3-3
「折れてはいません!」
未海ちゃんは由紀人くんに素早くそう返すと、麦くんのそばに寄って自分もしゃがみ、「麦くん、大丈夫!? また飲んじゃったの?」と声を掛けて彼の背をさすり始めた。そうして由紀人くんをキッと睨み、
「重度の痛風なんです。足の親指の付け根に炎症を起こしているんです」
と説明した。
「ああ……」
由紀人くんは納得した。未海ちゃんはそんな彼を睨んだまま、
「それをよくもこんな――今患部を狙いましたよね! この卑怯者!」
なじった。
「いやだって、真剣な勝負だったし」
由紀人くんが反論すると、このやり取りの間も麦くんは足の甲をさすって「あかん、あかんでえ」と声を絞り出していた。未海ちゃんが介抱に戻って、
「また飲んだの?」
聞くと、麦くんは、
「……昨日少しだけ」
と呟いた。
「ビール?」
「おん」
「なんで今日これがあるって分かってて飲んじゃったの?」
「なんや緊張で眠れんくて。それにやっぱり、ビール販売部門のマネージャーが、売り物のビールの味を知らんってわけにはいかんやろ」
「それにしたって昨日くらい――」
「分かっとる。俺の負けやな。未海ちゃんとのお付き合いも、これで終わりってわけやな。今までありがとうな」
「うん……」
由紀人くんは手持無沙汰に二人のそんなやり取りを静観していた。すると未海ちゃんがなにやら立ち上がって脇に抱えていたトートバッグの中を探り始めた。バッグから、スマホを取り出した。スマホはバイブしていた。未海ちゃんは電話に出た。
「はい? え? 今? 西荻? そうなの? え――、うん、うん、確かに今日この時間って言ったけど。でも来れないって――ううん、迷惑っていうかもちろんうれしいけど」
彼女はそこまで何やら話し込むと、ちらりと由紀人くんを見た。それから電話を続けた。
「分かった。今駅に向かうね。十分くらいで着くと思う。それで今日、会って欲しい人がいるんだけど、いい? 前約束したよね、私のために闘ってくれるって、うん、うん、だいじょうぶ? え、駅が騒がしい? そう、今すぐ行くから」
電話を切った。
未海ちゃんは由紀人くんを見て、
「麦くんを駅まで送ってくるから、由紀人さんここで待っていてもらえます?」
と言った。
「え? じゃ俺も一緒に」
「いいです、すぐ帰ってきますので。麦くんとは約束通りこれで別れますから、最後に二人だけの時間をください。麦くん立てる?」
立ち上がった元彼に、未海ちゃんは肩を貸した。そのまま二人で公園の出口に向かって歩き始めた。
あっけに取られて由紀人くんが二人を見送っていると、途中未海ちゃんは振り返って、
「それと、今日もう一人闘って欲しい人ができたんですけど、この後会ってもらえますか?」
と言ったのである。
「あ、え、いやそれって」
「考えておいてください」
そう言い捨てて、公園の外へ去っていった。




