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この街は狂っている……今更だな。


 こないだの日記:俺は何とか病院から退院した。……またお世話になりそうな気がする。




 今、俺は3人の仕事の手伝いをしている。

 ……おい、仕事なんてしてたのか、とか思った奴。

 良く考えてみろ、この広い館の維持費って馬鹿にならないんだぜ?

 働きもしないでそんなの払っていたらあっという間に破産するっての。

 ちなみに仕事は3人とも別々で、それをまとめる形でフローゼル商会が存在する。

 これには3人の所属する組織や、それに関連する企業が所属している。


 リリアはレストランの経営会社社長兼フローゼル商会会長、ミリアは古本や中古ビデオなどを売っている店の社長でフローゼル商会の副会長、シリアは様々な薬品や機械の開発を行っている研究所の主任研究員だ。


 ……こうして見ると会社幹部クラスの人間が集まっているんだよな、この館。それぞれの役員報酬やシリアの開発したものの特許料とかを合わせると月々の収入が大変な額になる。


 で、会全体の会計や事務仕事を引き受けるのが俺やサバスだ。何も執事の仕事は家事だけじゃなくて秘書みたいなこともするってことだ。 

 まあ、会計の仕事は毎日やる訳でもないし、内側の事務仕事は精々各会社への連絡を入れるくらいだ。

 各会社から会計報告やら色々な書類が届くことになっているが、緊急の書類以外は会社ごとに提出期限をずらしている為、一度に大量の書類を読まずに済む。

 しかも、その手の仕事は殆どサバスが引き受けているからその手の仕事に俺がやることは無い。

 その代わり、俺には別の仕事が振り分けられている。

 それは外部の人間への対応だ。

 例えば、フローゼル商会の関連会社の社員給与の銀行振り込みの手続き、来客への対応、なんていうのが俺の仕事になる。 

 まあ、そのほかにもリリアの会社の社員扱いで町の流行の物を調べたり、シリアの研究の補助とかも俺はしてるけどな。

 今日の仕事は何になるかね? とか考えていると隣の部屋で実験していたシリアが話しかけてきた。


「ちょっとヒサト、少し相談があるんだけど良いかしら?」


「ん? どうした、シリア」


「この試薬がまだ届いていないのよ。ちゃんと発注してあるか確認してくれる?」


「OK。もししてあるようなら、発注先に問い合わせてみる」


「頼んだわよ。あ、それから後で頼みたいことがあるんだけど良いかしら?」


「分かった。んじゃ、ちゃちゃっと調べてくるわ」


 試薬の発注記録は……あった。

 発注したのは2週間前だ。幾らなんでも遅すぎる。

 電話を取って問い合わせる。

 問い合わせてみたところ、その試薬は在庫が切れていたらしく、今日になって漸く発送できたらしい。

 シリアにその旨を伝える。


「シリア。どうも試薬の在庫が切れていたらしくて今日になって漸く発送できたそうだ。届くのは恐らく今日の夕方だろうな」


 俺がそう言うと、シリアは苛立たしげに頭をかいた。


「……っちゃぁ……そう言う在庫ぐらいきちんと確保しときなさいよ、ったく……そう、分かったわ。それじゃ、頼みごとについてなんだけど、この液体の組成を調べて欲しいのよ」


「このサンプルはどれ位有るんだ?」


「ああ、それなりに量はあるから安心して。非破壊検査にする必要も無いから方法は自由でいいわ。あと、期限は1ヶ月だから暇を見てやって頂戴」


「わかった。それじゃ、少しやりますかね」


 白衣を着て分析を始める。

 時間のかかる分析は先にやってしまおう。

 まずはこいつとこいつを使って……ん? 仕事用の電話に着信だな。


「はい、こちらフローゼル商会です。……少々お待ち下さい、只今予定を確認してまいります」


 昼前に来客希望か。これまた随分急な来客だな。

 仕事用の電話を保留にし、私用の電話でリリアに電話を掛ける。

 15回くらいコール音が鳴ってから、ようやく受話器から間延びした声が聞こえてきた。

 ……寝てたな、こりゃ。


「どうしたの~?」


「今日の11時頃に話せないかって言う人がいるんだが、どうする? どうやら最近この辺りに起業したところの社長らしんだが」


「それはまた随分急ね~ ちょっと待ってね~……うん、大丈夫よ~ とりあえず話すだけ話してみるわ~」


「わかった。それじゃ、先方にはそう伝えておく」


「宜しくね~」


 私用の電話を切り、仕事用の保留を解除する。


「大変お待たせいたしました。時間が取れましたので11時にお待ちしております。それでは失礼致します」


 これで電話は良し、後の為に急いで作業に取り掛かるとしよう。

 ……ふう、後はこいつ等をこの装置に掛けてしばらく置けば良い。

 今日はこれくらいにしておこう、他にもやる事があるしな。

 化学実験室の隣にある工学実験室にいるシリアに声を掛ける。


「シリア。俺は他の仕事に移るが、何か他にやることあるか?」


「え? ああ、今は特に無いわ。悪いわね、本当ならうちの研究所の奴に任せれば良いんだけど、向こうは向こうでもっと大事な研究をしてるからね……」


「気にすんな。俺はこういう実験をするのは嫌いじゃないからな」


 申し訳なさそうな表情を浮かべるシリアを安心させるためにそう言って笑う。

 すると、シリアも俺に笑い返した。


「ありがとね。今度何かお礼するわ」


「楽しみにしてるさ。それじゃ」


 研究室のあるシリアの離れから出て、本館に向かう。


「ヒサト様、オ送リ致シマス」


「ああ、頼む」


 離れの前にいるロボットの肩に掴まると、ロボットは翼のようなものを背中から出し、ジェットの様なもので飛ぶ。

 ……それにしても、何でコイツの見た目はメイドロボなんだろうか?

 目からビーム出したり、腕からミサイルやら火炎放射器やら電撃やら出すし。

 過去にシリアに彼女(?)について聞いて見た所、


「ああ、あいつのこと。あれ開発したのはアタシじゃないわよ。道端に落ちてたのを拾って修理したものよ。……でも、製作者は何を考えてこういう風に創ったのかしら?」


 等と、首を傾げる始末だった。

 そんな事を考えている間に目的地に着く。


「着陸シマス」


「いつも済まないな。シリアにも礼を言っておいてくれ」


「カシコマリマシタ。ソレデハ、帰還シマス」


 彼女は深々と一礼した後、離れに戻っていった。

 さて、こちらも仕事に移るとしよう。

 次の仕事は来客の対応だ。


 


 客への対応を終えて、一息つく。

 ふう、今日はいつもより忙しいな。

 ま、たまにはこういう日があるのも悪く無い。

 さてと、次の仕事は……社員給与の振込み手続きか。これは昼食の後に行こう。

 となると、次は昼食の準備だな。

 冷蔵庫に行って今日の分の血液を取り出し、台所に戻って調理を始める。

 俺が作るのはシーフードグラタン。

 材料は小麦粉、バター、生クリーム、粉チーズ、コンソメ、ペンネと、エビやホタテの貝柱、イカなどの魚介類。

 まず、フライパンにバターを溶かし、小麦粉を加えた後に生クリームを少しずつ加えてのばし、ホワイトソースを作る。

 ホワイトソースにコンソメを少し加えて味付けをし、器に敷き詰めた茹でたペンネの上にかけ、そのうえにあらかじめ下茹でをした魚介類を見栄え良くトッピングして、粉チーズを振りかけてオーブンへ。

 最後に、パセリで彩り出来上がり。割と簡単に出来る。


「お~い!! 昼飯できたぞ~!!」


 台所にあるパイプに向かって叫ぶ。所謂伝声管って奴だな。

 ちなみに、シリアにはメールで知らせた。


「申し訳ございません!! 私めは仕事にけりが付いたらそちらに向かいますので、先にお召し上がりくださいませ!!」


「ああ、分かった!!」


 しばらくすると、食堂にサバス以外は全員集合した。


「あら、今日の担当はヒサト?」


「ああ、サバスが仕事に追われてるからな。思いのほか客が早く帰ったから俺が準備した」


 グラスに血液を注ぎながら答える。

 サバスの分は電源を切ったオーブンの中に入れて保温してある。


「何か一品付いてますね。これは?」


「シーフードグラタン。単に俺が食いたかったのと、空腹感は仕事に障る事があるから」


「それじゃ~、冷めないうちに食べましょ~」


「「「「いただきます」」」」


 今日のメニューは割と好評だった。

 さて、飯も食ったし、後片付けも済ませた。

 それじゃ、銀行振り込みに行ってきますか。






 ……拝啓、親父殿。

 何故、貴方の強運が私に付いていないのかこれ程まで歯痒く思ったことはありません。


 ……失礼、少し現実逃避をしていたようだ。

 とりあえず、今の状況を整理してみようか。

 今の居場所は銀行。それは良い。

 時間は午後2時を回ったところ。特に問題は無い。

 隣で、魔王を倒してそうな女僧侶が「ありえん、ありえん」と連呼している。激しく気が散るからやめて欲しい。

 で、周囲の状況はというと。


「手前ら、下手に動いたら撃つからな!!」


 集団による銀行強盗が行われている。

 ……なんでいつもこんな目に遭うんだ……




 ――……それが定めなのだろうな、ヒサト――


 うっさい、そんな定めがあってたまるか。

 大体リニア、アンタは何で突如現れては落ち込んでいる人に追い討ちを掛けるようなことを言うのかね?


 ――仕方ないだろ、私は暇なんだから――


 何か他にやることは ――無い―― ……先読みしてノータイムかよ……




 まあいい、この際だ、もう放っておこう。

 しかし、妙だな。銀行員がやけに慌しく袋に金を詰めてるな。

 なんていうか、時間に追われてる様な感じだ。

 普通はそういうところで引き伸ばして、警察の到着を待つものなんだが……


「よし、ずらかるぞ!!」


 金を強盗団のリーダーらしき男が受け取ると、急いで店の裏口から逃走を始めた。

 ……やれやれ。銀行には気の毒だが、とりあえず俺たちはこれで助かったわけだな。


「おい、お前はこっちに来い」


 強盗団の1人が俺の腕を掴んで裏口に引っ張っていく。

 ……ああ、そうかい。どうせそんなこったろうと思ったよ。

 どうやら俺は余程神様に嫌われているらしい。


「こ、この!! 放せ!!」


「暴れるな!! 大人しくしろ!!」


 銀のナイフを俺に向ける強盗。

 と、ここで外からパトカーのサイレンの音が聞こえてきた。

 よし、あと少しで警察が……

 と思ったその時であった。




「レッッッツ……パァァァァァァリィィィィィィィィィィィ!!!!!!」




 パトカーから警官が出てくると、その警官は躊躇することなく銀行にロケット砲を打ち込んだ。

 正面のドアが派手な爆音と共に豪快に吹っ飛ぶ。


「な、何だ、今のは……?」


 強盗も唖然としている。

 そりゃそうだろう。 

 何処の世界に人質がまだ残されている強盗の現場にロケット砲を打ち込む警察が居るのか?

 そもそも、何故一介の警察官なんぞにロケット砲が配備されているのだろうか?

 しばらくして、ロケット砲を打ち込んだ下手人が乗り込んできた。


「ロックンロールの時間だぜクソッタレ共!!」


「派手に踊りな、ベイヴィイイイイイイイイ!!!!」


 そう言うなり、1人は手にしたアサルトライフルをぶっ放し、もう1人はショットガンを撃ちまくる。

 ……駄目だこいつ等、頭がどうやら無限の彼方へ旅立っているようだ。 

 後ろから更にもう1人警官が現れた。

 手にしているのは巨大な重機関銃。


「ちょっと、本当に良いんですか!? まだ中に人質が居るんですよ!?」


「ああん? かまやしねぇよ、どうせ銀玉以外は非殺傷設定だ、遠慮なく撃ちまくれ新入り!!」


「は、はいいいいい!!!」 


 そう言うなり、必死の形相で重機関銃を乱射する新米警官。

 頼むからそんな必死にブロウニング何ざ撃つな、疑問を持ったならやめんかボケ!!

 銀行職員を見ると、この世の終わりが来たような顔をしていた。

 ……あ~、成程な。こんな銀行強盗以上に性質の悪い警官が来るんなら、さっさと金渡して逃げてもらった方が被害少ないわな。 

 現実逃避をしている場合じゃない。何とかして脱出しなければ。


「おい、こっちに来い!!」


 ……そうでした、脱出以前に私は人質なのでした。






 車に乗せられた瞬間、物凄い勢いで車が発進する。

 後ろからは、パトカーがしっかりと付いて来ている。


「リーダー、何処に向かう!?」


「とりあえずは町の中を走って追っ手を撒け!!」


 どうやら助手席に居るのがリーダーらしい。

 俺の両隣に居る奴がさっき銀行に居た実行犯だ。

 犯人グループは4人か。うーむ、どうしようか……


「そうだ、大人しくしていれば命は取らない。だから……」


 男が話すと同時に、空気が抜けるような音と共にロケット砲の弾頭が横を通り過ぎていく。

 それは目の前にある建物にぶつかると、轟音と共にそれを爆砕した。


「……思いっきりロケット砲が飛んできてるんだが……どうしてくれる?」


「……済まん」


 謝りやがりましたよ、この強盗?

 跡形も無く木っ端微塵になったら再生もへったくれも無いんですがねえ!?


「あ……RPG!!!」


 その一言と共に隣に居た男の表情が凍りついた。






 ……拝啓、親父殿。

 RPG-7が飛んできたときの人の顔は洒落になってません。

 俺は帰宅時にこんな顔をしていたのでしょうか?






 …………そんなくだらない話をしている場合ではない。

 そう叫んだ瞬間、ロケット砲の玉が左前方で炸裂し、路面が砕け散った。

 砕け散った破片はフロントガラスを突き破り、助手席に座っていたリーダーの頭を直撃した。


「ぐあっ!?」


「り、リーダー!?!?」


「しっかりしろ!!」


 リーダーが倒れたことで俄かに強盗団は慌て始めた。

 そうこうしている間にも、後ろからはRPG-7とBAR(ブロウニング・オートマチック・ライフル)が雨あられだ。

 ……このままじゃこいつ等と心中する羽目になる。仕方ない、出来るだけ荒っぽい言い方で、周りの士気を高揚させるような台詞回しを……

 そう考えると、自然と肝が据わっていった。


 ああ、久々の感覚だ。

 遠賀の馬鹿のせいで893の喧嘩に付き合わされて以来だな。


「おい、てめえら!! 落ちつかねえか!! 今此処でんなことしてたら、きっちりかっちりこの世とオサラバすることになっちまうぜ!!」


 俺の一言で一気に静まる犯人達。


「あ、ああ、すまねえ。リーダーがやられちまったから少し気が動転した」


 どうやら、落ち着かせることには成功したらしい。


「で、これからどうすればいい?」


「は?」


「だから、これからどうすれば良いか訊いてんだよ!! 何とかしねえと俺達仲良くお陀仏なんだぜ!?」


 何故それを俺に聞く!?

 くそ、揉めている時間はねえ、不本意だが考えるか……

 だがその前に、今使えるものを聞いておかなければ。


「1つ聞く。今この場に何がある?」


「何がって、何だ?」


「得物だ、今必要なのはそれくらいだろうが!!」


「馬鹿、お前あのイカレ警官とやりあうつもりか!?」


「この腰抜けが!! 殺される覚悟がねえなら銀行強盗なんざ済んじゃねえ、この田吾作が!!」


 全く、銀のナイフを持ち出して人を殺す覚悟で銀行強盗に来ておきながら、自分が殺される覚悟が無いとは何という奴らだ。


「まあ、んなことはどうでも良い。とりあえずこのまま逃げ回っているだけじゃジリ貧だ、とっとと使えるものを出せ」


 出てきたのはサブマシンガンの類と、ハンドガンにグレネード。それに工事用のドリル。弾は充分にある。

 中身は普通の鉛玉のようで、殺傷能力はこの世界の住人に対しては無いに等しい。

 なるほどな、銀の弾丸は高いからな~

 ……なんとまあ、今更ながら滅茶苦茶な世界だ。

 さて、どうするか……


「で、どうするんで?」


「パトカーの射手をサブマシンガンで牽制して、出来るようなら潰せ。狙うのならBARより先にRPGだ。同時にタイヤを狙って再起不能にしろ」


「それで、何処に向かう?」


 何処に向かうか……

 恐らく、町の外に出る道は封鎖されているだろう。

 何しろ、銀行は町の中心部にあって、そこから町の外に出るのにかなり時間が掛かる。

 例え真っ直ぐ向かったとしても、出入り口付近の警察署の連中が町を封鎖するのには間に合わない。

 ならばどうするか……確かこの町の道は……


「後ろのパトカーを片付けたら、西側の町の外壁まで行け。それまではこれまで通り、後ろの奴を撒くように走ってろ」


「え? でも、あの辺は道なんて殆どねえし、外壁もあるんですぜ?」


「だからだよ。普通、逃走中にそんな所を登ろうとするような非効率的な真似はしない。と言うことは、そこなら警官の警備も手薄になるはずだ。壁も、精々レンガを積み上げた程度、やり方次第では壊す事だって出来るさ」


「な、成程……」


「分かったか? 分かったなら行動開始だ野郎共!! 向こうがロックならこっちはジルバだ、最高のステージに乗せてやれ!!」


「「「合点でさぁ!!!!」」」


 俺の一声で一斉に指示通りに行動を始める野郎共。

 俺は後部座席の真ん中に居るので、何も出来ない。

 つまり、俺が助かるかどうかはこいつ等の腕次第ってことだ。

 さて、お手並み拝見と行きますかね。




 ――……おいヒサト、今のお前は完璧な悪役のボスだな――


 あのな、幾らなんでも命は惜しいんだ、仕方ないだろ。

 あ、ちなみにグレネードを使わせなかった理由は周囲の被害を防ぐためな?


 ――……警官がロケット砲を乱射している時点でその考えは無駄だと思うが……――


 ……身も蓋も無い事を言わんといてください、リニア。




 まあ、それは置いといてだ。次にどうするかを考えなきゃな。

 突如、後ろから轟音が響いた。

 見ると、パトカーが派手に横転している。

 それに巻き込まれる形で、後続も次々に事故を起こしていった。


「タリホー!!! ざまぁ見やがれポリ公共ぉ!!!」


「良い子はおねんねの時間って奴だ!!!」


 さて、次の指示だ。


「よし、新手が付く前に西の壁に向かえ!!」


「OK、兄貴!! おいこら、通行人!! どかねえと暴れ馬に轢き殺されっぞ!!」


「……誰が兄貴だ、誰が。俺人質、それから通行人を轢くな。そこんとこOK?」


「ハッハァ、分かってるって兄貴!! おらおら、ひき肉になりたくなけりゃ避けろや愚図共!!」


 ……ちっとも分かってねえ……

 そんな話をしている間にも、派手なドライビングで車を運転手が走らせる。

 細い路地を駆け抜け、道に置いてある看板をぶっ飛ばし、赤信号を突っ切り、警察を翻弄しながら西の壁に到着した。

 途中でリニアの知り合いのジャンプで死ねる冒険家を轢殺した気がするが、どっかで一日5~6回は死ぬので気にしないことにする。

 周りに警官は居ない。どうやら全て撒いてきたようだ。


「で、どうするんです、兄貴?」


 だから違うっての。


「ドリルで壁に穴を空ける。ある程度穴が開いたら穴にグレネードを詰めてぶっ飛ばせ」


「「「合点でさぁ!!!!」」」


 野郎共は返事をすると、手際よく作業を進め、あっという間に壁に車が一台通れるほどの穴が空いた。

 野郎共が車に乗り込むのを見届ける。


「兄貴!! 早く乗ってくれ!!」


「いや、俺はここに残る。事後処理があるんでな」


 当然嘘っぱちである。誰が好き好んで犯罪の手助けをするかっての。


「……そうか……無事で居てくれよ、兄貴」


「ああ、達者でな」


 適当に返事をして奴らを送り出す。

 よ~し、これでやっと開放されたな。

 後はお家に帰ってゆっくり……


「ヘイ、キッド、何処に行くつもりだ?」


「アンコールはまだ続いてるんだぜ、ボーイ?」


 振り向くと警官が居て、M4A1とSPAS12の銃口がこちらに向けられている。

 ……おお、ゴッド。アンタそんなに俺が嫌いか?

 何で、俺が、警官にロックオンされてんだ?


「さて、セカンドライヴだ。楽しもうぜ、優男!!」


「ミュージック、スタート!!!」


 次の瞬間、鉛弾の嵐が吹き始めた。

 慌てて近くの建物の影に隠れる。

 冗談じゃねえ、何で被害者に銃をぶっ放すんだ!?


「よせ、やめろ!! 俺は被害者だ!!」


「ああん? 話ならお前に鉛弾をたらふく食わせてとっ捕まえてからゆっくり聞いてやんよ!!」


「ふ、ふざけんなああああああああ!!!!」


 は、話にならん。奴等の話じゃ被害者だろうと鉛弾を喰らうのは確定らしい。

 とりあえずは逃げるしか無さそうだ。

 民家の壁を蹴って屋根の上に登ると、下からRPGが飛んできた。

 そいつは民家を直撃し、壁に大穴を空けおった。

 …………マジですか?

 

「ヘイヘイヘイ!! 逃がすと思ってんのか?」


「うっさい、貴様等民家への被害とか考えねえのか!?」


「HAHAHA、何言ってやがる、んなもん保険に入ってりゃ問題ねえじゃねえか!!」


「問題だらけだろうが!!」


 屋根から屋根に飛び移りながら逃げる。

 下からは弾丸の嵐、喰らうのは御免だ。

 だって、幾ら死なないったって痛てえんだ、これが。

 あ、いつ喰らったかっていうと、シリアとリアンの戦争に巻き込まれたときな。


「ヒュウ、すばしっこい奴だ。どうやら奴はヴァンパイアみてえだ!!」


「なんてこった、1面のボスにしちゃめんどくせえ!!」


「あ、あの、やっぱり1度話を聞いたほうが……ひいっ!?」


「黙らねえか、新入り!! 良いか、あんな上等な獲物はそうそういねえんだ。奴は絶対に狩りだすぜ!!」


「ああ、久々に骨のある奴だ、楽しまなきゃ損って奴だ!!」


 ……私、泣いてしまいそうです。

 本っっっっっっっっ当に勘弁して欲しいと心の底から思う。

 屋根伝いじゃ遮蔽物が無くなる事に気が付いたので下に下りる。

 すると、そこには何と人影。

 腰まで伸ばした金色の髪に2本の角を生やした人影は、俺を見て優雅に微笑んだ。


「あら、貴方はシリアの所の執事……名前は確か、ヒサトでしたわね?」


「げぇ、リアン!?」


 しかも、そいつは俺があまり会いたくない奴だった。

 だって、こいつと会うたびに戦争に巻き込まれるんだもんな~


「人に会うなり失礼な人ですわね。それに、私は貴方に呼び捨てにされる覚えは無くってよ? もう少し礼儀作法を見直したほうが良いのではなくて?」


 俺がうっかり口を滑らせて言った一言を聞いて、素早く俺の首を絞めに掛かるリアン。 

 い、息が……意識が遠く……


「あ、そうですわ。お兄様の相手をなさるか、私に少しそのお肉を提供するかすれば許して差し上げますわよ? さあ、如何なさる?」


 この状態で答えられるわけねえだろ……

 いいから放せと目線で訴えていると、警官が追いついてきた。


「追い詰めたぜ、チキンやr……」


「どうした、あいb……」


「待ってください、先p……」


 追っかけてきた3人は俺の現状を見て固まった。

 いや、正確には俺をとっ捕まえているリアンを見て固まっている。

 そりゃそうだ、好き放題に暴れ回っている所を領主の娘に見られたんだ、そりゃ固まるよな。


「あら、如何なさいましたか、お巡りさん? ちゃんと指示通りに動いてまして?」


 リアンがそう話しかけると、警官3人が敬礼をした。

 そう、右手を前方斜め上にビシッと伸ばして、「ハイル!!」という言葉が聞こえてきそうな感じで。

 ……なるほど、リアンは伍長閣下か。


「はっ!! 我々は命令どおりに働いております!!」


「では、その証拠に携帯品をお見せになってくださる?」


「はっ!! 直ちに!!」


 何だこいつ等、いきなりチンピラ警官から軍隊のノリに変わりやがったぞ。

 3人はそれぞれの得物をリアンに見せた。

 もちろん、先程まで使っていた警官が持ってはいけないような重火器類である。

 リアンはそれぞれの得物を見て、満足そうに頷いた。


「重畳ですわね。指示通りの働きを認めましょう。これからもこの調子でお願いしますわ」


「はっ!!」


 …………アンダッテ? これで指示通りだと?

 俺が何か言おうとすると、リアンは俺の腕を掴んで一言、


「ああそれから、この人は私の方で引き取りますわ。それじゃ、お勤めに戻りなさいな」


「はっ!! 失礼致します!!」


 すると、3人はパトカーで走り去っていった。

 それを確認すると、リアンは振り返って俺に微笑みかけた。


「それじゃ、とりあえず私のお屋敷に向かいますわよ」


「……その前にいくつか質問があるんだが、良いか?」


「宜しいですわよ? では言ってみなさいな」


「まず1つ目。警官に思いっきり暴れさせるのが指示? だとしたら何でそんな事を?」


「ええ、そうですわよ。犯罪をするたびにああいうものに襲われるとなれば犯罪も減りますでしょう? それに、この町では税金の中に様々な保険料が含まれていて、そこから破損した住居等の補修費や負傷者の医療費等を支払っていますのよ。こうすれば建築会社への仕事が増えて、雇用の増大に繋がりますでしょう?」


「それは税金の取りすぎにならないのか? 被害が出なければ払った税金は損になるだろうが」


「もちろん、余剰分は年金への上乗せという形で少しずつお返し致しますわ」


 リアンは現在の行政に関することを自信たっぷりにそう話す。

 ……これはどうなのだろうか?

 何だろう、正しいような、釈然としないような……


「……本当はもう少し穏便な手段は無いのかとか言いたいが、今はまあいい。で、こっちが本題だ。これからアンタの屋敷に行くにあたって俺に拒否権は?」


「あるとお思いですの?」


 そう言いながら搦め手をしっかりと決めるリアン。

 ……ですよね~……涙が出てきやがるぜ、ちくせう。

 そうこうしているうちにファフナー家のリムジンが到着し、俺はその中に放り込まれた。


「こ、こら!! とっとと放せ!!」


「車の中で五月蝿いですわよ。……ああ、そういえば前にシリアが黙らせる方法を言っていましたわね。確か……」


 そう言うと、リアンは俺の首筋をじっくり、ねっとりと舐め回した。


「ひ、ひあっ!?」


 あまりのくすぐったさに思わず裏返った声が出る。

 くっそ~ シリアの奴、何でこんなことをペラペラ人に喋ったりするんだ!?

 そんなことを考えていると、リアンが危険で妖艶な笑みを浮かべて俺を見ていた。


「あら、本当に効果ありますのね。それに、何と良い反応なのでしょう。ふふふ、お兄様にこれをやらせたらさぞかし良い画になるのでしょうね」


 背中に一気に悪寒が走る。

 じょ、冗談じゃない。俺にそんな趣味は欠片も無い。

 なおも執拗にリアンは俺の首筋を舐め続ける。


「う、うくっ……」


「……ああ……このおいしそうな首筋、舐めてるだけじゃ物足りなくなってきますわね……はしたないですけれども、車の中じゃなければすぐにでも齧り付きたくなってきますわ……」


 そんなウットリした顔で人の首を甘噛みしながらそんな物騒なこと言わんで下さい。

 さっきから尖った歯が首筋にチクチクと刺さって痛いんですがっ!?

 ああ、こんなことしてる間にもどんどん屋敷が近づいていく~


 




 で、結局俺は首筋を責められっぱなしのまま逃げられず、この間と同じ状況と相成りました。

 つまり、拘束された状態で椅子に座らされている状態。

 リアンはといえば、


「それじゃ、ゆっくりくつろいで待っていて下さる? お兄様をお呼びしますから」


 と言って部屋から出て行った。

 ……この先のことはあまり考えたくない。

 何とかして此処から脱出しねえと、あのどロリコンと一緒に何させられるか分かったもんじゃない。

 俺はまず、どうすれば腕に巻きついている縄を解けるかを考えることにした。






 ……え、何?

 この話続くのか?



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