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13/21

海、それは楽しむべき場所。


 こないだの日記:領主の子供がとんでもなく変態だった。いいのか、これ?




 「うーみーはー広いーな、おおきーなー♪」


 夏ですね~、私は今、皆さんと海に来てます。


 「海ね~」


 「海です!!」


 「海だ!!」


 「海ですな!!」


 「海だぜ!!」


 「海だな!!」


 「海ですよ!!」


 「海よ!!」


 「海だー!!」


 「海だぁぁぁ!!」


 「海ー!!」


 「海」


 「海ですね」


 ……この声だけで誰が誰だか分かりますか?




 ―――そもそも、忘れられている奴とか居るんじゃないか? 作者も忘れてる奴が居るくらいだし―――


 いつもに増してキツイですね、リニアさん。

 何かあったんですか?


 ―――別に、事実を言ったまでだ。全く、何で私が留守番何ざ……―――




 不貞腐れてるだけみたいです。

 まあ、突然あんなことを頼まれたらそうなりますよね。

 ちなみに今のは上から順に、リリア、ミリア、シリア、サバス、ファイス、ガスト、ミスト、フォリーナ、ポーラ、シアン、シルフィ、ヘルガ、雪乃(敬称略)でした。

 それにしても、凄い大所帯になってますね。

 何でこんな大人数になったかと言うと、皆が知り合いをかき集めた結果こうなったからです。

 え? 何で永和じゃなくて私なのかって? 

 ……それはですね、こんな事があったんです。




*  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *




 「海に行く? それを何で俺に言う?」


 「だって、ヒサト君、水着持ってないでしょ~? だから~ちょっと今有る中から2種類選んでもらおうと思って~」


 ぽやぽやした笑顔を浮かべてリリアが俺にそう言う。


 「それは良いんだが……何処にあるんだ? ていうか、2種類?」


 訳が分からん。わざわざ着替えんといかん理由があるんだろうか?


 「此方にございますぞ、永和様」


 サバスがキャスター付きの台の上に水着を山ほど乗っけてやってきた。

 何でこんなにあるのかは気にしないことにする。

 そんな事よりも重要な点が一つ。


 「ところで、1つ聞きたい事がある」


 俺の発言に、相も変わらずのほほんとした笑みを浮かべたリリアが肩にかかった長い金髪を直しながら首をかしげる。 


 「な~に、ヒサト君?」


 「いつの間に集めたとか何で(ふんどし)とか混ざってるんだとかは置いておく。問題はだな、何で女物まであるんだ?」


 これ、「俺のために」集めたんだよな?

 女物があるっておかしくないか?


 「それは私達が全員行くのにアリアさんを置いて行ける訳ないでしょう?」


 ミリアは笑顔で何気なく俺の腕に自分の腕を絡めながら、当然のようにそう言う。

 ……ああ、そう言う事か~ 要するに俺にアリアになって海に行けってことか~

 ふざけんな!!


 「わざわざアリアにならなくても、俺がこのまま行けば良いだろうが!! 大体全員行くって、留守番はどうするんだ!?」


 「御心配には及びませんぞ、永和様。信頼できるお方に警備を依頼しておりますゆえ」


 「それにね、一緒に行く人が両方を希望してるのよ。アリアはファイスが、ヒサトはシルフィとシアンとフォリーナがご指名よ」


 シリアの一言に俺は思わずめまいを覚えた。

 ……うっわ~、めんどくせえ連中の指名を貰ったもんだ。

 このまま行けば、フォリーナに遊ばれてシルフィにへばり付かれてシアンに追い回されると言うスパルタンな状態になり兼ねん。


 「悪いが、俺はパスだ。この様子じゃ俺は胃潰瘍その他で病院送りに……」


 と言いかけたところで背中に悪寒が走った。

 ぽんっ、と俺の左肩に後ろからサバスの手が置かれた。

 いつの間に後ろに回ったんだ、アンタ?


 「……永和様? 執事たるもの、主の依頼には可能な限り最大限に答えるものですぞ?」


 サバスは笑顔だったが、眼は赤く鋭い光をたたえていた。

 何て言うか、どこぞの漫画の執事宜しく「逆らったら狩る」と視線で告げているような気がした。


 「ハイ、ワカリマシタ……」


 俺は結局、海に行かざるを得なくなった。永和とアリア両方で。




*  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *




 ……なんていう、よくある漫画のノリで海に連れて行かれることになったのでした。

 午前中を私が受け持って、後を永和で受け持つことになっています。

 私に渡された水着は白いセパレートの水着です。

 胸元が苦しくて、正直慣れません。

 ちなみに、選んだのはミリアさんです。

 あ、それから他の皆さんがどんな格好をしてるか気になる人もいるでしょうか?

 えーっと、ビキニの人がリリアさん、ミリアさん、シリアさん、ポーラさんで、色は順番にライトグリーン、オレンジ、白地にブルーのストライプ、スカイブルーですね。

 ミリアさんのにはパレオが着いてます。

 レースクイーンみたいな水着の人がミストさんと雪乃さんで、色は赤と青。

 私と同じような水着がシルフィさん。色は水色。

 シルフィさんのはヒマワリの柄が入ってます。

 その他、シアンさんは競泳用の水着、ファイスさんとガストさんは普通に海パンですけど……つっこみたい人が何人か居ます。


 「さ~て、今日は何人落とせるかしら?」


 まずはプロポーション抜群のフォリーナさん。

 幾らなんでも眼のやり場に困ります。形的にはV。

 それに発言が不穏当です。

 貴女の目的は逆ナンパですか?


 「ヘルガさん、何でその水着なんですか?」


 「……有るのに使わないのは勿体無い」


 次に褐色の肌もまぶしいヘルガさん。

 幾らなんでも胸に「へるが」と書かれたスクール水着はやめたほうが方が良いと思います。

 リオンさんみたいな人に声を掛けられたらどうするんですか?


 「ほっほっほ。さて、久々に遠泳に行きますかな!! アリア様、申し訳ありませんが皆様のことは頼みましたぞ!!」


 豪放磊落に笑いながらやたらとキレのあるラジオ体操をするサバスさん。

 彼の水着は風に揺られて白くはためく褌で、鍛え上げられた芸術的な肉体と驚くほどマッチしていました。


 「質問です。何で褌なんですか?」


 「ほっほっほ!! 漢たるものやはり褌でなくてはなりませぬ故。このサバス、まだそこいらの若造には遅れを取るつもりはございませんぞ?」


 仁王立ちして意気込んでいるところ済みません、少しやめて欲しいです。似合いすぎです。

 そんな中、少し離れたところで皆を見ている人がいました。


 「どうっすかね、ガストさん?」


 「そうだな、子供達は除くとして、見たところリリアさん>フォリーナさん>アリアさん>ミスト=シアンさん>雪乃さん=ミリアさん>ポーラさん>シリアさんといったところか」


 「ところで数値は分かりますかね?」


 ファイスさんに言われてガストさんが女の子達を凝視します。

 正確には胸元を。


 「そうだな……ミストが85だから……上から93、89、88、85、85、83、83、80、78ではないかな?」


 ……ガストさんの発言を聞いて思わず胸を隠した私は間違ってないと思います。

 な、何でわかるんですか、ガストさん……


 「スゲェ、姉貴のは当ってるし。と言うことは、これが……でも、何で分かるんだ?」


 「経験だ。結婚するまで色々な人からお誘いを受けたからな。君もその内出来るようになる」


 驚いた表情を浮かべるファイスさんに、ガストさんは白い歯を見せて笑います。

 ……済みません。2人とも、それ軽くセクハラです。

 ていうか、ガストさん、意外とプレイボーイだったんですね。


 「あ~な~た~た~ち~? さっきから2人で何を話してるのかしら~?」


 そんな2人の後ろに気が付けば笑顔の修羅が立っていました。凄い迫力です。


 「うわっ、ミストさん!?」


 「は、ははは、いつから聞いていた?」


 純粋に驚くファイスさんと、引きつった笑みを浮かべるガストさん。


 「あなたが名前を列挙している辺りからです」


 「で、俺達どうなるんすかね?」


 「お・し・お・き・です☆」


 ミストさんの、可愛らしい死刑宣告でした。

 その後、ミストさんが2人まとめてブレンバスターをかけて、頭が砂に埋まった男の人のオブジェが2つ出来上がりました。

 自業自得です。しばらく反省した方が良いと思います。




 「それじゃ~みんな~、時間になったら集合場所に集まって~ そしたらお昼にするから~」


 「皆さん、楽しんでくださいね?」


 「そんじゃま、とりあえず解散!!」


 主催の3人が音頭を取って皆さん思い思いの事をし始めます。


 「それでは、私めはあちらの島まで行って参ります」


 「分かりました。気をつけてくださいね?」


 サバスさんはそう言うと、物凄い速さで海面を切り裂くように泳ぎ始めました。

 傍から見ると魚雷みたいです。

 ……あの島まで何km有るんでしょうか? かなり遠くにあるんですけど……


 「おーい、アリアちゃーん!! こっちでビーチバレーやらない?」


 ポーラさんから声が掛かりました。

 隣にはシアンさんと雪乃さんが居ます。

 ビーチバレーですか、面白そうです♪


 「あ、は~い♪ やりま~す♪」


 「よし、これで面子が揃ったな。チーム分けはどうする?」


 何やらシアンさんは物凄く意気込んでます。

 て、手加減してくださいね?


 「えっと、アリアさんはヴァンパイアなんですよね?」


 雪乃さんが私の種族を確認しに来ました。

 種族によって身体能力に差が出るんで、当然ですね。


 「はい、そうですよ」


 「ふむふむ、それじゃあ身体能力の高いガーちゃんとアリアちゃんは別のチームね」


 ガーちゃん? 誰のことでしょうか?

 私が考えていると、突然シアンさんが怒りはじめました。


 「おい、ガーちゃん言うな!!」


 ガーちゃんってシアンさんのことだったんですね。

 でも、何でシアンさんがガーちゃんなんでしょうか?


 「あの、何でシアンさんがガーちゃんなんですか?」


 雪乃さんも疑問だったらしく、ポーラさんに聞きます。


 「それはだね、シアンは人狼でしょ? で、やっぱり狼になれる訳なんだけど、その時の鳴き声がガウガウって鳴いたからガーちゃんって呼ぶことに……」


 面白い事を話すようにポーラさんはそう言いました。

 からかう気満々ですね。


 「だから言うなっつってんだろ!!」


 「あは、ごめんごめん。それじゃ、まずは適当にシアンと雪のん、私とアリアちゃんでチームね。それじゃ、試合開始!! 最初はこっちサーブ!!」


 青白い髪を振り乱して憤慨するシアンさんに反省の色が全く見えない謝り方で謝ると、ポーラさんはボールを持ってコートに立ちました。


 「いっくよ~!! そりゃあ!!」


 ポーラさんが元気よくサーブをすると、すかさずシアンさんがレシーブに入りました。

 それを雪乃さんがトスして、


 「はあああああ!!!!」


 シアンさんが強烈なスパイクを打ってきました。

 空中で弓形になって、全身をフルに使った完璧なスパイクでした。


 「うひゃあああ!?」


 ポーラさんの近くに突き刺さったボールは周囲に砂を巻き上げて埋まりました。

 ……ポーラさん、避けて正解だと思います。

 恐らく当たったらただじゃ済まないと思います。


 「ちょっと、シアン!! 少しは手加減してよ!!」


 「わりぃわりぃ、久々だったもんで力加減を間違えた。んじゃ、今度はこっちがサーブだな。そら!!」


 ポーラさんの抗議に、パタパタと手を振りながら謝るシアンさん。

 ……さっきの仕返しなんですね、今の。

 そんな事を考えてると、シアンさんのジャンプサーブがこっちに飛んできました。


 「やああああっ!!」


 私はそれをヘッドスライディングみたいに滑り込んでレシーブします。


 「アリアちゃん、頼むよ!!」


 それをポーラさんがトスします。

 えっと、多分シアンさんの性格上、絶対にブロックに入りますよね。

 なら……


 「させるかああ!!」


 「えいっ」


 「なっ!?」


 案の定ブロックに入ったシアンさんの手の上をギリギリ越えるようにボールを押します。

 山なりの軌道を描いたボールはシアンさんの足元に転がりました。


 「やるじゃん、アリアちゃん!!」


 「えへへ、上手く行きました♪」


 ポーラさんとハイタッチをしていると、何やら後ろから不穏な空気が流れてきました。


 「へえ、やるじゃないか。……こりゃ本気を出さないとかねえ?」


 「あ、あの、シアンさん、落ち着いて……」


 ゆらりと言う擬音があってそうな雰囲気を醸し出すシアンさん。

 ……どうやらシアンさんに火を着けちゃったみたいです。

 雪乃さんの静止も聞こえていないみたいです。

 と、とりあえず、私のサーブですね。


 「えりゃっ!!」


 サーブはやっぱりシアンさんが受けて、雪乃さんがトスを上げます。


 「せいやあっ!!!」


 今度は手加減無しの強烈なスパイクが私に飛んできました。

 それにレシーブしようとしましたが、


 「うひゃあああ!?」


 レシーブしたボールは鉛玉のような重さで、受けた私は後ろに転んでしまいました。

 勢いを殺しきれなかったボールは、コートの外に飛んで行きます。


 「ちょ、大丈夫? アリアちゃん?」


 「は、はい……大丈夫です……」


 「よし、次はこっちのサーブだな」


 シアンさんは止まる気配がありません。

 その後、シアンさんによる一方的なゲーム展開が続き、ポーラさんがシアンさんのスパイクでKOされるまでビーチバレーは続きました。


 「うきゅ~……」


 ポーラさんはベンチに寝そべって眼を回しています。

 ……凄いのが顔に入りましたからね……空中で2回転してうつ伏せに倒れる威力って……


 「ポ、ポーラさん、大丈夫でしょうか……?」


 「あちゃ~ 少し熱くなりすぎたか……おい、ポーラ、生きてっか?」


 心配そうに話す雪乃さんに、目の前で手を振って無事を確認するシアンさん。


 「目の前がプラネタリウムだよ~……」


 眼をぐるぐると回しながらポーラさんは返事をします。

 ……やっぱりかなりの重傷みたいです。

 シアンさん、あれほど手加減をしてくださいって言ったのに……


 「……重傷だな。アタシはポーラを休憩所に運んでくる。ビーチバレーはお開きにした方が良さそうだ」


 そう言うと、シアンさんはポーラさんを肩に担いで休憩室まで運んで行きました。


 「私はポーラさんの看病をしています」


 雪乃さんはその後を追ってついて行きます。


 「それじゃあ、私は他の人のところに行ってますね?」 


 そう言って、私は他の人たちの所に行くことにしました。




 「アリア、覚悟!!」


 「え、きゃああああ!?」


 後ろからシリアさんの声が掛かったので振り返ると、顔に水鉄砲をかけられました。

 中身は海水みたいで、目に沁みて痛いです!!


 「い、いきなり何をするんですひゃあああああ!?」


 今度は胸元に水鉄砲を撃たれました。

 具体的には谷間部分に。物凄く悪意を感じます。


 「ちょ、シリアさん!? やめてください!! うきゃあ!?」


 「はっはっは!! うりゃうりゃ~、もがけもがけ!!」


 シリアさんは心の底から楽しそうな声で私に水を掛けます。

 そうやって騒いでいると、


 「えいっ!! 2人とも隙ありです!!」


 「「ぷぎゃあああ!?」」


 今度はミリアさんがバケツに海水を汲んで私達にかけました。

 あまりの水圧に2人とも少し跳ね飛ばされます。


 「ちょっと、ミリ姉!! やりすぎよ!!」


 「まだまだぁ♪ そぉ~れ!!」


 「「うにゃあああああ!?」」


 シリアさんの抗議も全く効果を示しません。

 起き上がる間も無くどんどん水を掛けてきます。

 み、ミリアさん……過激すぎます……


 「そ~れ、もう1回!!」


 「甘い!! アリアシールド!!」

 

 「わきゃああああ!!」


 ミリアさんが放った海水は、シリアさんの盾になった私の胸を直撃しました。

 物凄く痛いです。やっぱり、微妙に悪意を感じます。


 「こうなりゃ私もバケツで勝負よ!! ミリ姉、覚悟!!」


 「させません!! アリアさんシールド!!」


 「きゃううううう!!!」


 今度はミリアさんの行動を、そっくりそのままシリアさんがしました。

 狙われたのはやっぱり胸元、ミリアさんとは比べ物にならない悪意を感じました……

 私はしばらく2人の盾になった後、開放されました。

 私が立ち去った後も、壮絶な水掛合戦が繰り広げられてました……

 辺りの砂浜はバケツの水の水圧で思いっきり抉れてました。

 あうう~、胸が痛いですぅ~

 少し水着を引っ張って中を見てみると、真っ赤に腫れ上がってました。

 シクシクシク、何でこんな目に……


 

 

 少し休もうと思って岩場のほうに行くと、見知った人影がありました。


 「……それにしても、こうして2人きりで海を見るのは何年ぶりだったかな、ミスト」


 「3年ぶりですよ、あなた。あの時もこんな風に磯に座って海を眺めてました」


 そこに居たのは渋い銀髪のナイスミドルのフランケンシュタインと、亜麻色の髪の美しいマリオネットさんでした。

 2人は岩の上に寄り添って座ってます。

 何て言うか、空気がとっても甘いです。


 「違うのは目の前にあるのが夕日じゃなくて入道雲というところだな」


 「でも、隣にあなたがいるのは変わりませんよ」


 そういうと、ミストさんはガストさんに身を預けました。

 ……邪魔しちゃ悪いですよね。他の所に行きましょう。




 ほかの人を捜して砂浜を歩いていると、


 「よお、姉ちゃん。俺たちと遊ばねえか?」


 な~んていう、良くある恋愛ゲームでヒロインがかけられるような声が掛かりました。

 ……私、本当は男の子なのに……orz


 「あ、あの、私連れが居るので……」


 「え~、良いじゃんかよ~」


 さっきからこの調子です。何とかならないでしょうか……

 周りを見回して見ると、ファイスさんを見つけました。

 ファイスさんも私に気付いたみたいで、1つ溜息を吐いてこっちに来ました。


 「何やってんだよ、アリア。またナンパされてんのか?」


 「え、あ、はい……済みません、ファイスさん」


 「何だ? それ、姉ちゃんの彼氏?」


 怪訝そうな顔でナンパしてきた人がこっちを見ます。

 えっと、こういう場合は……


 「はい、そうですよ? さ、行きましょ、ファイスさん♪」


 「ああ」


 ファイスさんの手を笑顔で取って、走り出します。

 さっきの人は追ってこないみたいです。

 ファイスさんはまた1つ大きなため息を吐いていました。


 「ありがとうございます、ファイスさん。お陰で助かっちゃいました♪」


 「ったく、夏の海を君みたいなのが1人で歩いたら絶対ああなるって。はっきり言うけど、アリアちゃんは凄く可愛いんだからさ」


 ぬれた金髪から水を滴らせながら、ファイスさんは溜め息をつきました。

 か、可愛いって……シクシクシク……


 「どうかしたのか? 俺、何か気に障るようなこと言っちゃったか?」


 項垂れてる私を見て、ファイスさんが慌てだしました。

 いけません、今は女の子なんですから、普通は喜ぶところですよね。


 「い、いえ!! あんまりそういう事言われ慣れてないので少し……」


 「そっか。もうちょっと自分に自信を持って良いと思うぜ。魅力が無いって言うんならさっきみたいにナンパされたりしないんだしさ」


 「は、はい。ありがとうございます……」


 ……我慢です。少し泣きたいですけど我慢です。

 が、頑張って明るく振舞わなきゃです!!


 「そうだ、さっきみたいな奴に絡まれるかも知れないから、俺と一緒に回らないか? 俺も結構周りから声が掛かって碌に遊べないしさ」 


 「やっぱりインキュバスも大変なんですね。良いですよ。そういう事なら一緒に行きましょう♪」


 「よし、決まりだな。……あれ、俺、自分がインキュバスだなんて話したっけか?」


 ファイスさんはそう言うと首をかしげました。

 あ。そういえばまだ私は聞いていないんでした。


 「えっと、永和さんから聞いたんです!! 私が始めて応対した客人だったので、どんな人かなと……」


 「なるほどね。興味を持ってもらえるとは幸いだな。それじゃ、何処に行く?」


 ファイスさんはそう言うと普通の女の子なら簡単に落ちちゃいそうな笑顔を浮かべました。

 ふぅ……何とか切り抜けられたみたいですね。

 さて、何処に行きましょうか?


 「この辺りに良い場所って知ってますか?」


 「う~ん、幾つか知ってっけど……あ、そうだ。この辺りならペンギンが見られたはず。見に行ってみるか?」


 ペンギンさんですか……少し興味もありますし、行ってみましょう♪


 「良いですね♪ それじゃ、行ってみましょう♪」


 「OK、決まりだな。それじゃ、こっちだ」


 私はファイスさんの後をついて行って、ペンギンさんが集まる場所に向かいます。

 ペンギンさん♪ ペンギンさん♪ 

 一体どんなペンギンさん何でしょうか♪




 ―――くくく……精神は体に引きずられるとはよく言うが、少々引きずられ過ぎてないか、お前? 可愛い思考がだだ漏れだぞ?―――


 るんるん気分で居ると、リニアさんが含み笑いをしながら話しかけてきました。

 ……うう~、何て事言うんですか~、リニアさ~ん!!

 シクシク、男の子なのに可愛いって……


 ―――悪かった。だが、男であるということを忘れるな。もっとも、アリアのほうを主人格とするのなら話は別だが―――


 分かってますよぅ。私は男を捨てるつもりなんてないんですから。





 「アリアちゃん? どうかしたか?」


 リニアさんと話しているのがぼーっとしているように見えたみたいで、ファイスさんが碧い眼で心配そうに私の眼を覗き込んでいました。

 いけません、ファイスさんを待たせちゃったみたいですね。


 「あ、ごめんなさい!! 今行きまーす!!」


 ファイスさんに連れられて行った先は、小さくて綺麗な入り江でした。

 海はエメラルドグリーンで、砂は真っ白でした。


 「うわ~、綺麗ですね♪」


 「ここは殆ど知られていない穴場でね、海水浴場からあんまり遠いもんだから人が中々来ないんだ。ペンギンを見るだけなら反対側にも見やすくて近い場所があるんだが、アリアちゃんは人ごみが苦手そうだからな」 


 流石はファイスさん、女の子に対する気遣いはピカイチですね。

 私としては複雑ですが……

 すると、ふくらはぎに何かひんやり冷たい感触を覚えました。

 下を見ると、そこには1匹のペンギンが居ました。

 海のほうを見ると、入り江にどんどんペンギンが上がってくるのが見えました。


 「はう~、可愛いです♪」


 「お、来たな。アリアちゃん、少し座ってみなよ。面白い事が起きるから」


 何でしょうか、面白いことって?

 私はとりあえず言われたとおり座ってみることにしました。

 すると、私の周りに沢山のペンギンが集まってよじ登り始めました。

 もう膝の上はペンギンで一杯です。頭の上にも1匹居ます。

 みると、ファイスさんの足元にも沢山のペンギンが集まっています。


 「はうはう、可愛いですう♪ でも、どうしてこうなるんですか?」


 「あー、確か、ペンギンは海で泳いだ後、下がった体温を上げるために日光浴をするんだよ。んで、今の時点では俺たちのほうが体温が高いもんだから、暖を取りに来てるって訳だ」


 「そうなんですか。きゃあ、くすぐったいですよ!!」

 

 ファイスさんと話していると、私が抱いていたペンギンさんが胸の間に挟まってジタバタしていました。

 日向ぼっこでお腹が暖まったので、背中にお日さまを当てたかったみたいです。

 体を入れ替えると、ペンギンさんは私にべったりと貼りついてきました。

 どうやら私の体が暖かいみたいです。

 

 「……このエロペンギン……」


 その様子を見て、ファイスさんが何か言っていたみたいですが良く聞こえませんでした。

 しばらくすると、暖まったのかペンギンさんはまた海に戻って行きました。

 少し名残惜しいですけど、お別れですね。


 「さてと、そろそろ昼飯時だな。じゃ、集合場所に戻るか」


 「そうですね。ファイスさん、どうもありがとうございました♪」


 私がお礼を言うと、ファイスさんは少し照れくさそうにそっぽを向いて、


 「あ、ああ。気に入ってもらえて良かった」


 と返事をしました。


 改訂に次ぐ改訂。

 一昔前の文に手を加えようとすると、どうやって改善すべきか考えなきゃならんから、軽く編集者になった気分を味わえる。


 それではご意見ご感想お待ちしております。

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