リニアさんの講義―世界について―
おや、見ない顔だな。
……成程、お前はこの世界を遠くから見ている傍観者と言うわけだ。
ふむ、お前がこの世界で見ているのは……ああ、あの不運な男の話か。
お前名前は……そうか良い名前だな。私はリニア=ミムスだ。一応魔女なんてものをやっている。
で、私と接触をしたって事は何か質問事項があると言うことで良いんだな。
さて、何について聞きたい?
……この世界についての詳しい説明、か。
そうだな、確かにあいつの時には簡単な説明しかしていなかったな。
それに、もしかしたらお前はそこに立ち会っていないかもしれないのか。
良いだろう、説明するとしよう。
まずはこの世界の位置づけだが、そもそもこの世界は他の世界と系統が違う。
世界樹、ユグドラシルを例にとって説明してやろう。あれが一番説明しやすい。
もっとも、私が知っているものとは違うのかもしれないがね。
ユグドラシルでは枝分かれした分だけの世界がある。もちろん、お前の居る世界もその中に含まれている。
それらの世界とは違う次元の世界が2つある。1つは天界、つまりユグドラシルの頂上。ここに居るのは上級の神ぐらいだ。どんな場所なのか想像もつかんな。
そして、もう1つが混沌、つまり、全ての世界の要素を全部含んでいるユグドラシルの根元に当たる世界。我々はここに住んでいることになる。
全ての世界の要素を含んでいるのだから何が起きてもおかしくない。だから私のような魔女や天使に悪魔、それにお前達の言うところの怪物共が居てもそれが普通となっている。
発達した科学が流れ込んでくることもあれば、正反対の魔法文明が根を下ろしたりすることもある。
だが、1つだけ絶対に起こり得ない事がある。何だか分かるか? 誰もが一度は願いそうな望みだ。
……そうだ、死者を生き返らせることだ。これだけは例え混沌の中にあろうとも不可能だ。
生きているものは必ず死ぬ。まあ、この世界に居る連中はお前等の常識の範疇の生命力ではないがな。
さて、次はこの世界に居る連中はどうやってこの世界に来たのかを教えよう。
さっきも話した通り、この世界に居る連中は怪物その他人外が多いが、これについては世界間の移動にについて説明しなくてはならないな。
世界間の移動が起きるきっかけは多岐にわたる。
たまたま他の世界と繋がっていて巻き込まれたり、世界を渡れる連中に連れ攫われたり色々だが、最も多いのはその世界に適合できなくなって排斥される場合だ。
ユグドラシルでは、上の方ほどその世界での適合条件が厳しい。そして、そのほとんどがその下の世界の条件を全て含んでいる。
つまり、世界から不適合と言われた奴はユグドラシルの枝から下に落とされることになる。
当然下の世界にも条件があり、その条件に1つでも合致しないとその世界への介入を拒まれる。
不適合となる理由だが、お前等の世界で言うなら人間が人間であることを放棄した場合、などは大体何処の世界でも排斥されるものだ。
既に存在している個体の種の改変など許されるはずが無いからな。また、本来存在するはずの無い蘇生した死者などもこれだな。
……何でそんな奴が居るのかって? 知らん、私の知り合いは残機がどうとか訳の分からんことを言っていた。
話を戻そう。そして、適合できる世界が1つもなかった場合、この世界に落ちて来ることになる。
ああ、そうだ。私のように自ら望んで来る奴も居る。まあ、大体は迫害から逃げてきたものやただの物好きだがな。
それではその逆、この世界から上の世界へ行くにはどうするのか?
お前、木に登ったことはあるか? 下りるのはまだ楽だが、下りた分だけ上るのはそれなりの労力を使うよな?
此処では世界単位でそれが適用される。つまり、上の世界に適合するようにしなければならないと言うわけだ。
だが、そもそもそれが出来ないからこの世界に来た奴が殆どだ。
よって、此処の住人はほとんどが自力では上の世界に行くことは出来ない。
もちろん例外も居る。
例えば神と天使と悪魔。彼らは世界を渡り歩いて仕事をしている。そして、下のほうの世界を担当している神達はこの世界を拠点にして働いている。
その理由はこの世界は他所の世界との行き来が楽だからだ。此処に戻るときに条件は無いのだから、勤務先の条件に合わせておけば殆ど苦労することなく行き来できる。
もう1つの例外だが、自分が居た世界に呼び出される場合。これは私の知り合いなんかがそうだ。
間違いなくその世界の法則を破っているが、その世界にとってその者が必要な場合に呼び戻される事がある。
例外は他にもあるだろうが、一般人はそうも行かない。
だが、1つ方法がある。満月の夜に他の世界への道が開く。
他の世界に行きたければ行きたい世界を選んでその道を進めばその世界に行ける。
まあ、1日経てば不適合者として弾かれるがね。
ふむ、まあこの世界に関してはこんなところか。
今日は此処まで、お前の見ている物語の主人公が此処に来るからな。
また何か聞きたい事があったら来るといい。
それでは、な――――――