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魔法少女はおむつが必要だなんて聞いてません!  作者: 062
第4章「魔法少女ワールドカップ編」

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第72話「1回戦」

1日前、ロイヤル=エルバードホール。


「まさか、バーミンガム宮殿でランチをいただく日が来るなんて!」

「真琴ちゃん、最初は『緊張で味なんてわからないかも…』とか言ってたね」


私もそうだったのは内緒だ。


「お魚のソテーのレモンバターソース、美味しかった〜。でもお肉のミントのソースって歯磨き粉みたいな感じでしたね」


真琴ちゃんは意外に肝が座っていると思う。他で言えば外交問題だろう。


「私は食後のアッサムティーかな?一緒に出てきたケーキとの相性が最高だった」

「それはエリザードケーキよ。あの『女王』様のお気に入りのケーキなの。

それはそうと、この後はオリエンテーションと組み合わせ抽選は話を聞くだけだけど、夕方からのパーティーでは国家機密もあるから、軽く答えないようにね」


昨日買いに行ったとは思えない、ネイビーのワンピーススーツを着こなしたマリ理事長が軽く注意する。

私達は「は〜い」と軽く返事する。


会場に入ると、扇状に広がる階段とステンドグラスが目に入る。


その中で、1人だけスポットライトを浴びるように異彩を放つ女の子がいる。縁が金の糸で刺繍された修道服を身にまとい、風もないのにサラサラと揺れるブロンド。オードリー・ヘップバーンとかグレース・ケリーのような品のある美しさを感じる。


「ルシェンヌ・ド=ラ=ヴェル。前回大会優勝者よ」


短く、マリ理事長が言った。

向こうはこちらなど気にも止めず、ホールの中へと入っていった。


♦︎♦︎♦︎


【1回戦・魔法少女バトルロイヤル(Bグループ)会場:ウインダム湖】

●美の国: ルシェンヌ・ド=ラ=ヴェル

●スパイスの国: パドマ=シュリー

●砂の国: ナディア=リセール

●日本:藤原さくら


「あ!私、Bグループだ!」


ほぼ日程説明だけのオリエンテーションが終わり、参加者の書かれたボールをメルケン元首相が引く。


箱が2つあって1つが個人名、もう1つがグループ名となっていた。このグループごとに1回戦が行われる。参加国は32なのでA〜Hグループに分かれる事になる。


「厄介ね。前回大会優勝者と同じグループなんて」


少し困ったようにマリ理事長が言った。


「大丈夫ですよ。真琴ちゃんの『イージスの盾』で彼女、無効化できてます」


私はニヤリと笑った。



♦︎♦︎♦︎


1回戦試合開始。


ルールは3つだけ。

1.殺さない

2.試合時間は最大3時間

3.フィールドは1マイル四方。そこから出たら失格。棄権の場合はそのフィールドから出る事


朝モヤの湖畔。私とルシェンヌは対峙する。


「『Prions ensemble』!」


多分、他の2人はルシェンヌを恐れて距離をとった。私は試合開始前から『イージスの盾』でルシェンヌの『魅了』を防御済みだった。


(『魅了』が効いていない事も理解不能なようね。ならば「わかりやすく」あなたの戦意を奪ってあげましょう)


「『ボイドニウム・ストーム』!」


ユウ君の魔法。魔法少女だけに効く強アルカリ性のような未知の粒子、それがボイドニウム。その砂嵐。


ピリッ、パサッ──

雪のように舞い散るのは皮膚片。 

露わになったのはピンク色の筋繊維、生々しく脈打つ血管の影。


悲鳴はない。魔法少女は身体強化と共に痛覚も弱くなっている。代わりに『鏡を見る衝動』だけを強制的に残す。


湖面がゆらりと揺れ、少女は覗き込む。


そこに映るのは──

『傾国の美女』ではない。

顔の片側は筋肉が露出し、頬の代わりに赤い線維が震えていた。口元はただの裂け目。ブロンドは灰色に崩れ、毛先は溶けて湖面に漂う。


「……あ、あぁ……いや……いやぁあぁああ……」


初めて声が出た。祈りでも慈愛でもない、

『自分の崩壊』に気付いた少女の、むき出しの恐怖。


ルシェンヌの瞳が大きく見開かれる。

愛されるために生きてきた少女から、『愛』だけが剥ぎ取られた瞬間。


そして、ゆっくり──跪いた。

誇りや信仰ではなく、己の醜さに耐えられず。


「なぜ……わたくしが……? 美は……神の……」


呟きは湖に吸い込まれ、最後は声にならない呼吸だけ。

そのまま後ろへ倒れ、意識を手放した。


審判役の魔女が静かに旗を上げる。


『美の国・ルシェンヌ 戦闘不能により失格』


さらに、他の2人は棄権を選んだらしい。


あっけなく、1回戦を突破した。

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