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勇者御一行様マネジメント!  作者: 澤群キョウ
初日 超アグレッシブ異世界召喚
3/62

選ばれし4とプラス「1」

 美羽が三人の勇者さんたちの容姿を確かめ終わると同時に、部屋の外から足音が響いてきた。音はみるみる近づいて来て、勢いよく扉が開かれる。


「遅れまして、申し訳ございません!」


 入って来たのは十二、三歳くらいの少年で、ふわふわのこげ茶色の髪を揺らし、くりくりの瞳は若さゆえの純真さの効果なのか、キラキラと輝いている。申し訳なさそうに眉毛を八の字にして、走って来たせいなんだろう、汗だくになった額には前髪がぺたりと一筋張り付いていた。


「騒がしいぞユーリ。それに、リーリエンデはどうしたのだ?」

 姫の隣に立つ大臣は険しい顔で、少年へこう問いかけている。

「それが、我が師リーリエンデ様は思いがけない第五の召喚のせいで力を使い果たしてしまわれたようで……。それに、肩と腰も痛んで動けないからと、こちらにはぼ……、私が一人で参りました」


 エステリアは「まあ」と口を押さえ、騎士団長のライエーンは渋い顔を作り、大臣のフリストはやれやれと肩をすくめている。


「仕方ない、ではユーリ、お前から勇者様方に説明をしてくれ」

「わかりました。リーリエンデ様から、書を預かってきております」


 リーリエンデとは一体誰なのか。今入って来た少年との関係は「師弟」らしい。「師弟関係」なんてワクワク感のある単語の登場に、美羽の脳内麻薬の分泌は止まらない。


 これで役者はそろったのか、さあさあ皆さんこちらへどうぞ、とエステリアが「勇者」たちの為に椅子を引いて回り始めている。

 大臣と騎士団長が止めたが、これはわたくしの仕事です、と女王は毅然とした態度で言ってのけた。


 それにまたキュウウンと胸を軋ませていた美羽は、次の瞬間猛烈にビビった。部屋の奥に設えられた暖炉のある壁の両端に鎧が置かれていたのだが、そのうちの左側が突然動いたからだ。

 しかし驚いたのは美羽だけ。他の勇者もこの世界のVIPたちも、当然のように席を勧めている。


「ブランデリン様、それにヴァルタル……エル……」

「名前が長くて悪かったな」


 エルフ耳の男は腹立たしげな顔で舌打ちをして、勧められた席にドスンと座る。突然動き出した鎧もそろそろと席に近づいて、ガチャガチャ音を立てつつ、控え目にちょこんと座った。


 美羽がすすめられた椅子は金髪パーフェクト王子の隣で、女子高校生らしく胸をドキワクさせながらそっと座る。隣の王子はちらりと美羽に目をやったものの、憂いを帯びた表情に変化はなく、とにかくバッサバサの睫毛の下から哀愁をギュンギュンと放っていた。


「ではユーリ、お願いします」

 ふうと息をついて、額の汗をぬぐい、愛らしい顔の少年はこほんと一つ咳払いをした。

 髪よりも明るいレンガ色の瞳には知的な輝きがあって、白い頬を上気させながら話す姿はお姫様に負けず劣らず、愛らしい。


 パーフェクト王子に動く鎧、詳細不明系不愛想、不機嫌エルフ、純白プリンセス、ラブリー系美少年。この豪華なラインナップのどこに目をやったらいいのか、美羽の鼻からたらりと一筋血が垂れる。


「はい、まずは自己紹介を。僕……じゃなくて、私はユーリ・ロローマと申します。皆さまをこの世界に呼び出した召喚術師、リーリエンデの弟子でございます。リーリエンデ様は諸事情があってこちらには来られなくなりまして、僕、……じゃなくて私が代わりに説明をさせて頂きます」


 しっかり真面目にお話しなくっちゃオーラを全開にしながらの「僕」を「私」に訂正する様子に、ニヤニヤが止まらない。頬の筋肉を必死で抑えて、美羽もよそいきの顔作りに必死になっている。


「皆さんを召喚した理由については、エステリア様から説明があった通りです。伝説の魔王の復活により、この世界には危機が訪れております。残念ながら、我々の国には魔王軍と対等に渡り合える戦士がおりません。この危機を乗り越えるために、勝手ながら強い力を持つ『勇者』様方を召喚させて頂きました」


 ユーリは深々と頭を下げたが、四人の「勇者」たちの反応は悪い。

 金髪王子はため息を大量に吐き出し、エルフ男はイライラした様子で、多分貧乏ゆすりをしているんだろう、上半身を小刻みに揺らしている。無表情の褐色男は相変わらずどこを見ているのかわからなくて、この状況を喜んでいる様子は皆無。

 そして、動く鎧からは嗚咽が聞こえ始めていた。


「おうっ……、うっ、うう……」


 褐色男以外の視線が、動く鎧に向けられる。ユーリ少年は困った顔で大人たちへ視線を投げたが、騎士団長と大臣、双方とのアイコンタクトを重ねた上で、鎧の涙は無視すると決めたようだ。


「この召喚についてですが、すべての世界のあらゆる姿かたちの近い勇者たちの中から、最強の四人を選んで皆様方に来ていただきました。召喚の期限は魔王が倒されるまでです。そういう条件の召喚ですのでとにかく、皆さんには魔王を倒して頂くほかありません」


 嗚咽のボリュームが一気に上がる。エルフ男は大きな音で舌打ちをし、金髪王子は右手にはめた白い手袋の人差し指部分をきりりと噛んだ。


 美羽としては、うわー強引な条件だあと思う。

 それは他の四人とは違って「嬉しくてたまらない」ものであり、とにかく前向きなエキサイトしか感じていない。


「異世界召喚とか、そうじゃなくっちゃね!」

 右手を固く握りしめて思わずそう言い放つと、褐色男を除いた全員が美羽に視線を向けた。

「で、で? 続きお願い!」


 ユーリは慌てた様子で手元の「書」に視線を戻している。

 他の全員からは特にコメントの類はないものの、部屋中から「なんだこいつ」ビームの集中砲火が始まった。しかし当たったところで美羽にとってはご褒美に他ならず、ダメージはない。


「はい、まず説明させて頂きますが、皆さんをお呼びした術の効果の中には言語の自動翻訳があります。使う言葉が勝手に変換され、意思の疎通が速やかに行えるようになっています」

 さすが魔法さんの力は半端ねえ、と美羽は思わず身をずいっと前に出している。

「魔王は北の森を抜けた先、ホーレルノ山頂付近に築いた城にいるとされています。魔王城までは四人の勇者様方と、オクヤマミハネ様、そしてリーリエンデ様の代行として僕が、いえ、私が一緒に参ります。道案内と雑用などは、僕が担当します」

 

 話し終えて緊張が解けたのか、ユーリはふうと息を吐き出し、可愛らしい顔にぱっと笑みを浮かべた。


「ここまでで何か質問はございますか?」

「はい、はいはい、はあーい!」


 勢いよく手を挙げたのは美羽だけ。一人ウキウキ丸出しの少女には、エステリア姫とその部下、いやこの部屋にいる全員が怪訝な表情を向けている。こいつだけは何かの間違いなんじゃないか、そんな疑問が表情の奥から溢れ、部屋に充満していく。


「えと、あ、はい、ブランデリン様」

 私の邪魔をする奴は誰じゃ、と美羽が顔をしかめると、動く鎧の手が小さく挙げられていた。先程女王の口からも出ていた「ブランデリン」という名は、この動く鎧のもので間違いないらしい。


「帰りたいです」


 頭からつま先までフル装備の金属に覆われているせいか、声は小さくて遠い。


「それは出来ません」

 ユーリの返答に、鎧の奥からはまたすすり泣きが漏れ出てくる。


「他にご質問は」

「はい! はいはいはいはいっ!」

「……では、ミハネ様、どうぞ」

 いやっほー! と椅子をぶっ飛ばし、ミハネはパジャマのまま立ち上がって吠えた。

「召喚の儀式ってどういう風にやるのか見せて下さい!」

「えっ? すみませんが、それはちょっと」

「できない。なるほど、じゃあねえ」


 魔王退治の旅にまったく関係ない質問を次から次へ、美羽はマシンガンのごとくユーリにぶつけていく。


「ミハネ様、勇者様たちをご紹介しますわ!」

 これ以上妄想家の攻撃に耐えられないと判断したのか、エステリアが立ち上がって叫ぶ。


「まずこちらは、騎士の王国ギュラネルからいらっしゃいました、ブランデリン・ウィール様です。とてつもない剣の使い手で、向かうところ敵なしの戦士様なのです」

 紹介されて、動く鎧はがっくりと頭を垂れる。

「そんな大したものじゃありません……」

 震えた小さな声は、こんな風に言っているように美羽には聞こえた。


「こちらの方は、プリアールからいらっしゃったヴァルタルエルガン……と……」

 次に紹介されようとしているのはエルフ男で、またまた大きく舌打ちをして顔をしかめている。

「ヴァルタルエルガルセル・レルエルだ」

 こんなに長くて「ル」ばっかりではエステリアが覚えられないのも無理はない。でもそのネーミングは、美羽の心をくすぐるセンスを備えていた。

 浮かれた切り札にテーブルの向こうから手を振られ、ヴァルタルは不気味そうに身を縮ませている。


「こちらはミミラー国からいらっしゃった、レレメンド・スース・クアラン様です。とても強い力を持った祭司で」

「わが心はディズ・ア・イアーンと共に」

 指をシャシャっと奇妙な形に動かしながら、レレメンドと呼ばれた褐色肌の男は重低音ボイスで女王の言葉を遮った。

 祭司。ゲームでいうところのプリーストか何かか、と美羽は脳内で漢字をあてはめながら考える。


「こちらはケルバナック王国の第四王子であり、大変すぐれた魔術師でいらっしゃる、レイアード・ヨスイ・ウーナ様です」

 最後に紹介されたのは金髪碧眼男で、やっぱりというか案の定というか、当然のごとく王子様だった。

 何が気に入らないのかはわからないが、エステリアの言葉にますます憂いの色を濃くして睫毛をふるふると震わせ、ナルシストよろしく自分を両手で強く抱きしめている。

「異世界召喚だなんて……。まったく、なんという運命なのだろう」


 四人の紹介が終わり、美羽は大きく頷いた。

 まだ名前は憶えられていないが、一緒に旅すれば嫌でも愛称で呼び合う仲になるに違いない。つまり、問題ない。


 至福の笑みを浮かべる妄想少女に、エルフ耳のヴァルタルが立ち上がって、びしっと人差し指と中指を揃えて向ける。


「で、あいつは? 勇者だの召喚だの随分と勝手抜かしてるけどよ、あいつが一番わかんねえ! っていうか怖え! おい坊主、あの変な女はなんなんだ。早く説明してくれ」


 ユーリは慌てて「書」へ目を落としている。

「それ、私も知りたい!」


 異世界召喚の術を使って呼ばれた「最強の勇者」たち。

 それ以外の「切り札」ポジションは一体何を意味しているのか――。


 誰よりも一番ワクワクしながら、美羽はユーリの言葉の続きを待った。

 

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[良い点] 哀愁ってギュンギュン放つものなの? 効果音のミスマッチ最高です!美羽の心境があらわれててめっちゃ面白いですー! 我慢出来なくて感想書いてしまいました!
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