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勇者御一行様マネジメント!  作者: 澤群キョウ
初日 超アグレッシブ異世界召喚
2/62

Dream is MAJI coming.

 リッシモ王国の北には、碧の海と呼ばれる樹海がある。その向こうにそびえ立つホーレロン山脈は一年中雪が降っていて、最も高いホーレルノ山の頂に「魔王」が封印されている。


 そんな伝説がまず、エステリア姫の口から語られていった。

 それは昔ばなし、夜なかなか眠らない子供をおどかす為の「お話」だと思われていたのだが。


「真実だったのです。氷の柱の中に封じ込められていた魔王はいつの間にか復活を果たし、森や谷の底に潜んでいた魔獣たちに力を与え、わたくしたちの国へ攻め入ってきました」


 リッシモ王国の前王スターランは戦いの果てに命を落とし、止む無く一人娘であったエステリアが後を継いだ。騎士団も兵士たちも、戦いに縁のなかったあらゆる国民たちが力を合わせて魔獣たちの攻撃を食い止めてきた。でも、それもそろそろ限界に近付いている。


「それで、それで?」

 嬉しそうにテカテカの顔で話を聞く少女に、冷たい視線が突き刺さる。

 これはいけないと背筋を伸ばし、美羽はしゃんと座りなおした。


 過去に作った「アルティメイテッドファンタジー」とよく似た筋書きだ。

 美羽の超大作妄想の場合、辺境からやってきたある青年によって世界は救われる。途中で魔法使いの美女や、引退した元騎士の爺さん、妖精族の女の子なんかが加わって、戦ったり仲間割れしたり、最後はやっぱり力を合わせた彼らの手で魔王は倒され世界に平和が戻る。

 ごくごくノーマルな異世界冒険ファンタジーなこの話を作ったのは、確か小学校低学年の頃だったか。


「魔王の力は圧倒的です。蘇った当初はまだ弱かった力が、時を経ると共に増しているのだと、占星術師は言いました」


 占星術師、という単語でお次のフィーバータイムがやって来た。

 でも、いやっほーなんて叫んだら横に立っている大臣と騎士のおじさんは怒り出すだろう。口と手に力を入れて、美羽は耐える。


「それに対抗するには、異なる世界より勇者を呼び出し協力を仰ぐしかない。そういった秘術が、王家に伝わっていると術師は言いました。それで、四人の選ばれし戦士を召喚したのです」


 来た。

 美羽の高揚はこの「句読点含む三文字」で完璧に表現されていた。


 美羽自身には戦う力はない。ごく普通の、人よりちょっと妄想力が高いだけの女子高校生だ。でもそこはもう、「異世界召喚」に付随するなんちゃらが補ってくれるに違いなかった。なにせ選ばれし者として召喚されたんだから、裏技的な卑怯なパワーアップがついてくるに違いない。


 いわゆるチートといわれているアレな力が、美羽にも既に宿っている。


 それは魔法なのか。魔法の名前を口に出して、決まったポーズをとれば手から炎の柱が飛び出してくるのか。

 それとも神に祈れば、癒しの力が溢れだしてきて騎士様の傷が癒えてしまうのか。

 もしくはこの世界では珍しい色のこの瞳に特別な力が宿っていて、見つめただけで魔獣が大人しくなって操れるようになるのかもしれないし、人差し指を立てたらそこからビームが出ちゃうのかもしれなかった。


 このワクワクドキドキをどうしてくれよう。椅子からちょっぴり腰を浮かせて、美羽は思いっきり前傾姿勢をとっている。スキージャンプの選手のように構えて、瞳をキラッキラに輝かせながら女王様の次のお言葉を待つ。


 さあ来い! どんなポジションもこなしてやんよ! と張り切る美羽の耳に届いたのは、考えていたものとは少し違う言葉だった。


「ところが、選ばれし四人の戦士には……、少し問題があるのです」


 うん? と目を見開いて美羽は絶妙な表情を作っている。


 エステリア女王の台詞と憂いに満ちた表情。噛みしめる。噛みしめてみると、いや、特にそこまで噛みしめなくても、「四人の選ばれし戦士の中に美羽は含まれていない」ことくらいすぐにわかった。


「え、じゃあ私は?」

「ミハネ様、さすがでございますね。ご自身に特別な運命が課せられていると、もうお気づきになられたなんて」


 瞳を寂しげな色に染めながら、エステリアは小さく微笑んで見せた。

 あなたが天使か、と思わず立ち上がる美羽に、騎士の男が腰の剣に手をやって構える。


「四人の勇者様たちに魔王を倒してもらう為の切り札、それが、そう。……ミハネ様なのです」


 美羽はテーブルに手をついたまま、雷に打たれたがごとく痺れていた。

 なにそれかっこいい。なにそれ素敵な響き。目を閉じてうっとりとひたる「切り札」に、女王はますます困惑してしまったようだ。


「あのう、ミハネ様。ミハネ様?」


 何せ、想定していた反応とは全然違う。驚き戸惑い、怯える。召喚された者は不安で落ち着かないはずだから、丁寧にもてなし、詳細に説明をしなければならない。術師から散々言われていたのに。

 事実、四人の勇者はそれぞれに説明を求めてきた。

 彼らの反応は少しずつ違っていて差はあったけれど、それにしても美羽のそれはまったく異質過ぎる。


「え、はい。はいはい、なんでしょう」

「勇者様たちをご紹介したいのですが、よろしいですか?」


 オッケーでーす! と人差し指と中指を立てるポーズを決める美羽は一体なんなのだろう。エステリアの方が戸惑っているし、落ち着かない。


「ミハネ様、まさか召喚されるのは初めてではないのですか?」

「え? いえ、実際にっていうのは初めてですよ。脳内シミュレーションではそれこそ、一万じゃきかない位呼ばれてきましたけどね」


 四人の勇者を待たせている部屋へ向って歩きながら、エステリアは戦慄を覚えていた。一万じゃきかない程、呼ばれた。目の前にいる少女は自分と同じくらいの年齢にしか見えないのに、どれほどの修羅場をくぐってきたというのだろう。

 魔女や魔術師の類ではないと占星術師は言っていたけれど、普通の少女がどうやって一万もの召喚を受けられるというのか。


 人智を超えた存在――。エステリアは思わず、隣を歩く大臣へ目をやった。

 その隣を行く騎士団長のライエーンともども、顔がすっかり蒼ざめている。

 

 そんな異世界のおえらい様方の慄きにはまったくお構いなしに、ルンルン気分で美羽は進んだ。慣れれば心地いいばかりの分厚い絨毯に足の裏をくすぐられながら、廊下の外に見える風景へと目をやる。

 青々と広がる森。その向こうに見える高い山。そしてど真ん中にそびえたつ、ひときわ不吉な黒い雲がかかる暗い(シルエット)


 あれこそ「魔王」が封印されていたというナントカ山に違いない。

 美羽の心はますます沸いて、笛吹ケトルのごとくピューっと鳴り始めた。ハートは既に、すっかりトップスピードに乗っている。


 廊下でダッシュを決めた瞬間、即座に騎士団長に止められ、美羽は舌をぺろっと出してごめんなさいと謝ると改めてエステリアたちの後ろについた。どう対応したらいいかわからず戸惑いの表情を浮かべる三人の後を大人しく進み、廊下の先に見えたのは大きな大きな青い扉。

 上品でさわやかなロイヤルブルーに心が再び沸騰し始める。

 銀色のドアノブには太ったトカゲのような生き物の彫刻があしらわれ、ところどころに輝く石が散りばめられていてとにかく豪華だ。

 特別な部屋。美羽の胸は高鳴り、脈打つ音が大きすぎてもう何も聞こえない。


「失礼します」

 大臣が先導して扉を開くと、中には三人の人影があった。

「お待たせ致しました、皆さん」


 長い長いテーブルの真ん中と角に一人ずつ席についている誰かがいる。一人は部屋の隅で腕を組んで立っていて、美羽としてはそれぞれの容姿にキャアキャア言おうか、それとも一人足りないんじゃない? とつっこもうか、どちらを優先したらいいのか悩ましい状況だ。


 テーブルの真ん中付近に座っているのは、少女漫画から出てきたかのような金髪碧眼の美男子。

 肩につくくらいの長さのストレートの髪はキラキラと輝いている。まつげバッサバサの青い瞳は美しく、麗しビームを延々と全方向に向けて放ち続けている。

 真っ白い肌、すうっと通った高い鼻筋、ちょっとだけ開いた薄い唇。すべてがパーフェクトに整った美形中の美形、いや、キングオブ美形と言ってよさげであり、袖が大きく広がった黒い長いジャケットからしてどう見ても「王子様」だ。

 エステリアと並んで立って頂きたいし、そのまま結婚式を始めてもらいたい。そう思えるほどに、完璧なプリンスがそこに座っている。


 もう一人、奥で控え目に座っているのは、浅黒い肌にウエーブのかかった長い黒髪を持つ男。

 視線はまっすぐ前、一点を見つめたままで動かず、エステリアも、美羽も、誰のこともまったく見ていない。

 服装は王子様とは正反対で、簡素極まりない。長い布をぐるぐる巻いたら服になったよ! くらいのイージーファッションに身を包んでいる。布は二枚あるのか濃い緑と生成りが交差しており、どう巻いてあるのかまではよくわからない。

 長い髪は頭の上の方でくくられているが、顔の横にも少しずつひらひらと垂らされている。まったく動かない表情は少し不気味だが、顔立ち自体は悪くはない。いや、むしろイケメンの部類に入れておきたい端正さだ。


 部屋の奥にある暖炉の脇に立っているもう一人の姿に、美羽の心は更なるエキサイト成分を注入されていた。

 派手な色の珍妙なつなぎ状の服を着ている男の耳はぴょいーんと長い。いわゆるエルフ的な耳を持った男は、白い肌にグリーンの色男風の垂れ目、薄い水色というあり得ないカラーリングの髪を長い長い三つ編みにしてぶら下げている。

 エルフだエルフだわっしょいわっしょい。ビバ異世界、ウエルカム異種族! 美羽の心はますますヒートアップしていく。


 犬のようにハッハと息を吐く美羽の視線に気が付いて、エルフ男は不愉快そうに顔をしかめてみせた。


「なんだ、お前」


 ぺっと唾でも吐きそうな雰囲気だったが、妄想家の少女はこの異世界異種族間コミュニケーションにむしろ昇天寸前の状態だ。

 

 えへへと頬を緩める美羽に一同ドン引きの様相だが、妄想・家元にはそんなの全然関係なかった。

 

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