4.ため息の理由
それからなぜだか4人で会う機会が増えた。
いままでは時々しか食事に行ってもらえなかったのに那木が4人で行くならと断らなくなったのが原因らしい。
小田は那木と会えるのを素直に喜んでいる。
僕も小田に誘われるのを楽しみにするようになっていた。
前に振られ気分を味わった事は自分の中の出来事なので薄れかけている。
誰に知られたわけでもないし、角田さんももちろんその事に触れて来る事も無かったし。
ただ時々那木が僕を見て、もの言いたげに笑うのが気になった。
初めはそれほど気にならなかったのだが
「何か企んでいるのか?」
さすがの僕も那木の行動を怪しく思い尋ねた。
「何が?」
わざと分からない振りをしているのが見て取れる。
小田と付き合うわけでもなくこうして会うのは頻繁になってきている。
どうも何かあるとしか思えない。
険しくなった俺の眉間を見ながら悪魔のような笑顔が帰ってきた。
「楽しませてもらっているわ。」
何の事を言っているのだろうか。
意味を理解できない僕は
「何を?」と再び尋ねたが答えは返ってこなかった。
まさか角田さんに冗談にとられてしまったあの告白を彼女が那木に話しているとは夢にも思っていなかったから。
ただ回を重ねても角田さんが僕に迫って来る事はなかった。
というより、そんなことはもう忘れていた。
会社ではあいかわらず寄ってくる女性も多い。
前はそれを喜んでいた気がするのだが最近は時々うっとおしく思える事がある。
僕は彼女を作らないまま4人で会うのがただ楽しくてしょうがなくなっていた。
タクシーの中。
小田が那木を送っていくので僕が角田さんを送っていくのが当たり前になっていた。
今日はいつもより酔った角田さんが眠そうにしている。
「着いたら起こしてあげるから寝てれば?」
もう何度も送って行っているので彼女の家の道も覚えてしまっている。
「大丈夫です。」
そう言ったものの目が閉じかけているのを気合いで開けてはまた閉じかけると繰り返している。
「よければ肩を貸すよ。」
もたれやすい様に差し出してみたが会社の女性達に睨まれるだろうと軽く笑い飛ばされる。
二人以外に会社の人間はここには居ないのに何を言っているのだろう。
頑張っていたけれど、いつの間にか眠ってしまった角田さんは頭を揺らし窓の方へ頭をもたげている。
しばらくしてタクシーが左へ曲がると窓にもたげていた彼女の頭が俺の方へ傾いた。
初めは肩に着かない位置でゆらゆらしていたけれど自然に僕の方へ降りて来た。
彼女の家がそこに見えている。
「その辺をもう一回りしてもらえますか?」
思わず運転手さんにそう告げていた。
到着して声をかけると初めはうつろに返事をした彼女は僕の方に凭れていたのに気付くと飛び起きた。
温かかった肩の温度が下がって行くのを感じて、寂しい気持ちが湧いてきた。
彼女と言えば慌てて財布を取り出しながら
「あれ?いつもより高くないですか?」
小声で僕に聞いてくる。
一応運転手さんに気を使っているのだろう。
「道が少し混んでいたから。」
寝ていた彼女には分からない様、嘘をついた。
いつも見送ってくれる彼女が見えなくなってから、そぉっと自分の肩に手を伸ばす。
まだ少し彼女の温もりが残っている。
自分でも分からない深いため息が出た。