無限大のフローチャートが広がっていて、彼にとって「正しい」ゴールへ向かう道を、その都度瞬時に選ぶことができる、とか。
「その通りだ」
ぱっと顔をあげてレレメンドへ向けた美羽へ、祭司は先回りして答えた。
それはそれは邪悪な笑みを浮かべて、整った顔から暗黒オーラを大放出させながら。
正直、怖い。けれどそれって、ものすごく役に立ちそうな話だよね、と美羽は気を取り直していく。
「すごいね、レレメンドさん」
「レレぴょんで構わぬよ、我が運命の巫女。我々は世界を超え、互いの魂を結んだ夫婦なのだから」
やーめーろーよー、と美羽は慌てる。いつものように心の中で叫んだのだが、これは失敗だった。実際に声に出して咎めるべきだった。
静かに座っていたはずのブランデリンが、ゆらりと立ち上がる。
「夫婦、とは?」
「言葉の通りだ。我々は球星窯の器を順に飲み干し、ミハネは我が四番目の妻となった」
「なんですって」
ブランデリンのシリアスな顔に浮かぶ、様々な感情。
驚き、哀しみ、焦り、怒り、その他もろもろが波のように押し寄せて、騎士に苦悶の表情を浮かべさせていく。
「や、ブランデリンさん、私はね」
対して、レレメンドは余裕の、大人の笑みを浮かべている。
そりゃあそうですよね、と美羽は思う。だって自分がいなくても妻があと三人もいるわけで。つまりレレメンドはとんでもないリア充であり、フラレぼっちなブランデリンが敵う相手ではない。
「同じ器でちょっと、飲んだだけなんだよ。お腹が空いててフラフラで、そこに出されたの飲んだら勝手に夫婦になったとか言い出しただけで」
「ミハネ殿の同意はなかったということですか?」
「そうそう」
だから気にしなくていいんだよ、と美羽は言いたい。
でもやっぱり、騎士になるだけあってブランデリンは真面目だった。
「ミハネ殿にそのような勝手な真似をするなんて、許せません」
腰の剣に手をかけ、ブランデリンは吠える。
やーだー! 仲間割れ。ここにきてまさかの、ブランデリンVSレレメンド戦が勃発だあ!
ちょっとときめく展開だけれど、そんな場合じゃない。美羽は止めようと立ち上がるが、褐色の腕がさっと制した。レレメンドは余裕綽々でゆっくりと立ち上がって、ブランデリンに向けていくつか、右手を動かしてさっさかとヘンテコリンな形を作って見せていく。
「何なのです、それは」
騎士から放たれる怒気はこれまでに見た覚えのないもので、大変なド迫力だった。ベリベリア戦でもここまでの騎士オーラは放っておらず、ブランデリン史上で一番カッコいい姿が今、そこに。
「案ずるな、騎士よ。我々の神はすべてを許す。それが、すべての破壊と終末の日のためならば」
「戯言を!」
きゃーん、やめて! 私のために争わないで!
再び言うチャンスが訪れたが、どうしよう。言っていいのか悪いのか。レレメンドの少し後ろに立つ美羽は迷う。言いたいけれど、許されるだろうか。実際に言ってみて二人に「はあ?」なんて返されたら、しばらく立ち直れない気がして怖い。
迷う美羽、怒りのブランデリン。
対して祭司様はあまりにもいつも通り、泰然自若のアルカイックスマイルで答えた。
「我が巫女を娶りたいならばそうすれば良い。四番目の妻ではあるが、私だけのものというわけではないのだから」
「は?」
ブランデリンは目をぱちくりとしている。
美羽も意味がわからず、同じようにぱちくりとしてしまう。
レレメンドは更に、ビシっと騎士を指差してこんな追撃までかましてくる。
「汝が望むのであれば、我が夫となることも構わぬ」
何重婚でもウェルカムオッケー! ようこそ、自由の国へ!
美羽の頭の中で景気のいいファンファーレが鳴り響く中、ブランデリンはすっかり顔を蒼褪めさせて「結構です」と祭司に断りを入れた。