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2-3

 その後未海ちゃんからLINEの返信が無くなったため、由紀人くんは慌てた。


 由紀人くんはこの時点でどうしようもなく未海ちゃんのことが好きになっていた。誰にでも、どうにも抗えない恋に行き当たることがある。彼女が痔瘻という病気を患っていようが、由紀人くんの気持ちはいささかも変わらなかった。むしろ彼女をどうにかして助けてやりたいと思った。


 あのラブホテルの夜以降、由紀人くんは幾度となく未海ちゃんにLINEメッセージを送った。


「また会って話したい」


「病気があっても、俺は未海ちゃんのことが好きだよ」


「返信ないけど忙しい? 会いたいと思ってるから、暇な時に返信くれるとうれしい」


「返信ないけど、俺何かしたかな? 気に障るようなことしていたらごめん」……


 由紀人くんのメッセージはどんどん女々しいものになっていった。送ったメッセージはことごとく既読スルーされた。


 二週間ほど経って、ようやく未海ちゃんから返信があった。


「返信してなくてごめんなさい


ちょっと考えていることがあって


由紀人さんは私のために闘ってくれますか?」


 意味が分からなかったが、由紀人くんはとにかく彼女から返信が来たことに狂喜した。


「俺でよければもちろん闘うよ!」


 わけの分からないままそう返した。多分、痔瘻とか社会的不遇とかに対して一緒に闘って欲しいという意味なのだろう、と勝手に想像してしまった。


 しかし、


「ありがとう


また連絡しますね」


彼女からはそう返信があっただけで、それからまた連絡が途絶えた。由紀人くんは気が狂いそうになった。


 未海ちゃんとは連絡がつかなくなる。キックボクシングは引退するかどうか、なかなか答えを出せない。由紀人くんは苦しい九月を送った。練習の前後、私はジムの更衣室で、彼から未海ちゃんとの交際についての相談を何度も受けた。


 ある時由紀人くんは私にあけっぴろげにスマホのLINEの履歴を見せて、


「滝口さんどう思います? なんてメッセしたら、返信くれると思います?」


憔悴しきった様子で聞いてきた。私が履歴を見ると、普段のさわやかな彼からは想像できないようなしつこいメッセージが、つらつら一方的に送られていた。私はあまりしつこくするのも女性には良くない、しばらく間を置いたらどうか、と答えた。


 由紀人くんは何やら目を血走らせて、


「いっそ電話を掛けてみるってのも手ですかね? 例えば判断力の鈍る朝早くとかに。寝起きだったら、何も考えずに電話に出る可能性があると思うんですけど」


と言った。私は少々びっくりしながら、それは止めておいた方がいいのではないかと遠慮気味に言った。こんな好青年が……恋というのは恐ろしい、と改めて感じた。そうして、


「この最後の未海ちゃんからのメッセージ、ちゃんと『また連絡しますね』ってなってるじゃん? だったら素直に連絡待つのがいいんじゃないかな? 向こうにも都合とかタイミングがあると思うよ」


そうアドバイスしてみた。由紀人くんは、そうですかね、このまま自然消滅みたいなことになりませんかね、と、どこまでも女々しく悩みを吐露していた。


 長い残暑がようやく終わりを見せ、朝晩はほっとするような涼しさが増してきた九月末だった。やっと由紀人くんは未海ちゃんからメッセージをもらい、嬉々として私にそのメッセージのやりとりを見せてきた。


「返信遅れてごめんなさい


一度会いたいです 休みの合う時に西荻窪へ来てもらえませんか?」


「返信ありがとう!


もちろん会いに行くよ そちらの都合の良い日にちはいつかな?」


「私は来月の〇日か×日が直近で空いています できれば午後から会いたいです


それから会ってもらいたい人がいます その人を含めて三人で会えればと思っています」


という内容だった。私が、とりあえず未海ちゃんから連絡が来たことを祝福してやると、由紀人くんは半分うれしげに、しかし半分不安げにして、私に聞いた。


「この『会ってもらいたい人』って誰だと思います?」


 私は嫌な予感がした。もしかしたら新しい男ではないかと考えられた。だがそれを告げるのは由紀人くんに対して残酷すぎる。


「普通に予想すると、仲の良い友達か親兄弟じゃない? そういう人に由紀人くんを紹介したいんじゃないかな」


 そう適当に言ってしまった。すると由紀人くんは納得したように、そうですよね、僕もそうじゃないかと思っていたんです、などと頷いて、じゃあ三人で会うのでいいとLINE返します、とスマホをいじり始めた。


 会うのは十月の初め、待ち合わせ場所は未海ちゃんの指定してきた西荻窪駅になった。

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