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魔法少女はおむつが必要だなんて聞いてません!  作者: 062
外伝「望郷のトウカ」

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最終話「エピローグ:北九州市門司区」

トンネルを抜けると、JR門司駅だった。

そこで電車を乗り換えて2駅、JR門司港駅に着く。


(変わらないものもあるのね)


赤煉瓦の駅舎に駅前のビル。あの頃より外国人も観光客も増えたと思う。

それを横目に右へ。少し歩けば2号線に出る。


公民館はなくなり、通りは寂れて昼間なのにシャッターが閉まっている。


(50年か……)


そんな感想しか出てこない。

102招待所にいた頃は夢に見るほど焦がれた場所だったのに。


トンネルの料金所を左に見ながら更に坂を登る。


(あった)


『風師食堂』


あの頃のペンキが剥がれ、新しくした看板さえも薄くなっている。

それでものれんがかかって営業している事がわかる。


「いらっしゃい!」


その声に泣きそうになる。フウカだ。50年振りに見る妹は髪に白いものが多くなり、少し背中が丸くなっている。


「カツカレーを」


テーブルに座るなり言った。この風師食堂は祖父が始めた店で、門司港で働く人が多く通った。そのため早く出せるカレーが看板メニューだった。それにトンカツを乗せたカツカレーは給料日だけの贅沢メニューと言われていた。


ピコンとスマホが鳴る。島からだ。


『店長は旅行ですが、お店は営業してます』


とテーブルでくつろぐ猫の写真と一緒にインスタが更新された。


不意に横の壁の写真に目がいく。


ベニア板に写真が何枚も留められている。それの一番下、食堂前で家族と撮った集合写真だ。


「カツカレー、お待ちどうさま!」


フウカが写真を見ている私に気づく。


「それ、もう50年以上前の写真なんよ」


知ってる。でも言えない。


「どれが亡くなったお姉さん?」


そう聞くと不思議そうな顔をした。


「この写真撮ったすぐ後に海で死んだって……関門海峡は流れが早いけん、遺体はどっかに流れたんやろうっち」

「母がトウカさんの同級生なんです」


それで納得したようだ。別の写真を奥から出してきた。


「この人が姉さん。これは直前に餅つきを公民館でしよった時の。この後、私がいらん事言ったけん、姉さんは海に行った。それで落ちて死んだと」


そんな事ないと、言いたかった。

でも、それを否定すれば――

ここにいる理由が、すべて崩れてしまう。


「……そうなんですね」


それだけ言って、スプーンを取る。


カレーは、少し甘かった。

昔より、ほんの少しだけ。


「ご飯、多めにしとるけんね」


フウカはそう言って笑う。

その笑い方が、昔と同じで、胸の奥が静かに痛んだ。


(ああ……生きてる)


それだけで、充分だった。


壁の写真にもう一度目をやる。

若い母。

祖父。

祖母。

そして――真ん中で笑っている、私。


そこに写っている私は、

この町の時間の中で、ちゃんと『死んでいる』。


それでいい。


カツを一切れ口に運ぶ。


(……給料日やったね)


誰にも聞こえない声で、そう思う。

食べ終えて、代金を置く。


「ごちそうさまでした」

「ありがとう。また来てね」


フウカは、何も疑わない。

疑う必要がないから。


店を出ると、潮の匂いがした。

関門海峡の風が、いつも通りに吹いている。


振り返らない。

もう、振り返る必要はない。


私は『帰ってきた』わけじゃない。

ただ、確かめに来ただけ。

ここに、確かに時間が流れていたことを。


スマホが、もう一度鳴る。


島からの通知。

猫が店先で昼寝している写真。


――帰る場所は、もうある。


私は歩き出す。

門司の坂を、今度は下るために。

「外伝」はここで終了です。

明日からは本編。さくら達のストーリーに戻ります。

これからもよろしくお願いします。

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