第23話「半島と日本」
海を低空で飛行する事、1時間。
レーダー網にかからないように注意する。
(見えてきた)
目前にポツンと島が浮かんでいる。
「トウカ少将、どこに降りましょうか?」
第1小隊の横村中尉が聞いてくる。
「あそこの学校にしましょう。今日は日曜日で子供もいないはず」
そう判断して降りる。
15人が無事に降り立つ。
間違いなく、今踏んでいるのは日本の国土だ。
「ミサ……」
「ミサキ」と言いかけて修正する。
あの子はもういないのだ。
残ると決めたのはあの子でもう40歳を超えた大人なのだから。
「『催眠』が使えるものは島民の催眠を。派手に騒がれても困る。それと代表者を探さないとね」
「トウカ少将、どうやら今日は選挙の投票日みたいです」
第2小隊の久保中尉が体育館の方を指さして言った。
(じゃあ、行政の人間がいるはず)
「久保中尉以外はここで待機。中尉は私と島民との交渉に同行」
「は!」
全員の声が重なる。
降り立った運動場の脇、体育館の入り口に『投票所』と立て看板がしてある。
「すいませーん」
「はいはい、お姉ちゃん達どうした?」
中年のおじさんが出てくる。スーツを着ているし、どうやら役場の職員のようだ。
「我々は『半島革命軍』。ここに拠点を構えるために来た!」
これで政府側と交渉できるはずだ。
「やめようよ。そういう悪い冗談は」
おじさんは困った顔で言う。
「半島革命軍、って言われてもねえ……」
おじさんは頭を掻いた。
「ここ、県境でも分かりにくい島でさ。
国境? そりゃニュースじゃ聞くけど……」
トウカは、言葉を失った。
――この島では、『国境』は生活の単語ではない。
(仕方ない、か)
「久保中尉、『投票所を占拠した』事にする。そうすれば、警察なり政府が出てくるはず」
「は!『催眠』!」
短く返事した久保中尉は早速取り掛かる。同じ空気を感じていたようだ。
催眠にかかったおじさんは早速スマホを取り出す。どこに連絡しているかわからないが、先程と打って変わって、必死に「本当です!」とか「嘘じゃありません!」みたいな言葉を言っている。
(これは思ったより時間がかかるわ)
その時だった。
「お姉さんたち、お茶でも飲まんね?あっちの人達も」
人の良さそうなおばあちゃんがそう言ってくる。なんとも言えない軍事侵攻だった。
♦︎♦︎♦︎
結局、押し切られるカタチでお茶をいただいた。私が『半島革命軍』だと名乗っても、
「おばあちゃんだから、そういうのはわからない」
と言われる始末。
(これが『日本』だったね)
としみじみ思う。
しかもこのおばあちゃん、65歳で同学年だった。同じ60年生まれ。
「へぇ、島民は60人ちょうど。世帯数は40」
そういう大事な情報を守る事さえない。世間話で出てくる。
そこへ。
「あなたが『半島革命軍』の代表者?」
どこからか瞬間移動してきたように、一瞬で3人組の女の子が出現する。
真ん中の女の子が喋っていた。
この子だけがスーツで残りの2人はオシャレな制服のようだった。
「私は佐藤ゆりあ。文部科学大臣。ただし、今日までね。選挙の結果次第ではどうなるかわからないから」
現職の大臣がいきなり登場するのに驚く。でも、李ミリ同志が言っていた通りの人物だった。ミサキと同じように幼少から異能を使って成長が止まった人間。
そう思うとどこか同じ匂いがするような気さえする。
「私は『半島革命軍』種田トウカ少将です」
そう自己紹介する。
鬼が出るか蛇が出るか。
交渉の始まりだった。




