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10歳になった。ようやく胸も膨らみはじめてきた。自分が女だってことを再認識させられた。
いや、それだけなんだけどね。
まあ女であることは認識してたし、諦めてもいたんだけど……。
あれだ。10歳になってからお披露目だとかで人前に出る機会が増えた。
父は僕を見せびらかせたいらしい。
気持ちはわかるけど……。でも疲れるのでやめてほしい。
10歳になった僕は、自分で言うのもなんだけど凄くなった。5歳の頃でも十分可愛かったのだが、さらに輪をかけて……綺麗になったとでもいうのだろうか…?
とにかく凄い美少女だ。
銀の髪は下ろせば腰まで伸びていて、青い瞳も色が深くなった気がする。
肌も雪のように白くて、まさに美少女というのに相応しい、と自分でも思うのだ。
そして婚約の申し込みが馬鹿みたいに来ているらしい。
まあ、父がまだ早いとか言って全部突っぱねているらしいけど。
でも、婚約かぁ……。僕はお姫様だからやっぱり結婚をしないといけないんだよね。
だけど、今の僕は女。相手はもちろん男になるわけだけど……。どうなるんだろう?
さすがに結婚しないってわけにもいかないし、男の人を好きになれるのかなぁ?
こればっかりはその時になってみないとわからないけど……。少し憂鬱だ。
そうそう、こういった世界にお約束の魔法なんだけど……ないんだって。
というか、見たことがない。本などを読んでみてもそれらしい記述はない。
一応、冒険譚みたいなものには魔法の記述があるんだけど、どうなのかな?
でもお城の中には魔法使いっぽい人もいないし、やっぱり魔法は無いと思っていたほうがいいな。さすがに魔法があるなら一度くらい見たり聞いたりしているだろうしね。
ああ、お気づきの人もいるかもしれないけど、僕の言葉遣いが女っぽくなっているでしょ?いつ頃からなのかは分からないけど、自然とこうなって来たんだ。
あれかな、精神は身体に引っ張られるってやつ?
いつの間にか自分が女だってことが気にならなくなっていたし、そういうものだと思っているんだけど…。
このまま心まで女になってしまうんだろうか?
それはそれで悲しいような、でも正しいような……。
「エミリア、何をしているんだ?」
「エドお兄様!」
ぼーっと考え事をしていると、上の兄に声をかけられた。
今いるのはお気に入りの庭で、メイドのメアリーと一緒にお茶を飲んでいたところだ。
メアリーは傍に控えている。
「メアリーとお茶を飲んでいたところなの。エドお兄様もよろしければご一緒なさらない?」
今年で15歳になった上の兄は、王太子として忙しい日々を送っている。
おかげで僕と会うのは朝食の時のみという日も多いのだ。
「むぅ、そうしたいのは山々なんだが…この後は剣の訓練があるんだ。また今度誘ってくれ」
こうやって誘っても滅多に一緒にゆっくりすることはないのだ。
……でも誘わないと凄く不機嫌になるし、扱いが難しい。いや、簡単なのか?
「もうっ、いつもそうなんですから……。たまには私とも遊んでください」
わざと拗ねたように言う。これも毎度のことだ。全く面倒臭い……。
「わかったわかった。時間ができた時は声をかけるから、機嫌を直せ」
「約束ですよ?」
……本当に面倒なことだ…。
「イルお兄様!あら、お父様もいらしたんですね。今日はご一緒できますか?」
夕方、もう一人の兄のご機嫌伺いに行く。
これも行かないと機嫌が悪くなるのだ。全く、上の兄も下の兄も面倒くさい。
「おお、エミリア。朝見た時よりも可愛くなったんじゃないか?」
そして一番面倒なのが、この父だ。
「まあ、お父様ったら。数時間でそんなに変わりませんわ」
「そうか?いや、朝よりも可愛くなっているぞ。この胸とか大きくなっているんじゃないか?」
おい、娘にセクハラするな!
「もう、お父様!」
ぺしっと手を払い落して抗議する。これもいつもの事なのだ……。
「父上、何をしているのですか……。お母様に言いつけますよ?」
「ふん、娘の成長を確かめるのは親として当然の事だ!」
だからって娘にセクハラするなよ。
「はぁ…全く……。ああ、エミリア。今日は大丈夫だと思う」
ちなみにご機嫌伺いは夕食を一緒に食べれるかどうかだ。
この世界は一日2食+おやつなのだ。
朝は家族で一緒なのだが、夕食はそれぞれの都合でバラバラになることが多い。それで僕がご機嫌伺いを兼ねて聞きに行っているのだ。
父?わざわざ聞かなくても、強引に時間を作って一緒に食べにくるから問題ない。
それにむやみに近付くとセクハラされるし……。
「わかりました。では私はお母様に聞いてきますね。では後ほど」
そう言って下の兄の執務室を後にする。
さて……最後は一番問題の母のところだ。
「お母様、ご機嫌いかがですか?」
意を決して母の私室へと入る。
「まあ、エミリア。丁度よかったわ。こっちにいらっしゃい」
やばい。これはタイミングが悪かったようだ。
「な、なんでしょうか……?」
恐る恐る母に近づく。ここで逃げるという選択肢はない。というか出来ないのだ。
ここで逃げれば、次の日に何倍にもなって返ってくる。それを過去にこの身で学んでいるのだ。だから何かあるとわかっていても、近付くしか選択肢がないのだ。
「きゃっ」
背後からいきなり胸を掴まれた。いや、掴むほどは無いから揉まれた?撫でられた?
その手は背後に回った母の手だった。いつの間に……。
「貴女、少し胸が膨らんできているでしょう?ドレスや下着を新調しないといけないわ。さあ、お母様が測ってあげるから脱ぎなさい」
「え?私、まだそんなに膨らんでいませんから……」
「何を言っているの?女は身だしなみが大切なのよ?特に胸は最初のうちが大切なの。きちんと成長させるためには膨らみ始めた時から下着をつけないと……。胸が膨らみ始めたということは、お尻も大きくなっているはず。だからドレスも新調しないといけないの。それに私達が新しいドレスを作ることで、お針子や仕立屋の人たちにお金が回るのだから、これも王族の務めなのよ?自分で脱ぐのが嫌ならお母様が脱がせてあげましょうか?」
ええ?言っている事は正しいのかもしれないけど……。って待って!母に脱がされるのは凄く危険な気がする!
「い、いえ!自分で脱ぎます!」
と言っても、このドレスは一人で脱ぐことができないからメアリーに手伝ってもらうのだけど……。
「ぬ、脱ぎました……」
うう、恥ずかしい……。
僕の姿はシュミーズとショーツだけだ。この世界にコルセットは無い。だから肌の上につける下着はブラとショーツ、その上がシュミーズなどの肌着になる。
メアリーの前では裸になるのは慣れているのだが、他の人の前で服を脱ぐのは初めてなのだ。いくら母といえど恥ずかしい。しかも母の侍女が同じ部屋にいるのだ。
「「「ほぅ……」」」
なんか溜息が聞こえた。何だろうと思って見回すと、部屋にいた侍女がうっとりとした顔をしている。
「さすが私の娘ね。とても美しいわ……。でも、胸を測るのにシュミーズが邪魔ね。それも脱ぎなさい」
ええ!?これだけでもかなり恥ずかしいのに……。
僕が戸惑っていると、再び母の目が光った気がした。
「やはり私が……」
「すぐに脱ぎます!」
慌ててシュミーズを脱いで上半身裸になる。これで身を隠すのはショーツのみだ。
うう……なんでこんな目に……。
「くっ……私も貴女くらいの頃は……!」
なんだ?母の目が怖い……。
「私が直々に測ってあげるわ。手を広げて……そう、そのまま」
もう抵抗する気力もなく、大人しく母に従った。
「きゃっ、お母様……。やん、変なところ触らないでください!……あん……」
「ふぅ、これで一通りのサイズは測れたわね。やっぱりサイズがだいぶ変わっているじゃないの。これからは定期的に測り直さないといけないわね」
「うぅ……。次から測るのはメアリーにやってもらいます……」
やけにツヤツヤしている母と、ぐったりとして息を乱している僕。
侍女は顔を赤くしてあらぬ方向を向いていた。
「駄目です。私が測ります。期間は……そうですわね、成長期なので3ヶ月に一度は測りましょうか」
ええ~……もうやだ……。
がっくりと項垂れながら、母の私室を後にした。