ピンク色の終末
「ねえ見て!
今日の空、超ピンクじゃない? 映えすぎ!」
彼女が指差した先では、
大気汚染のせいでネオン色に焼けた雲が、
お菓子みたいに甘ったるく溶けていた。
誰も絶望なんてしていない。
みんな、崩壊していく世界を背景に
自撮りをして、これからのことなんて
知ったこっちゃないという
顔で笑い転げている。
「本当だ、エモいね」
僕は作り笑いで不安を隠して、
スマホのシャッターを切った。
隣で彼女が、
ホログラムのタピオカを吸いながら
無邪気にのたまった。
彼女はふと言う。
「本当に地球住めなくなるのかな?
君も一緒に外に行けるよね?
お金は要らないよね?」
「…大丈夫だよ。」
本当は大丈夫じゃない。
外に行けるのは裕福層だけだ。
なんとかしないと。
そう思いはするが、解決策なんてない。
大金が降りてくれば話は違うかもしれないが、
裕福層も流石に
金と命を取り替えてくれることはないだろう。
大金を渡すなら技術者かな。
いや、金なんて意味ないか。
そんなことを考えている間に
彼女は何枚も写真を撮っている。
彼女もきっと、
不安を写真で上書きしようとしているんだ。
そんな時、ふと警報がなった。
いつものことだ。
誰も気にしない。
貧困層が、
裕福層から身分証明書を奪おうとする。
しかし貧困層は
ふつうの食事がめったにできない。
あくまでホログラムの食事を食べて、
満腹中枢を弄っているにすぎない。
もちろん、裕福層が直接手を下すことはない。
裕福層に媚び売ってる平民が
貧困層を半殺しにする。
彼女は食事を殆ど摂れないことを、
太らなくていいと言っていた。
しかし、
その目に不安が写っていたのも覚えている。
たまに平民を殺せる人が現れる。
そういう人は、裕福層にスカウトされるか、
恐れられる。
そして、裕福層を殺すか媚を売る。
殺すのはリスクが高い。
自分が殺したのがバレれば
どうなるか分からない。
一方媚を売る場合、不確実だ。
僕なら前者を選ぶ。
彼女に媚を売っている姿は見せられない。
でも死体も見せられないな。
まあ考えたところで無意味か…え?
足元…銃?なんでここに?
え…どうする?
拾ったら捕まる?
裕福層が反乱しようとしている人を探す罠?
これを使えば殺せる?
そもそも身分証明書取っても、バレるだろ。
意味がない。意味がない。意味がない。
取るな取るな取るな取るな取るな取るな取るな取るな取るな取るな
「ちょっと出かけてくるよ。」
「大丈夫?」
「うん」
あぁ。取ってしまった。いや、バレてもどうせなにもしなくても死ぬし、大丈夫…大丈夫…
いや、彼女がいる。
彼女に心配はかけられない。
殺したとして、彼女にはなんて伝えればいい?
彼女に、裕福層殺したよ!…と?
そんなこと言って、
嫌われない?恐れられない?彼女が外に出たがっているのは事実だ。
しかし…いや。彼女を信じよう。
殺さないと何も進まない。
彼女も外に出たがってる。
あとは、誰を殺すかだな…引きこもってるやつとかだったら誰も顔知らないだろ…多分
となると…○○のところか…
え…なんで彼女がここに?
というか、なんだこの喋り方…
「え〜そうなんですか?
○○さんいい人ですね〜」
「え…」
「え…君がなんでここに?しかも手に持っているのは何?」
「△△こそ!なにをしてるの…?」
「外に出たいでしょ?ね…だから…」
「大丈夫。殺してあげるよ。大丈夫。大丈夫。」
バンッ!
「え…」
銃は彼女の頬を掠めた。
「あ…あ…あぁぁぁぁなんで…なんで…」
「大丈夫だよ。私は生きているから…ね?」
「うん。うん。そう。そうだよね。△△は生きている。生きている。」
〇〇が怒ってる。
「△△、嘘をついただろ?
お前、彼氏は居ないって…」
「は…はは」
僕は苦笑いを浮かべながら、銃を握りしめる。
「やめて!」
バンッ
彼女が止めたがもう遅い。
〇〇を殺していた。
彼女は言う
「あと少しで身分証明書取れたのに…
君と外に行けたかもしれないのに…」
「え…?」
「〇〇さん、いい人だよ?」
「でも、△△が体を売るのは嫌だよ!」
「でも何かを捨てないと…」
「ほら。〇〇を捨てた。」
これでいい。これでいいはず。きっと…
「うん。捨てちゃった…」
「とりあえず、〇〇の死体をどうするかだね。」
「うん…」
放心している彼女を引っ張りながら、
僕は〇〇の家に入る。
〇〇の家の身分証明書は、
幸運にも顔の登録をしていないようだった。
心の中で不用心な〇〇を笑いながらも、
罠ではないかと警戒もした。
しかし罠であったとしても
もう自分には彼女以外何もないように感じ、
自分に唯一ある
彼女の願いを叶える手段に見える
身分証明書に手を伸ばしていた。
僕は今日から〇〇だ。
名前が変わった。
顔も隠さないと知り合いに
バレるかもしれない。
思っていたよりもつらい。
しかし彼女と
外に出れるならまだいいのかもしれない。
彼女は僕が名前を捨てたことを
よく思っていないようだが
この星が消えた後なら僕の本来の名前を
言ってもいいのではないかと思う。
あの後僕は〇〇の家から食料を盗った。
〇〇は金を取っておいてた。
もう金に価値なんてないのに。
やっと彼女に食事を与えられる。
本物のタピオカを飲ませてやれる。
僕は帰っていた。
友達に声をかけられた。
「やあ!」
それから耳打ちしたきた。
「ねぇさっき〇〇殺したよね?
身分証明書を盗ったんでしょ?
裕福層にバラされたくなかったら
明日僕の家に来てね。」
僕は冷や汗が出ていた。
友達にバレたのもそうだが、
路地で言われたというのがまたきつい。
小声だっからとはいえ
聴かれている可能性もあるのだ。
彼女が心配そうに言う。
「大丈夫?」
「うん。なんでもないよ。」
嘘だ。あるよ。大変なんだ。
「そっか。じゃあよかった。」
顔は安心してなかった。
いつのまにか家に着いていた。
疲れた僕はそのまま寝てしまった。
僕は次の日、
「友達の家に行ってくる」
と言って、家から出た。
彼女の心配そうな顔が頭から離れない。
「お、来たね!
早速だけど、身分証明書譲ってくれない?
そしたら裕福層にはバラさないよ。
それに、君が身分証明書盗ったことを
僕が裕福層にバラせば、
君は絶対外に行けないだろ?
ここで渡すしかないよ。」
銃を構える。
バレル(銃撃つ時に押すやつ)がやけに重い…
バンッ
友達を撃ってしまった。
バンッ
殺してしまった。
バンッ
殺さないといけなかった。
バンッ
僕は悪くない。悪くない。悪くない。悪くない。
帰ろう。帰って忘れよう
「友達、どうしたの?」
家に帰ったら心配そうな顔の
彼女が訊いてきた。
「え、聞こえてたの?」
「うん。」
「あぁえっとね…あとででいい?」
「誤魔化さないで。」
そう言って彼女は、
大して何も入っていない鞄を見た。
「え…銃?使ったの?」
僕は無言で頷く。
「なんで…?」
「殺さないと身分証明書盗られそうだった。」
「でも友達だよ?それに身分証明書以外の方法で外に行く手段を考えれば良かったじゃん。」
「でも身分証明書を守らないと。
せっかく盗ったもの。」
「まぁ今更か。〇〇も殺しちゃったもんね。」
「そういえば、ずっと△△、本物のタピオカ食べたがってただろ?はい。」
「あ〜〇〇が用意してたんだよ。」
「そういうことね。」
「でもまぁありがとうね。」
「そうだ。料理作るよ。
これも〇〇が用意したものだけど。」
僕は初めて料理をした。
裕福層にとってはまずい料理だったろう。
しかしまともに食事をしてこなかった
僕らには、ご馳走だった。
ピンクの空を見ながら食べた。
初めての満腹で
僕はピンクの空に溶けるように
眠ってしまった。
次の日、瞬く間に銃を持った人がいるという
噂が広まった。
どうやら数回発砲音が
聞こえたことでバレたようだ。
知り合いが僕に注告した。
銃を持った人には気をつけろと。
それが僕であることを知らずに。
僕が銃を持っているかもと思われると
とても気が滅入る。
しかし考えないようにすればするほど
頭から離れなくなる。
さっきから冷や汗がすごい。
今日は家で、彼女と話して過ごそう。
それがいい。そうしよう。
今日はなにもかも忘れよう。
家に帰ると、彼女が
「銃、バレちゃったんだね。」
と言う。
「あ〜うん。」
僕は平静を装った。
いや、平静を装って話せただろうか。
彼女にはお見通しかもしれない。
大丈夫だろうか。心配させてないだろうか。
あぁ。家に居ても落ち着かない。
どこに居れば落ち着く?
僕はどこに居ればいい?
彼女と他愛無い会話をしていればいい?
それで忘れられる?
銃が視界に入らなければいい?
どうすれば忘れられる?
銃を隠そう。
それがいい。そうしよう。
棚の裏に隠そう。きっとバレない。
視界に入らない。これがいい。これでいい。
これで安心できる。きっと。きっとそうだ。
ドアの開く音がした。強盗だ。
強盗はよくあるとはいえ、
いつもなら何も無いからすぐに去っていった。
今は…
銃が近くにある。撃とう。それがいい。
銃を隠すのは間違いだ。危ない。
バンッ
彼女の驚き、怯えた顔が見えた。
彼女の顔に、血が跳ねた。
彼女はまたすぐ、いつもの顔に戻った。
「は…はは びっくりした。」
「…ごめん。」
今日は、
不安の種を摘むために僕に警告してきた
知り合いを撃った。
彼女に話した。
彼女にできるだけ安心して欲しかった。
「ねぇ、なんでそんなことしたの?」
「君のためだよ」
「は…?」
「頼んで無いよ?」
「え?でも、外に行きたいって…」
「人を殺してまで
出たかったわけじゃないよ。」
「大丈夫だよ。
人が居なくなっても誰も気づかないんだし。」
「そういうことじゃない!」
「え…?
でも、せっかく君のために人を殺したのに…
友達も、君のために殺したのに…」
「君のため君のためって…」
「それに、僕だって友達を殺すのは、
とても辛かったんだよ。
ずっと罪悪感を耐えてた。
それに罪悪感をぶちまけて
できるだけ君が傷つかないように我慢してた。」
「はぁ?なにそれ。
私だってずっと君の支えになれたらと、
我慢してきたのに…」
「え…?」
「…なんかごめんね。もう寝るよ。」
「…」
大丈夫。大丈夫。僕には銃がある。
不安の種を潰しながらロケットの発射を待つ。
発射できるようになったら
身分証明書を使って、
彼女とロケットに乗る。
きっと彼女も喜んでくれる。
そうだ。きっとそうだ。
じゃあ、次に不安なのは…
バンッ
銃がないと危ない。
僕の身は守れないし、彼女も守れない。
バンッ
銃を持っていれば安全だ。
バンッ
ずっと銃を持っていよう。
バンッ
視線を感じる。
常に見られているように感じる。
なんなんだよ!
きっと見られていない。
見られていないって分かっているのに…
みんな僕を見てる。
きっとみんな気づいている。
みんな裕福層に言おうとしてる。
敵が消えた後、みんな言うつもりだ。
バンッ
視線を潰せばいい。
全員潰せばいい。
バンッバンッバンッバンッバンッバンッ
どんどん人が死んでいく。
誰もそれが誰かは気にしなかったが、
死体が積み重なっていくこと、
銃声が聞こえることから、
人々は不安に駆られている。
僕は僕が人を殺しているのがバレないように
不安に駆られた人から消している。
不安に駆られた人ばかり消しているから、
みんな人を殺しているのは
愉快犯だと思ってる。
きっとそうだ。そうに違いない。
人を殺せば殺すほど
僕が人を殺していることに
気づかなくなっている。
このまま殺し続ければきっと、
もっと僕だと気づかれなくなるだろう。
僕は間違っていない。間違っていない。間違っていない。間違っていない。
よし。今日も人を撃とう。それがいい。
きっと。
彼女が訊く。
「今日も人を撃つの?
いつも言っているけど、
私はそんなこと望んで無いよ?」
「大丈夫だよ。
きっと△△もいつか僕の正しさに気づく。」
そう。きっといつか、気づいてくれる。
お、明日、ロケットの試作機が飛ぶらしい。
外に出て、反発している奴から殺していこう。
それがいい。
バンッバンッバンッバンッバンッ
通行人の会話が聞こえる。
「ねぇ、きっと殺しているのは裕福層だよ。」
「なんで?」
「だってロケットを飛ばすことに反発している人ばかり殺してるじゃない。」
あぁ。
みんな愉快犯であると思っているのに
言っていない。
自分だけが助かろうと言う魂胆だろう。
自分だけが助かれば、
一人ぐらいなら
ロケットに乗せてもらえるかも
しれないからかな。
敵がいなくなった後の方が、
裕福層にチクリやすいからかな?
「だから、裕福層は危ないし、
裕福層と話すのはやめておこう?」
ほら見ろ。やっぱりそうだ。ずるいなぁ。
まぁ、
みんな愉快犯を
利用しようとしてるみたいだけど、
僕はみんな殺すつもりだし、
あんま関係ないでしょ。
…試作機が落ちた。
墜落した。
必要燃料を減らすために
新しくつけた宇宙内の
水素を燃料にする装置が重く、
5Gが出せなかったとか、
よく分からないことを言っていたが
多分みんなが邪魔したから墜落したんだ。
まだロケットの発射に反発している奴が
いるんだ。
殺さないと。
どうやって探そう。
片っ端から撃てばいいか。
「お前は裕福層が外に行くことをどう思う?」
「え?勝手じゃない?
外でもどうせうまくいかなくて死ぬでしょ」
嘘つきが。
バンッ
「お前は裕福層が外に行くことをどう思う?」
「俺らも連れてけよって感じだよな。
裕福層だけで行くなんてずるいでしょ。」
正直に話すのか。バカが。
バンッ
「お前は裕福層が外に行くことをどう思う?」
「お前はどう答えるのを望んでるんだ?」
「お前がどう思うかだぞ。」
「何が目的だ?」
後ろめたいことがあるから
はぐらかしているんだな。
バンッ
「お前は裕福層が外に行くことをどう思う?」
「我々が死んでも裕福層が生きていける。
これにより人類が存続できる。
いいことだと思いません?
あなたがなんと考えていようと
私はこの考えを曲げる気はありません。」
わぁ。大嘘つきだ。
バンッ
「お前は裕福層が外に行くことをどう思う?」
「ずるいと思うよ。」
バンッ
「お前は裕福層が外に行くことをどう思う?」
「お前はどっち側だ?」
質問を質問で返すなよ。怪しいな。
バンッ
「お前は裕福層が外に行くことをどう思う?」
「羨ましいけど諦めるしかないよ。」
本当は諦めるてないくせに。
バンッ
「お前は裕福層が外に行くことをどう思う?」
「頼むからその話をしないでくれ!」
「お前は裕福層が外に行くことをどう思う?」
「やめろ…忘れさせてくれ…」
哀れだな。殺して楽にさせてやろう。
バンッ
「お前は裕福層が外に行くことをどう思う?」
バンッ
「お前は裕福層が外に行くことをどう思う?」
バンッバンッバンッバンッバンッ…
あぁ。全員殺した。これで安心だ。
彼女も僕の本名を呼べる…
本名…?なんだっけ?
今日は…撃つ人がいない。
あ…あぁぁぁ落ち着かない…
落ち着かない…これじゃあ、殺した意味が…
気を紛らわそう。
ロケット…ロケットはどこまで進んだ?
今日は…試作機がまた墜落?
いつもより高く飛べるようになった…か。
やっぱり邪魔してた奴らを殺したからだ。
でも…まだ飛ばなかったってことは…
彼女も邪魔してるのか?
そうだ。彼女を撃とう。
そうすれば外に…
外に出られる。
「△△〜ロケット飛ばすとき、
ロケットが飛ぶの邪魔したでしょ。」
「え?どういうこと?」
動揺してる…図星か…残念だ…
「さよなら」
カチッ
え…?
カチッ
え…
弾が…ない。
え…危ない。
彼女を殺さないとロケットは飛ばせないし、
みんなを殺したから
強盗は僕のところだけに来る。
強盗は貧民だ。銃があればそんな強くない。
でも今はない…危ない…どうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう
「〇〇、大丈夫…?私に何かできることある…?」
「みんな殺したから〇〇って
呼ばなくていいんだよ。
あと、ロケット飛ばす時に邪魔するのやめて。」
「え…?
名前は〇〇じゃなかったっけ…?」
「とぼけたって無駄だよ。
僕は知ってるからね。
全員殺したんだ。
ここには△△と僕しかいない…
僕が、邪魔をしていたのか…」
銃…は使えないのか。
頭を鉄片に打ち付けよう。
ガンガンガン
「やめて!」
やけに遠くから聞こえるように感じる。
ガンガンガン
彼女が力ずくで止めてきた。
彼女…力がある…いや…僕が弱ってるのか…
「○○…?大丈夫…?」
「うん。大丈夫だよ。
やっぱり慣れないね。」
「え?」
「〇〇って名前。」
「使ってから結構経ったでしょ。」
「大袈裟だなぁ。せいぜい数日でしょ。」
「え…?」
「どうしたのさ。
あ…食料もうこんなに食べちゃったのか…」
「え?ちょっとずつ食べたじゃん」
「だってまるで
数週間経ったかのような減り方じゃん。」
「え?違うの?」
「え?」
これで完結としていいのか、8月から現在の11月までずっと迷っていました。




