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17/21

綺麗な声には面倒がついて来る。


 こないだの日記:子供に弄ばれた。……ぐすっ、ちくせうめ……



 俺、現在1人ゴムボートの上で絶賛不貞寝中。

 上半身のキスマークが酷いのでパーカーを着ている。

 はあ……パーカーを取りに行った時の皆の視線が痛いの何のって。

 その視線は容赦なく俺の心と胃を掘削工事していった。

 もう、俺の心と胃はブレイク寸前です。

 その内血を吐いて倒れます。


 ……ふう、いつまでもウジウジしてても仕方が無い。戻るか。

 で、起き上がってみれば岸ははるか彼方。

 ありゃ、こりゃ随分と沖に流されてしまったな。


 「ララララ~♪ ララ~♪ ララララ~♪」


 ん? どこかから……歌が聞こえる?

 何て澄み切った綺麗な歌声だ……誰が歌っているのだろう……


 「ララララ~♪ ララ~♪ ララララララ~♪」


 こっちだ……こっちから聞こえる……

 柔らかく心地の良いソプラノの歌声のする方角にボートを進めると、岩の上に歌い手の姿を見つけた。


 「ララララ~♪ ラララ~♪ ラララ~♪ ラララ~♪ ララララララ~ララララ~♪」


 もう少し……それで、あの人の所に……

 俺は気がつけば夢中で櫂を手繰っていた。




 で、気が付いたら海の底。

 でも、何でか知らんが空気はある。

 周囲360度は海で、どうやら海の底にドーム上に造られた空間らしい。

 何じゃ此処は?


 「やっと……やっとお客さんが来てくれた……」


 「ん?」


 声のしたほうを見てみると、海のような深い青色の髪を腰まで伸ばして、薄い青紫を基調としたドレスを来た若い女性を見つけた。

 年齢は見た目からすると20代前半位だろうか?

 鈴の音のような澄んだ声から察するに、彼女がさっきの歌い手だろう。


 「う、うう……寂しかったよー!!」


 「たわばっ!!」


 その女性は突然大声で叫びながら跳び付いてきたかと思うと、俺の胸の中で泣き始めた。

 俺のパーカーを二度と放さんと言わんばかりに握り締め、胸に顔を押し付けてくる。


 「お、おい!! 良く分からんが少し落ち着け!!」


 「うわーん!!!」


 「うがっ!?」


 引き離して落ち着かせようとしたら、押し倒されました。 

 ……一体何がどうなってるんだ。説明求む。




 ひとしきり泣いて落ち着いたのか、女性は鼻を啜りながらではあるが事情を話してくれた。

 散々泣きはらしたせいで、綺麗な海辺の水のようなエメラルドグリーンの眼は真っ赤である。


 「すみません、取り乱しちゃって……私はソプラって言うの」


 ソプラさん、ね。


 「粟生永和、ヴァンパイアです」


 「うう、他人行儀はやめて……」


 今の一言だけですぐに涙目になるソプラさん。

 今ので泣きそうになるんじゃ「さん」付けしただけでも泣かれそうだな。


 「ああ、わかったわかった。で、アンタの種族はローレライで合ってるかな?」


 「うん……でもね……皆ちっとも来てくれないんだ……私の歌……下手なのかな……」


 「いや、そんな事は無いぞ。現に、俺は良い歌声だと思うし、それに惹かれたから此処に居るんだぞ。もう少し自分に自信を持って良いんじゃないか?」


 流石にそれは無い。

 あんな綺麗な歌声で下手だという奴がいたら、そいつのほうがおかしいと思う。

 第一、そこまで音楽に興味の無い俺でさえ惹きこまれたくらいだしな。


 「うう、ありがとう……でもね、それでも誰も来てくれないんだよ……う、うう、うわーん!! 寂しいよー!!」


 「はいはい、今は俺が此処にいますよ~」


 泣くと同時にソプラはすぐに飛びついてくる。

 仕方が無いので、俺はその背中を擦って落ち着かせることにした。

 はぁ……何だか、泣き虫の子供を持つ親の気分だ……こんなでかい子供が居てたまるか。


 「ぐずっ……何で皆来てくれないんだろう……」


 ソプラは俺の腕の中で呟くようにそう言った。

 ちなみに、俺には即座に思い当たる条件がある。

 正直言ってあまりに哀れなので、とっとと言うことにする。


 「あのさあ、正直に言って歌う場所が悪すぎるって」


 「え……?」


 「だってさ、ここは海水浴場から遠い沖で、近くに港はない、おまけに禁漁区、人が来る要素が1つもないんだぞ?」


 現在地、海水浴場から約1km沖、海水浴場付近に港が出来るはずも無く、そんなところで漁をする奴はいない。

 どんな大声で歌おうが波音で分からんし、人が来ない条件の三本柱が見事に建っているのだ。

 そもそもここにソプラが居ること自体、誰も分からないことであろう。


 「そ、それじゃあ、ここじゃ誰も来ないって事? そんな……うわーん!!!」


 現実を知ってまた俺の胸の中で泣き出すソプラ。

 ……はぁぁぁぁ~ よしよし、頼むから泣き止んで。

 泣き止んでくれないと俺の胃に穴が空くから。

 ソプラはその後10分泣き続けた。


 


 「……落ち着いたか?」


 「……うん……でさ、私はどうすれば良いの?」


 首をかしげながらソプラは俺に聞いてくる。


 「ん? 引っ越せるんならそれが一番良いと思うが……」


 「引越し? えっと……うん、出来るよ……何処がいいと思う?」


 再び俺に聞いてくるソプラ。

 ぶっちゃけ、何処が良いと言われても俺には分からん。


 「なるべく人が多いところとしか言いようが「ふ……ふぇ……」だあああああ、分かった!! 一緒に探すから!!」


 俺が遠回しに自分で考えろと言うと、ソプラは俺のパーカーを引っ掴んで泣く寸前の表情をした。

 結局、俺もソプラの引越し先を探しに行くことになったのだった。

 ……私、泣いていいですか?

 何でこんな面倒なことになるんだ……

 はぁ……他の連中に何て言えば良いのやら……


 「まあ、とりあえずはどっか良い物件を探しに行かないとな。さてと、ぬおっ!?」


 俺が立ち上がると、ソプラは俺の脚にタックルを仕掛けてきた。


 「い、行かないで……もう、寂しいのは嫌だよ……」


 あ、すげ~デジャヴ。

 何てこった、こりゃあのシルフィと同じパターンだ。

 私はとんでもないものに引っかかってしまいました!! またこの手合いです。←(CV.納谷○郎)

 この手の奴は人への依存性が高いからな……この先はあんまり考えたくない。

 というか、こやつは何を言っておるのだろうか?


 「ちょっと待った。ソプラが行かないと話にならんだろうが。引っ越すのはお前だろ?」


 俺がそう言うと、ソプラは抱きついたまま上を向いて俺の顔を見た。

 澄んだ瞳に涙を溜め、縋るような上目遣い。

 あ、結構可愛い……いかんいかん、ここで堕ちたら碌な事がなさそうだ。


 「じゃ、じゃあ私も一緒で良い?」


 「むしろ、一緒じゃないと困るんだが……」 


 「ありがと……それじゃ、行こう?」


 ソプラがそう言うと、目の前に俺が乗ってたゴムボートが出てきた。

 俺はソプラに手を引かれながらそれに乗り込む。

 で、気が付いたら海の上。


 「……どうなってんだ?」


 「えっと、ローレライなら誰でも出来るよ? あ、あの空間はお客さん専用だよ?」


 俺の質問に凄く不安げに答えるソプラ。

 へぇ~ そうなんだ。


 「まあ、とりあえず海岸に行くぞ。と、その前に……水辺から離れると何か拙いことってあるか?」


 「……うん。私たちローレライは髪が乾くと病気になるんだ……で、でも、置いてかないで……」


 ソプラはすがる様に俺の腕を掴む。

 ……こいつは人の話をちゃんと聞いていたのだろうか?

 淋しがりやもここまで来るとなかなかにきつい物がある。

 ……段々胃がキリキリと痛み始めてきた。


 「置いてかないから落ち着けって。それじゃボートが動かせん」


 「ご、ごめんなさい……」


 ソプラは謝ると、恐る恐る俺の腕を放した。




 で、何やかんやしながら海岸へ。

 ソプラは置いてかれないように俺の手をしっかり握っている。


 「まずはペットボトルと水だな。それから皆に紹介して……」


 「いててて……ひでぇ目に遭ったぜ……」


 俺が考えていると、先程目の前で暴走わんこに止めを刺されて朽ち果てていたファイスが目を覚ました。

 奴はこちらを見て、少し驚いている。


 「んあ? おいヒサト、その娘どうしたんだ?」


 「ああ、これには少し事情があってな……」


 ファイスに事情を簡潔に説明する。


 「なるほどねえ。お前、本当に自分で苦労を背負い込むよな。ま、救いといえばソプラちゃんが可愛いことだな。ったく、運が良いやら悪いやら」


 「うるせえ。運が悪いのは魔女様から認定済みだ。それに、俺だっていつも背負いたくて背負ってる訳じゃねえよ」


 俺がそう言うと、


 「そ、そんな事言わないで!! お願いだから!! う、うわーん!!」


 と言って、俺のパーカーを握り締めて号泣し始めた。

 ……やっちまった。

 あ~あ、このパーカー新品だったのに……特売品の安物だけど。 


 「ああんもう!! ソプラ、俺が悪かった。ちゃんと付き合ってやるから、泣き止んでな?」


 「ぐずっ……ひっく……や、約束だよ?」


 「心配するな、用事が終わるまではちゃんとそばにいてやるよ」


 落ち着かせるために背中を軽く叩き、頭を撫でる。

 うう、胃が痛い……胃薬が欲しい……


 「……ヒサト、物件を探しに行く前に救急箱んとこにいけ。胃薬があったはずだ」


 「ああ、すまねえ……」


 流石は兄弟、俺の要求が分かるとは。

 俺が救急箱の所に行こうとすると、ソプラも俺に付いてきた。

 不意に、ファイスから声が掛かった。


 「ところで、何でパーカーなんて着てるんだ?」


 「……それは聞かないでくれ……」


 ファイスはそれだけで何があったか察したらしく、遠い眼をした。

 俺は親友が苦しみを理解してくれたことに安心感を覚えながらその場を後にする。

 ……ホント、苦しみを共有できる奴がいると気が楽だ。


 「……にしてもヒサトの奴……天然誑しか……その内背中からグッサリとかねえよ……な?」


 おいコラやめろ、お前が言うと洒落にならん。





 救急箱の所に行くと、今度はリリアがいた。

 リリアは俺を見つけると、ぽやぽやした表情を崩さずに首をかしげた。


 「あら~? ヒサト君、その人誰なの~?」


 「ああ、説明すると長くなるんだが……」


 今度はリリアに事情を説明する。


 「そうなの~ なら、良い場所知ってるわよ~ 町も近いし、静かなところよ~」


 「あ、あの……本当に?」


 「本当よ~」


 ふむ、どうやらこの問題は思ったよりさっくり解決しそうだ。

 時間を見ると、もう4時半。

 そろそろ帰る時間だ。


 「リリア。そろそろ帰る時間だし、そのついでに案内してやったらどうだ?」


 「そうね~ それじゃ、帰りに寄って行きましょ~」


 「あ、ありがとう……うあーん、良かったよー!!」


 見つかって安堵したのか、ソプラは俺にしがみ付いて泣き始めた。

 ……いい加減にせい、結局泣くんかい。


 「それじゃ、そろそろ皆を集めて帰る準備を……」


 とまで言いかけたところで、目の前に研ぎ澄まされた鎌の刃がちらついた。

 刃は俺の首を斬るか斬らないかの状態で触れている。

 気が付くと、ヘルガが後ろに立っていた。


 「……たこ焼き」


 「い、いや、ヘルガ? もう時間だし……ひっ!?」


 俺が止めようとすると、ヘルガは俺の皮膚を軽く裂いた。

 少しだけ血が出た。


 「約束を破るのは許さない。……次は頚動脈」


 かつて無い鋭い眼光を見せるヘルガ。

 ヘルガが少し手に力を入れれば、俺の首は胴体にサヨナラすることになるだろう。


 「ハイ、カシコマリマシタ……」


 結局、俺はたこ焼きを10人前買わされ、その内9人前をヘルガが平らげた。

 お前の胃は宇宙なのか、どうなんですか?




 そして帰り道、俺達は町の近くにある湖に来ていた。

 湖の中央には岩があり、町からはあるいて5分掛からない。

 ここで歌えば街中にまで聞こえることであろう。


 「この湖は一応所有権は家にあるから~ 使い道も無かったし~ あんまり気にしないでね~」


 「ていうか、何でこの湖を買ってたんだ?」


 「ん~、景色が綺麗だったから~?」


 「疑問形かよ……」


 それでいいのか、リリアさんよお。 

 俺とリリアが話していると、ソプラが皆にあいさつをした。


 「あ、あの……皆ありがとう……あと、ヒサトさん、また来てね……」


 「……ああ、分かった。そうだ、最後にもう一度歌ってみてくれないか?」


 俺は純粋にソプラの歌声が聞きたくて、気がつけばそう口にしていた。

 その言葉を聞いた瞬間、ソプラは嬉しそうに笑顔を浮かべた。


 「う、うん!! それじゃあ……」


 ソプラはそっと眼を閉じると、澄んだ声で歌い始めた。


 「ララララ~♪ ララ~♪ ララララ~♪ ララララ~♪ ララ~♪ ララララララ~♪」


 澄み切った声が湖のほとりに響き渡り、その場にいた全員がその歌に言葉を失った。

 何と言うか、何か暖かいものが直接心に沁みこんでくるような感じがする。


 「ララララ~♪ ラララ~♪ ラララ~♪ ラララ~♪ ララララララ~ララララ~♪」


 ソプラは穏やかな表情で歌い続ける。

 歌い終わるころには町からも人が出てきていて、物凄い人だかりになっていた。

 中には涙を流している人もいるくらいだ


 「♪~ ……うわあ……人がいっぱい……これは……?」


 歌い終わった後、周りの盛大な拍手に包まれながら、ソプラは信じられないと言った顔で俺を見た。

 俺はその拍手の嵐の中、ゆっくりとソプラに近づいた。

 そんな俺に、困惑した表情のソプラは駆け寄ってくる。


 「ヒ、ヒサトさん、これはいったい……」


 「だから言っただろうが。お前はもう少し自信を持って良いんだって」


 ちなみにこの声、かなりソプラにしか聞こえないくらい小声である。

 多分、ファイス辺りならサラリと言うのだろうが。

 ……くぅ、今だけは誑しのそういうところ尊敬する。


 「うん……それじゃ、私頑張ってみる!!」


 ソプラは涙を零しながら、笑顔で返事をした。


 「ああ、頑張れよ」


 これで、もう大丈夫だな。

 ソプラも自信を取りもどしたみたいだし、俺に依存することも無いだろう。


 「さ、皆帰ろうぜ?」


 「ソプラちゃん、凄いのね~」


 「あんな綺麗な歌初めて聞きました……」


 「心に響く歌ってほんとにあるのね」


 「いやはや、あれが音に聞こえたローレライの歌声ですか。私、感激いたしました」


 思い思いの感想を言いながら屋敷に帰る。

 今日は気分がいい。

 色々あったが、終わりよければ全てよしって奴だな。






 と、なりゃ良かったんだが、この話にゃ続きがある。

 後日、久々に俺はソプラの歌が聞きたくなったので湖に行ったら、


 「ヒサト!! 漸く来たか。何時まで待たせるつもりなのだ? (わらわ)は待ちくたびれたぞ」


 もっそい高圧的な待遇を受けますた。

 ……あの……どちら様?

 いや、見た目はソプラなんだが……


 「えっと……ソプラ……だよな?」


 「それ以外の誰に見えるというのだ? さあ、早くこちらへ来るが良い」


 一体何があったと言うのだ?

 何故か知らんが逆らいがたいオーラを感じる。

 とりあえず、ソプラの所に行ってみる。

 すると、ソプラは俺の頬に手を添えて、こう言い放った。


 「そなたには世話になったな、礼を言うぞ。そなたを妾の従者にしてやろう。ありがたく思え」


 な、何じゃそりゃ……数日間の間に何があったというんだ?


 「1つ質問だ。何があった?」


 「何もありはせぬ。ただ思い出しただけだ。我こそは、ローレライの王族クインシアの子、ソプラニーネ・G・S・クインシアであると言うことを」


 つまりはあの時は孤独によって幼児退行を起こしていただけだというのか?

 で、本来はこんな我様な性格の王女様だったというのか?

 ……本当に碌でもない奴ばかりにあたるな、俺。

 俺は面倒なことになる前に立ち去ろうとするが、


 「ララララ~♪ ララ~♪ ララララ~♪」


 これは……いい歌だ……


 「フフフ……捕まえたぞ、ヒサト」


 等と思った瞬間、ソプラは不敵な笑みを浮かべながら俺の腕を掴んでいた。

 うぐぐ、恐るべし歌の魔力。


 「全く、何処へ行くというのだ? 従者は主人の傍に居るのが当然であろう?」


 呆れたといわんばかりの視線を俺に送りながらソプラはそう言った。

 ……俺の意思に関係なくもう従者は決定かよ。

 だが、こちらにも手札はある。反撃といこう。


 「まあ、待て。俺はリリアのところで執事をやってるんだぜ? この湖だって彼女の物だ。俺に勝手に手を出すのはどうかと思うぜ?」


 すると、ソプラは不敵に笑って、


 「甘いな。そなたが彼女に従事しているのは知っておる。そなたは家の外の担当だと言うこともな。加えて言えば、そなたが今休み時間だということも、2時間後にそれが終わることも知っておる。だから、その少なくない休み時間や外回りの時に妾の所に来い」  


 何……だと……?

 仕事や休憩時間に関してなど俺は一度も言っていないはずだ。


 「……何故知っている?」


 「妾が歌で集めた人間から少しずつ聞き出して整理しただけのことだ。自らの所有物の事を知らんなどと言うことはあってはならんからな」


 なるほど、ソプラは人を使うのが上手い知性派か。

 何てこった、こいつは思ったより強敵だ。

 ていうか、俺は所有物扱いかよ。


 「心しておけ、そなたはフローゼルの執事であり、妾の従者でもあるのだ。異論は認めぬ。何、妾も鬼ではない。休みくらいなら用意はしておく」


 そう言うなら開放してくれ……そう思った瞬間、胸を締め付けられるような、強烈な感覚を覚えた。


 「ぐ……ガフッ!!」


 俺は喀血して倒れた。


 「なっ……ヒサト!? しっかりせい!! ヒサト!! お主に倒れられたら妾はどうなる!! ……うわーん!! 目を覚ましてよー!!」


 俺が目の前で倒れたのが余程こたえたのか、ソプラは錯乱して幼児退行を起こして俺に泣きつく。

 その後俺は救急車で運ばれ、緊急入院と相成った。




 以下、カルテ。


 患者名:ヒサト・アオウ (21)


 担当医:ナズナ・セルベス


 病名:神経性胃炎を要因とする胃潰瘍


 備考:何をどうしたらこうなるのやら。


 あとで知った大失敗。

 ソプラのファミリーネームはイギリスの国歌から取った。

 しかし、ローレライはドイツの妖怪。

 しかもファーストネームの由来のソプラノという言葉はイタリア語。


 ……何を考えてんだ、俺……

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