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勇者御一行様マネジメント!  作者: 澤群キョウ
1日目 まずはメンバーの把握からいこうじゃないか!
12/62

戦闘×逃避×哀愁×傷口×塩=涙

 一行は再び隊列を組んで、北へと向かう。

「ねえユーリ、途中に街とか村とか、ないの?」

「見ればわかると思いますが、ありませんよ」


 ブランデリン、ヴァルタルの焦がされコンビが前を行き、ユーリ、美羽の非戦闘員が続く。その後ろはウーナ王子で、最後を歩くのはレレメンド。

 気を取り直し、お互い理解をしての再出発のはずが、さすがに「心から理解し合える仲間になったよね」みたいな展開はない。炎の塊をぶつけられて焼かれた二人と、焼いた魔法使いの王子様との間には険悪な空気が流れている。

 ちょっとでも明るくなるようにと、ユーリと美羽はことさら大きな声で会話を交わしているが、他のメンバーは加わってこない。ないまま、寂しく一時間は経っただろうか。

 

 道の先に、何かが見える。舗装されていない土丸出しの道の上に、もうもうと煙が上がっている。

「なあに、あれ」

 ブランデリンとヴァルタルも気がついたらしく、振り返ってユーリに確認をしている。


 どれどれ、と前へ出て、すぐに青ざめた顔で振り返って少年は叫んだ。

「あれは魔獣です!」

 イヤッハー! 心のラッパを吹き鳴らし、美羽はとりあえず身を低くして構えた。でも、すぐにはっと気が付く。巻き込まれたら絶対、ヤバイ。


 土煙の向こうに浮かぶシルエットは大きい。まっすぐ一直線に走ってくるそれは、みるみる拡大されていく。

「や、どーしよ! ユーリ、どうしよう!」

「後ろに下がってろ」

 ヴァルタルにシッシと手で追いやられ、無力な少年少女は揃って四人の勇者の後ろに隠れた。


 一番前にはカクカク震えるブランデリンが。その横にはその辺で拾ったのか、細長い棒を持ったヴァルタルが立っている。ウーナ王子とレレメンドは揃って、ゆっくりと前衛二人の後方につく。


 さあショウタイムだ! 

 美羽は本日、もっともエキサイティングな時間を迎えようとしていた。


 ズドドと音を立てて駆け寄ってくる魔獣たちの姿が、ハッキリと見えてくる。

 拳をかたく握りしめ、呼吸をするのも忘れて美羽は目の前の光景を見つめていた。


 最強の四人の勇者たち。どんな戦いをするのか、まったくもってワクワクが止められない。心臓の脈打つ音がやかましい。耳のすぐ上で、ドッカンドッカンと爆音を上げている。


「ミハネ様……、僕、怖いです!」

 ユーリが小さな手で裾を握りしめてきて、美羽はそれに満面の笑みで答えた。


 本当は、ヤバ過ぎて笑っていられる状況じゃない。

 そういや、生き返りの魔法なんてものはこの世界にあるんだろうか?

 もしかしたら魔獣が突っ込んできて巻き込まれるかもしれない。そう考えたら、やっぱり怖くて足が震える。怪我をしたらどうしよう? あの無口な邪神の祭司は、自分の傷も治してくれるだろうか?


 これでもかというほど散々湧き出してきた不安が積もりに積もって、山になっていく。圧倒的な絶望。心の中の小さな美羽は、年頃の少女らしく震えている。

 異世界に来て、魔物に襲われて死ぬかもしれない! 

 きゃあ、いやああああ! 美羽は叫ぶ。目を閉じ、両手を突き出して。でも、ちらっと舌を出していたりして。だって大丈夫。突き出した両手からは巨大なビームが発射され、不安の山は一気に崩れ去っていく。


 その中から現れたのは、キラリと光る七色の希望。


 目の前に立つ戦士たちの後姿はどうしようもなく凛々しくて、イケメン勇者さんたち四人が構えている姿がカッコよすぎて、鼻血が出る寸前の変なグスグス感が顔のど真ん中辺りにある。


「大丈夫、ユーリ、だって最強の勇者なんだよ!」


 それもただの最強の勇者じゃあない。

 「異世界から選りすぐった」最強の勇者だ。


 どうだ、見ろ! と美羽が指をさした先では、剣を抜いてもいないブランデリンが鎧ごと吹っ飛ばされている。


「うええええ?」

「何やってんだ、このでくのぼう!」

 ヴァルタルの舌打ちが響く。緑色というとてもわかりやすい悪役カラーの巨大な二足歩行の何かは、トゲトゲ付きのこん棒を持って振り回している。

「あれだ、あのゲームに出てくる中ボス的なヤツだ!」

「ミハネ様、ご存じなんですか?」

 知らない、似てるだけ! とは言えず、美羽はブランデリンのもとへ駆け寄った。


 ゴイーンと鈍い音がしたはずだが、特にへこんでいる箇所もなく、鎧には細かい傷がついている程度のようだ。頑丈で良かった。さすが防具と感心しつつ、美羽は騎士の安否を確認していく。


「ブランデリンさん、大丈夫?」


 敵は一体ではなく、いくつか小さい影のオマケも見えた。いっぺんに何体も相手にして大丈夫か。今チカチカ光が瞬いているのは、ウーナ王子の魔法だろうか。

 戦いの様子が超見たい。

 ヴァルタルが持っていた細い棒は何なのか、ウーナ王子の魔法使い姿はやっぱり美麗なんだろう、あと案外レレメンドさんも活躍していたりして。

 目を閉じれば浮かんでくる、三人のイケメンの雄姿。

 けれど、吹っ飛ばされた騎士だって気にしてやらねばなるまい。マネージャーなんだから!


「うう、ミハネ殿……」

「ミハネ殿ぉ、じゃないよ。立って! 最強の剣の使い手なんでしょう?」

 助け起こそうと必死で腕を引くが、重い。

「うぼああああああ」

 そして背後から聞こえてきたのは断末魔。振り返ると、戦闘は既に終わっていた。


 秒殺マジカッコイイ。

 感心と、戦闘シーンを見られなかった哀しみ、奮起させようとしていた騎士がついている安堵のため息への怒りが混じって、美羽の顔は今ほぼブルドッグになっている。


「すごいです、ウーナ様!」

 ユーリは目をキラキラと輝かせて殿下の前で尻尾を振っている。道の脇にはコゲコゲになった何かがいくつも落ちているあたり、王子様の特大ファイヤーで片が付いたのだろう。

「騒ぎ過ぎだ」

 ヒューッ、クールゥ! と美羽も思うし、彼の前で思う存分尻尾をパタパタ振りたい。けれど、ウーナ王子以外の勇者たちの雰囲気は最悪だ。


 ヴァルタルは苦虫を噛み潰したような顔で、多分八つ当たりなのだろう、隣に立つレレメンドの胸をドンと押している。

 いつもは視線を宙から動かさないはずの祭司はギロリと乱暴な盗賊を睨んでいて、「やんのか? なんなら今すぐ殺っちゃうよ」的な危険なオーラが染みだしており、ヴァルタルは早く逃げないと危ない。


 そしてブランデリンはガックリと落ち込んでいる。

 

 倒した魔獣の詳細はよくわからないし、お金も落とさないし、宝箱も持っていなかった。

 モンスター図鑑も埋まらず、得る物もない。じゃあ、隊列をまた組み直して、進むしかない。


 でも、このまま進んでいいのか?

「ホントにチームワークが悪いんだね」


 嫌がるヴァルタルを無理やり先頭にして、二番手にブランデリンを据える。美羽はその隣に並んで歩いていた。

 すぐ後ろにはユーリ、続いて王子と祭司。後ろの二人のポジションは変わっていない。


「ブランデリンさんは何が駄目なの? 戦うのが怖いの?」


 最強の剣の使い手である騎士が、戦いの度にヒャーイヤーンコワーイでは困ってしまう。何の為にそんな大層な鎧着てんだよであり、最強騎士の剣さばきなんてどう考えても超見たいし、是非見たい。

 兜を取ったら精悍な顔をしたイケメンであるところの最強騎士様がマントを翻して、出てきた敵の四天王と、それも罠とか卑怯な手は使わない正々堂々と挑んでくるパワータイプのヤツと戦うところをどうしたって見たかった。


「人前に立つのが恥ずかしいだけ?」


 美羽は質問を重ねていくが、鎧はガチョンガチョンと音を立てるだけで返事をしない。


「じゃあ、まずは兜を取ろうよ」

 

 返事はまたガチョン、だ。突然ブランデリンが足を止めたせいで、ユーリがぶつかって転び、地図がひらりと道の上を舞っていく。


「質問に答えなくてもいいから、とにかく顔は見せて。これから一緒に魔王倒しに行くのにまともに顔も知らないなんて、そんなの困るでしょ。他の人達はブランデリンさんの顔見てないんじゃない?」

「ちらっとだけ見ましたよ。召喚された時には兜、脇に抱えてましたもんね」


 今はそんな余計な話しないで欲しいと思いつつ、ユーリの真面目さはやっぱり可愛い。少年の頭をヨシヨシして黙らせ、美羽は続ける。


「もしも、邪悪な魔法使いが出てきたとしてだよ? そーっとブランデリンさんに魔法かけるじゃない? 鎧の中身、こっそり変えてきたりとかしたらどうよ。別人が入ってても、だーれも気が付かない可能性、あるよ」


 この場合、邪悪な魔法使いはやったらセクシーな美女だ。肌は褐色の爆乳であり、夜の方の女王様みたいな格好をしていて、手に持たせるなら鞭の一択である。

 戦って何度か撃退しているうちに彼女は怪我をして、勇者さんたちのうちの誰かに助けられ、その恩はちゃんと後で返してくれたりして、最終的に戦って倒される時に愛の告白をして、来世では一緒になろうと約束をするようなキャラクターに違いない。


「私は、……私は、どうしたって戻らねば、ならないんです。その為には、絶対に死ねない!」


 慌てて妄想スイッチをオフにして、美羽は真面目モードの顔を作った。

「何か、あったの?」

「結婚式なんです。私の、大切な、弟の……結婚式がもうすぐ、あるんです」


 騎士の家の長男、二十一歳、独身、婚約者なし――。

 脳にインプット済みのプロフィールを引っ張り出して、美羽は目を閉じた。

 弟の結婚式。めでたい話の割に、妙な切なさがブランデリンから滲んでいる。


「なんだお前、弟に先越されたのか? ピョッピーだな!」


 意味不明の単語で吹き出しそうになるのをこらえ、ニヤつくヴァルタルをシッシと追い払う。

 容赦ない言葉を浴びせられた騎士様は切なさに加えて、哀しみを丸出しにして泣き始めてしまった。


「もしかして、図星?」

 なんて聞ける訳がない。では、どう声をかけるべきか。


 ただ単に先を越されただけで、泣くほど悲しんだりするだろうか?

 もっと深い事情があるとか?


「まさか、思い人を弟に奪われたんじゃなかろうな?」


 悩んでいる隙にこんな余計な口出しをしてきたのはウーナ王子で、ブランデリンの泣き声はグレードアップ。

 おろろーん、おろろーんと草原の風に乗っては千切れていく。


「会話に参加してくれるのは嬉しいけど、傷口に塩を塗るのはどうかと思うよ」

 

 一旦行軍を止めて、お説教タイム。しかし、異世界異常識の壁は厚かった。


「傷口に塩を塗るというのは、とんでもなく贅沢な自虐行為という意味か?」

「わかりました、ウーナ王子の世界では、塩は高級品なんですね?」

「隣のミルミーナの特産品だが、彼らはわが国では取れないと知っていて値をふっかけてくるのだ」

 強欲で汚い連中め、と王子様はすっかりおかんむりだ。


 散々悩んだ挙句、美羽は結局「ブランデリン君をいじめてはいけません」で話をまとめた。

 勇者たちからの返事は、なかった。


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