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魔法少女はおむつが必要だなんて聞いてません!  作者: 062
第4章「魔法少女ワールドカップ編」

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第71話「怠慢と傲慢」

ルシェンヌ・ド=ラ=ヴェルは、生まれたその日にモンペ・リエ近郊の修道院付属の孤児院の扉の前で見つかった。

雪の積もる朝。かすれた産声だけが、誰の祝福もなく世界に放り出された証だった。


孤児院には五十名ほどの子供たち。

隣町の自動車工場が閉鎖し、寄付も尽き、暖炉の薪すら買えない冬が続いた。


ルシェンヌは覚えている。


――クリスマスの夜。

窓の外では同年代の子ども達が笑いながら光る街へ駆けていく。

自分は穴の開いた毛布にくるまり、ネズミの足音を子守歌に震えていたことを。


シスター達も必死だった。

パンひと欠片のために、裏で身を売る者も多かった。年長の孤児が次の子を守るために自ら街へ消えることが常だった。


「明日は君の番だよ」


優しく言われたあの日の声を、ルシェンヌは今も忘れない。


そしてその時。


男が来た。

腹の出た中年。

買い手――つまり、ルシェンヌの人生の終わりを告げに。


ルシェンヌは震えていた。寒さでではない。

『価値のない子ども』だと決めつけられてきた世界が、自分の未来を砂のようにこぼしていく絶望に。


だが――


目が合った瞬間、世界がひっくり返った。


男は崩れ落ち、涙を流し、神に祈るように彼女の手を取った。


「どうか……許してくれ……」

「君を救わせてくれ……!」


翌朝。

孤児院には男の名前で全財産の寄付が届いていた。


マリーアントワネット、ジャンヌダルク、善悪を問わずにこの国には『魅了』の力を有する少女が現れる。

尊敬や揶揄を込めた『傾国の美女』と呼ばれる『魔法少女』である。


間違いなく、現在のこの国の『傾国の美女』はルシェンヌである。


『魅了』を使えば、修道院は持ちなおし、シスターや孤児達が身を売らずに済んだ。ローマの枢機卿さえ、彼女に膝を折った。


孤児院は救われた。

食卓にパンが並び、薪が燃え、子どもたちの頬に色が戻った。

シスターたちは涙を流して祈った。


ルシェンヌは天使だと。

神の奇跡だと。


だが、当のルシェンヌは知っていた。


(奇跡?違うわ。救ってあげただけ。わたくしの微笑み一つで。)


寄付金は増え続けた。

大統領夫人は姿を見せるたび宝石を置き、

市長は道路を修道院の前まで舗装し、

国会議員は次の選挙に彼女の一言を欲しがった。


世界は与えられたいと願っている。

わたくしの愛に跪き、見返りを差し出すことを幸せと呼ぶ。

わたくしのブロンドの髪を、すらりと伸びた手足を、サファイアのような瞳を、そして何より、整った容姿を皆が神聖なものとしてくれる。


それを知ってしまった少女に謙虚さなど育つわけがない。


やがてルシェンヌは修道院から国際舞台へ。

前々回大会で初出場し、初戦敗退。

屈辱で涙を流しながらも、彼女は悟った。


(愛は力。力は愛。

ならば次は――全員を愛で屈服させればいい。)


前回大会。

レセプションパーティーでただ一度、微笑んだ。

それだけで観客も選手も役員も、

すべての人間が彼女を称え、跪き、出場辞退した。


世界は震えた。

同時に崇めた。恐れた。


こうして彼女は呼ばれる。

皮肉を込めて。畏怖を込めて。


『傾国の美女』――ルシェンヌ・ド=ラ=ヴェル。


♦︎♦︎♦︎


スピーカーの電子音が試合開始を告げる。


ノコノコと現れたのは、日本代表『藤原さくら』。


アニメで見るような、チェックのプリーツスカートに白いブラウス。紺色のブレザー。

多分、あちらの制服なのだろう。


(まあ、いいわ。手早く終わらせましょう)


「『わたくしと共に祈りましょう』!」


(これで終わりよ!)


だが、藤原さくらは笑った。


「『ボイドニウム・ストーム』!」


黒い砂嵐がルシェンヌを襲った。

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