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4-1

 その柔道場は色鮮やかな緑の畳敷きで、入口から見て左右に一面ずつコートがあった。


 つまり畳に八メートル四方の四角い枠線が赤く塗られていて、南の壁にずらりと並んだ窓から注ぐ初冬の弱い陽射しが、その二つのコートを照らしていた。陽射しの落ちる空間に微細な埃が浮いて、風も無いのにゆっくりコートの上を移動していた。


 柔道場は底冷えがした。由紀人くんはその隅に立ち、コートとコートの間の奥の壁に掛かっている額を独り眺めていた。額には毛筆で「自他共栄」と書かれている。シンと静まり返った、厳かな空気。汗と藺草の混じった匂いがした。


 十月に二人の格闘家と闘わされた後、由紀人くんはまた未海ちゃんに音信をおざなりにされた。会って話したいとLINEしても返信はひどく遅く、忙しい、とすげなくかわされる。たまらなくなって好きだと言えば、うれしいですとただ返されるだけ。


 未海ちゃんが自分の他に複数の男と付き合っていたことが分かっても、そしてそれらの男たち同士を闘わせる妙な習癖を持っていることが判明しても、どうしても由紀人くんは未海ちゃんを諦めることができなかった。


 未海ちゃんがようやくまた会ってもいいとLINEを返してくれたのは十一月の半ばだった。それも、前回と同様に「会って欲しい人がいる」という条件付きだった。


「それって、この間みたいに俺がその人と闘わなきゃいけないのかな」


 由紀人くんが聞くと、そうですという簡単な返信があった。なんの恨みもない人と闘うのはもう嫌なんだけど、と一応抵抗してみても、未海ちゃんは、闘って勝てばきちんと由紀人さんと付き合いますからの一点張り。堂々巡りになって結局最後は、じゃあもう由紀人さんとは会いません、ちょっと待って、分かった、闘うよ、といういつぞやと同じようなやり取りがなされて、会う日と待ち合わせ場所が決められたのだった。


(なんだかロマンス詐欺にでも騙されているような)


 未海ちゃんに連れられてきた柔道場でたたずみながら、由紀人くんは我ながら情けなくなった。


 その時人の気配がしたので由紀人くんは後ろを振り向いた。柔道場の入口から、白い柔道着を着た大柄な男が、車椅子に乗って、その車椅子を未海ちゃんに押されて静かにこちらにやってきたところだった。

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