第70話「傾国の美女」
バーミンガム宮殿
「さて、ここまでは前回と同じだな」
女王・エリザードは安堵する。壁に寄りかかり、話を聞くのはマリア=ティモシェンコと窓から庭園を眺める、ユンゲラ=メルケン。
「ええ、前回はこの後のパーティーでやられた。今回もその影響で参加が32ヶ国まで減った。さすがは我が工業国家の隣国、『美の国』だ」
忌々しそうにメルケンがいう。それにエリザードが聞く。
「何か対策は?」
「あるけど、許可が欲しい。会場となるロイヤル=エルバードホール周辺でドローンを飛ばす許可を。その上でアンチマジックフィールドジェネレーターを発動させるわ」
自信有り気にマリアが言った。
「アンチマジックフィールドジェネレーター?何よそれ?」
「『自由の国』いや、『同盟国』で開発され、日本で量産化された『対魔法阻害兵器』よ。これを実用化レベルにした日本は根っこで私達と同じだと思うわ」
マリアの言葉にエリザードはうなづく。
「魔法少女が兵器化されたとて、それがあれば無効化・阻害可能なら兵器化されない。なるほど、佐藤ゆりあ女史は聡明だな」
「それがインフルエンザに罹患して、右腕の水田マリが引率らしいけど」
苦笑と共にマリアが言った。
「ゼロ、ラジオ、自動車、ハンディーフォン……、日本は魔法さえ『ガラパゴス』ね。
でも感謝するわ。今回は『美の国』の『傾国の美女』を阻止できる!」
ゆっくりとメルケンが笑った。
♦︎♦︎♦︎
『愛は常に上から与えるもの──そう教わって育った。だからわたくしが微笑めば、人々は救われるの。』
『傾国の美女』こと、ルシェンヌ・ド=ラ=ヴェルは、白い修道服に身を包みながらゆっくりと髪を櫛で梳く。
修道院育ちの清楚さを纏いながらも、その仕草には王の如き余裕と絶対の自信があった。
前回大会の優勝。
世界が彼女を祝福し、そして怯えた。
なぜなら彼女がただ一度、『魅了』の魔法を放つと──
観客も選手も役員も、全員が彼女を愛し、跪いたからだ。
「神の代わりに、わたくしが彼女たちに救いを与えたのよ。泣いて感謝して、試合を辞退して……まぁ、可哀想だったけれど」
まるで子犬のいたずらを語る少女の声。
だが内容は残酷だ。
大統領の言葉が頭をよぎる。
『出来レースに勝者はいない』
(ええ、わかってる。世界はわたくしを愛しすぎて、正気でいられなかったのね)
鏡に映る自分の瞳に、そっと口角を上げる。
『今回はパーティーで魔法を使わないであげる。世界のために、優勝者としての配慮よ。
わたくしが本気を出したら、また全員跪いてしまうから』
慈愛の仮面を被った圧倒的傲慢。
しかし彼女は本気で信じている。
自分が優しいから世界は救われるのだと。
ピッ──
モニターに抽選結果が表示される。
【1回戦・魔法少女バトルロイヤル(Bグループ)】
●美の国: ルシェンヌ・ド=ラ=ヴェル
●スパイスの国: パドマ=シュリー
●砂の国: ナディア=リセール
●日本:藤原さくら
(……日本?聞くたび影が薄い国ね。魔法文化は欧州が中心でしょ?他の2国は前回と同じ顔ぶれだし)
修道女の衣を整えながら笑う。
対戦相手の名前をチラリと見る。
藤原さくら
舌の上で転がすように名前を呟く。
「ふじわら……さくら。
愛らしい響きだけれど──わたくしの前で美しく跪けるかしら?」
魅了しない慈悲を与えてあげる。
まずは初戦で優しく屠ってあげるだけ。
「祈りましょう──世界がわたくしに再び恋をする瞬間を」
聖女は光の中に歩み出た。
ステンドグラスの赤と金が髪に落ち、まるで後光を背負った天使のよう。
しかし誰も知らない。
その天使は全てを愛し、同時に踏みつぶす女王であることを。




