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ロースト俺、ってオイ。


 こないだの日記:俺は執事をやることと引き換えにプライドを守りましたとさ。……今に見てろ。



 あ~っと、此処の掃除は終わった。窓は太陽光がしんどかったがあらかた拭いた。恐らく一生使わんであろうやたらと大量にある客間も全部掃除した。

 ふ~っ、館の管理をすることになったのは致し方ないが、幾らなんでもたった4人にこの広さは広すぎるんじゃないかね? 使用人すらいないっつーのに。

 何しろ、その規模といったらヴェルサイユ宮殿に勝るとも劣らない規模なのだ。そんなもんを1人で管理しろというのは幾らなんでも無理があんだろうがよ。

 あまりの広さに難儀した俺はサバスに相談をしたんだが、聞いてみれば何ということは無かった。


 「ああ、建具等の修理や補強や点検などは1ヶ月に一度業者に頼んでいたのでございます。こちらがその業者の連絡先は……」


 という何とも常識的な答えが返ってきた。ああ、やっぱそうなんだな。

 しっかし、この館はツヴァイトスの町の外れの森の中にあるのだが、此処まで来るとは奇特な業者だ。

 ちなみに、ついでにこの滅茶苦茶キツイ掃除に関しても聞いてみたんだがサバスの答えは、


 「……気合です」


 「いや、気合で何とかなる広さじゃないだろ、この館」


 「KI☆A☆I、です。己の能力をフルに活用し、使えるものは何であろうとも駆使して館全体を磨き上げるのです!! ヴァンパイアの身体能力なら昼までには終わるはずです!!」


 等という凄まじい根性論が出てきた。

 ……意外と体育会系だったんだな、サバス。

 そう言うわけで俺はヴァンパイアの身体能力で全力疾走し、廊下の幅にピッタリな特注巨大モップに梯子に雑巾などをフル活用して掃除をしたんだが、まあ辛いのなんのって。


 ん? 渋ってた割にはえらく真面目じゃないかって?


 ……実はな、いっぺんサボってたのをミリアに見つかった事があるんだが……




 「あら、休憩中ですか、ヒサトさん? まだ掃除を始めてから30分しか経っていなかった筈ですけど……」


 ちなみに、ミリアは良く俺の様子を見に来る。

 何が楽しいのか知らんが、大抵は俺を見ると仕事中でも、荷物の運搬中でも近寄ってくるのだ。

 ……あれかね、俺はミリアに監視されているのだろうか?


 「ああ? まあ、ぼちぼちやってんよ」


 めっちゃおざなりに返事を返す。

 すると、ミリアは軽く溜息をついた。


 「その割には全然片付いていませんね……はぁ、仕方ありません」


 そう言うとミリアは床に座っていた俺後ろに座りこんだ。

 それから俺が反応するまもなく俺の両腕を後ろでがっちりホールドして、俺の首筋を舐め始めた。


 「なっ、うっ、い、いきなり何を、うあっ!」


 「うふふ、仕事をサボっている人にはお仕置きが必要ですよね? もし、このままサボるようでしたら、私は貴方を頂きますよ?」


 妖艶な笑みを浮かべながら耳元で囁く様に話すミリア。

 その声色はどこか楽しそうである。

 実際に全身の血をパーフェクトにドレインされた身としては洒落にならん。

 という訳で、俺は大人しく真面目に仕事をすることにしたのだった。

 「……別にサボってくれててもいいのに……」とかミリアが言っていたが気にしない。気にしたら碌なことにならん気がする。




 ……とまあ、こういうわけだ。流石に俺も半殺しのリスクを背負ってまでサボろうとは思わん。

 で、掃除が終わったら次は洗濯。

 こいつに関しては楽なもんだ。何せ、4人分しかないんだからな。

 ただ1つ面倒なのはドライクリーニングで無ければ駄目だったり色物柄物が多いくらいか。

 どれが誰のか、っていう判別はその服の色と種類を見りゃ判る。

 リリアは温かみのあるライトグリーン系やオレンジ系のワンピースやドレスが多い。

 ミリアは落ち着いたブルーやワインレッド等のシャツやブラウンやグレーのロングスカートが好きだ。

 シリアは明るいイエローやレッドのシャツにミニスカートという服装が多いな。

 因みにパーティードレスは色違いのお揃いで、それぞれグリーン、ブルー、レッドだ。


 はぁ? 俺? 最初に着ていた服以外は全て執事服ですが何か? それしかないんだから仕方ねぇだろ。


 洗濯が終わったら食事の時間だ。と言っても、冷蔵庫から輸血パックを取って皆に配るだけなんだが。

 別に普通の食事でも良いらしいが、身体能力が人間より優れたヴァンパイアのエネルギー源には血液が一番らしい。何度考えても納得がいかねぇ。

 ついでに言うと俺も一緒に食事を摂るように言われている。向こうからしてみれば執事と言うのは仕事だけの物で、実際のところ俺は友人感覚なんだそうだ。

 だから、本来の執事のように畏まられると逆に困るんだとさ。ま、楽でいいがな。

 ……どうでもいいが、食後に全員で俺を見るのはやめて頂きたい。俺はデザートではない。

 

 そんでもって、しばらくしたら食後のティータイムというわけだ。当然俺も御相伴に預かる。

 こいつに関しては手を抜かん。自分のためにも丁寧に淹れる。

 よっしゃ、今回も美味くはいった。他の3人も満足そうだ。

 サバスのお陰で随分と美味く淹れられるようになったな。今度はこれに合うお茶菓子の作り方でも教わってみるか。

 等と考えていたらシリアがこんなこと言い出した。


 「そういえば、ヒサトは太陽光を克服しないと買出しとか行けないんじゃない?」


 「そうね~、日が暮れてからじゃあんまり買い物出来ないわね~」


 のほほんとした表情で少し考えるようにしてリリアがそう言う。


 「それに、皆で出かけることも出来ませんしね」


 ミリアも、それに同意するように頷く。

 確かに、ここを出るためにも太陽光の克服は重要だ。

 と、俺はとあることに気が付いた。


 「ん? って事は太陽光を克服する方法があるってことか?」


 「あるわよ~? ただ、ちょっと時間が掛かるのよね~」


 リリアが何て事の無いようにそう言う。

 こいつは朗報だ。そうなりゃ俺は自由だ。ヒャッホウ!!

 時間はかかるらしいが、それを差し引いてもメリットは大きい。


 「で、その方法は?」


 「毎日少しずつ窓際で太陽を浴びて少しずつ慣らしていくんです。そうして太陽光で壊れた部分を再構成していくことによって太陽が平気になるんです」


 成程な。予防接種と似たような原理で免疫を作るってことか。


 「それで、どれ位時間が掛かるんだ?」


 「う~ん、個人差はあるけど、早くて5年。長けりゃ10年ってとこね。まあ、普通なら最初は3秒も持たないしね。アンタが今日窓拭きを終わらせたのだって、此処の窓ガラスは特殊とはいえホントは凄いことなのよ?」


 さらっとそう仰るシリアさん。

 な、長すぎるorz 少なくともあと5年はこの生活かよ……


 「でも~、ヒサト君なら皆が協力すればもっと早く行けると思うわよ~? そうね~、多分1ヶ月位で何とかなるんじゃない?」


 そこにリリアから神の啓示が。

 5年が1ヶ月に縮むとは、そいつは朗報だ。

 だが、本当なのだろうか?


 「そんな方法あるのか?」


 「ありますよ。ちょっと待っていてくださいね。少し相談がありますから」


 ミリアは笑顔でそう言うと、他の2人を集め、3人で会議をしている。

 俺のために相談してくれているのは分かる。

 だがしかし、俺の直感は警鐘を鳴らしている。

 何というか、精神的なダメージを受けそうな気がする。


 「相談終わったわよ。えっと、そういえば最初誰から行くの?」


 誰から行くとはどういう事なのだろうか?

 いっぺんには出来ない事なのだろうか?


 「そうね~……それじゃミリアちゃんからどうぞ~」


 「はい。それじゃ、ヒサトさん。目を瞑っててくださいね?」


 どこか楽しそうにミリアはそう言う。

 ……その笑顔が滅茶苦茶不安にさせるんですけど……


 「あ、ああ。わかった」


 だがどうしようもないので、言われるがままに目を瞑る。すると、


 「それじゃあ、えい!!」


 「おわっ!?」


 突然腰に手を回され身体を後ろに押される。結果、俺はミリアの腕の中に仰向けに倒れこむことになる。

 驚いて目を開けると、そこにはミリアの顔が。


 「い、いきなり何を……」


 「……ふふっ、それじゃあ、失礼しますね」


 相変わらず楽しそうに、笑顔で俺にそう言う。


 「んっ……」


 「むぐっ!?」

 

 でもって、ミリアは俺の唇に自分の唇を押し当て、俺の口を開かせようと舌をねじ込んで、って何じゃそりゃ!?

 しばらくすると、俺の口の中に血の味が広がってきた。

 俺は口の中を怪我した覚えはない。つまりこれはミリアの血だ。深みのある穏やかな味の血だった。

 よく分からないが、吐き出すのは悪いし、とりあえず飲み込んでおこう。


 「ん……はぁ……」


 俺から口を離すミリア。心なしか顔が上気しているように見える。

 言うまでも無く、俺の顔は真っ赤だろう。

 ああやばい、心臓が凄いことに……


 「ふふふ、ごちそうさまでした。もしかして、ファーストキスでしたか?」


 はにかんだ笑顔でそう言うミリア。

 うぐ、それは反則だと思うぞ。

 もちろん、俺にとっては初めてだ。

 ……随分と強烈なファーストキスになったもんだが。

 眼を逸らし、ミリアの質問に沈黙をもって答える。


 「くすくす、そうですか。それじゃ、次はリリア姉さんですよ?」


 ミリアの一言に思わず固まる。

 はい? 聞いてませんよ? 一体何事ですか?


 「はいは~い。それじゃ~ヒサトく~ん。準備はい~い? 行くわよ~」


 「え、ちょっ、ま、むぐぅ!!」


 今度はリリアに口移しで血を飲まされる俺。 

 頭と肩を抱え込まれているので逃げられん。それから胸当たってるてばよ!!

 口の中に大量の血が流し込まれた。ほのかに甘い優しい味だった。


 あ~、頭に血が上る~!! お、落ち着け俺!! これも何か考えがあってやってるに決まってる!!


 「んぐっ!?」


 突然リリアに舌を噛まれた。舌から血が滲み出す。


 「はぁ……ちゅるちゅる……」


 それから少し俺の口の中を吸った後、その口を離した。

 もう俺の頭の中は真っ白だ。何でこんなことをしているのかさっぱり分からん。


 「はい、おしまい。最後はシリアちゃんの番よ~」


 「ん、それじゃヒサト。さっさと始めるわよ。ん……」


 頭の中がパンクして最早なすがままになる俺。

 首に腕を回され、シリアからも同様に血を飲まされる。

 シリアらしいすっきりとした味だった。


 「むっ……は……」


 最後に俺の舌の怪我をした部分をひとしきり舐めてシリアが口を離す。 


 「はぁ……ねぇ、ヒサト? 起きてる? ボ~ッとしてないで何とか言いなさいよ」


 「……っ!! あ、アンタ等何でいきなりこんなことを!?」


 シリアの一言で我に返る俺。いかん、声が裏返った。いい加減に落ち着け俺!!


 「あはははは!!! 予想はしてたけどやっぱアンタ面白いわ!!」


 腹を抱えて心底面白そうに笑うシリア。

 ……くっそ、人の反応で笑うな。


 「キスくらいでそこまで反応するなんて、本当にウブね~」


 ほんわかとした笑顔でそういうリリア。

 気にしてるんだから言わないでくれ。


 「ファーストキスの反応、可愛かったですよ♪」


 楽しそうに笑いながら俺の肩をたたくミリア。

 ……ええい、黙れこの人でなし共!!

 あ、もう俺も人間じゃなかったか、くそったれ。


 「さてと、もう十分からかったことだし、説明するわよ。今アンタには太陽に耐えられる私たちの血を飲ませたわ。これでアンタには太陽光への抵抗性がある程度ついた筈よ。まあ、これは私たちの力を一時的に借りられるだけで、根本的な解決にならないんだけどね」


 「で、この状態のうちに直射日光を浴びて抵抗性を一気につけようという話です。分かりましたか?」


 「……ぜひともからかう前に説明が欲しいところだったが理解した」


 つまり、病原菌に対する免疫をつけるためにワクチンを打ちこまれた状態って訳だな。

 ……てことは、その度に俺はあんな事をされるのか……

 この3人ほどの綺麗どころにされるのは役得かもしれないが、その後の精神攻撃でどうにかなりそうだ。


 「でも~、別に口移しじゃなくて首や腕から血を送り込めば良かったんだけどね~」


 そんな事を考えているところに爆弾発言をかましてくれるリリア。


 「はぁぁぁぁ!? それじゃあ、何でわざわざ口移しなんてしたんだよ!?」


 「「「ヒサト(君)(さん)の反応が面白そうだったから(よ~)(です)」」」


 「ふざけんなあああああああああああ!!!」


 …………全く、分かっちゃいたがホントにこいつら碌なことを考えん。純真な人の心を弄ぶな。

 自らの境遇を嘆いていると、シリアが何かを持ってきた。

 長い棒が1本に、Y字型の棒が2本。それからロープが数本にクランクだ。

 非常に嫌な予感がする。……よし、抜き足差し足……


 「リリ姉、あれ持ってきといたから準備しとくわよ」


 「頼んだわよ~。それじゃ、ミリアちゃん、確保!!」


 「了解です!! えい、捕まえた!!」


 あっさり捕まる俺。くっ、反応が遅れたか。不覚!!


 「こ、こら、放せ!! HA☆NA☆SE!!!!」


 抵抗するも、女性とは言え2人がかりで抑え込まれては抜け出す事はかなわなかった。


 「だめよ~、ヒサト君には頑張ってもらわないといけないんだから」


 「そう言うわけで、観念してくださいね、ヒサトさん?」


 長い棒に両手両足を括りつけられ、外に運び出される俺。気分は猟師に狩られた猪の気分だ。

 そして俺は炎天下の庭に出されることになった。早速全身が焼けるような感覚に襲われる。


 「うぎゃあああああああ!!!! や、焼けるぅぅぅぅぅぅぅ!!!!」


 「シリアちゃん、あれ、お願いね~」

 

 「了解。ほら、うるさいから少し黙ってなさい!!」


 「む、むぐぅぅぅぅぅぅ!!!! おあえあほええほひんえんああああああ(お前らそれでも人間か)!!!!」


 大声が出せないように口の中に布切れを突っ込まれる。

 何かを致命的に間違った気がするが最早それどころではない。


 「それじゃリリ姉。アタシはセイレンと約束があるから出かけるわよ。行ってきます!!」


 「はい、行ってらっしゃ~い。晩ご飯には戻ってくるのよ~」


 人が悶絶している中、横で平和に会話する2人。

 そんなことより早く助けてくれ!! 


 「姉さん、こんなものを見つけたんだけど、どうしますか?」


 「あら、それは丁度良いわね~。これじゃ背中が影になって当たらないから少し困ってたのよ~」


 ……おい、冗談だろ? 何でパラボラアンテナみたいな形をした鏡が有るんだ!?


 「えっと、これを身体の下に置きまして。これで良いですね。」


 「む、むえあへああえへふえええええええ(そ、それだけはやめてくれ)!!!!」


 いや、マジで勘弁していただきたい。やるならせめて普通の鏡でやってくれ!!


 「ねぇ~、何か焦げ臭くな~い?」

 

 「変ですね。まさか、何処か火事なんでしょうか!?」


 「大変!? ミリアちゃん、向こうを見てきて頂戴、私はあっちを見てくるから~!!」


 「分かりました!!」


 それぞれ見当違いのところに走っていく2人。

 お~いお前ら、ちったあ科学の勉強をしてくれーーーー!!!

 こんな凹面鏡で光を一点に集めたらそっから発火するに決まってんだろうが!!!

 背中が本当に燃える!! あ、熱い!! 太陽の3倍増しで熱い!!!


 「おっかしいわね~? 何処から火が出てるのかしら~?」


 「きゃあっ、姉さん!! ヒサトさんが燃えてます!!」


 「た、大変!? み、水を持ってきて~!!!」


 その後、俺は水を掛けられて消火はされたが、結局日没まで外に放置された。

 もちろん、夜はベッドから一歩も動けん。

 こ、こんなんがあと1ヶ月も続くのか!?

 ……俺、生きて出られるかな……




 …………畜生、何で俺がこんな目に遭わなきゃならんのだ。

 こんな状況にしてくれてありがとう神様、地獄へ堕ちろ。


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