バーベキューですよー!! ……あれ?
この前のにっき:皆さん海を楽しんでくれてるみたいですっ♪
集合場所に戻る途中、何やら砂浜に崩れ落ちた男の人の群れを見つけました。
皆どうやら泣いているみたいです。
「一体何があったんでしょうね、ファイスさん?」
「は、ははははは……こりゃ多分姉貴の仕業だな……またこんなに被害者を出してまあ……」
……ファイスさんの眼は遠い眼をしてました。
ファイスさんが海を眺めていると、突然海の方を見て固まりました。
「……おい、あの沖に浮かんでるのリリアさんじゃないか?」
「え?」
私が沖を見るとそこには浮き輪にはまって浮かんでいるリリアさんが居ました。
どうやら寝てるみたいで、どんどん沖のほうに流されています。
「た、大変ですっ!! な、何とかしないと……」
私がそういった瞬間、
「……何だ、ありゃあ……?」
ファイスさんは指を沖を指差して言いました。
何かが居るみたいですが、それが何かは良く分かりません。
それはリリアさんのところへ魚雷みたいに猛スピードで真っ直ぐに向かってました。
「り、リリアさーん!! 起きてくださーい!! 危ないですよーぅ!!」
私は大声でリリアさんに声を掛けましたが、リリアさんからの反応はありません。
そうこうしてる間に、影はリリアさんに近づいて……
その浮き輪を引っ張って浜辺に近づいてきました。
その影は、海から上がると、
「ふう。全く、肝を冷やしましたぞ。リリア様、お目覚め下さい、昼食の時間ですぞ!!」
「ふ、ふぇ? う~ん、もうそんな時間~?」
と言ってふんどし一丁の紳士が、金髪のお姉さんを起こしに掛かりました。
あの影はサバスさんだったんですね。
……泳ぐ姿が魚雷に見えるって、どうなんでしょう?
「サバスさん、何を背負ってるんだ?」
「ほっほっほ。無人島からの帰りに魚を見つけたので少し漁をしておりました。」
背負われているのはカツオ2匹、アジ数匹。
……サバスさん、貴方、何者ですか? 濱○優ですか?
と言うより、どうやって仕留めたんですか?
「さて、帰って調理に掛かるとしましょう。アリア様、お手伝いいただけますかな?」
「あ、はい。それじゃ、皆さん、集合場所に行きましょう!!」
「そうね~ おなかも空いたし~」
「そうすっかね」
集合場所に向かって歩いていると、海の家に見知った顔を見つけました。
褐色の肌にスクール水着をつけたヘルガさんと、かわいらしいヒマワリの柄の水着をつけた白い肌のシルフィさんでした。
「ね、ねえ、ヘルガちゃん。この後お昼だよ?」
「もぎゅもぎゅ……大丈夫。子供は食べ盛り」
「そういう問題じゃないでしょ……」
……ヘルガさん、黙々と焼きとうもろこしを食べてます。その横には既に3本の芯が転がっています。
シルフィさんはヘルガさんの説得に掛かってるみたいです。
「皆さ~ん!! お昼にしますよ~!!」
私が声を掛けると、
「……分かった。すぐ行く」
少し弾んだ声でヘルガさんは返事をすると、あっという間に焼きとうもろこしを食べ終わりました。
えっと、比較するなら、志村○んのスイカの早食い芸と同等でしょうか?
集合場所に着くと、私とサバスさんは早速調理に取り掛かりました。
お昼はバーベキューと、さっきサバスさんが取ってきたお魚です。
カツオは軽く炙って叩きにして、アジは新鮮さを生かして刺身にしました。
……何だかとってもアンバランスですけど、皆喜んでもらってるみたいなんで気にしません。
「ハムハムむしゃむしゃモキュモキュごっきゅん。はむはむムシャムシャもきゅもきゅゴッキュン」
「ふわ~……すごーい……」
「ヘルガの胃はどうなってんのよ?」
ヘルガさん、ものすごい勢いで食べてます。
えっと、さっき焼きとうもろこし食べてましたよね? それも何本も。
「あっ!! ヘルガ、それアタシが取ろうとした奴!!」
「……バーベキューや鍋物、その他大皿料理は弱肉強食。それが家の教え」
目の前で焼かれていたお肉を掻っ攫われて、シリアさんがヘルガさんを睨むと、ヘルガさんはそう言って返しました。
どんな家の教えですかっ!?
ヘルガさんの家の食事は毎日が戦争とでも言うんでしょうか!?
「……良い度胸ね。その勝負、乗った!!」
ああっ、シリアさん!! 触発されないで下さい!!
2人によって物凄いスピードで料理が消えていきます。
え? ヴァンパイアは血の方が良いんじゃないかって?
確かに栄養効率は良いんですけど、普通のお食事でもちゃんと栄養は取れます。
だから、皆と食事をするときはこうして一緒に食べるんですよっ♪
「ほっほっほ。まだまだ沢山有ります故、心配なさらずどんどんお食べ下さって構いませんぞ?」
私とサバスさんでどんどんお肉を焼いていきます。
それにしても、凄い量のお肉ですね。食べ切れるんでしょうか?
「ちょっと、アリア。少し相談があるんだけどさ」
私がお肉を焼いてると、シアンさんが空のお皿を持って私の所に来ました。
「何ですか? シアンさん」
「出来れば生肉で少し欲しいんだけど。ほら、アタシ人狼だし」
あ、そうでした。シアンさんたち人狼は、体質上野菜が食べられないんで、生肉を食べないと栄養が上手く取れないんでしたね。
焼いちゃうと壊れちゃう栄養もありますし。
お皿に少し多めに生肉を乗っけて渡します。
「はい、どうぞ。量は多いんでしっかり食べてくださいねっ♪」
「サンキュ。よし、これを食べて、後で奴がきた時に頑張るとするか!!」
やたらと気合を入れて食べ始めるシアンさん。
……もう少し少なくしたほうが良かったかもしれません。
この後行くのが鬱になります。
「ア・リ・アちゃん♪ どう? 楽しんでる?」
「ふにゃああ!?」
お肉を焼いていたらフォリーナさんが後ろから抱きついてきました。
手はしっかり私の胸を掴んでいます。さっきの水掛で腫れているのでかなり痛いです。
「い、いきなり何をするにゃあああああ!?」
私が一言言おうとすると、フォリーナさんはグニグニと握ってきました。
「フフ、良い反応。でも、流石に子供が居るからこれでお終い」
「それなら最初からしないで下さい!! 大体なんでこんなことしたんですか!?」
私がそう聞くと、悪びれた様子も無く、こう答えました。
「ん~、したくなったから?」
……もう、良いです。この人のマイペースぷりには付いていけません。
この人は放っといてお肉を焼くことに専念しましょう。
「はい、あ~ん♪ どうですか、あなた? 美味しいですか?」
「うむ、美味いぞ」
バーベキューの一角では、ミストさんがガストさんにお肉を食べさせていました。
それにしてもお肉を焼く火に負けないくらい2人も熱いですね~
あの御夫婦の周りだけ別の空間になってます。
「アリア様。後は私めが引き受けますので、どうぞ昼食になさってください。久々に熱い戦いになりそうですからな」
サバスさんがお肉を焼きながらそう言ってきました。
目線はヘルガさんとシリアさん、その眼は強敵に挑む勝負師の眼をしていました。
……今日になって分かったことですが、サバスさんって凄く熱い人だったんですね……
勝負に水を刺しては悪いので、お皿を持って自分が焼いていたお肉を少し食べる事にしました。
ん~、脂が乗っていて凄く美味しいです♪
ふと雪乃さんの姿が見当たらないので周りを見てみると、ポーラさんと一緒にお魚をつついてました。
「いや~肉もいいけど、魚も美味だわ」
「そうですね。このお魚は獲れてから1時間も経っていないみたいですから新鮮で美味しいです」
お肉に夢中な皆さんに比べて随分平和ですね。
そこに少し疲れた表情でファイスさんがやってきました。
「あ~しんどい。やっぱ最近運動不足かねえ、俺。あ、少しその魚くれるか?」
「はい、どうぞ」
ファイスさんの要望を受けて、雪乃さんがお刺身をファイスさんに手渡します。
「サンキュ」
「って言うか、後ろから刺されて入院してたんだから仕方ないんじゃない?」
「それもあるんだろうな……お、美味い」
ファイスさんは鯵のお刺身を食べると、戦場になっているお肉の場所を見ました。
シリアさんは満足したのか勝負から抜けていて、代わりにシアンさんがヘルガさんと勝負していました。
勝負は周りを巻き込んで白熱したものになってます。
……皆さん、女の子ですよね? もう少し落ち着いて食べたほうが……
それに対して、それを上回るペースでお肉をサバスさんが焼いていきます。
「ったく、どんだけ食うんだよ、あいつ等。落ち着いて食えねえし」
「ホントにねえ。ま、私等はこっちでゆっくり魚を食べてましょうや」
「賛成です。私はあの状況にはついていけそうもありませんし」
あきれ果てたっていう感じで話すファイスさんに同意するポーラさんと雪乃さん。
私もお魚の方に行きましょう。少し疲れましたしね。
クーラーボックスからジュースを4つ取り出して持っていきます。
「皆さん、私も御一緒させてもらって良いでしょうか?」
「お、いいよ!!」
「もちろん、良いぜ」
「では、こちらが空いてるのでどうぞ」
1つの大皿を4人で囲むような形に座ります。
私はジュースを配って、お魚を食べる事にしました。
アジのお刺身をお醤油につけて食べます。
ん~、おいしいですぅ~♪ 中々ここまで新鮮なものは食べられませんからね♪
カツオもおいしそうですね。それじゃ、一口……
そうやって食べていると、周りから視線を感じました。
見ると、3人とも私の顔をじっと見ています。
「あれ? 皆さん、どうかしたんですか?」
「いや、刺身を食うたびにあんまり幸せそうな顔をしてるもんだからつい、な」
「いや~破壊力抜群の笑顔だったわ」
「本当、可愛らしかったですよ。さ、まだありますのでお食べ下さい」
皆さん暖かい笑顔で私の顔を見ながらそんな事を言いました。
……もういいですよ~だ。こうなりゃ開き直りですっ。
「ありがとうございます♪ それじゃ、いただきます♪」
それからしばらくの間、私が食べてるのを見て周りが和むって言う、よく分からない構図が出来ていました。
……なんか納得がいきません。
ひとしきり食べてお腹も膨れたので、私は他の人を見て回ることにしました。
「えっと、少し他の人たちの様子を見てきますね」
「ほいほーい。いってらっしゃーい」
見ると、お肉は殆ど無くなって、皆が食べ切れなかった分をサバスさんが食べていました。
サバスさんの顔には清清しい笑みが浮かんでいました。
……どうやらスッキリしたみたいです。
皆少し食べ過ぎたのか、思い思いに休んでいます。
さてと、後確認してないのはリリアさんとミリアさんですね。
見たところ、この近くには居ないみたいです。
シリアさんも居なくなってますし……何処に行ったんでしょうか?
捜し回っていると、岩場の影に休んでいる金色のツインテールを発見しました。
「シリアさん、いっぱい食べてたみたいですけど、大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫よ。だいぶ食べたけど、あと少しなら入るわよ」
「そんな無理して食べなくてもっ!?」
私がシリアさんと話していると、後ろから両腕を取られました。
どうやら、リリアさんとミリアさんみたいです。
「ふっふっふ、引っかかったわね~」
右腕をしっかり抱えているのはリリアさん。
いつもの笑顔が怖いです。
「食後のデザート確保ですね」
左腕を捕まえてるのはミリアさん。
視線はじっと私を見ています。
「さ~て、覚悟は良いかしら?」
前からゆっくりとにじり寄ってくるシリアさん。
手の動きが不穏です。やめて下さい。
はうう、どうやら罠に掛かっちゃったみたいです。
「ちょ、ちょっと皆さん!? 私この後もあるんですよ!? 動けなかったら困るんですけど!?」
「大丈夫よ~ 手加減くらいはするから~」
「そういえば、貴女の血を貰うのは久しぶりですよね?」
「最近中々隙を見せてくれないしね。外に出ていることも多いし」
3人とも私を話すつもりはないみたいです……
もう諦めたほうが良さそうです。
私はがっくりと項垂れました。
「それじゃ~ アリアちゃんの肝が据わったところで~」
「「「いただきます」」」
「はうっ!!」
号令と同時に皆さんが私に噛み付きました。
リリアさんが首筋、ミリアさんが脇腹、シリアさんが太ももです。
「はむっ……アリアちゃんの血って、んちゅ……甘いのよね~……んむっ……」
「ひうっ……あ、あんまり首は……ひゃあっ!!」
はうはう、やっぱり首筋は駄目です……こらえきれません……
「んっ……そうですよ、姉さん……ちゅる……アリアさんは首が弱いんですから……れろ……」
「あうっ!! わ、脇腹も舐めたりはちょっと……きゃうう!?」
脇腹も勘弁してください……くすぐったくて……声が我慢できません……
「はぁ……どうやら脇腹も弱いみたいね……んくっ……ホント、アンタ弱点だらけじゃない……ちゅ……」
シリアさん、内ももは拙いですって……その……色々と……
あ、ああ、目が霞んできました……
「あ、あうう~、み、皆さん、も、もう眩暈が……」
私がそう言うと、3人とも口を離しました。
私は、その場にへたり込むように座りました。
「あらあら~ 少し吸いすぎちゃったかしら~?」
「もう少し早く切り上げるつもりだったんですけど、アリアちゃんも彼も美味しくて可愛いから、つい進んじゃうんですよね」
「まあ、要するに、アンタの自業自得よね」
皆さんは悪びれた様子もなくそう言いました。
「り、理不尽です……」
何なんですか、その滅茶苦茶な理論は……
私はちっとも悪くないと思うんですけど!?
「さてと、皆に連絡しないといけませんね」
「そうね。それじゃ、アリア。向こうに行くわよ」
「突然居なくなったら皆心配するから~ ちゃんと帰るって事伝えないとね~」
そうでした。午前中だけでも結構な密度でしたが、まだ午後があるんでした。
3人と一緒に皆さんのところへ行って、私が帰って、代わりに永和が来る旨を伝えました。
「さて、メインディッシュの到着ね」
「ヒサ兄が来るの!? わ~い、いっぱい遊んでもらおう♪」
「ふっふっふ。早く来いヒサト。今日こそ貴様に土の味を教えてやる……」
至るところから上がる不穏な声。
不安です。とっても不安です。
何だか、生命の存続のためにはアリアのままの方が良い気がしてきました。
「そ、それじゃお先に失礼しまーす!! 皆さん、楽しんでくださいねー!!」
走って車に向かい、手早く私服(男物)に着替えます。
名前が出てからもうすぐ5分が経つんで、そろそろ……
* * * * *
はあ……ったく、鬱だ。
3つの死刑宣告を喰らった状態で出て行かなきゃならんのか……
溜息ばかり吐いていても仕方ないか。
覚悟を決めて出よう。
……願わくば、生きて家に帰れますように。