白をめぐる狂騒
巣の上で、白いドラゴンはひなたぼっこをしていた。
光を受けて真珠のように光る鱗が、ゆっくりと煌めく。
手足を伸ばし、翼をほんの少し広げる。
「うん、あったかいなぁ。気持ちいい」
それだけのことだった。しかし人間の目には、すべてが意味を持って映った。
王都の会議室では、軍、政治家、商人、宗教家が机を囲み、白いドラゴンの写真と報告書を前に悲鳴を上げていた。
「右を向いた瞬間、隣国で疫病が収まった! これは絶対に計算された奇跡だ!」
「いや、左を向けば干ばつが……これは神の裁きだ!」
「いや待て、我々の国への暗号だ。奴は意図的に意思を示している!」
机の上には、巣で遊んでいるドラゴンの無邪気な写真が何枚も並ぶ。
だが誰一人、ドラゴンの心など理解できない。
自称・白の専門家が声を張り上げる。
「よく見ろ! 瞬きのリズムが二進法になっており、未来の予言が encoded されているのだ!」
周囲は感嘆の声をあげるが、冷静に見るとドラゴンはただ眠そうにまぶたを閉じたり開けたりしているだけだった。
商人は勝手に白い鱗を切り取り、お守りとして売り始める。
村人は「これが福を呼ぶ」と白い服を着せられ、行進する。
「いや、これは……おかしい……」
政治家の声はどこか虚ろだ。全員が意味を求めて必死になり、同時に疲労に沈んでいく。
巣の上で、ドラゴンはただ金貨の山に手を置き、ひんやりした感触を楽しむ。
「なくならないといいなぁ」
しかしその背後では、世界が勝手に動き、解釈の戦争が起きていた。
右を向けば奇跡、左を向けば災厄。
誰も正解を知らず、誰も疑うこともできず、すべてが狂気と化していく。
軍は報告書を書き、政治家は布告を考え、商人は物を売り、宗教家は説法をする。
すべては白いドラゴンの「ひなたぼっこ」という無意識の行為から始まった。
「……もう、これ以上は、どうにもできない……」
議場の空気は疲労と絶望に満ち、静かに沈んでいく。
そして巣の上では、ドラゴンが小さくあくびをして、眠りについた。
「すやぁ……」
光を反射して輝く鱗は、今日も白のまま。
人間たちは解釈に疲れ果て、世界は少しだけ狂ったまま、明日へと進んでいった。




