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その日は気持ちの良い晴れだった。
西荻窪駅前で待ち合わせ、一カ月半ぶりに会った未海ちゃんの姿を見た瞬間、由紀人くんは高揚と緊張でもはや意識を失いそうになった。
彼女は一人だった。挨拶もそこそこに、未海ちゃんは「近くに人を待たせているから」と言い出して歩き出した。人通りの多いにぎやかな通りを、由紀人くんを後ろに従えて、てくてく進んでいく。
通りの両側には商店が並んでいた。それらは飲食店だったりコンビニだったり小さな医院や不動産屋だったり携帯電話ショップだったりした。その間を車が時々行きかい、左右の歩道を日曜の午後を過ごす人々がのんびり歩いていた。
その商店街のような通りをしばらく行くと、商店は途絶えて周囲は住宅街へと変化した。未海ちゃんはその通りから二、三度道を折れて、更に住宅街の奥へ入っていった。
(どこまで行くんだろう)
彼女に先導されながら、由紀人くんは困惑した。
たどり着いたのは細い路地の脇にある、小さな公園だった。公園は住宅と住宅の間に、緑色のアーチ状の門を架けてぽっかり入口を開けていた。入ってすぐ公衆トイレがあり、奥に敷地が長く伸びて、滑り台と砂場とベンチが寂しく設置されていた。砂地の地面に秋の午後の陽が照っていた。
入口から見て敷地の右脇にある木製のベンチに、男が一人座っていた。その男が、未海ちゃんと由紀人くんを見て立ち上がった。未海ちゃんがそちらへ歩いていく。男も未海ちゃんに向かって歩いてき、やがて二人は公園の中ほどで向き合った。
「この人?」
男が未海ちゃんに聞いた。未海ちゃんは斜め後ろの由紀人くんの方を振り返ると、
「そう」
と答えた。
由紀人くんは不審に思いながらも、どうやら彼が未海ちゃんの紹介したかった人物らしいと推測し、軽く会釈をした。会釈が返ってきた。
三十歳手前と見える細身の男性である。足先が細くなっているジャージ生地のズボンを穿いて、上着はアディダスのタイトなジャージ。ジッパーを首まで全部上げていた。顔はやや馬面で目は鋭いものの鼻が長すぎ、美男子とは言い難かった。黒髪のサイドを短く刈り込んでいる。最近街でよく見かけるアジア系の若者のような風貌だったが、肌は白く日本人のようだ。
「由紀人さん、こちら大林麦彦さん。大学まで空手をやっていて、二段なんだって」
由紀人くんはようやくまともに未海ちゃんに話しかけられたことに(ここまで彼女はほとんど彼と話してくれていなかった)内心喜びながら、しかしわけが分からない紹介に「はあ」とだけ答えた。
「麦くん、こちら山崎由紀人さん。もう話したけど、プロのキックボクサーなの」
「おん」
麦くんと呼ばれた空手家が鳥栖哲雄を想起させる返事をした。それから未海ちゃんは周囲を見回して、
「ちょうど他に人もいないね。これなら警察呼ばれたり、騒ぎになったりすることはなさそう」
と満足げに言い、目を閉じてすうーっと深く息を吸い込んだ。そうして大きな目を開き、
「じゃあはい、闘って」
と言った。
「おん」
麦くんは右足を大きく後ろに引いて両膝を曲げ、右手を腹の前に、左手を顔の前に構え、由紀人くんに対して攻撃姿勢を取った。




