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勇者御一行様マネジメント!  作者: 澤群キョウ
1日目 まずはメンバーの把握からいこうじゃないか!
14/62

夜は素敵な妄想タイム 朝も素敵な以下同文

 食事を終えて、一行は眠りにつこうとしていた。

 美羽としては、あれ、区切りもないところで男ばっかりじゃんである。異世界のジェントルマン精神はやはり地球上のものとは違うようで、その辺りに言及する者は一人もいない。

 

 女子として見られていないのか、思っていても口に出さないのか、それともやっぱり十万才の魔女だと思われているのか。わからないがとにかく、ミハネ、いいだろう? へっへっへ、みたいな流れはなさそうな空気であり、残念なような、良かったような。十六才の女子高校生の気分は複雑だ。


 魔法の天幕というだけあって、テントの中はすこぶる快適。中は適度な温かさであり、六人分の寝具もある。ついでに、ものすごく強い物以外は魔獣も入れないらしい。

 順番で見張りというファンタジックな展開はなく、それについてもやっぱり残念かつ安心だった。


 天幕から一人でそっと外へ出て、美羽は空を見上げていた。今日も星はビッシリ、空を真っ白に輝かせている。お星さま、今日も素敵な異世界体験ありがとう。色々あったけど、私は超元気です、なんて思いながら、両手を広げて体を伸ばす。この後は今日あった出来事と、判明した新事実をノートに書き留めていこう、そうしよう、と決めた瞬間、声が聞こえた。


「ミハネ様……、ミハネ様……」


 慌ててキョロキョロするが、周辺には誰もいない。天幕の中を覗きこんでも、レレメンドがおかしなポーズで黙祷しているだけで、他の面々は疲れていたのか既に眠りについている。


「ミハネ様……、エステリアです……」


 テレパシーってやつですか! と一瞬でテンションを沸騰させた美羽だったが、すぐにそうじゃないと気が付いた。腰につけた小さな道具袋の中に、ちゃんと入れたはず。慌てて袋を開けてミニ水晶を取り出すと、小さな玉の中には麗しいお姫様の姿があった。


「エステリア様!」

「ミハネ様、ご無事で何よりです。皆さま、お怪我などはありませんか?」


 水晶でお話なんて……。まずは喜びを全身で噛みしめながら、美羽は唸った。

「ありましたけど、治しました!」

「まあ、やはり、魔獣との戦いは避けられなかったのですね?」

「はい。でも、ウーナ王子の魔法でボーって! あっという間に焼いちゃいましたから」


 今日の行程であった出来事のうち、話して良さそうな部分だけをかいつまんで報告。勇者たちの仲はそこまで良くはないけれど、なんだかんだみんな魔王を倒す気持ちはあるようです、なんて無難なまとめを最後につけておく。

「そうですか。本当に何よりです。ミハネ様、ありがとうございます」

「いえいえ、とんでもございません」


 今日はこれからみっちり反省会、ただし参加者は一名、会場は脳内、だ。本日判明したあれこれを明日に活かさなければならない。

 ウーナ王子の火力は高いけれど、やり過ぎたら倒れてしまう。ブランデリンの兜はやっぱり外させなきゃいけないし、ヴァルタルには余計な発言を控えさせなければならない。

 

「ミハネ様、ご不便はありませんか? 食事は口にあいますでしょうか」

「全然、問題ないですよ!」

 

 あるにはあるけれど、トイレの話だ。水洗トイレが欲しいと言ったところで、用意される訳がない。みんなから離れてさっさと済ませるしかない、とんだワイルドライフだけれど、そこがまたファンタジーでいい。おそるべきポジティブさで、こんな問題も乗り切れるさと美羽は無駄に自信まんまんだ。


「もしも何かあったらお伝えくださいね。私たちも、出来る限りお手伝いさせて頂きますから」


 小さく首を傾げて微笑むエステリアは、それはもうどうしようもなく愛らしかった。一日、王の仕事をこなして疲れているんだろう、髪が少しだけ乱れている。それでも、美羽たちを心配して語り掛けてくれたのだ。

 うっかり爆睡してなくて良かった。女王様ありがとうございます! と美羽のテンションは就寝前だというのに天井知らずで上がっていく。


「わかりました。エステリア様、お疲れ様です」

 おやすみなさい、でこの日の通信は終了。天幕の中へ戻って、空いているベッドに潜り込む。


 簡単な造りのベッドだと思っていたら、案外寝心地はふんわりとしていた。

 暖かい布団の中で目を閉じて、美羽は考える。今日について、明日について。


 異世界に来て、二日目が終了。


 お父さん、お母さん、心配してるかな……。


 両親と、飼っている犬のワンダーとスティービー、ついでに兄の顔を順番に思い浮かべながら、美羽はニヤーッと笑った。

 一度やってみたかった、「家族へ思いを馳せる自分」に笑いが止まらない。


 よく考えてみたら、ヘラヘラ笑っている場合じゃない――。

 夏休みに入ったところなので学業については心配ないが、娘が忽然と姿を消したとなれば家族は騒ぐだろう。警察沙汰になっていたらどうしようかな、どんな顔して帰ればいいんだろう? と美羽は朝から無駄に悩んでいた。どこに行ってたんだと聞かれた場合、なんと答えるのがベストか。

 いつか「神隠しの美羽」なんて通り名が付いたらカッコいいが、ただの家出少女と呼ばれる可能性も高い。

 ついでに他の面々の事情についても考えて、並んで朝食をとっている間に美羽はこんな質問をぶつけた。


「皆さん、召喚された瞬間はどこで何をしていましたか?」


 異世界に来て三日目の朝。外は清々しい晴天だが、勇者たちの表情はどんよりと暗い。


「私は、自分の部屋にいた」

 最初に口を開いたのはウーナ王子だった。王子様なんだから、お城の中で寛いでいたのかもしれない。

 第四王子で、王位継承権が一番後回しな人の日常はどんなものなのか。想像はつかないが、そこまで忙しくはなさそうだという気もする。


「ミハネは? どうしていたんだ?」

「私はそろそろ寝ようかなって思ってたところでした。自分の部屋で」

 寝巻で来ちゃいましたからね、と笑ってみせると、ほんの少しだけ淀んでいた空気が和んだ気がした。

「ヴァルタルさんは?」

「俺は、……まあ、話した通り、収容所にいたよ。別に何も、あそこですることなんかなくってよ」


 正直にこう呟いて、ヴァルタルはウーナ王子の様子を窺っている。既に天敵認定し合っているのか、王子はふふんと鼻で笑い、囚人は悔しそうに歯ぎしりをして応えた。


「ブランデリンさんは」

「……私は、……屋敷におりました」

 

 なんでそんな死にそうな人みたいな話し方するの、と美羽は思う。

 何があったの? と想像する横では、何故か天敵同士がタッグを組んで気弱な騎士をいじり始めていた。


「さては弟の結婚を知らされたところだったんだな?」

「なるほど、弟が自分よりも先に、しかも自分が思いを寄せていた相手と結ばれると聞いてそんなにもショックを受けているのか」


 楽しい朝ご飯の時間はこれで完璧に台無しになった。

 ここまで落ち込むんだから、二人の指摘は当たっているんだろう。ブランデリンは鼻をすすりながら涙をポロポロと流し、ちょっと気が晴れたのか、王子と囚人は小さく笑みを浮かべている。


「いじめないでって言ってるのに」

「単純に事実を指摘しただけだ。泣いているのは彼が弱いからだろう?」

「殿下は随分ヒョロヒョロのミモーナみたいだけどな」

「囚人は黙っていろ!」


 もうちょっとだけ弱くて、ギリギリ魔王を倒せる程度の強さだけど、お互いに思いやりのある勇者さんたちという組み合わせはなかったのか。

 早速諍い始めている二人と、さめざめとなく騎士、一人違う世界にいるような静かな祭司を見て、美羽もさすがにちょっとだけげんなりしていた。


「もー、小学生みたいな喧嘩しないで欲しいなあ」

「ミハネ様、ショーガクセイとは何ですか?」

「ん? 子供のことだよ。ユーリくらいまでの年の子が通う学校があってね」

「酷いです。僕はあんな風に人を悪く言ったりしないです!」

 

 ごめんごめんと慌てて謝ったものの、テントの中の空気は最悪だ。


「もー、いいから食べよう。食べて出かけよう!」


 水をぐいっと飲んで、美羽は小学校の詳しい説明をユーリにしていく。

 あくまで年齢の例えとしてであり、そこはもっと小さい頃から通うものであって、年端のいかないこどもたちがするような幼稚な喧嘩だと言いたかったのだと伝えると、魔法使い見習いの少年はほっと安心したようだった。

「そのような学校があるのですね。それは、貴族の子弟が通うところなのですか?」

「ううん。私のいた国の場合は、決まった年齢になったらみんな通うんだよ」

「なんですって? どの家の子供も通うなんて、どうやったら出来るんですか?」


 説明しようとしてみると、こんなに難しい話もなかった。

 このファンタジーな世界の住人という前提に立って想像してみると、むしろ美羽の世界こそがファンタジーなんじゃないかと思えてきて、それはそれでめちゃめちゃに面白い。


「ユーリ君、新しいネタをありがとう」

「はあ」

「お互いの世界を行き来できたら面白いのにね。そういうのって、無理なの?」

「どうでしょう。無事に戻った後、リーリエンデ様に聞いてみましょうか」

「いいねー。ユーリが日本にトリップしたらどうなるか、っていうのを今夜試そうかな」


 美羽の「試す」はもちろん寝る前のお楽しみ妄想タイムの話だが、ユーリは急に笑顔を消し、何をされるのかとあからさまに警戒し始めている。


「それにしても、アレだね。こんなにチームワークが悪かったら困っちゃうな。あとどのくらいで魔王のお城に着くと思う?」

「何の問題もなければ、十日ほどの道のりだと聞いています」

「十日か……」


 顎に手をやり、美羽は考えた。十日で戻れれば、ただの家出少女で済むだろうか。

 これが伸びに伸びて一ケ月以上かかると、夏休みの課題が大ピンチな上、警察沙汰になるのは必至だ。


「ミハネ様、何か策を考えていらっしゃるのですか」

「ううん、あんまり長いと親が心配するなあってだけ」

「ご両親が? どうしてですか?」

「だって何にも言わずにいなくなったんだよ? 私だけじゃなくて、みんなもそれぞれ心配されてるでしょ」


 ブランデリンはしくしく泣きながら頷き、ウーナ王子は黙り、ヴァルタルは口をへの字に結んでしまった。レレメンドにはまったく変化はなく、出されたパンをもぐもぐ食べている。


「それは心配いりませんよ。だって魔王を倒した後、召喚された瞬間に戻されますからね」

「えっ?」


 なんでそれを先に言わないんだ、と美羽はユーリに後ろから抱き付き、頭をグリグリとしてやった。

 いっぺんやってみたかった「仲良しの男の子の頭グリグリ」を経験できて、至福の時間が流れていく。


「そうなのですか?」

 涙を拭きながらシャキっと立ち上がったのはブランデリン。

「そうなのです。すみません、説明する事柄がたくさんあって、伝えそびれていました」


「少し、安心しました」


 騎士はほっとした様子で、微笑みを浮かべている。


「カッコいいじゃーん!」


 初めて見せてくれた笑顔を美羽はすかさず褒め、これで勝てる! 今日もはやいとこ出発じゃあ! と全員の口にパンを詰め込んでいった。

 

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