6.GAMEの勝敗
「あの、東城さん?」
名前を呼ばれて顔を上げると彼女の顔が心なしか色づいている。
「ホントにごめん。何なら今から井野原に説明しに行こうか?」
もう支離滅裂な事になってきている。
「いえ、それはいいんです。」
さっきよりも顔が赤くなって、声も小さくなっている。
当たり前か、急に僕が出て来て自分勝手に振舞っんだからきっと呆れかえっているのだろう。
急に気分がドンと落ち込んだ。
もう一度説明しに行かなくていいのかと確認した後、彼女が大丈夫だと言うのでお詫びに食事を奢ると4人でよく行く居酒屋に足を向けた。
向かい合った彼女は先ほどから何も話さない。
井野原とどんな話をしたのか、これから付き合う事になったのか聞いてみていいものか迷っていた。
「「あのっ、」」
同時に話しだして僕は彼女に先を譲った。
「どうしてあそこにいたんですか?」
ここまできたのだ僕は正直に話すしかないと腹を決めた。
「那木に今日角田さんが井野原に返事をするって聞いて。ごめん、ストーカみたいな事して。」
なんで僕はこんなに謝らなければならない事をしてしまったんだろう。
今更ながらに呆れる。
「いえ、そんなに謝らないでください。」
僕を慰めてくれているつもりか、角田さんは責める様子はない。
こんな事をしてしてしまった後なのにどうしても井野原にどう返事をしたのか知りたい僕は覚悟を決めて彼女に問いかけた。
「彼には何て返事したの?」
ハッとした彼女は顔を染め、目を泳がせ、恥ずかしそうな表情をみせた。
「えっと、あのぉ、私は。」
とても言いにくそうだ。
女性がその表情をするって事はいくらなんでも察しがつく。
それ以上聞きたくなくて無理やりに笑顔を作って祝福したつもりだった。
「そう、よかったね。」
「私きちんとお断りしました。」
同時に言葉を発しても角田さんの言った事はきちんと耳に入ってきた。
「断ったの?なんで?」
力の抜けた僕の口からはするりと言葉が出てきた。
角田さんは斜め下に目線を降ろしたまま答えてくれた。
「好きな人がいるんです。」
それを聞いて、井野原に断ったのを聞いてホッとしていた僕に上から重石を載せられたようだった。
それから僕は何を食べ、どんな会話をして店を出たのか覚えていない。
ただそこに彼女を置き去りにすることなくいつものように彼女とタクシーに乗り込んだ。
体の疲労がいっぺんにきて背凭れに体を深々と預け、明日ちゃんと起きれるだろうか、そんなことを考えていた。
「あの、少し眠ってもいいですか?」
遠慮がちな彼女の声にいいよと返事をすると肩に軽い重みを感じた。
横を向くと角田さんの頭が俺の肩先にちょこんと乗っている。
その瞬間僕の全身が心臓になったみたいにドックンと動いた。
彼女はそれに気づいたのか上目づかいこちらを向いて、その目がいいですか?尋ねている。
その仕草に僕の心臓は止まった。
視界にかすかに入っていた彼女の子指にそおっと自分のそれを重ねたら彼女か指切りげんまんするみたいに子指を繋いでくれた。
君の好きな人って。
聞こうとしたら横から寝息が聞こえてきた。
僕たちの子指は繋がったまま。
離れないように握り直してから、静かに僕も目を閉じた。
明日は早く目が覚めそうだ。そんな事を考えていた。
短編に近いお話になってしまいました(汗)
描写足らずな部分も多々あったと思いますが読んでくださってありがとうございました。