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たまったストレスは吐き出すべきだと思う今日この頃。


 こないだの日記:クレイジーポリスメンに襲われた挙句監禁された。この町はどうなっているのか。




 人生について深く考えながら腕に絡まっている縄を解く。

 おや、やってみると案外楽に取れた。

 良く見ると、縄には少し刃物で斬った後があった。どうやら、誰かが最初から切れ込みを入れていたようだ。

 部屋の扉を開けて外を覗き込む。外には誰も居らず、がらんとしていた。

 誰も居ないんかね?

 そう思って先に進むと、上から槍が落ちてきた。


「どわわっ!?」


 あわてて飛びのくと、槍は俺の目の前5cmの位置に突き刺さった。

 ……此処……確か家だよな?

 何でこんな物騒なもんが仕掛けられているんだ?

 そう思いながらも進もうとして、俺は床に敷いてあったカーペットのたるんだ部分に足を引っ掛けた。

 よろけて前につんのめり倒れまいとして足を前に踏み出す。

 その瞬間、けたたましいサイレンが鳴り響き、凄まじい数のトラップが発動した。

 具体的には、床から火を吹き左から回転鋸が飛び出し前から槍が数本飛んできて右から大量のボウガンの矢が飛んできて上から謎の液体が降ってきて後ろから岩が転がってきた。

 な、何だよこれ!! 幾らなんでもやりすぎだろ!!

 結果、俺は黒焦げになりかけ回転鋸に首を飛ばされかけ槍が身体を数本掠め矢が腕に数本当たり液体に服に穴を空けられ岩にヒキガエルにされかけた。


 はぁ、はぁ、はぁ、な、何とか致命傷は避けられたか……

 え、どうやって避けたかだって?

 そりゃあれだ、俗に言う気合、若しくはきあい、それでもなければKI☆A☆Iって奴だ。

 はあ、どんな罠があるか分からんし、慎重に行くか。

 と思ったその時、ボウガンの矢でボロボロになった壁が崩れた。

 その破片に躓いて、体勢が崩れる。


「うお、たっ!?」


 堪えきれずにそのまま前に倒れると、突然床が大きな口をあけた。

 な~るほど、落とし穴か~


「って、何でこうなるんだああああああああああああああああああああああああああああああ!?」


 俺はそのままどんどん落ちていった。

 

 




 かなりの深さまで落ちていって、気が付いたら古い石造りの建造物が周りを囲んでいた。

 明かりは全て松明で、かなりじめじめしている。

 どうやら、俺が居るのは地下らしい。


「……ん?」


 何か匂いがおかしい。

 よく確かめて見ると、それは微かな血の残り香だった。

 大分時間が経っているらしいが、時を越えて残る血の匂いがあるとは、一体此処で何があって、どれ程の量の血が流れたと言うんだ?

 まあ、俺がヴァンパイアになって血の匂いに敏感になったのもあるだろうが。

 近くに地下の見取り図を見つけたので見てみたが、まずその広さに軽く絶望を覚える。


「くっそ~、無駄に広いなここ……」


 縮尺から計算してみると、その広さたるやTDLも真っ青な規模と来たものだ。

 地下によくもまあこんな馬鹿でかい建造物を拵えたもんだな。

 中には色々な施設があるようだ。

 ……にしたって、あるのが監獄、カタコンベ、火葬場、拷問部屋、人体実験室だの物騒なものばかりだ。

 中には礼拝堂などというものもあるが、何故こんなところにあるのか謎だ。

 おまけに道が迷路のように入り組んでいて、そう簡単に出口に着けそうも無い。

 更に悪いことに、現在位置と出口は対角線上にある。 

 はあ、さっきだってトラップが腐るほどあったって言うのに……

 大体何のためにこんな施設を作ったんだ?

 見取り図の右上の方を見てみると、掠れた文字で「マリエル修道院地下棟」と書かれていた。

 ……なんで修道院の地下がこんな物騒なことになってんだよ……

 まあ、そんな事はどうでも良い、とりあえずは出口に向かうとしよう。


 と、その前に。

 この部屋の近くに倉庫や資料室が有るからそこで何か使えそうなものと、この建造物に関する情報を集めておこう。

 まずは資料室から行くとしよう。




 資料室に入ると、巨大な書架が出迎えてくれた。

 それには本がぎっしり詰まっている。

 え~っと、この建造物に関する資料は……これか。

「マリエル修道院地下棟の概要」と書かれた古びた本を手に取る。


 その本の始めにはこう書かれていた。


『この地下棟は、罪人の幽閉や、死刑囚を用いた様々な人体実験等を行うことを目的として建造されたものである。なお、当施設の情報は全てを秘匿され、関係者以外に知られる事があってはならない』


 ……う~わ~……何処のホラーだよ……

 まさか、実験に使われた死刑囚のゾンビとか出てこねえよな?

 って、よく考えたら普通にゾンビ町で生活してるじゃねえか。

 でも、そいつ等が死んでしまうような実験をした訳で……

 ……考えるのはよそう。碌な事が無さそうだ。

 とにかく、これでとりあえず分かったことは、この地下棟、少なくとも通路にはトラップは存在しないということだ。


 何故かって?


 だって、人体実験をしていたってことは此処の囚人以外に研究者が絶対に居たはずだからだ。

 なら、その研究者の安全は確実に確保されてなきゃいけないだろ?

 よく使う通路にトラップなんかあったらあぶねえじゃねえか。

 それから、この本には各施設で行われていたことも書いてあった。

 なになに、細菌兵器の開発、暗部部隊の新人の訓練、発掘された刀剣類の鑑定及び実戦テスト、テロリスト及び敵軍の捕虜の尋問……

 ……本当に碌なもんじゃねえな。まるでB級ホラーだ。


 元あった位置に本を戻す。

 その付近にはそれらの実験の記録が残っていて、どいつもこいつも何処かで誰かが死ぬような内容だった。

 驚くべきは滅多な事では死なないこの世界の連中があっさり死んでいる事だ。

 だが、記録を見ると此処が廃棄されたのはもう2000年以上前の話だから、流石に殺人ウィルスとかは居ないだろう。

 感染の恐れのあるものは全て焼却したという凄まじい記録もあることだしな。


 次に目を惹いたのは発掘された刀剣の記録。

 何やら訳の分からん異界の聖剣・魔剣等がずらりと並んでいて、その中には俺が知っているような武器、例えばエクスカリバーやデュランダル、ブリューナクに雷切等も記載されていた。

 ……すげー、コイツ全部試したのか。この伝説級の武器のオンパレードは見てみたい。


 おっと、気が付いたら当初の目的と随分外れてるな。早いとこ倉庫に行って使えるものを探すとしよう。


 


 倉庫の中は雑然としていて、中にあるものは殆ど使い物にならなかった。

 ロープは劣化して素手でも切れるし、角材はシロアリに食われて粉々になっている。


「……ふう、やっぱ2000年も経ってりゃ使えるもの何ざ殆ど無いか……」


 思わず独り言が出る。

 まあ、仕方が無い。これ以上此処を探しても何も出ないだろう。

 俺は倉庫のドアを開け、


「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」


 無言でドアを閉じた。

 あっれ~? おっかしいな~、今何か色々変なものがあったぞ~?

 もう一度ドアを開けて倉庫の外を見る。

 そこには、大量の目を赤く光らせた石人形が居た。

 その手には、剣、斧、槍と実に様々な武器が握られていた。

 あ~、成程ね~ 元々囚人が此処に送られてくるわけだから、それを監視したりする警備システムがあって当然だよな~

 警備か……大学の警備員っていつも暇そうなんだよな。

 学園祭や説明会の時に案内をしてる時くらいしか忙しそうな姿を見た事が無いし。


 ……現実逃避はやめよう。あれは間違いなく俺をどうにかする気だ。


 ドアを叩いたりという行動が見られないことから、どうやら部屋の中にまで入り込むという行動は無さそうだ。

 純粋に廊下だけを警備するように設定されたものなのだろう。

 さて、どうしようか……この部屋に使えそうなものは無いし……

 少し座って考えるとしよう。




*  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *




 一方その頃、ファフナーの屋敷。

 その一室でリアンは優雅に紅茶を飲んでいた。


「さて、どうしましょうか……シリアが来るまでまだ時間が有る、とは言っても彼女の事、何か他の事をしている時間は有りません……」


 リアンはいつも通り遊ぼうという連絡をシリアにした。

 シリアは仕事が丁度終わったところだからと快諾、リアンはシリアの到着を待っているのだった。

 そうやって考えていると、屋敷の中を轟音が響き渡った。

 その轟音は、段々とリアンの居る部屋へと近づいてくる。


「な、何事ですの!?」


 そうリアンが叫ぶと、シリアがドアを蹴破って入ってきた。

 シリアの服はボロボロで、所々破けていた。


「……アンタ良い根性してるわね……戦う前にトラップでダメージを与えようなんてね……」


 シリアが氷点下の声で搾り出すようにそう言うと、リアンは慌てだした。


「え、ええ!? 私トラップの電源は切りましたわよ!?」


「でもアタシは現にダメージを受けた!! どうしてくれるのよ、この服!! お気に入りだったのよ!!」


「わ、私は知りませんわよ!! 私は確かに電源を……」


 リアンは、言おうとしていた言葉を途中で止めた。

 その表情は何かを思い出したような表情で、段々と蒼褪めていった。


「……何よ、その顔。何か拙いことでも思い出したわけ?」


「しょ、少々お待ちくださいませ!!」


 そう言うと、リアンは脱兎の如く走り出した。

 そして、ある一室のドアを開けた。

 その部屋は永和が居るはずの部屋だった。


「……居ませんわね……」


 そう言うと、リアンはその部屋の周りを捜し始めた。

 すると、崩壊した壁と、大きく口を開けた床があった。


「何てことですの……」


 リアンは蒼褪めた顔でそう呟くと、その場に座りこんだ。 


「一体どうしたって言うのよ? それから何、この落とし穴は?」


 後ろから追いかけてきたシリアがリアンに話しかける。

 するとリアンは、深刻な表情でシリアに語った。


「シリア……この屋敷は大昔に打ち捨てられた修道院を改築して造られたのは御存知ですわね?」  


「え、ええ。確か、マリエル修道院の跡地だったわね、此処は。何でも、地下には未だに謎の施設が存在するとか……それがどうしたの?」


「この落とし穴はその地下に向けて上から掘っていったものですわ。更に、その地下に掘り進んでいった罠士は、二度と私の前には現れませんでした……」


 それを聞いて、シリアの顔が蒼褪める。


「……まさか……」


「ええ……これが発動している以上、ヒサトはその地下に居ますわ……」


 2人はその後、しばらくの間時が止まったようにその場に佇んだ。




*  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *




 あれから俺は結構長いこと考えていた。

 そして達した結論は1つだった。

 俺は、少し眼を閉じて精神を集中させ、倉庫のドアに手を掛け―――


「こうなりゃヤケクソじゃボケェェェェェェ!!!」


 達した結論=KI★A★I!!!!!!!!!

 星が黒いのはもうヤケクソだからだ。 




 ――自棄になるのと気合を入れるのは違う気がするがな……――


 うるせえ、なかなか出て来ねえと思ったらこれかよ!! だったら何か良い案出しやがれ、リニア!!


 ――とか言いながらもう突っ込んでるじゃないか。今更言ったところで遅い――


 だああああ!! だったら黙ってろ!!


  


 石人形の1体が持っていた剣を振り下ろす。

 およ? 意外と遅いぞ?

 おれは溜めていたゴー○ャスパンチを目の前の敵にぶっ放した。

 すると、石人形はあっさりぶっ飛んで粉々になった。

 ……ありゃ? 何で警備がこんな弱いんだ? 人間の時に戦った喧嘩相手以下じゃねえか。

 俺は見取り図を思い返してみる。

 ああ、そうか。こっちはゾンビとかあんまり身体能力が高くない種族を管理してた地区なのか。

 で、別の所にヴァンパイアや人狼みたいな身体能力が高い種族が抑留されてた地区があるんだろう。

 全部強い奴にしなかったのは、暴走したときの危険性を考えて、弱く出来るところは弱くしておきたかったのだろう。


 フ……フフ……フハハハハハハハ!!!


 そうと分かれば話は早い!! 日頃の鬱憤、此処で晴らしてくれるわ!!


「行くぞオラァァァァァ!!!」


 出てくる石人形に次から次へと技を掛ける。

 右からの敵にマッハチョップ、左からの敵にはヘッドバット、前の敵には石人形の1体を魚雷投げでぶち込む。

 すると敵の1体が剣を落とした。俺は即座にそれを拾う。


「ぼう○ゅつスペシャル!!」


 いや、正確には棒じゃないのですがね。

 その場で回転して周りに集まってきた雑魚どもを一掃する。

 は~、スッキリした。もう居なくなったのか。

 それにしても、この剣拾い物だな。石を切っても刃こぼれ1つしないし。

 俺はルンルン気分で先に進んでいった。




 ――……溜まってたんだな、ストレス……――


 あったりめえよ、あの生活で溜まらねえ訳ねえだろ!!


 ――……よし、今度飲みに行くか? 奢ってやるぞ?――


 ああ、帰ったらぜひともお願いしたいね!!




 そして、曲がり角を曲がろうとして、

 

「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」


 無言で引き返した。

 あっれ~、おかしいな~、今度は何かでっかいのが居たぞ~?

 もう一度曲がり角から覗き込んでみる。

 すると、そこにはでっかい鉄の人形が居た。

 う~む、どうしようか……奴の先に出口があるんだがな……


 おいおい、肩をつつくな、今俺は考え中だ。

 ええい、しつこいな!! 肩をつつくなって!!


 そう思って振り向くと、さっきの石人形さん達が全員生き返ってた。

 ……何ですと?




 ――お前、アホだろ……つつかれた時点で気付くぞ、普通……――


 ……面目次第もありません……




 凹んでいる場合ではない。

 石人形は問答無用で武器を振り下ろしてきた。

 俺はそれを後ろに飛ぶことで避ける。   

 が、しかし、重たい起動音と共に、巨大な鉄人形が動き始めた。


 げ、どうやら見つかっちまったらしい。

 おまけに、後ろからは石人形が、巨大な鉄人形の向こう側からは身体能力の高い種族を監視していたと思われる鉄人形の群れがやってきていた。

 おお、じーざす。これは俺に対する試練なのでしょうか? 俺はキリスト教じゃねーけどな!!

 俺は、とりあえず巨大な鉄人形に斬りかかることにした。


 が、


「げ」


 そいつに斬りかかった瞬間、石を切り裂いた剣は真っ二つに折れてしまった。

 何で、どうして、Why!?

 そうこうしている間に鉄人形(大)の文字通りの鉄拳が飛んでくる。

 俺はそれを何とか躱すが、正直こいつに素手で勝てる気がしない。

 そんな事を考えていると、脇腹に強烈な衝撃を受けた。

 鉄人形(小)の攻撃を受けたのだ。

 俺は、遥か彼方までぶっ飛び、部屋の中に叩き込まれた。

 いって~、何て強烈な一撃だ……流石に対高性能種族なだけあるな。

 それにしても此処は何処だ? 

 周りを良く見てみると、周りには沢山の武器があった。

 此処は……武器保管庫か? 

 この中は人形どもは襲って来ないはずだ。何か使えそうな武器を探そう。

 う~ん、これだけあると迷うな……どれが良いのやら……

 俺が武器庫を漁っていると、とある一振りが眼に入った。


 お……おお……これは、数多の本に出てきて、俺の元居た世界ではゲームにすら登場した武器じゃないか!!


 その武器を手にした瞬間、俺の身体に力がみなぎってくるのを感じた。

 ふ、今なら人形ごときには絶対に負けねえ。

 俺は、ドアをゆっくりと開けた。


 


 ――お、おい!! お前本気か!?――


 ああ、本気も本気、超本気だ。

 というか、そんなに慌てるような事か?


 ――信じられん、正気ではないな、お前……――


 ククク、狂気の沙汰ほど面白いって奴よ!!




 目の前に広がるのは石人形と鉄人形の連合軍、総大将は鉄人形(大)。

 俺が武器庫から出てくると、奴等は一斉に俺に襲い掛かってきた。

 ふん、雑魚共がいきがりやがって。さっきまでの俺とは違う。格の違いというものを見せてやろう。

 俺は手にした武器を薙ぎ払った。

 すると、その一振りで目前に迫っていた人形7体が、横一列に吹っ飛んで砕けた。石も鉄もだ。


 ……くくく、やはり調子が良い。さあ、今度はこっちのターンだ。


 余分な力を抜いて一気に振りぬく。

 それだけで周りの敵はどんどん砕けていく。

 俺がやったことはただそれだけだ。ただ振り回すだけで、俺の周りに居た小物は駆逐された。


「ふん、あっけないものだ。折角こいつと出会えたというのに……」


 手にした武器を見ると、思わずそんな言葉が口から漏れる。

 何しろ、さっきまで苦戦していた相手だ。それがコイツ一本で此処までの雑魚に成り下がるとは思いもよらなかった。

 俺は、最後に残った鉄人形(大)に目を向けた。


「さて……お前は楽しませてくれるんだろうな、デカブツ?」


 俺の言葉に反応したからか、鉄人形は今までの比ではない速度で動き始めた。

 そうだ、そう来なくては面白くない。

 鉄人形(大)は嵐のように拳を繰り出してくる。

 それを俺は前後左右上下に動いて回避する。

 不思議なものだ、この武器を持っただけで体の動きが滑らかになったような感覚を覚える。


 ……いい加減飽きたな、紅茶が飲みたい。


 1度追い詰めてくれた礼に、このデカブツには魂の一撃を見舞ってやろう。

 相手の右フックを、上にジャンプして回避し、空中で武器を大きく振りかぶる。


 「楽しませてくれた礼だ、喰らえ――――――絶対殴殺、釘バットォォォォォ!!!!」


 フッ、決まった……

 俺の一撃を喰らった鉄人形(大)は、その場で瓦礫の山と化した。

 ああ、何でコイツの事を今まで忘れていたのだろう? 今までの自分を叱ってやりたい。

 え、釘バットが本やゲームに出てるかって?

 本には出てるでしょうが、漫画に。ゲームだって、某極道モノのゲームで主人公の武器に有るぜ?


 ああ、それから何でコイツであんなこと出来たかって言うと、俺はコイツで遠賀に巻き込まれた喧嘩を戦って極め尽くしたからだ。

 前にナイフや長ドスなんかも試したが、コイツほどしっくりは来なかった。

 何しろなぁ……釘バットで拳銃やチェーンソーと戦わなきゃならんときもあったしな……折られないようにするのには技術が要ったぞ。

 くぅ、思い出すだけで涙が出てくる。何で俺がヤの付く自営業の人と戦わなきゃならんのだ!?


 ヤクザとかヤクザとかヤクザとか。あ、あと八百屋とか。ちなみに八百屋最強。マジパネェ。




 ――滅茶苦茶だな……一体どうしたらそこまで極められるというのだ?――


 練習だ。それはもう血の汗をかくほどのな。


 ――もう訳が分からん……今日はもう寝よう、疲れた……――


 だろうな。俺もよく分からんし。それから、おやすみ、リニア。


 ――……ああ、おやすみ、ヒサト……――




 さて、人形共も片付けたことだし、とっとと帰るとしようか……ん?

 良く見ると、鉄人形(大)の瓦礫の中に青白く光るものがある。何だありゃ? 

 俺はとりあえず、それを掘り起こすことにした。


 掘り返して見ると、出てきたのは青白く光る一振りの剣と、その鞘。


 あれ、さっきこれ本の記録で読んだような……名前忘れた。

 あ~、よく分からんけど俺なんかコイツに運命っぽいの感じるわ。釘バット程じゃねえけど。

 とりあえず、貰っておこう。

 剣を鞘にしまって、背中に背負う。本当は長さ的には腰に挿すのが理想なのだが、今の俺の服装はそういう風になってないので諦める。

 手にしっかり釘バットを持って出口に向かう。

 後ろのほうを見ると、俺がぶっ壊した人形共が復活するのが見えたが、こっちに来る様子が無い。

 どうやら、此処は既に守備範囲外のようだな。

 しかし、暇になったら此処で人形共に当り散らして憂さ晴らしをするのも悪くない。それに伝説の武器がまだあるかもしれないし、それを探すのも面白い。

 さて、そろそろ外だ。しっかりと出口の場所を覚えていつでも来れるようにしておこう。


 突き当たりの部屋に入る。中に明かりは無く、完全なる闇の空間となっている。見取り図によると、此処が出入り口のはずだ。

 さっきの剣を抜く。青白く光る剣は明かりとして丁度良い。まあ、釘バットほど役に立つわけじゃないがな。

 う~む、入ってきた扉以外は何も無さそうだ。壁の模様は単に長方形の石が積まれて造られたときの模様だしな……ん?

 良く見ると、床のタイルの中に、1つだけ正方形のタイルがあった。


 ……コイツは臭いな。


 俺はそいつを踵で思いっきり踏み抜いた。

 すると、俺は突然頭をぶん殴られた。


「いてえ!? な、何だ!?」


 訳の分からないまま辺りを見回すと、足元に拳大の石が落ちていた。

 はて、さっきまでこんなもん無かったよな?

 しばらく考えていると、部屋全体が大きく振動を始めた。


「今度は一体何なんだ!?」


 ふと前方の壁を見ると、ゆっくりとこちら側に倒れてきている。

 ヘイヘイヘイ、冗談だろ!? 逃げろー!!

 急いで部屋から脱出する。その直後、俺が居た部屋はその壁で埋まってしまった。

 その代わりに、目の前には石の階段が現れた。

 ふう……最後のは肝を冷やしたが、何とか外に出られそうだ。

 手に持っていた剣を鞘にしまって階段を登る。階段の終わりは石で蓋をされていたのでそれを退ける。

 すると、思いも寄らぬ場所へ出た。


「「「アウ?」」」


「はひ?」


 目の前に居たのは3つの頭を持つ巨大な犬。

 そして、


「あれ? ヒサトさん? 何でそんなところから出てくるんですか? って言うか、こんなものいつ作ったんですか?」


 キョトンとした顔をしたミリアが居た。何故だ。


「ミ、ミリア? 此処は何処だ?」


「私の離れですよ? ヒサトさんこそ、何で此処に?」


「いや、それがだな……おぶぅ!?」


「「「バウバウバウ!!! ハッハッハッ!!」」」


 事情を話そうとすると、ペロが飛び掛ってきた。

 アフリカゾウの1.5倍程だった体躯も少し成長して今じゃ体長5m、体重8tという立派なものになっている為、迫力満点だ。


「こ、こら、じゃれ付くのは後にしてくれ!! 俺はミリアと話がうぷっ!?」


「「「ペロペロ、ハッハッ……」」」


 俺の言うことなんぞ聞きやしねえ。コイツ、俺と会うたびいつもこんな調子である。


「ペロちゃん。今は私とお話してるんですから、下がってね?」


「「「バウッ!!」」」


 ミリアがそう言うと、ペロは迷宮の中に去っていった。

 ふう、漸く落ち着いて話が出来るな。さあ、ミリアに事情を説明することにしよう。




 ――説明中――




「という訳で、今に至る」


「そ、そうなんですか……よく生きて帰って来れましたね?」


「ああ、コイツのお陰だ」


 俺は手にした釘バットを見せる。

 すると、ミリアは目を丸くして驚いた。


「え、ええ~っ!! こんなので鉄のゴーレムを倒したんですか!? 背中の剣じゃなくて!?」


「む、こんなのって言うな。良いか、釘バットって言うのはだな、使い方を極めれば色んな事が―――」


 


 15分経過。




「―――という訳だ。分かってくれたかね?」


「は、はあ……」


 おっといけない、つい釘バットについて長々と講釈をたれてしまった。

 見るとミリアはぽかーんとした様子で頷いている。

 ふむ、これで釘バットの良さを理解してくれたなら行幸だ。

 ふと、ミリアが何か思い出した顔をしてこっちを見た。


「あ、そうだ、ヒサトさん。シリアが貴方の事を迎えに行ったんですが、どうしますか?」


 何と、俺を迎えに行ったとな? 

 シリアの携帯に電話を掛けるが、繋がらない。

 ……あー、ひょっとしてリアンと乱闘してるかね?

 はあ、仕方が無い。迎えに行くか。


「悪い、今からシリアを迎えに行ってくる」


「あ、はい。気をつけてくださいね? 最近物騒みたいですから。ついさっきも強盗犯がこの町の外壁を爆破して外に逃走したっていうニュースがあったんですから」


 ヴァンパイア特有の紅い瞳で、心底心配そうな視線を送ってくるミリア。

 ……言えない……その爆破を指示したのは俺だ、何てとても言えない……


「どうかしたんですか?」


 ミリアは俺を見て首をかしげる。

 いかん、ここでミリアに悟られてはことだ、さっさと行くとしよう。


「い、いや何でもない。それじゃ、行ってくる」


 俺は逃げるように離れを後にし、車でファフナー邸に向かった。




 到着すると、目の前の光景に唖然とした。


「……また崩壊してんのかよ……」


 目の前にはつい先程までファフナー邸だった瓦礫の山。

 ああ、そうだった。シリアとリアンが一緒に居るとなればこうなるのは自明の理じゃないか。

 そして、その瓦礫の真ん中では、


「だから、トラップの電源は切ってたと、何度言えば分かりますの!!」


「うるさいうるさいうるさい!! ヒサトを返せ、馬鹿あああああ!!」


 2人はビームサーベルとヒートホークで斬りあっている。

 ……白熱した戦いだな。しかし、何とかして止めないと……

 車の中から釘バットを取り出し、背中からさっきの剣を抜く。


 ……フフフ、来た来たこの感覚ゥゥゥゥ!!

 剣も驚くほど手に馴染む。まあ、釘バット程じゃ(ry

 俺は2人の間に割って入り、それぞれの攻撃を受け止めた。


「え!?」


「なっ!?」


「そこまでだ。全く、女の子がこんな派手な喧嘩をするなっての」


 2人とも呆然としている。

 まあ、そうだろう。2人ともさっきの話の内容では、俺は恐らく死んだことになってだろうからな。


「ひ、ヒサト!! 無事だったのね!!」


 感極まったのか、シリアが泣き笑いの顔で飛びついてきた。

 俺はしっかりそれを受け止める。


「ああ、何とかな」


 シリアを宥めた後、俺はリアンを見た。


「ありがとな、リアン」


「な、何ですの、いきなり?」


「本当は俺を警官から助けようとしてくれたんだよな? 俺を縛った縄は斬られてたし、見張りも居ない、おまけに、トラップは発動しないようにしたつもりだったんだろ? って言うことは、俺はそのまま帰すつもりだったんだろ? だから、礼をするぜ。ありがとな」


 すると、リアンは顔を真っ赤にしてそっぽを向き、


「ふん、結果的にそうなっただけですわ!!」


 と、吐き捨てるように言った。

 ……何だ、結構可愛いとこあるんだな、リアン。


「でも、何で俺を此処に連れてきたんだ? 助けるためだけならその場で帰しても良かっただろ?」


「引き取ると言った手前、そうしただけですわよ。領主の娘が嘘を吐くわけにはいきませんから」


 しっかりしてんな。流石は領主の娘って訳だ。

 よし、もう少しからかってやろう。


「そっか、それじゃ助けてくれたのは認めるんだな? さんきゅ」


 すると、俺の言葉の意味に気が付いて、リアンは耳まで真っ赤になった。


「な、な……くっ、もう知りません!!」


 と言って、リアンはこちらに背を向けた。

 ……面白いな。




 場にほのぼのとした空気が流れ始めた頃、


「お~い、リアン!! また屋敷を崩壊させてどうしたというのだ? 全く、今日はトラップのスイッチも切られておったし、何だというのだ? 我がトラップのスイッチを入れていなかったら、一体幾らの損害が出たか……」


 と言って、リオンがやって来た。

  

「「「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」」」


 俺達は無言でそれぞれの武器を握りなおした。


「な、何だ? どうしたというのだ!?」


 俺達3人は心を1つにして叫んだ。




「「「アンタの仕業かああああああああ!!!!」」」




 3人は一斉にリオンに攻撃を仕掛けた。


「な、何故だああああああああああああ!?」


 リオンはそう叫びながら星になった。

 そのまま滅びるがいい。その方が全世界の子供のためになるだろう。


「ふう……それじゃ、帰りましょ?」


 シリアがすっきりした表情で俺の手を握ってくる。


「ああ、そうだな。あ~あ、簡単な仕事だったのに随分とめんどくさい事になったな、今日は」


 背骨を伸ばして伸びをする。

 

「それじゃ、リアン。また今度遊びましょ!!」


「ええ、今度は今日みたいな私怨は抜きで戦いたいですわね。お待ちしてますわ、私は逃げも隠れもしませんから。」


「上等よ!! じゃ、またね!!」


 2人とも晴れやかな表情でそう言って分かれる。

 いや、何とも清清しい気分の挑戦状だな。

 よし、俺は少しからかってやろう。


「今日はありがとな!! 今度何か礼するぜ!!」


「貴方はもう結構で……いえ、やはりお願いしますわ。今度お兄様の相手をしてくださいます?」


 リアンは期待の眼差しで俺のことを見つめてくる。

 げ、しまった。やぶへびだったか……


「い、いや、やっぱ遠慮して……」


「ふふふ、良いですわよ? 遠慮しなくても。それじゃ、今度お願いいたしますわね? では、ごきげんよう」


 そう言って、上機嫌でリアンは去っていった。

 はあ……因果応報とはよく言ったものだ……

 もういいや、今日は飯食って風呂入ってとっとと寝よう。

 俺は車に乗り込むと、フローゼル邸に向けて走り出した。




 あれ? 今日の終わりはいつもより平和な気がするぞ?


 






「おそ~い!! 被告人!! 裁判に遅刻するとは何事か~!!」


 ……平和というわけにはいかなかったようだ。

 玄関を潜るとそこは法廷。

 裁判長リリア、裁判官ミリア、検察官シリア、傍聴人サバスといった面々だ。


「っておい!! 弁護人は何処だ!!」


「静粛に~!! では、只今より開廷する~ 検察官、罪状をお願いね~」


 俺の言葉を一切無視して法廷は開かれた。

 あんまりである。


「はい。被告人、ヒサト・アオウは、ツヴァイトス西の外壁を爆破した疑いが掛けられております」


 げ。内容それかよ!!


「ま、待ってくれ!! あのまま何もしなかったら俺は警官に殺され……」


「静粛にって言ってるでしょ~!!」


 弁明しようとするも、リリアがそれを止める。

 俺が騒いでる間にも、シリアは淡々と進める。


「続いて、こちらが証拠写真です。被告人が仲間と共に壁を破壊する光景がはっきりと写っております」


 出された写真にはその時の様子がはっきりと写し出されていた。


 ……オワタ 


 その後、当然問答無用で有罪となり、俺は処刑場へドナドナされ……




「Noooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooo!!!!」



 今日、俺は通算45回目のミイラ化を経験することとなったとさ。



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